上 下
141 / 151
????

138話 シーソーゲーム

しおりを挟む
 周囲に黒羽陣を敷くルシフェルを囲むように救世者メサイア達が浮上した。自動で迎撃を始める黒羽陣の、僅かに外側の間合い。そこに一歩でも踏み入れば、無数の黒羽が一斉に襲い掛かかって来る。
 その代わり、攻防一体の黒羽陣を敷いてるルシフェル自身も相当追い詰められている事は確かだ。六枚の翼の内二枚を犠牲にしてこの黒羽陣を展開しているのだから。

 過去の黒翼の天使との戦いから、あの黒翼は再生や防御といった能力を持ってはいるが、黒翼を斬り落としたあとに黒翼がまた生えてくるといった事象は起こっていない事から、翼自体が再生する事はないという事が考えられる。
 つまり、天使を倒すには多少遠回りでも翼をもぎ取る事が確実な方法だ。そして今、漸く二枚の翼を消費させる事に成功したのである。
 そして三戸達は、持久戦に持ち込む事を選択した。とにかく火力でゴリ押しする。ルシフェルに反撃のスキを与えずにひたすら防御に徹してもらう作戦だ。
 三戸やアンジー、そして三機のアパッチロングボウの砲撃、更には関羽も青龍の属性能力をフルに活用し、刃と化した無数の木の葉で黒羽陣を斬り裂きにかかっている。
 そして、中でも猛威を振るっていたのがジャンヌだ。
 燃えるような赤い翼をはためかせながら炎槍を振り回し、火炎放射や炎弾、火球を放ち続けている。

「爆炎そのものって感じだな」

 両肩の四連装ランチャーからナパーム弾を絶えず発射している三戸が、ジャンヌの姿を見てそう漏らした。
 ルシフェルもジハードの水の能力で相殺しようとしているが、手数で勝る救世者メサイア達の火力を完全に抑える事は出来ず、徐々に黒羽陣の羽根の密度を減らしていく。

「全て焼き尽くすッ!」

 気合を込めてジャンヌが放った特大の炎弾がルシフェルを襲う。それは黒羽陣に阻まれルシフェルには届かないが、多くの羽根を焼き尽くし灰に変えていった。
 普段であればとっくに尽きていると思われるジャンヌの『気』だが、それが無尽蔵にも思える程絶え間なく攻撃を繰り出す事を可能にしているのはナイチンゲールの存在だ。

「ここが無茶のしどころでしょう。私は二人を補助します。あなたはここで有事に備えておきなさい」

 ナイチンゲールは杖から注射器を飛ばし、ジャンヌと関羽に何か光を照射していた。二人のスタミナや気力が途切れないのは、彼女のドーピングによるものである。
 無茶のしどころと言ったのは、このドーピングが身体に大きな負担を掛けるものである事を窺わせる。しかしあのルシフェルがラスボス的存在なのは今までの流れから可能性が高く、勝負所を見誤ってはならぬというナイチンゲールの判断によるものだ。
 事実、ルシフェルは防御に専念せざるを得ない状況に追い込まれている。そしてついに、四枚残っていた翼の内、二枚が黒羽陣に投入された。これで残る翼はあと二枚。

「よし、みんな頑張れ!」

 三戸が檄を飛ばす。既に数時間に渡って攻撃を続けており、疲労から気力、体力、集中力が切れてもおかしくはない。そこをナイチンゲールが無理矢理回復し、戦闘を継続させている。
 異常な回復能力を持つ黒翼の天使の長ルシフェルが相手だ。僅かな時間でも猶予を与えては危険だ。何も追い詰められているのはルシフェルだけではなく、三戸達も同様だったのである。

 地上では相変わらず、リチャードとサラディンが、ルシフェルによる地形操作と重力操作による攻撃を必死に相殺している。こちらも空で戦っているメンバー同様に、身を削りながら戦っていた。
 そして更に数時間後。黒羽陣を形成している羽根も残り少なくなってきた。ついに最後の二枚の翼も黒羽陣に投入するかと思われたその時。

「くっ! 人間如きに……人間如きに!……人間如きにこの僕がぁっ!!」

 ルシフェルが。美しい顔を歪めて叫ぶその口から発せられた言葉は、呪詛となって激しく鼓膜を揺らす。

「あ……あぁ……」
「ぐぬぅ……」

 空中で攻撃に参加していたジャンヌも関羽も地上へ落下してしまい、ジャンヌは涙を流しながら内股になってガクガクと震え、関羽は覚悟を決めたように胡坐をかいて目を伏せた。

「クソ……どうにか不時着を……」

 アパッチ・ロングボウを操縦していた三人も、辛うじて墜落は免れたが戦意を喪失していた。

「……アレには勝てん」
「うむ。次元が違いすぎたの」

 より強い相手との戦いに喜びを見出すこの二人のバトルマニア、リチャードとサラディンも諦めの表情で座りこんだ。

「アダム、エヴァ、ごめんなさい……私達が抗える相手ではなかった……」

 いつも凛とした佇まいを崩さないナイチンゲールも、表情を無くしてぺたりと座り込んだ。

「フハハハハハハ! ちっぽけな人間風情が、天使たる僕に逆らうなんて出来る訳がなかったのさ!」

 その様子を見届けたルシフェルは、今度は愉悦に顔を歪めて高笑いしている

「あーっはっはっはっは――」

 ――ヒュン! ジュジュッ……

「は?」

 その高笑いをしていたルシフェルの頬を、何かが斬り付け、傷口を焼き焦がしていった。

「何がそんなに可笑しいんだクソ堕天使? まだ終わっちゃいねえぞ」

 そこにはサムライブレードを振り抜いた三戸と、20mm機関砲を構えたアンジーが睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...