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西国編
武装がなくちゃダメだろう?
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造船ドックの建造に着手して二日目になる。驚くべき事だがドックは既に完成していた。細かい造形など必要なく、極端に言えば平面にならしてから船を造るスペースを凹ませるだけの作業であれば数時間で終わるらしい。
「こんな大きいだけの仕事より給排水の配管を巡らす方が面白いのだー!」
スプライトにしてみればそういう事らしい。気質が職人そのものだよな。まあ、そんな訳で造船に関わる者達はみなドックの方に集まっている。ドックの近辺には急増ではあるが職人たちの為の宿泊施設が建ち始めたり商売人が屋台を構えたりしてちょっとした集落が形成されてきていた。
「旦那、船の仕様が固まったんで見ておくんなせえ。」
船大工の棟梁と錬金術師が一人、俺に声を掛けて来た。なかなか詳細な図面を見せてくれる。100メートル級が一隻、30メートル級が四隻の計五隻。銃火器が無いこの世界の水上戦は弓矢や魔法による射撃戦ののち接舷して敵船に乗り込み白兵戦という流れになる。鉄の装甲、魔力機関での外輪駆動による航行、マストで風を受けても航行できる。確かに船としてなら問題なくハイスペックなんだが……
「やっぱり物足りないですね。」
横で図面を覗き込んでいたテルが呟く。
「やっぱりテル君もそう思う?これはこれで敵からすれば心が折れそうな仕様だけど、なんていうの?…そう、ロマンが足りてないんだよ!」
同じく反対側の隣にいたライムもテルに同意する。それを聞いていた棟梁が首を傾げる。
「どういう事で?」
この時点で相当に画期的な船である事は間違いないのだから棟梁が理解出来ないのも無理はないんだが、俺達は近世以降の戦闘艦というものを知っているだけにこの船に不足しているものが気になって仕方がない。
「俺達の要求は戦闘用の船だ。この状態だとただの頑丈な船だろ?」
「つまり?」
今度は俺の言葉に錬金術師が首を傾げる。
「この船には武装がない。」
つまりはそういう事だ。航空機やミサイルなんてものがない以上、船による戦闘と言えば砲撃戦だろ?大砲が無いのは仕方がないが、船自体に攻撃力を持たせる事で圧倒的優位に立てるんだ。大砲の代わりになんか載せろ。
「武装…ですかい?」
「ふむ…敵の弓矢は通じない。こちらからは一方的に攻撃出来る…バリスタなどはどうでしょう?」
船大工の棟梁は専門外なので思いつかなかったようだが錬金術師の方は鍛冶師などと共同で武器を作る機会もあるんだろうな。気が付いたみたいだ。ちなみにバリスタとは巨大なクロスボウのようなものだ。長大な矢を撃ち出す兵器でその威力は城攻めにも用いられる程だ。
「いいね。ちょっと詳細を詰めようか。」
設計に関わる人間をもっと交えた方がいいだろうという事で設計事務所っぽい詰所に場所を移す。
「まずは船の仮称を決めよう。100メートル級はバトルシップ。30メートル級はデストロイヤー。以後完成まではそう呼称する。」
俺達のイセカイ号は強引に枠組みするとしたらクルーザーってとこかな?いや、そもそも武装を積んでないじゃないかって?
ふっ。スタリオンのブレスがあるじゃないか。生体波〇砲だぞ?
「まず、旗艦となるバトルシップには威力と射程重視の大型のものを主砲として船首と船尾に各一門。旋回出来るよう設置だ。それから威力と射程よりも速射性を重視した中型のものを両舷に各二門ずつ。これを副砲として設置。もちろんこれも旋回式だ。」
俺の要望を聞きながら職人達が図面を複製したものにメモしていく。大まかな設置場所はここでいいか、サイズはどうだ、などとなかなかに盛り上がる。こういうのって楽しいよな。テルも表情がキラキラしてるし。
「デストロイヤーには副砲と同仕様のものを前後に各一門。」
「旦那、デストロイヤーに副砲二門はちょっと窮屈ですぁ。バリスタをもっと小型のものにするか一門にするか。それとも船をデカくするかしねえと…しかしドックの方じゃ骨組みの制作が始まってるんで船のサイズ変更はいただけねぇ。」
「それならバリスタを小型化しても構わん。ただ速射性を上げるのと船自体の機動性を上げる事。」
「やってみまさぁ!」
こうして夜が更けるまで議論は続き仕様が決まった。
「カズト殿、こちらにいましたか。」
俺を探しに来たのはチンゼイに上陸した時に近くの村で代官をしていたホンダ卿配下のジュークだ。
「どうしたんだ?こんな夜更けに。」
「各地に走っていた伝令が戻って来ましてな。ほとんどの領主が会議に参加するようです。全員が顔を揃えるのは十日程先になりそうですが。」
十日後か。まあ、そんなとこだろうな。それにしても殆どが参加とは予想以上だ。実際に顔を突き合わせるまでは分からないが、ホンダ卿の言う通り、チンゼイの領主達は貴族っぽい腹黒さはあまりないのかも知れないな。
「それまでにいいデモンストレーションが出来るように作業を急がせようか。」
「そうですな。」
俺の言葉に男臭い笑みを浮かべてジュークが頷く。
「ん?ちょっと待てジューク。警戒態勢を。連中、ここを嗅ぎつけたみたいだ。」
「ほう?意外と遅かったですな。では、私はこれで!」
海にいる精霊達が騒いでいる。俺の索敵範囲外だが精霊達が教えてくれるとか便利すぎるだろ。
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「こんな大きいだけの仕事より給排水の配管を巡らす方が面白いのだー!」
スプライトにしてみればそういう事らしい。気質が職人そのものだよな。まあ、そんな訳で造船に関わる者達はみなドックの方に集まっている。ドックの近辺には急増ではあるが職人たちの為の宿泊施設が建ち始めたり商売人が屋台を構えたりしてちょっとした集落が形成されてきていた。
「旦那、船の仕様が固まったんで見ておくんなせえ。」
船大工の棟梁と錬金術師が一人、俺に声を掛けて来た。なかなか詳細な図面を見せてくれる。100メートル級が一隻、30メートル級が四隻の計五隻。銃火器が無いこの世界の水上戦は弓矢や魔法による射撃戦ののち接舷して敵船に乗り込み白兵戦という流れになる。鉄の装甲、魔力機関での外輪駆動による航行、マストで風を受けても航行できる。確かに船としてなら問題なくハイスペックなんだが……
「やっぱり物足りないですね。」
横で図面を覗き込んでいたテルが呟く。
「やっぱりテル君もそう思う?これはこれで敵からすれば心が折れそうな仕様だけど、なんていうの?…そう、ロマンが足りてないんだよ!」
同じく反対側の隣にいたライムもテルに同意する。それを聞いていた棟梁が首を傾げる。
「どういう事で?」
この時点で相当に画期的な船である事は間違いないのだから棟梁が理解出来ないのも無理はないんだが、俺達は近世以降の戦闘艦というものを知っているだけにこの船に不足しているものが気になって仕方がない。
「俺達の要求は戦闘用の船だ。この状態だとただの頑丈な船だろ?」
「つまり?」
今度は俺の言葉に錬金術師が首を傾げる。
「この船には武装がない。」
つまりはそういう事だ。航空機やミサイルなんてものがない以上、船による戦闘と言えば砲撃戦だろ?大砲が無いのは仕方がないが、船自体に攻撃力を持たせる事で圧倒的優位に立てるんだ。大砲の代わりになんか載せろ。
「武装…ですかい?」
「ふむ…敵の弓矢は通じない。こちらからは一方的に攻撃出来る…バリスタなどはどうでしょう?」
船大工の棟梁は専門外なので思いつかなかったようだが錬金術師の方は鍛冶師などと共同で武器を作る機会もあるんだろうな。気が付いたみたいだ。ちなみにバリスタとは巨大なクロスボウのようなものだ。長大な矢を撃ち出す兵器でその威力は城攻めにも用いられる程だ。
「いいね。ちょっと詳細を詰めようか。」
設計に関わる人間をもっと交えた方がいいだろうという事で設計事務所っぽい詰所に場所を移す。
「まずは船の仮称を決めよう。100メートル級はバトルシップ。30メートル級はデストロイヤー。以後完成まではそう呼称する。」
俺達のイセカイ号は強引に枠組みするとしたらクルーザーってとこかな?いや、そもそも武装を積んでないじゃないかって?
ふっ。スタリオンのブレスがあるじゃないか。生体波〇砲だぞ?
「まず、旗艦となるバトルシップには威力と射程重視の大型のものを主砲として船首と船尾に各一門。旋回出来るよう設置だ。それから威力と射程よりも速射性を重視した中型のものを両舷に各二門ずつ。これを副砲として設置。もちろんこれも旋回式だ。」
俺の要望を聞きながら職人達が図面を複製したものにメモしていく。大まかな設置場所はここでいいか、サイズはどうだ、などとなかなかに盛り上がる。こういうのって楽しいよな。テルも表情がキラキラしてるし。
「デストロイヤーには副砲と同仕様のものを前後に各一門。」
「旦那、デストロイヤーに副砲二門はちょっと窮屈ですぁ。バリスタをもっと小型のものにするか一門にするか。それとも船をデカくするかしねえと…しかしドックの方じゃ骨組みの制作が始まってるんで船のサイズ変更はいただけねぇ。」
「それならバリスタを小型化しても構わん。ただ速射性を上げるのと船自体の機動性を上げる事。」
「やってみまさぁ!」
こうして夜が更けるまで議論は続き仕様が決まった。
「カズト殿、こちらにいましたか。」
俺を探しに来たのはチンゼイに上陸した時に近くの村で代官をしていたホンダ卿配下のジュークだ。
「どうしたんだ?こんな夜更けに。」
「各地に走っていた伝令が戻って来ましてな。ほとんどの領主が会議に参加するようです。全員が顔を揃えるのは十日程先になりそうですが。」
十日後か。まあ、そんなとこだろうな。それにしても殆どが参加とは予想以上だ。実際に顔を突き合わせるまでは分からないが、ホンダ卿の言う通り、チンゼイの領主達は貴族っぽい腹黒さはあまりないのかも知れないな。
「それまでにいいデモンストレーションが出来るように作業を急がせようか。」
「そうですな。」
俺の言葉に男臭い笑みを浮かべてジュークが頷く。
「ん?ちょっと待てジューク。警戒態勢を。連中、ここを嗅ぎつけたみたいだ。」
「ほう?意外と遅かったですな。では、私はこれで!」
海にいる精霊達が騒いでいる。俺の索敵範囲外だが精霊達が教えてくれるとか便利すぎるだろ。
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