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西国編

イキ島上陸。表と裏。

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 俺達は追撃の手を緩める事なく敵船を沈めていく。敗走する兵とは言え本隊に向かった部隊を含めれば拠点を制圧したテル達の部隊より数は多い。いくらでも数は減らしておくのがいいだろう。

 俺達に向かって逃げて来た連中を追って来たのは『ゲンブ』だ。イセカイ号はゲンブと合流して追撃を掛けたが約200程の敵兵の上陸を許してしまう。

 「上陸した奴らは俺達が引き受ける!ゲンブは海上の残敵掃討を!」

 サンタナの風魔法に乗せて俺の声をゲンブに届けると、向こうにも乗り込んでいる魔法使いがいるのか、風魔法に乗せて返事が返って来た。

 『承知!ご武運を!』

 本隊の方へ戻って行くゲンブを見送り、俺達も上陸する。すると、急に敵兵が引き返して攻めてくる素振りを見せ始めた。数で勝ると踏んで息を吹き返したか?

 「まあ、こっちの人数はこの通りだし?単純に船の性能差で負けたって思ってるなら勘違いしちゃうよね。」

 やれやれと言った態度でそう話すライムだが、舐められたと感じて気分を害したのか空間収納から現れた魔槍リヴァイアサンを掴むとビシッと敵に向けて構える。愛刀白猫はまだ修復が完全ではないらしく最近はこのリヴァイアサンをよく使っている。

 「たかが200人で私達の相手が務まると思っているのなら勘違いも甚だしいですわね。」

 褐色の猫耳ケットシーのビートは虎皮の陣羽織をはためかせ二刀一対のレイピアを手に魔力を迸らせる。

 「どれ、久しぶりに儂らも陸で暴れるかのう?」

 「そうだねえ。この薙刀も錆付いちまうしねえ。」

 爺さんはどこから取り出したのか分銅付きの鎖鎌を、千代ちゃんは愛用の薙刀を。あれ?爺さんって小太刀じゃなかったっけ?

 「忍びたるもの状況に応じて得物は使い分けるもんじゃて。」

 なるほど。当たるを幸いに振り回すつもりか。

 「我も暴れてくれよう。」

 「あーし、おじちゃんにまけないよ。」

 エスプリはフェンリルの姿に、蘭丸は五尾の狐に。頭を低くして唸りをあげる。

 『ぼくもやるよー。』

 スタリオンもその巨体に闘気を漲らせやる気満々のようだ。

 そしてランが俺の傍らに、チェロがライムの傍らに、背中に乗れとばかりに近付いて来る。

 「よし、んじゃ、いっちょ頼むぜ。」

 『お任せあれ。』

 ランのやたらといい声が脳内に響き渡る。

 「俺とライムはここを突破して先に拠点へ行く。みんなは暴れてから合流してくれ。アクア、スプライトはここのアシストを頼む。サンタナとイオタは俺に付いてこい。」

 ヴゥゥゥン

 俺は愛剣カラクリに魔力を流し魔力の刃を生成する。刃の長さはおよそ二メートル。騎馬での戦闘時はこのくらいの長さがあった方がいい。

 「よし、いくぞ!」

 先頭を切って駆けるランと俺にライムが続く。立ち塞がる敵は斬り伏せ、貫き、踏みつぶし、跳ね飛ばす。逃げるヤツは放っておく。後ろに続くビートのレイピアが、爺さんの鎖鎌が、千代ちゃんの薙刀が次々と敵を打ち倒していく。

 ボンッ!ボンッ!

 爆発音が響き渡るのはスタリオンのブレス弾だろう。地竜とまともに斬り合おうなんてヤツはいないだろうから逃げる敵に砲撃を浴びせているんだろうな。

 さらに戦場から離脱を図ろうとする者もいるがそれは叶わない。巨大な神狼の姿のエスプリが、艶やかな金色の五本の尾を靡かせた妖狐蘭丸が、どこまでも追い詰め無慈悲に食い散らかす。あいつら、野生に戻ってんな。

 怪我人や体力回復の為にアクアを、戦力増強の為のゴーレムを造る為にスプライトを置いて来たがその必要は無い様だ。他の仲間と一緒になって敵兵をボコボコにしている。まあ、俺達の戦力を見誤ったこいつらが悪い。心配する要素がない事を確かめ、俺とライムは拠点へとひた走った。

◇◇◇

 カズトさんと別れた俺とユキは補給艦の上陸部隊を従えてイキ島の西から上陸し、さらに北側へと迂回していた。ゲンは島の中央付近の小高い丘に拠点を構築しており、ちょっとした砦のようになっている。ユキはその砦の偵察に向かっている。忍びの本領発揮だ。

 「ここから更に部隊を二つに分けます。1000は俺達と拠点の制圧に、残りの500は北の海岸線を押さえて下さい。ここから逃がした敵がツシマあたりの拠点に増援を呼びに行っても面倒なので。」

 オバーテクノロジーな新造艦隊を囮に使い、更に自らのイセカイ号すら囮に使う二段構えの作戦から、カズトさんのこの一戦で決めようとする意図が伺える。ならば本隊を預かった俺もただ拠点を制圧すればいいってものでもないだろう。

 俺の指示を受けて別動隊500がすぐに編成され、北へと向かって行った。諸侯連合の将兵は意外なほどに俺達に好意的、と言うか素直に従ってくれる。俺の伯爵位が効いているのかそれとも示した力や新兵器がモノ言っているのか分からないが、無用な軋轢が生まれないのはいい事だな。

 「テル。」

 背後にふっと気配が現れる。ユキが偵察から戻って来たな。

 「どうだった?」

 「砦の守備兵は100人程しかいないようだ。カズト殿が上手く敵を釣り出してくれたな。ちょっと門にも細工をしておいた。突入は容易だぞ?」

 ニヤリとユキの形の良い唇が吊り上がる。

 「ありがとう。流石はユキだな。」

 小柄な彼女の頭を撫でてやるとふにゃりと表情を緩める。数えきれない修羅場を潜り抜けて来たとは思えない可憐さに思わず俺の頬も緩みそうになるところをぐっとこらえる。

 「これより拠点制圧に向かう!敵は寡兵、正面から押し潰す!」

 ユキが仕込みを入れた城門は容易く破られ、100の守備兵がなだれ込んだ1000の兵を押し返す事など出来る訳もなく。

 「城将、討ち取ったぁーーー!」
 「うおぉぉーーーっ!」

 砦に守将を討ち取った雄叫びに呼応して鬨の声が上がる。

 「さて、リッケン、サンタナ様に拠点制圧を完了したと伝えてくれるかい?」

 ふわりと現れた緑色の風の精霊がコクリと頷く。さて、これから仕上げに入るからな。ちょっと緩みだした空気を締めないと。

 「やがて海上に出ていた敵兵が逃げ帰って来る。それまでに防御態勢を整えるぞ!」

 《おお!》

 作戦は完璧だよ。カズトさん?

 
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