上 下
161 / 240
西国編

もう少し女心というものをだな…

しおりを挟む
 「要はゲン軍を引き上げさせればいいんだろ?本土上陸をさせる前に。向こうが船で海上封鎖してるってんなら楽勝だ。全部沈めてやるさ。」

 元寇の時の『神風』を再現してやるさ。こっちには風と水の精霊王がいる。これ以上ないシチュだろ?

 『うふふふ。腕が鳴りますね。ご主人様の極上の魔力をたっぷりと頂けます!』
 『そうじゃな。今から楽しみだの。』

 頭の中で精霊王二人の欲望がダダ洩れだ。

 「ではカズト様。私は身を清めて参る故しばしお待ち頂きたい。」

 はい、やっぱりボーラさん勘違い!

 「待て待て。俺は金や色香じゃ動かんぞ?」

 「へ?」

 俺がセリカやジュリア達に手を貸したのは民を思う心が俺に響いたからだ。だが、今の所この帝には特に感じ入る事がない。

 「俺がゲンを退けて帰って来るまでに俺の信頼を勝ち取って見せろ。それが今回の報酬だ。」

 俺の言葉を聞いてボーラは暫く考え込む。そんな時側近侍女の一人が縋りついて来た。

 「カズト様!無体を仰いまするな!帝はこのように孤立無援。今カズト様御一行が旅立たれては帝の安全は!」

 ああ、もう…わかったわかった。はぁ…

 「サンタナ、セリカに伝言頼むよ。状況は思ったより悪い。オーシューの事だけを思えば俺達でどうにでもなるが本土そのものは危険な状態だ。精鋭1000でヘイアンまで来てくれ。それからジュリアにも援軍を頼む。バンドーは大した兵力は出せないだろうがここで帝に恩を売るのは悪く無い。進軍途中でエツリアでサーブのおっさんに声掛けて総勢2000くらい引っ張って来れれば上出来だな。」

 『分かりました。ではそのように。』

 これでセリカにはライズミーにいるサンタナの分身体から話は伝わるだろう。

 「ねえねえ、かずと。あんまり本人目の前にして話す内容じゃ無かったよ?ほら…」

 ライムに促されてボーラを見ればガックリと項垂れている。まあ、現時点で帝とは名前ばかりの存在だからな。と言うか、サンタナとは念話で話してたつもりだったんだが声を出してたようだ。

 「あ、いや。まあ、そんなに気を落とすなよ? ちゃんと守ってやるよ。この国の民をな。」

 「あちゃあ~、もう、かずとってば……」

 ん?またボーラが煤けているんだが今ので俺に何か落ち度が?

 (ふっふ…まさかこの私がここまでどうでもよい存在として扱われようとは…何かこう、女のプライドが粉砕されてしまった。あの朴念仁め。少しくらい私を見てくれても良かろうに…ふ…)

 「どうした?おい、ボーラ?」

 「いえ、どうか良しなにお願い申し上げる。カズト様。」

 しょんぼりとお願いされちゃったよ。

◇◇◇

 「なるほど。サンタナ様、カズトには確かに承ったとお伝え下さい。王国最強の精兵を率いて参りましょう。」

 セリカはサンタナの分身体からカズトの伝言を聞き瞳を輝かせる。

 「ソアラ!」

 「は!」

 「バンドーのジュリア大公とエツリアのサーブ王へ書状を送ります。今のサンタナ様の伝言を早馬で送りなさい。」

 セリカの側仕えをしていたクノイチの首領ソアラはセリカの執務室を出るとすぐにクレスタとチェイサーを呼ぶ。

 「ソアラ姉さん、どうしたんです?」

 スッと現れたクレスタがソアラに尋ねるとソアラは喜びを隠しきれない様子で話した。

 「マスターからの召集です。戦支度をなさい。北はシルビア様、南はアクセル様まで1000の精鋭を集めてヘイアンへ出陣ですよ!」

 「それは腕が鳴りますね!私はどうしましょう?」

 「チェイサーはマスターのパーティーメンバーと騎士団へ連絡です。」

 「はい!サニー様もグロリア様もローレル様もお喜びになりますね!」

 カズトからサンタナを通してセリカに伝えられた内容は徐々に西へと波及して行く。ヘイアンでは帝が幽閉されていた事。黒幕は宰相だったが既に討伐した事。しかし殆どの戦力はチンゼイに釘付けにされておりヘイアンの都は裸同然である事。現状、帝の後ろ盾はカズトの一行しかいない事。

 この情報を聞いた各国の王達はどう動くのか。義憤に駆られ帝の矛となり盾となるか。それとも燻ぶらせていた野望が鎌首をもたげるか。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。