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西国編

あまりのんびりもしていられない。

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 造船ドックから砦に移動した諸侯達は誰がどの程度の兵力を供出するか、資金提供は如何ほどか、また艦隊指揮は誰が執るのか、何処の兵がどの船に乗るのか、などの細々とした調整をしているらしいんだがそこは正直どうでもいいと思っているのでそちらの会議には参加していない。どの道今回建造している五隻の船は全てが終わればチンゼイに置いていくつもりだし、船の所有権や運用方法といった、そのあたりの事も当事者たちで決めて貰わねばならない。

 「ふ~ん、なるほどなあ。確かに見落としてたよな。」

 「そうですよね。こんな巨大な船を着けられる場所なんてそうそう無いだろうし。」

 そんな諸侯達の会議の内容よりも興味を惹かれたのが船の仕様変更の件だ。俺達には事後報告という形がとられたんだが、流石は船のプロだけあって素人の俺達じゃあ気付かないところをフォローしてくれる。で、俺達が見落としてた部分っていうのが巨大船が接岸出来ない場所から上陸しようとした場合、どうしても小舟を使わなければならないという事だった。

 「戦艦っていうよりは強襲揚陸艦?」

 「ははは、そこまで特化してる訳じゃなさそうですけどね。」

 俺とテルは楽し気に会話しているが、実際に土壇場で設計を変更されそれに対応する現場の苦労たるや如何ほどのものか。日本で会社勤めをしていた頃を思い出して職人達に心の中で手を合わせる。それで具体的にどこがどう変わったのかと言うと、バトルシップの後部側面の装甲がパタリと羽のように開くと、格納庫になっているらしい内部から上陸用の小舟が滑り出して来る仕様に変更されている。詰めれば30人程は乗れそうな船が合計で10艘搭載される予定だという事だ。

 「これも冷静に考えれば思いつく事でしたよね。」

 「全くだな。」

 もう一つの変更点は両舷に仕込まれている狭間のような多数の穴。それは開閉できるもので用途は文字通り狭間として使う。狭間というのは城塞の中から敵を狙撃する為の穴で戦国期の日本の城にも普通にあったものだ。鉄の装甲の内部からこの狭間を使って接近してきた敵を狙撃する。狭間の内部にはクロスボウを固定で装備。これで迎撃も万全だな。

 仮に接舷されて乗り込まれたとしても、船は放棄しても問題ないだろう。その時は魔力供給している精霊を自由にしてやればいい。それだけで船は航行手段を失い潮の流れに任せて漂流するだけだ。曳航されてメカニズムは解析されるだろうが動力源である魔力の問題はすぐにどうこう出来る問題でもないだろうしな。自前でエンジンでも開発出来るなら別だろうが。

 「ともあれ、ここまで進んだ以上はこれ以上の変更はしないで工期を急がせた方がいいですね。いつまでも連中が大人しくしてるとも思えないし。」

 「そうだね。一番怖いのは連中がこっちを無視してヘイアンに向かっちゃう事なんだよね。こっちを足止めしてるつもりのあいつ等が、実は私達に足止めされてたって事に気付かれる前に潰しておきたいよ。」

 そうだな。テルとライムの言う通りだ。チンゼイを救う事ももちろん目的の一つだがヘイアンへの奇襲を狙っているゲンの目論見をきっちり潰し、とんでもない落とし前をつけて貰う事が最終的な目的だ。いい加減にゲンもポンティアックと連絡がつかなくなった事で異変に気付くだろうしな。

 「棟梁、そんな訳でこの先は今の仕様のまま工期を出来るだけ短く頼むよ。」

 俺達へ説明したあとそのまま控えていた棟梁にそう告げる。

 「わかりやした。職人達にも気合入れねえといけねえなこりゃ。」

 そう言って去って行く棟梁の背中はどことなく楽し気だった。
 

 
 
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