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西国編

始動!

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 ここはハカタの砦からほど近い海辺。ホンダ卿以下スンシューの将兵達と大工や船大工、錬金術師や鍛冶職人など、かなりの人数が集まっている。こっちの世界での造船は詳しくないが、いや、現代日本の造船についてもまるっきり素人な訳で、船大工達にこれから建造する船の大凡のサイズを話した上で、造船ドックの大きさを決めて貰った。

 「アクア、海水を沖の方へ引かせてくれ。その後スプライトはU字型に地面を掘り起こすんだ。寸法はさっき打ち合わせた通りでな。」

 「もむ!」
 「もごもごー!」

 二人共飴玉を口いっぱいに頬張っている。通訳すると『うむ!』と『まかせろー!』となる。ハムスターじゃねえんだから一個ずつ食えよ。

 他にも海水を堰き止める壁や給排水用の配管工事も並行させていく。スプライトが獅子奮迅の大活躍だ。職人達にはドックの建物を急ピッチで建築して貰い、木こりが運んで来た木材を乾燥させるのにはサンタナが一肌脱いでいる。自然乾燥を待っている暇はないのだ。

 造船ドックの方の指示は一通り出し終わり、進捗確認はホンダ卿の家臣に任せる。それとは別口で船大工や錬金術師、鍛冶職人などを集めてイセカイ号をお披露目する。当然、見せびらかす訳じゃなくて仕組みを把握して貰う為だ。

 「これは何とも画期的な船だな…」

 「櫂も漕ぎ手も不要な船とはな…」

 とまあ、感心してるのか呆然としているのかイマイチ分かり辛い反応だが、この船をモデルにして更に高性能なモノにして貰いたいと思っているので言いたい事は言わせて貰う。

 「いいか、お前達。これから造る船はコイツを超えるものにして貰う。金は掛けても時間は掛けない。これはというアイディアが有れば俺達の所まで報告してくれ。それから、あくまでも戦闘を目的とした船だって事を忘れないでくれ。お前達の船に多くの兵が命を預けてゲンの奴らを駆逐するんだ。その光景を思い浮かべろ。」

 「おお…俺達の造った船で奴らを…」
 「職人冥利に尽きるな。」

 よしよし。職人達の瞳に光が宿って来たな。

 「それから、造船が始まった事を嗅ぎつけたゲンが襲って来る事が予想される。だが、お前らには指一本触れさせねえから何があっても作業の手は止めるな。以上、早速作業に掛かれ。」

 俺達は本職じゃないから出来る事は精霊王達にサポートさせる事。そして守ってやる事くらいだ。イセカイ号の方にはライムを残し、造船ドックの方にはテルを配置し監督に当たらせ、爺さんと千代ちゃんには職人に紛れて間者が入り込んでいないか監視の任に当たらせる。俺はビートを伴ってちょっとホンダ卿と打ち合わせだ。

 「各地の領主達が集まる前にちょっと根回しをしておきたいんだけどいいですかね?」

 「根回し?必要かね?カズト殿が力を見せつければ逆らう者などおるまい?」

 ちょいちょい!俺は暴君でも独裁者でもねえって。力で押さえつけるのも時と場合によるだろうに。

 「俺は皆に納得して事に当たって貰いたいんですよ。俺みたいな平民の余所者が幅を利かせてたら面白くない人もいるでしょう?」

 「まあ、器の小さい輩はそうかも知れんが…国難を前にしてそのような些事に拘っているようであるならいっその事排除して貰った方が世の為人の為になると思わんかね?」

 「ハハハハ。それを俺にやれって?俺はオーシュー女王セリカに請われて帝に会い、帝に請われてゲンをぶっ潰すのが仕事ですから。しかも命令されている訳じゃないんで、チンゼイの連中が気に入らないならこのままヘイアンに戻ってヘイアンを守る事にします。」

 グダグダ言われるくらいならお前らで切り抜けて見せろ。そう言ってやって俺は帰る。それだけだ。

 「まあ、恩は着せておきますがね。例のアソの噴火は鎮めましたし原因である火の精霊王サラマンダーは眷属化したので制御下にあります。その事をお偉いさん方に表明しますよ。ついでに荒れてしまった土地は他の精霊王三人が復活させてます。」

 「なるほど。ゲンの事は別としてもカズト殿の功績は絶大だな。まあ、心配はいらんと思うがな。このチンゼイの領主達もゲンの襲来を退け続けておるのだ。頭でっかちの貴族とは違って武断派の連中が多いだけに話は簡単に終わるやもしれんぞ?」

 口元を歪めてニヤリと笑うホンダ卿に面倒事の予感が過る。『拳で語る』タイプが多いって事だろ、それ。

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 ファンタジー小説大賞も残すところあとわずか。投票して下さった皆さまに感謝です! 
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