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ユキ、今後を憂いて少し暴走
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数日経過し、ユキは立って歩ける程には回復していた。流石に宿の外を彷徨く様な事はしないが、衰えた筋力を取り戻す為に宿の中を歩き回ったり階段を昇り降りしたり。たまにはストラトの手伝いで水汲みなどもしていた。
「ユキちゃん、大分良くなったね!」
「ああ、本当にご主人とストラト殿には感謝の言葉も無い。」
「もう、感謝するならテル君にだよぉ!」
「うむ、そうだな。あの御仁にはいかにして報いたらよいか考えもつかぬよ。」
「まあ、そこは2人で話し合って貰うしかないよね。」
「……」
ユキは宿の外の様子や宿泊客、建物の様式や道具や食器に至るまで、全てが自分の生きていた世界とは違う事を認め、テルが言っていた『異世界転移』の事も受け入れ始めていた。
(本当にどうやって報いたものか…)
様々な事実を受け入れて行くにつれ、ユキは正直途方に暮れていた。右も左も分からぬこの世界でどうやって生きて行けばいいのか。
「ただいまー。」
そんな時、テルが戻って来た。
「あっ!テル君お帰り!今日の依頼はどうだった?」
ストラトがテルの帰りを嬉しそうに迎える。(あの娘はテル殿の事を好いているのだろうな)などと考えるユキだったが世話になっている恩人の帰還である。一声掛けるべきだろうと思う。
「テル殿…」
結局、名前を呼んで頭を下げるしか出来なかったユキ。
「ユキさんもただいま。今日は中々上質な魔石が手に入ったんだ。ストラト、晩ご飯奮発してよ。」
なるほど、いい笑顔をするものだ、とユキは思う。この数日の間、テルは同じ部屋で寝泊りしながら寝床はユキに貸し与え自分は長椅子で寝ている。年頃の女子が無防備に寝ているにも関わらず不埒な真似をするでもない。ユキの方は恩を自分の体で贖えるならそれも良しと覚悟はしていたのだが。そして宿賃や薬代なども全てテルが肩代わりしていると聞いた。とても返せそうにない恩の大きさにまたまたユキは途方に暮れてしまう。
「よかったね、ユキちゃん!今日はテル君がいつもより豪勢な晩ご飯をご馳走してくれるって!」
(いや、もうこれ以上過剰なお世話になる訳には…)
「ストラト殿、私は粗末なもので構わんよ。」
「ユキさん、ダメだよ。ちゃんと食べて体力付けないと。」
他ならぬテルに嗜められてしまった。
「う、うむ、かたじけない…」
どうにも居心地が悪い。テルという男は全くの善意で今の私を養っているように見える。同じ日本人の情け?考えているうちに涙がポロポロと零れ出した。
「ど、どうした?どこか痛むの?」
いきなり泣き出したユキにテルが慌てる。その場にいたストラトも
「え?どしたの?テル君に苛められた?」
「ひぐっ、違うのだ…こんなに良くしてもらっているのに…私には恩返しするアテもない。でもテル殿は下心も無しに面倒を見てくれる。私は…どうしたら良いのだろうか?…うっ、うぅ…」
心の内を吐露したユキに、テルとストラトは顔を見合わせる。ふうっと一息ついてテルはスタインを呼んだ。
「おーい!おやっさーん!」
のしのしと奥からスタインが現れた。
「なんだ?テル、てめえ。帰って来るなり嬢ちゃん泣かすなんざなんて野郎だ。」
「違うから。あのなあ、おやっさん。この宿に看板娘もう一人いらない?住み込みまかない付きで。」
「ああ、そういう事か。朝晩の飯くれえならどうにかしてやれるけどよ。流石に客室一つ潰して住み込みとなると殆ど給金は出ねえぞ?」
「ご主人!私はテル殿と相部屋でも構わない!少しでも給金を頂けないだろうか?でないとテル殿にお返しするものが…」
かなり切羽詰まった物言いのユキにテルは苦笑する。
「それじゃあ何時まで経っても俺はソファで寝なくちゃいけない。」
「はっ!」
ユキは愕然とする。完全に寝床でも迷惑を掛けていたのを失念していた。いや待て、私が長椅子でも、いやいやむしろ寝床を共にした方が好都合…?む、ストラトの方から謎の威圧感が…などとぐるぐる思考していると、
「それなら、冒険者やってみる?」
「ほえ?」
テルはユキに『冒険者』という職業の説明をした。ある程度の収入を得るにはそれなりに経験を積む必要がある事。高収入を狙うには危険が伴う事。ギルドという所へ行くと『依頼』があり、その依頼を受けて達成する事で収入を得られる事。
そして初めの内はテルが指導してくれる事。
「お嬢ちゃん、テルはまだ冒険者になって1,2年なんだがこの辺りじゃ名の知れた冒険者なんだ。腕利きなもんでコイツとパーティ組んで仕事したいってヤツはゴマンといる。けど、何でかコイツはソロにこだわっててなあ。コイツと組んで仕事が出来るなんて滅多に有ることじゃねえ。このチャンスは逃さない方がいいぜ?」
スタインがテルと組める事がいかに凄いかやや誇張気味に説明するのを聞いてテルは苦笑するが、
「テル殿!是非お願いしたい。この通り、お願い致す。」
深々と頭を下げるユキ。そして頭を上げるとスタインに向き直り、
「ご主人。冒険者として一人前になるまではテル殿と2人部屋にして頂けないだろうか?」
テルは口にしていた茶を吹き出した。
「ユキちゃん、大分良くなったね!」
「ああ、本当にご主人とストラト殿には感謝の言葉も無い。」
「もう、感謝するならテル君にだよぉ!」
「うむ、そうだな。あの御仁にはいかにして報いたらよいか考えもつかぬよ。」
「まあ、そこは2人で話し合って貰うしかないよね。」
「……」
ユキは宿の外の様子や宿泊客、建物の様式や道具や食器に至るまで、全てが自分の生きていた世界とは違う事を認め、テルが言っていた『異世界転移』の事も受け入れ始めていた。
(本当にどうやって報いたものか…)
様々な事実を受け入れて行くにつれ、ユキは正直途方に暮れていた。右も左も分からぬこの世界でどうやって生きて行けばいいのか。
「ただいまー。」
そんな時、テルが戻って来た。
「あっ!テル君お帰り!今日の依頼はどうだった?」
ストラトがテルの帰りを嬉しそうに迎える。(あの娘はテル殿の事を好いているのだろうな)などと考えるユキだったが世話になっている恩人の帰還である。一声掛けるべきだろうと思う。
「テル殿…」
結局、名前を呼んで頭を下げるしか出来なかったユキ。
「ユキさんもただいま。今日は中々上質な魔石が手に入ったんだ。ストラト、晩ご飯奮発してよ。」
なるほど、いい笑顔をするものだ、とユキは思う。この数日の間、テルは同じ部屋で寝泊りしながら寝床はユキに貸し与え自分は長椅子で寝ている。年頃の女子が無防備に寝ているにも関わらず不埒な真似をするでもない。ユキの方は恩を自分の体で贖えるならそれも良しと覚悟はしていたのだが。そして宿賃や薬代なども全てテルが肩代わりしていると聞いた。とても返せそうにない恩の大きさにまたまたユキは途方に暮れてしまう。
「よかったね、ユキちゃん!今日はテル君がいつもより豪勢な晩ご飯をご馳走してくれるって!」
(いや、もうこれ以上過剰なお世話になる訳には…)
「ストラト殿、私は粗末なもので構わんよ。」
「ユキさん、ダメだよ。ちゃんと食べて体力付けないと。」
他ならぬテルに嗜められてしまった。
「う、うむ、かたじけない…」
どうにも居心地が悪い。テルという男は全くの善意で今の私を養っているように見える。同じ日本人の情け?考えているうちに涙がポロポロと零れ出した。
「ど、どうした?どこか痛むの?」
いきなり泣き出したユキにテルが慌てる。その場にいたストラトも
「え?どしたの?テル君に苛められた?」
「ひぐっ、違うのだ…こんなに良くしてもらっているのに…私には恩返しするアテもない。でもテル殿は下心も無しに面倒を見てくれる。私は…どうしたら良いのだろうか?…うっ、うぅ…」
心の内を吐露したユキに、テルとストラトは顔を見合わせる。ふうっと一息ついてテルはスタインを呼んだ。
「おーい!おやっさーん!」
のしのしと奥からスタインが現れた。
「なんだ?テル、てめえ。帰って来るなり嬢ちゃん泣かすなんざなんて野郎だ。」
「違うから。あのなあ、おやっさん。この宿に看板娘もう一人いらない?住み込みまかない付きで。」
「ああ、そういう事か。朝晩の飯くれえならどうにかしてやれるけどよ。流石に客室一つ潰して住み込みとなると殆ど給金は出ねえぞ?」
「ご主人!私はテル殿と相部屋でも構わない!少しでも給金を頂けないだろうか?でないとテル殿にお返しするものが…」
かなり切羽詰まった物言いのユキにテルは苦笑する。
「それじゃあ何時まで経っても俺はソファで寝なくちゃいけない。」
「はっ!」
ユキは愕然とする。完全に寝床でも迷惑を掛けていたのを失念していた。いや待て、私が長椅子でも、いやいやむしろ寝床を共にした方が好都合…?む、ストラトの方から謎の威圧感が…などとぐるぐる思考していると、
「それなら、冒険者やってみる?」
「ほえ?」
テルはユキに『冒険者』という職業の説明をした。ある程度の収入を得るにはそれなりに経験を積む必要がある事。高収入を狙うには危険が伴う事。ギルドという所へ行くと『依頼』があり、その依頼を受けて達成する事で収入を得られる事。
そして初めの内はテルが指導してくれる事。
「お嬢ちゃん、テルはまだ冒険者になって1,2年なんだがこの辺りじゃ名の知れた冒険者なんだ。腕利きなもんでコイツとパーティ組んで仕事したいってヤツはゴマンといる。けど、何でかコイツはソロにこだわっててなあ。コイツと組んで仕事が出来るなんて滅多に有ることじゃねえ。このチャンスは逃さない方がいいぜ?」
スタインがテルと組める事がいかに凄いかやや誇張気味に説明するのを聞いてテルは苦笑するが、
「テル殿!是非お願いしたい。この通り、お願い致す。」
深々と頭を下げるユキ。そして頭を上げるとスタインに向き直り、
「ご主人。冒険者として一人前になるまではテル殿と2人部屋にして頂けないだろうか?」
テルは口にしていた茶を吹き出した。
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