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第一部 オーシュー王国編 2章

173.次のステップ

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 前回は山脈の西側へ下りて南下したが今回は遠回りする必要もないのでそのまま山脈伝いに南下している。

 「そろそろ街道に出て南下する。なるべく一列になって街道を塞がないように歩いてくれよ。」

 【おとうさん、おかあさん、にんげんをふみつぶしちゃだめだよー?】

 【おっと、そうだな。スタリオンは賢くなったな。主殿に同行させたのはやはり正解だったようだ。なあ?デボネア。】

 【そうですね。わずかな日数でしたが随分大人びて見えます。】

 【えへへへー】

 リクオウとデボネアはすげえ親バカ夫婦だった。そのうちスタリオンが反抗期とかになったらすげえ親子喧嘩になりそうだな。

 そして山から下りて街道へ出る。シルビア達を送り届ける際にもスタリオンの姿は目撃されているのでそこまで大騒ぎにはならなかった地竜の数が3頭に増えていたので皆唖然としていた。しかも3頭が整然と列を為して歩いているのである。一応俺が先頭、ライムが最後尾を進んで地竜達が制御下にある事はアピールしているぞ。

 途中2日程野宿して漸く領都に着く。往復約半月の旅だった。半月の間に随分と城の復旧は進んでおり、簡易ではあるが政庁舎らしきものも出来上がっていた。多くの兵士たちが駐屯している事もあり街にも活気が溢れている。威張り散らして闊歩する貴族や騎士もいない為に人々にはビクビクしているところがない。

 (こういうのを求めていたんだろうな、セリカは。)

 そして復活した城門の守備兵に驚かれながらも、

 「カズトだ。この地を守る地竜を連れて来た。入城するが構わないか?」

 「は!では中に入り少々お待ち下さい。陛下に伝えて参ります!」

 2人の守備兵のうちの1人が城内へ走って行く。俺達はのんびりと城門を潜り3頭が休めるような広場へと移動し、リラックスしてセリカを待つ事にした。

 ビートの首をくりくりしながら少し待っているとセリカ達がやって来た。

 「お帰りなさい…と言うのも少し違うのでしょうが、無事で何よりです。カズト、ライム。」

 「ああ。約束通り、守護竜を連れて来た。『リクオウ』と『デボネア』だ。みんなよろしくな。」

 「オーシュー王国女王のセリカです。お会いするのは2度目ですね。これからは我が国の事、どうぞお守りくださいませ。」

 【うむ。私が『リクオウ』だ。我が妻『デボネア』、我が子『スタリオン』と共に主の期待に見事答えて見せよう。】

 「あら。私達にも言葉が理解出来るようになりましたね?」

 【どうやら主に名前を頂いたのがきっかけになっているような気がするのだ。スタリオンもそうではなかったか?】

 「そういえばそうだったような…」

 スタリオンの場合はまず人語を理解する事からがスタートだったからな。少しタイミングがズレているのはそのせいかもしれない。

 「ともあれ、遠路遥々ご苦労様でした。今日はこちらでゆっくりなさって下さい。明日、『聖域』へご案内致しましょう。」

 【うむ、宜しく頼む。】

 「ではカズト達は中へ。」

 

 「それじゃあバンドーからの使者は来ていないが国境封鎖は解除したのか。」

 「はい。こちらからも特に挑発するような行為はしませんでしたし。ただアクセル達の砦付近ではさすがに小規模ながら部隊を駐屯させているようです。」

 今俺達は仮庁舎の中で現状の情報交換をしている。

 「そうか。まあ、使者は来ないだろうな。古今一国の指導者が潔く罪を認め謝罪するなんて話は聞いた事がない。」

 「まあ、そうですね。ところでカズト。やっぱり行ってしまうのですか?」

 そんな眉毛をㇵの字にして言われるとこっちも言いづらいんだが…

 ライムとアイコンタクトを取り、ライムも頷く。

 「ああ。行くよ。この国での俺達がやる事は終わったと思っている。今度は外側の脅威を取り除く事が俺達の仕事なんじゃないかな。この国の為に出来る事って言ったらさ。」

 俺達がこの世界の異物だっていう認識は変わってない。俺達がいなくなったら何も出来ない国にはなって欲しくないじゃないか。だから内政には一切干渉しない。これからは内政面で成熟して貰わなくちゃな。

 「そんな!カズト達は何もしなくてもいい!敵が攻めて来るなら私達が戦う!……カズト達はただこの国に留まっていてくれれば…」

 「…俺達は明日、地竜親子を連れてここを発つよ。アクセル達に顔を出してそのままバンドーに入るつもりだ。」

 「そうですか…。」

 「ねえ、セリカ。平民達はやっと見えて来た希望に期待しているんだ。戦いで未来を勝ち取る段階は終わって、これからは戦いで国民の顔を曇らせる事を無くすようにしなくちゃいけない。そういうステップに進んでるんだよ。」

 「…はい。」

 「そもそも、なぜ戦いをしたがるのか、バンドーの民は戦いを望んでいるのか、見極めなきゃいけない。その上で皇帝に土下座させなきゃダメだろ?」

 「まあ、物凄く偽善くさく言えば、この国の民に戦いをさせない為の旅なんだよ。セリカなら分かると思うんだ。」

 まあ、その通り偽善なんだ。最悪のケースで言えばバンドーを滅ぼすかも知れない。最善は友好な関係を築く事だけど、それは難しいかも知れないな。オーシューの様に、代替わりして頭の固い連中を排斥していけば話は別だが。要は血なまぐさい旅になりそうだって事だな。

 「そう、ですね… すみませんでした。我が儘を言ってしまいました。」

 「どこでもそうだったけど、なんでみんなそうやってしんみりしちゃうかなあ?また帰って来るんだよ?」

 「なぜでしょうね?2人が王国から出て行くと聞いただけで言い様のない不安に駆られるのです。」

 うーむ。ビートがこの間言ってた事、間違いじゃないみたいだな。
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