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西国編
船の名前とその頃のセリカ
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造船ドックの中の空きスペースを利用して、俺達一行とダッツンのおっさん、船大工の職人達や錬金術師に鍛冶師、それに農民や漁師などが集まって宴会が始まっている。小さな村だ。これだけの船を造るとなると、殆どの人が何かしら関わっているらしい。それぞれが持ち寄った野菜や魚を素材に郷土料理が振舞われている。一流の食材も一流の料理人もいないが、みんなで楽しく食う飯と酒が不味い訳がない。
ラン、チェロ、スタリオン、ムスタングも中に入って新鮮な野菜を美味そうに食っている。スタリオンは魚も丸ごといってるな。初めはおっかなびっくりだった村の衆も、子供達がスタリオンとじゃれ始めたの見てかなり馴染んだようだ。
「よう、どうだ。ここの魚は。美味いだろ?」
ダッツンもいい具合に酒が入ってご機嫌のようだ。
「ああ、美味いな。特にこの鍋が絶品だ。」
「ほお、流石、舌が肥えとるのお!コイツは滅多に上がらねえ幻の魚じゃ。」
これな、実はフグ鍋だったりする。こっちの世界でも高級魚らしい。
「ところで、コイツの名前は決めたんか?」
◇◇◇
時間は少し遡る。
「って事でだな。この船の名前を募集する事になったんだ。誰か案がある人~?」
「船の名前ってさ、なんとか丸とか、そういう感じ?」
「でもそれだと漁船っぽいですよ、ライムさん。」
「そっか~。じゃあテル君、何かいい案ある?」
「そうだなぁ…これが軍船だって言うならネーミングのお約束みたいなのは有りますよ。」
「ほお、テル、博識だな。」
「海外だと都市や州、提督や大統領、そんな名前を付けてるね。」
「ふむふむ。」
まあな。でもそんなにこだわる事もねえかなって思う。この船は確かに重装甲だけど武装はしてないし、(船首にラムは有るけど)用途としては輸送船、軍事的な見方をするなら揚陸艦ってトコだ。ガイアのおっちゃんあたりに見せたら魔改造されちまいそうだけどな。
「カズトさんはどんなのがいいのかな?」
「ん?そうだなぁ。俺は三笠とか好きだったな。ガキん時横須賀に見に行ったよ。ま、それは置いとくとして…ここにいるメンバーを見て思い浮かべる言葉が一つあってさ。」
「え?なになに?」
「イセカイ。」
《おお~!》
◇◇◇
カズト達が宴を開いていたその日の昼。
「お目通り叶いまして恐悦至極に存じます。勅命を受け、遅ればせながら参内仕りました。」
「うむ。セリカ女王、ジュリア大公、大儀である。楽にされよ。」
「「は!」」
カズトからの連絡を受け急ぎ兵を整え上洛したセリカ達は今女帝ボーラと対面している。ボーラの側には一緒に囚われていたお付きの女官が二名と護衛の兵が二人。また、セリカにはサニーとグロリアが侍り、ジュリアにはデルとソルの兄弟が従っている。
デル、ソルらソレイユのメンバーは最終決戦後も残党征伐や復興事業で名を上げて、ジュリアの近衛武士団となっていた。その業績の中でもロートブルクの狼達の力が大きかったのは多くの民が知る所であり、ロートブルクは神狼の住む山としてかつての信仰を取り戻しつつあった。
「堅苦しいのはここまでだ。楽にして欲しい。」
ボーラの表情がふっと緩むと室内の張り詰めた空気が霧散して行く。
「陛下もご存知の通り、我らの国は戦後の復旧の最中であり、満足な数を揃える事が出来ずに心苦しく思います。しかしながらどの兵をとっても一騎当千のつわものばかりを率いて参りました。陛下とこの歴史あるヘイアンの都はこの身を懸けてお守り致します。」
セリカ達が率いて来たのはオーシュー、バンドー、エツリアの援軍を含めても二千程だった。出し惜しみした訳では無く、本当にこれが限界だったのである。カズトの話を受けたセリカは所謂日本海側からのゲンの上陸を警戒し、ウフロン領、ウリア領からの徴兵を極力控え、同じく日本海側に位置するエツリア王国にも注意喚起を促した為にサーブ王も最低限の援軍派遣に留めた経緯がある。そこを察しているボーラの方も兵の少なさを責めるつもりはない。
「カズトの苛烈さをこの目で見た故な。あの男が信じて遣わした其方たちなら数の多寡など問題ではなかろうよ。」
「カズト様を基準にされると些かこまりますわね。」
ボーラのやや過剰な評価にジュリアが苦笑を漏らす。セリカやサニー、グロリアをはじめとするパーティーメンバーやカズトが以前設立したクランに加入していた者達は人外に片足を突っ込んだ力を持つが、カズトと親しい者の中ではジュリアは珍しく普通の人間の範疇に収まるレベルなのだから無理もない。
「それで、カズト達は今は?」
「うむ、チンゼイへ渡る船を手配しておったのだがどうやら出来上がり間近のようでな。今頃はチョーシューであろう。」
「それはまた…船などこの近辺にある手ごろな物を買い上げて、ライムの収納で運べば済む話でしょうに。新たに作るなど流石カズトですね。きっとまともな船ではないのでしょう。」
ライムの収納で船を運ぶ。これについてはカズトもライムも、その他の面々も全く失念していた。ボーラに至っては船のような巨大なものが収納できるなどと思ってもいない。
セリカの言葉を聞いて呆れるボーラといつかその船に乗ってみたいと、目を輝かせるジュリアだった。
ラン、チェロ、スタリオン、ムスタングも中に入って新鮮な野菜を美味そうに食っている。スタリオンは魚も丸ごといってるな。初めはおっかなびっくりだった村の衆も、子供達がスタリオンとじゃれ始めたの見てかなり馴染んだようだ。
「よう、どうだ。ここの魚は。美味いだろ?」
ダッツンもいい具合に酒が入ってご機嫌のようだ。
「ああ、美味いな。特にこの鍋が絶品だ。」
「ほお、流石、舌が肥えとるのお!コイツは滅多に上がらねえ幻の魚じゃ。」
これな、実はフグ鍋だったりする。こっちの世界でも高級魚らしい。
「ところで、コイツの名前は決めたんか?」
◇◇◇
時間は少し遡る。
「って事でだな。この船の名前を募集する事になったんだ。誰か案がある人~?」
「船の名前ってさ、なんとか丸とか、そういう感じ?」
「でもそれだと漁船っぽいですよ、ライムさん。」
「そっか~。じゃあテル君、何かいい案ある?」
「そうだなぁ…これが軍船だって言うならネーミングのお約束みたいなのは有りますよ。」
「ほお、テル、博識だな。」
「海外だと都市や州、提督や大統領、そんな名前を付けてるね。」
「ふむふむ。」
まあな。でもそんなにこだわる事もねえかなって思う。この船は確かに重装甲だけど武装はしてないし、(船首にラムは有るけど)用途としては輸送船、軍事的な見方をするなら揚陸艦ってトコだ。ガイアのおっちゃんあたりに見せたら魔改造されちまいそうだけどな。
「カズトさんはどんなのがいいのかな?」
「ん?そうだなぁ。俺は三笠とか好きだったな。ガキん時横須賀に見に行ったよ。ま、それは置いとくとして…ここにいるメンバーを見て思い浮かべる言葉が一つあってさ。」
「え?なになに?」
「イセカイ。」
《おお~!》
◇◇◇
カズト達が宴を開いていたその日の昼。
「お目通り叶いまして恐悦至極に存じます。勅命を受け、遅ればせながら参内仕りました。」
「うむ。セリカ女王、ジュリア大公、大儀である。楽にされよ。」
「「は!」」
カズトからの連絡を受け急ぎ兵を整え上洛したセリカ達は今女帝ボーラと対面している。ボーラの側には一緒に囚われていたお付きの女官が二名と護衛の兵が二人。また、セリカにはサニーとグロリアが侍り、ジュリアにはデルとソルの兄弟が従っている。
デル、ソルらソレイユのメンバーは最終決戦後も残党征伐や復興事業で名を上げて、ジュリアの近衛武士団となっていた。その業績の中でもロートブルクの狼達の力が大きかったのは多くの民が知る所であり、ロートブルクは神狼の住む山としてかつての信仰を取り戻しつつあった。
「堅苦しいのはここまでだ。楽にして欲しい。」
ボーラの表情がふっと緩むと室内の張り詰めた空気が霧散して行く。
「陛下もご存知の通り、我らの国は戦後の復旧の最中であり、満足な数を揃える事が出来ずに心苦しく思います。しかしながらどの兵をとっても一騎当千のつわものばかりを率いて参りました。陛下とこの歴史あるヘイアンの都はこの身を懸けてお守り致します。」
セリカ達が率いて来たのはオーシュー、バンドー、エツリアの援軍を含めても二千程だった。出し惜しみした訳では無く、本当にこれが限界だったのである。カズトの話を受けたセリカは所謂日本海側からのゲンの上陸を警戒し、ウフロン領、ウリア領からの徴兵を極力控え、同じく日本海側に位置するエツリア王国にも注意喚起を促した為にサーブ王も最低限の援軍派遣に留めた経緯がある。そこを察しているボーラの方も兵の少なさを責めるつもりはない。
「カズトの苛烈さをこの目で見た故な。あの男が信じて遣わした其方たちなら数の多寡など問題ではなかろうよ。」
「カズト様を基準にされると些かこまりますわね。」
ボーラのやや過剰な評価にジュリアが苦笑を漏らす。セリカやサニー、グロリアをはじめとするパーティーメンバーやカズトが以前設立したクランに加入していた者達は人外に片足を突っ込んだ力を持つが、カズトと親しい者の中ではジュリアは珍しく普通の人間の範疇に収まるレベルなのだから無理もない。
「それで、カズト達は今は?」
「うむ、チンゼイへ渡る船を手配しておったのだがどうやら出来上がり間近のようでな。今頃はチョーシューであろう。」
「それはまた…船などこの近辺にある手ごろな物を買い上げて、ライムの収納で運べば済む話でしょうに。新たに作るなど流石カズトですね。きっとまともな船ではないのでしょう。」
ライムの収納で船を運ぶ。これについてはカズトもライムも、その他の面々も全く失念していた。ボーラに至っては船のような巨大なものが収納できるなどと思ってもいない。
セリカの言葉を聞いて呆れるボーラといつかその船に乗ってみたいと、目を輝かせるジュリアだった。
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