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第一部 オーシュー王国編 2章

171.不安になる理由

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 人間と比べて遥かに長い寿命を持つエルフという種族の恋愛観とか、そういう哲学的なものは俺には分からない。そもそも長命であるが故に種を残すという意識が希薄である為そうした行為にも淡泊だとかいう話は聞いた事がある。

 「必ず、また会いに来てくれ。アタシは100年でも200年でもここで待ってるからさ。」

 翌朝、王都を旅立つ際の別れ際にローレルに抱きしめられて告げられた言葉。

 「ああ、必ずまたここに戻って来るよ。」

 ローレルの切れ長な瞳からは涙が溢れていた。

 結局ヒトもエルフも変わらないな。愛しい人と離れ離れになるのはつらい。何も変わりはしない。

 街を出る前に立ち寄った王城ではコロナさんに山脈にいる地竜を南へ連れて行く為に帰りは街道を使わない旨を伝える。

 「そうですか…残念ですが仕方ありませんね。セリカにはどうか無理をせず体に気を付けてと伝えて下さい。」

 コロナさんの素の母親としての反応は初めて見たかも知れない。いつも為政者として気を張っていたんだろうな。ここに来て反乱分子を取り除く事が出来たおかげで少し心に余裕が出来たのかも知れないな。


 リューセンの村に寄る。村人も歓迎してくれた。村を守った功労者であるアクセル達の出世の話をしたら自分達の事のように喜んでくれた。

 「お兄ちゃんたち、また行っちゃうの?」

 キャロルちゃんの言葉に胸が痛む。ルーチェさんも泣きそうだ。

 「ごめんな。まだ俺達にはやる事があるんだ。キャロルちゃんが大きくなった時にみんなが仲良く暮らせるようにさ。」

 「うん、わかった…お兄ちゃん、お姉ちゃん、また必ず来てね?」

 「…ああ、約束だ。また来るよ。」

 
 リューセンを発ちミズサー、タカミ、シーワ、コズカとそれぞれ1泊するのんびりした道程だ。この辺りは召喚されてから暫く動き回っていたエリアなので顔見知りもそれなりにいる。どこに行っても歓迎されるし別れを惜しまれる。

 そしてカッシに到着する。この街は反乱軍を迎え撃ち撃退した事で街を守り切ったシルビアやセリカに対する好感度が一際高い。そして今回はシルビアが正式に領主となっての凱旋だ。熱狂的歓迎と言っていいだろう。

   「カズト兄様、ライム姉様、ここまでの護衛有難うございました。これが今生の別れという訳でもないでしょうに、今までの皆さんは随分と大袈裟だな、と思っていたのですが…いざ自分の順番になると…おかしいですね。旅立って欲しくないのです。」

   確かに俺とライムはバンドーへ向かうつもりだ。まあ、敵国だからな。心配になる気持ちも分からなくはない。でもみんな少しオーバーじゃないかってくらい別れを惜しむんだ。

   「大丈夫だよ。俺たちがどうこうされると思うか?ちゃんとバンドーを大人しくさせたら戻って来るよ。」

   「…そうですね!きっとですよ?」

   「ああ、約束だ。」

 こうしてカッシでも異常な程惜しまれながら街を出た俺達。今はランに騎乗した俺。チェロに騎乗したライム。ビートを頭に乗せたスタリオン。竜車はライムの空間収納へ。

 「随分と寂しくなったもんだな。」

 俺はなんとなしに呟いた。

 「そうだね。でもカズにぃ。みんなの別れ際の反応、やっぱりちょっとおかしいよね。まるで私達と二度と会えないような。」

 そうなんだよ。やっぱりライムも気に掛かるか。

 【ご主人様に皆依存しすぎていたのではないでしょうか?ご主人様は余りにも大きな精神的支柱でもありましたので。】

 【そうじゃの、マイ・マスター。一緒にいる時はそれ程でもないかも知れぬがいざ離れるとことさらその存在感の大きさに気付かされる。】

 サンタナとアクアの言いたい事は分かる。大事な人を失った時の喪失感に似ているのかも知れない。だとしたら俺とライムがそこまで深刻にならないのは俺達がそこまでこの世界の人々を重要視していないって事だろうか?

 【カズト様。それは少し違うと思いますわ。カズト様や精霊王様、それにライムは圧倒的強者故に気付かないだけだと思いますの。カズト様もライムも幼い頃はありましたでしょ?少しでも母親がいないと不安になって泣きじゃくった時期が。】

 ビートが俺の心を読み取って発した言葉は言いえて妙だ。

 「なるほど、この国は生まれ変わったばかりの赤ん坊って事か。」

 「なるほどね。そういう事なら今この時期にバンドーに行くのは育児放棄になっちゃうんじゃない?カズにぃ?」

 コイツめ。痛い所を突いて来る。

 「ならライムはセリカ達に付いて『育児』するか?俺は外敵駆除に行くけど。」

 「うっわ!カズにぃ意地悪だなぁ。私はどこ行くのも一緒に決まってるじゃん!」

 そもそも俺はオーシュー王国の親になったつもりはない。仲間と認めたセリカが王女という立場だっただけだ。セリカの信念が共感出来るものだったしな。まあ、貴族たちが気に入らないっていう個人的感情もあったけど…

 【国は生まれ変わったばかりで不安定なのは否めませんが動かす人々は立派な大人達です。自立を促す為にも今回のように距離を置くのはいい事かと思いますよ?】

 【ごしゅじんさまー。おとうさんとおかあさんとぼくがるすばんするからだいじょーぶだよー!】

 フッ。そうだな。仲間達にはちゃんと『守る力』がある。それに地竜の守護だ。過保護なくらいか。

 「よし!それじゃあスタリオンの父さん母さんに会いに行こうか!ラン、チェロ、スタリオン!少しペース上げて行くぞ!」

 【フフッ。振り落とされぬよう、主よ。】
 【ライムもしっかりと掴まって下さいね?】
 【わーい、きょうそうだー!】

 さあ、山脈目指してペースを上げて行くか!
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