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ユキ、デビュー戦
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翌日2人は依頼を探しにギルドへ来ていた。
「今日はもう採取系の依頼しか残っていないなぁ…」
実は昨日宿に帰ったあと、妙に2人の間が親密になったと言うか甘酸っぱい雰囲気がダダ漏れになっていたらしく、ストラトの熾烈な自白強要が待っていた。何しろ食事を人質に取られるのだからタチが悪い。
◇◇◇
「そうかぁ、そりゃ好きになっちゃうよねー。うんうん。」
3人組の男に絡まれたユキをテルが助けに入った下りでストラトは瞳をキラキラ輝かせて聞き入っていた。それでこの反応である。
「普段はこんなに優しいテルが…私の為にあのような…うふふ。」
ストラトに対してテルに対する恋心を打ち明けたユキはもうデレデレであった。
一方のテルは『これから女の子同士のお話するからテル君はお父さんの相手でもしてて!』とストラトに部屋を追い出されて食堂に居たりする。
「まったくよぉ、アレの母親が死んでから男手一つで育てて来たってのによぉ…」
絶賛絡まれ中であった。
「ちいせえ時はよぉ。『パパァ、パパァ!ストラトがおおきくなったらパパのおよめさんになったげるー。』なんて言ってたのによぉ…」
「はいはい。」
「聞いてんのかてめえ!ストラトはなぁ…」
「はいはい。」
「ぐすっ、おがあちゃん、なんで俺を…」
「はいはい、よしよし。」
そんな感じで朝方近くまで宿屋の親子にそれぞれ拉致られた2人は盛大に朝寝坊して冒頭に至る。
◇◇◇
「まあ、採取は冒険者の基本だからしっかりやった方がいいよ。毒になるもの、薬になるもの、食用、素材、一口に採取と言っても奥は深いんだ。」
ユキも忍びである以上そのあたりの知識は豊富だったがここは異世界、生態系は同じとは限らない。見た事のない魔物がいるくらいなのだから、と真剣にテルの言葉に耳を傾ける。
「そういう訳だから今日は薬草採取に行こう。」
そう言いテルは依頼掲示板から適当な薬草採取の依頼表を取り受付カウンターへ。
「はい、承りました。期日は明日の夕方ですのであまり余裕がありませんが大丈夫ですか?」
「ええ、今日はパーティでやりますから。」
「そうでしたね。ではお気をつけて。」
ありがとう、と礼をしてテルとユキはギルドを出る。
「ほんとは採取用のカバンがあるといいんだけどね。」
まさかCランクになってから採取依頼をこなす事になるとは思っていなかった為、そこまで万全の準備は出来なかったとテルは自分の不明を悔やむ。ユキはと言えばテルと行動する事が嬉しくて気が緩んでしまう自分に気付く。しかしこれも致し方ない事なのかも知れない。年頃の乙女が恋をする前に赴いてたのは敵地での諜報活動である。言ってみればテルは初めて異性を意識した男なのだ。
そんなどこか浮ついた気持ちで採取に出掛けた2人だが、人里離れた場所になれば危険度は格段に上がる事は理解している為、無意識の内にも周囲の気配に気を配っているのは流石と言うべきか。元々2人はプロの戦士なのである。
そのうちテルは薬草が自生しているエリアを見つける。
「これは根から丁寧に掘り起こした方が質が良くなるらしくて買い取り価格が上がるんだ。面倒だけどね。」
「ふむふむ。」
ユキはテルの手際を見ながらも周囲への警戒を怠らない。
そろそろ依頼の数量を達成したかという数を採取し終えたタイミングでソレは現れた。そう、ここはユキがゴブリンに襲われたあの森であった。テルはこの森にユキが飛ばされて来た手掛かりでもあれば、という淡い期待もありこの依頼を受けたのだったが。
『グギャギャギャギャ…』
「…あれはあの時の魔物か。」
ユキの体を闘気が包み込む。少なくともテルにはそう見えた。
「テル、この化け物は私に任せて貰えないか?」
恐らくユキはこの間の情けない姿を晒してしまった自分に対して怒りが渦巻いているのだろうか。はたまた手負いの自分に殺到してきた目の前の化け物に対する怒りか。
「危なくなったら加勢させてもらうけどな。」
仕方ないな、とばかりにため息をつくテルを見てユキはふと表情を崩す。
「ああ、信頼しているよ。相棒。」
少しだけテルに視線を向けて答えたユキの口唇は弧を描いていた。
「ふっ!」
ユキは一呼吸で腿のホルダーから素早く苦無を引き抜き投擲する。左右の腕で1本ずつだ。
(利き腕関係なしか。敵にしたら厄介だな。やはり特殊な訓練を受けて来たのだろうな。もしかしたら俺の傭兵の訓練なんか及びもつかない程に。)
放たれた苦無は寸分の狂いなくゴブリン2匹の額に突き刺さり絶命させた。さらにユキは背中の忍刀を引き抜き逆手に構え、左の手のひらをゴブリンの1匹に向ける。手のひらから放たれたのは水流。いや、何か水が意思を持っているような、そんな動きだ。水流はゴブリンの首を巻き取るとユキは左腕を引く。まるで鞭を操るかのようだ。水流の鞭に引っ張られたゴブリンは待ち構えたユキの忍刀に真っ二つにされる。残り3匹。
『ぼふん!』
テルにはそんな効果音が聞こえた気がしたが…ユキは一塊になっていたゴブリン達の中央付近に黒っぽいピンポン玉程の球体を投げつけた。そして『ぼふん!』である。ゴブリン達は煙に包まれたかと思うと同士討ちを始めた。
「この世界の魔物にも効果はあるようだな。」
幻惑効果のある薬物と言った所だろうか。あくまで冷静だ。日本での戦術が通用するかどうかの検証をする余裕まである。
(すごいな。闘志に燃えているようでも頭の中はクールか。異世界に来て少なからず混乱しているだろうに…)
結局最後まで残った1匹を斬り伏せてあっさりと討伐完了だ。両手にナイフを持って準備していたテルは要らぬ心配だったかと苦笑する。
「それじゃあ証明部位を切り取って、後始末をして帰ろう。」
予想外の戦闘はあったがコンビの仕事は順調に滑り出した。
「今日はもう採取系の依頼しか残っていないなぁ…」
実は昨日宿に帰ったあと、妙に2人の間が親密になったと言うか甘酸っぱい雰囲気がダダ漏れになっていたらしく、ストラトの熾烈な自白強要が待っていた。何しろ食事を人質に取られるのだからタチが悪い。
◇◇◇
「そうかぁ、そりゃ好きになっちゃうよねー。うんうん。」
3人組の男に絡まれたユキをテルが助けに入った下りでストラトは瞳をキラキラ輝かせて聞き入っていた。それでこの反応である。
「普段はこんなに優しいテルが…私の為にあのような…うふふ。」
ストラトに対してテルに対する恋心を打ち明けたユキはもうデレデレであった。
一方のテルは『これから女の子同士のお話するからテル君はお父さんの相手でもしてて!』とストラトに部屋を追い出されて食堂に居たりする。
「まったくよぉ、アレの母親が死んでから男手一つで育てて来たってのによぉ…」
絶賛絡まれ中であった。
「ちいせえ時はよぉ。『パパァ、パパァ!ストラトがおおきくなったらパパのおよめさんになったげるー。』なんて言ってたのによぉ…」
「はいはい。」
「聞いてんのかてめえ!ストラトはなぁ…」
「はいはい。」
「ぐすっ、おがあちゃん、なんで俺を…」
「はいはい、よしよし。」
そんな感じで朝方近くまで宿屋の親子にそれぞれ拉致られた2人は盛大に朝寝坊して冒頭に至る。
◇◇◇
「まあ、採取は冒険者の基本だからしっかりやった方がいいよ。毒になるもの、薬になるもの、食用、素材、一口に採取と言っても奥は深いんだ。」
ユキも忍びである以上そのあたりの知識は豊富だったがここは異世界、生態系は同じとは限らない。見た事のない魔物がいるくらいなのだから、と真剣にテルの言葉に耳を傾ける。
「そういう訳だから今日は薬草採取に行こう。」
そう言いテルは依頼掲示板から適当な薬草採取の依頼表を取り受付カウンターへ。
「はい、承りました。期日は明日の夕方ですのであまり余裕がありませんが大丈夫ですか?」
「ええ、今日はパーティでやりますから。」
「そうでしたね。ではお気をつけて。」
ありがとう、と礼をしてテルとユキはギルドを出る。
「ほんとは採取用のカバンがあるといいんだけどね。」
まさかCランクになってから採取依頼をこなす事になるとは思っていなかった為、そこまで万全の準備は出来なかったとテルは自分の不明を悔やむ。ユキはと言えばテルと行動する事が嬉しくて気が緩んでしまう自分に気付く。しかしこれも致し方ない事なのかも知れない。年頃の乙女が恋をする前に赴いてたのは敵地での諜報活動である。言ってみればテルは初めて異性を意識した男なのだ。
そんなどこか浮ついた気持ちで採取に出掛けた2人だが、人里離れた場所になれば危険度は格段に上がる事は理解している為、無意識の内にも周囲の気配に気を配っているのは流石と言うべきか。元々2人はプロの戦士なのである。
そのうちテルは薬草が自生しているエリアを見つける。
「これは根から丁寧に掘り起こした方が質が良くなるらしくて買い取り価格が上がるんだ。面倒だけどね。」
「ふむふむ。」
ユキはテルの手際を見ながらも周囲への警戒を怠らない。
そろそろ依頼の数量を達成したかという数を採取し終えたタイミングでソレは現れた。そう、ここはユキがゴブリンに襲われたあの森であった。テルはこの森にユキが飛ばされて来た手掛かりでもあれば、という淡い期待もありこの依頼を受けたのだったが。
『グギャギャギャギャ…』
「…あれはあの時の魔物か。」
ユキの体を闘気が包み込む。少なくともテルにはそう見えた。
「テル、この化け物は私に任せて貰えないか?」
恐らくユキはこの間の情けない姿を晒してしまった自分に対して怒りが渦巻いているのだろうか。はたまた手負いの自分に殺到してきた目の前の化け物に対する怒りか。
「危なくなったら加勢させてもらうけどな。」
仕方ないな、とばかりにため息をつくテルを見てユキはふと表情を崩す。
「ああ、信頼しているよ。相棒。」
少しだけテルに視線を向けて答えたユキの口唇は弧を描いていた。
「ふっ!」
ユキは一呼吸で腿のホルダーから素早く苦無を引き抜き投擲する。左右の腕で1本ずつだ。
(利き腕関係なしか。敵にしたら厄介だな。やはり特殊な訓練を受けて来たのだろうな。もしかしたら俺の傭兵の訓練なんか及びもつかない程に。)
放たれた苦無は寸分の狂いなくゴブリン2匹の額に突き刺さり絶命させた。さらにユキは背中の忍刀を引き抜き逆手に構え、左の手のひらをゴブリンの1匹に向ける。手のひらから放たれたのは水流。いや、何か水が意思を持っているような、そんな動きだ。水流はゴブリンの首を巻き取るとユキは左腕を引く。まるで鞭を操るかのようだ。水流の鞭に引っ張られたゴブリンは待ち構えたユキの忍刀に真っ二つにされる。残り3匹。
『ぼふん!』
テルにはそんな効果音が聞こえた気がしたが…ユキは一塊になっていたゴブリン達の中央付近に黒っぽいピンポン玉程の球体を投げつけた。そして『ぼふん!』である。ゴブリン達は煙に包まれたかと思うと同士討ちを始めた。
「この世界の魔物にも効果はあるようだな。」
幻惑効果のある薬物と言った所だろうか。あくまで冷静だ。日本での戦術が通用するかどうかの検証をする余裕まである。
(すごいな。闘志に燃えているようでも頭の中はクールか。異世界に来て少なからず混乱しているだろうに…)
結局最後まで残った1匹を斬り伏せてあっさりと討伐完了だ。両手にナイフを持って準備していたテルは要らぬ心配だったかと苦笑する。
「それじゃあ証明部位を切り取って、後始末をして帰ろう。」
予想外の戦闘はあったがコンビの仕事は順調に滑り出した。
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