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事情説明と奇妙な同居の始まり
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「テル君、いる?」
「ああ、どうぞ。丁度彼女が気が付いたところなんだ。」
ギィっとドアを開きストラトとスタインが顔を出す。スタインの顔を見た所で少女があからさまに警戒の色を示すのを見てテルは笑いたくなるのを堪えながら少女を諌める。
「まあ待って待って。あの顔見たら警戒したくなるのは解るけど、アレはこの宿、俺が定宿にしてる『森の梟亭』の主人で『スタイン』だ。そして疑わしいだろうけどスタインの娘さんで『ストラト』。君を助ける為に医者を呼んでくれたり傷の消毒をしてくれたり。君の恩人達だ。」
「テル、てめえ、『アレ』とか『疑わしい』とか「気が付いたんだね!良かった!あたしはストラト。宜しくね。傷薬とか体を拭いたりとかはあたしがやるから心配しなくていいよ。何か食べたくなったら言ってね!」
ストラトがスタインの台詞に被せるように捲し立てた。少女の方は目を白黒させている。それでも痛みに耐えて上体を起こすと2人に向き直り礼を述べるのだった。
「私は『雪』と申す者、すまぬが傷が癒えるまで世話にならせて頂く。テル殿、この御恩はきっとお返し致す故、暫時ご猶予頂きたい。」
それにしても雪と名乗るこの少女はチラチラとテル達を物珍しい物でも見るかのように視線を飛ばしてくる。
「ユキさん?どうかした?」
「いっ、いやその…貴殿らは南蛮の方なのだろうか?髪の色や瞳の色、それに装束も見たこともない珍妙なものなので…」
「…おいテル。『ナンバン』ってのはなんだ?」
「あー、そうだな。物凄く簡単に言えば『外国』って事なんだが…」
スタインは『可哀想にな、きっと頭でも打ったんだろう…』とでも言いたげな視線で少女を見て言う。
「今の世の中、黒髪黒目の人間なんざ殆どいない。珍しいのはあんたの方だぜ?嬢ちゃん。」
スタインの言葉に少し考え込んだ少女。
「その、テル殿?済まないが先程の話、詳しく話してくれないだろうか?」
少しはテルの言葉に聞く耳を持ってくれた事に安堵したのだがこの話はいろいろと常識外れなものになる。
「悪い、おやっさん、ストラト、外してくれないか。多分聞かない方がいい話になる。」
「そうか、わかった。何かあったら呼べ。」
「それじゃあね!テル君!可愛い子だからって悪戯しちゃダメだからね!」
言いたい事だけを言って2人は出て行った。
それでは早速とばかりテルは質問を開始する。
「まずは俺の質問に答えて欲しい。」
「うむ、答えられる事ならば。」
「では。天皇は誰?あと、将軍は?」
恐らく武家社会の時代の人だろうと当たりを付けたテルは当時の人なら誰でも知っているだろう質問をした。テルは日本人時代は歴史はそこそこ得意だったが天皇の名前を聞いていつの時代か判別出来る程歴史マニアでもない。
そんな事も知らんのか、と言った表情でユキが答える。
「正親町帝だ。将軍は15代義昭様であられる。」
ああ、多分ホンモノだ、とテルは思う。そして日本人確定。戦国武将は言えても天皇を言える人ってそうはいないだろう。でももうひと押し欲しい。
「君の仕えている主君は?」
「…上杉 輝虎様だ。他言無用に願いたい。」
昨今流行りの『歴女』なら『謙信』でも『景虎』でもなく『輝虎』が出てくるのはかなりのマニアではないだろうか?
「君は越中から春日山へ向かっていたと言っていたけど、君は『軒猿』かい?おっと、そんなに睨むなよ。上杉に仕える忍びならそうなるだろ?」
テルに対して警戒の色を強めるユキ。
「越中に出張ったのは一揆の首謀者を調べる為だろう?そして黒幕が武田だと分かった君は越後へ戻る途中で甲州透波と遭遇戦になり傷を負った。」
「…貴殿は何者だ?私が命懸けで掴んだ情報をなぜ知っている? …まあいい。ここで私が暴れたところでこの体ではな… 貴殿の言う通り私は越後の軒猿だ。怪我を負った状況も大凡貴殿の推察通りだ。透波共に囲まれて間一髪のところで不思議な光に包まれて。気が付けばあの異形の化け物に囲まれていたと言う訳だ。」
どこか諦めたような表情で淡々とユキは語り始めた。やはり戦国時代からの転移者だ、とテルは自分の中で断定する。
「君の事はわかった。これから俺の話をしよう。信じなくても構わないが他言無用で頼むよ。」
「承知した。」
「まず、俺は君と同じ日本人だ。正確には前世は日本人だったが死んでこの世界にこの姿で転生した。前世の記憶はそのままでね。」
「輪廻転生…?」
「さらに言えば俺は君が生きていた時代の…そうだな…約450年後の時代の人間だった。」
「な!?」
「だから君の時代がその後どうなったかもある程度は知っている。」
「にわかには信じ難い…」
「ああ、構わないよ。動けるようになったら少し外の様子を見てみるといい。ここが日本じゃない事が納得できると思うよ。」
「うむ…」
「ああ、それとこの部屋は俺が借りてる部屋なんだけど生憎と2部屋借りられる程金持ちじゃないんだ。だから俺はこっちのソファで寝るからそこは我慢してくれ。」
「それは…申し訳ない事だな…私がそちらでもいいのだが…」
「ははは。それは怪我が治ってからにしてくれ。」
「うむ、すまぬ…」
ユキはテルを見てなんだか安心して来た。ここまで親切にしてくれたのだ。見ず知らずの自分に。それに、情報を得るにはこの男の側にいるのが上策とも思えた。
「ああ、どうぞ。丁度彼女が気が付いたところなんだ。」
ギィっとドアを開きストラトとスタインが顔を出す。スタインの顔を見た所で少女があからさまに警戒の色を示すのを見てテルは笑いたくなるのを堪えながら少女を諌める。
「まあ待って待って。あの顔見たら警戒したくなるのは解るけど、アレはこの宿、俺が定宿にしてる『森の梟亭』の主人で『スタイン』だ。そして疑わしいだろうけどスタインの娘さんで『ストラト』。君を助ける為に医者を呼んでくれたり傷の消毒をしてくれたり。君の恩人達だ。」
「テル、てめえ、『アレ』とか『疑わしい』とか「気が付いたんだね!良かった!あたしはストラト。宜しくね。傷薬とか体を拭いたりとかはあたしがやるから心配しなくていいよ。何か食べたくなったら言ってね!」
ストラトがスタインの台詞に被せるように捲し立てた。少女の方は目を白黒させている。それでも痛みに耐えて上体を起こすと2人に向き直り礼を述べるのだった。
「私は『雪』と申す者、すまぬが傷が癒えるまで世話にならせて頂く。テル殿、この御恩はきっとお返し致す故、暫時ご猶予頂きたい。」
それにしても雪と名乗るこの少女はチラチラとテル達を物珍しい物でも見るかのように視線を飛ばしてくる。
「ユキさん?どうかした?」
「いっ、いやその…貴殿らは南蛮の方なのだろうか?髪の色や瞳の色、それに装束も見たこともない珍妙なものなので…」
「…おいテル。『ナンバン』ってのはなんだ?」
「あー、そうだな。物凄く簡単に言えば『外国』って事なんだが…」
スタインは『可哀想にな、きっと頭でも打ったんだろう…』とでも言いたげな視線で少女を見て言う。
「今の世の中、黒髪黒目の人間なんざ殆どいない。珍しいのはあんたの方だぜ?嬢ちゃん。」
スタインの言葉に少し考え込んだ少女。
「その、テル殿?済まないが先程の話、詳しく話してくれないだろうか?」
少しはテルの言葉に聞く耳を持ってくれた事に安堵したのだがこの話はいろいろと常識外れなものになる。
「悪い、おやっさん、ストラト、外してくれないか。多分聞かない方がいい話になる。」
「そうか、わかった。何かあったら呼べ。」
「それじゃあね!テル君!可愛い子だからって悪戯しちゃダメだからね!」
言いたい事だけを言って2人は出て行った。
それでは早速とばかりテルは質問を開始する。
「まずは俺の質問に答えて欲しい。」
「うむ、答えられる事ならば。」
「では。天皇は誰?あと、将軍は?」
恐らく武家社会の時代の人だろうと当たりを付けたテルは当時の人なら誰でも知っているだろう質問をした。テルは日本人時代は歴史はそこそこ得意だったが天皇の名前を聞いていつの時代か判別出来る程歴史マニアでもない。
そんな事も知らんのか、と言った表情でユキが答える。
「正親町帝だ。将軍は15代義昭様であられる。」
ああ、多分ホンモノだ、とテルは思う。そして日本人確定。戦国武将は言えても天皇を言える人ってそうはいないだろう。でももうひと押し欲しい。
「君の仕えている主君は?」
「…上杉 輝虎様だ。他言無用に願いたい。」
昨今流行りの『歴女』なら『謙信』でも『景虎』でもなく『輝虎』が出てくるのはかなりのマニアではないだろうか?
「君は越中から春日山へ向かっていたと言っていたけど、君は『軒猿』かい?おっと、そんなに睨むなよ。上杉に仕える忍びならそうなるだろ?」
テルに対して警戒の色を強めるユキ。
「越中に出張ったのは一揆の首謀者を調べる為だろう?そして黒幕が武田だと分かった君は越後へ戻る途中で甲州透波と遭遇戦になり傷を負った。」
「…貴殿は何者だ?私が命懸けで掴んだ情報をなぜ知っている? …まあいい。ここで私が暴れたところでこの体ではな… 貴殿の言う通り私は越後の軒猿だ。怪我を負った状況も大凡貴殿の推察通りだ。透波共に囲まれて間一髪のところで不思議な光に包まれて。気が付けばあの異形の化け物に囲まれていたと言う訳だ。」
どこか諦めたような表情で淡々とユキは語り始めた。やはり戦国時代からの転移者だ、とテルは自分の中で断定する。
「君の事はわかった。これから俺の話をしよう。信じなくても構わないが他言無用で頼むよ。」
「承知した。」
「まず、俺は君と同じ日本人だ。正確には前世は日本人だったが死んでこの世界にこの姿で転生した。前世の記憶はそのままでね。」
「輪廻転生…?」
「さらに言えば俺は君が生きていた時代の…そうだな…約450年後の時代の人間だった。」
「な!?」
「だから君の時代がその後どうなったかもある程度は知っている。」
「にわかには信じ難い…」
「ああ、構わないよ。動けるようになったら少し外の様子を見てみるといい。ここが日本じゃない事が納得できると思うよ。」
「うむ…」
「ああ、それとこの部屋は俺が借りてる部屋なんだけど生憎と2部屋借りられる程金持ちじゃないんだ。だから俺はこっちのソファで寝るからそこは我慢してくれ。」
「それは…申し訳ない事だな…私がそちらでもいいのだが…」
「ははは。それは怪我が治ってからにしてくれ。」
「うむ、すまぬ…」
ユキはテルを見てなんだか安心して来た。ここまで親切にしてくれたのだ。見ず知らずの自分に。それに、情報を得るにはこの男の側にいるのが上策とも思えた。
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