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西国編

問題は山積

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 「た、助けてくれ!知ってる事は何でも話す!頼む!」

 「食われたくない…食われたくない…」

 四人中、二人は失神してしまった。一人は壊れる寸前。そろそろいいか。爺さんと千代ちゃんも来たみたいだしな。予想以上の仕事振りだ。村に駐留している軍も連れて来たか。

 「スプライト、檻を解いてくれ。」

 「はーい!」

 ズブズブと土の柱が地面へと沈んで行く。

 「殿、こちらはこの先の村に駐留されておられる代官殿じゃ。」

 爺さんが紹介してくれたのは髭の偉丈夫で一人騎乗している。従える歩兵は100人程か。

 「俺はオーシューの冒険者カズトだ。帝のを受けチンゼイの海の掃除をしに来た。」

 「ふふふ。貴殿の事は聞き及んでおりますよ。我らはスンシューの国から派遣されておりましてな。隣国の壊滅の危機を救った英雄として我が国にも少なからず感謝している者がいるのですよ。なにせ一山超えたショーナン領が人っ子一人住めない土地になったと言うではありませんか。下手をすれば我が国にも被害が及んでいたかもしれない。おっと、申し遅れました。私はジュークと申す者。よろしくお願い致す。それにしても、帝の命ではなく依頼ですか。剛毅な事ですな。」

 俺はこのジュークという男と握手を交わし、捕虜の四人の連行を任せて村へと向かった。その村で一宿一飯、世話になる事にしたのだが、ジュークからチンゼイの情報を、捕虜からはゲンの情報を入手する事が出来た。なにせチンゼイは海上封鎖されていた為まともな情報が入って来ない。ここに来て明らかになった情報は非常に興味深いものだった。

 ゲンの狙いについてはほぼ俺達の予想通りで、チンゼイ西岸から侵攻して注意をそちらに向けておき、手薄になったヘイアンを本隊が急襲し一気に制圧する。ただ、予想以上だったのはその周到さだ。チンゼイへの攻撃部隊は俺達の世界で言う所の中国大陸から来ている。台湾や沖縄を経て補給ルートも万全らしい。そして、ヘイアン急襲部隊はポンティアックの手引きがあればすぐにでも作戦行動に移れるようになっているのだが、そのヘイアンを制圧する部隊と言うのが朝鮮半島にいると言う事だ。これは少し面倒だ。チンゼイを包囲してる連中を片付けても根本的な解決にはならないって事だからな。さあて、どうすっかなあ?

 「加えて、チンゼイに派兵された我々も海上を封鎖され戻る事も補給を受ける事も叶わず、さらにゲン軍の散発的な攻撃に手を焼いておりまして。士気は下がる一方です。各地から集まった援軍は足並みが揃わず、元々この地を治める領主達や帝に不満を持つものもいるようですな。」

 そりゃそうか。いつ来るかも、どこから来るかも分からないゲン軍の襲撃に神経をすり減らしているんだからな。状況は相当に良くない。さらに追い打ちを掛けるようにジュークは続ける。

 「ここより南西に『火の山』があるのですが、どうもゲン軍がその山を荒らしたらしいのです。地元民は精霊が宿る山として滅多な事では立ち入らないようにしていたらしいのですが…」

 《あるじー、たぶんそのやまのぬしがひのせいれいおうだおー。》
 
 スプライトが念話で教えてくれた。火の精霊王はダンジョンにいるんじゃないのか?そんな疑問が湧いたんだがそれは置いとく。

 「山の主である精霊が暴れて手に負えない、そんなところか。」

 そうなのです、と頷くジューク。ただ、おかげでその一帯はゲン軍も侵攻を諦め空白地帯になっているらしい。

 「おいこらライム。お前のせいでフラグ立ったじゃねえか。」

 「え~っ!?私のせい!?」

 何はともあれ、その火のヤツを鎮めに行くのは確定事項だろう。放っておける事案じゃない。ただ、何を優先に動くかが非常に難しい。半島に居る本隊か?チンゼイを封鎖しているゲン軍か?チンゼイ内の勢力を掌握する事か?それとも火の精霊?

 「カズトさん。この状況じゃ俺達も手数が足りなすぎる。二手に別れたらどうかな。火の精霊に行くチームとチンゼイ内の各国の大将格を纏め上げるチームと。」

 「なるほど。チンゼイの懸念事項を一気に解決した上で盛大に巻き返すって訳だな。乗ったぞ、テル。」

 俺はテルの案に乗った。そうと決まれば子細を詰めようじゃないか。チンゼイに居る勢力の中で誰を御輿に担ぐかとかチーム分けとかチーム分けとかな。
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