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113話 反骨精神
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射撃訓練を終えたメンバーが、ブリーフィングルーム兼食堂兼娯楽室(仮)に戻って来た。今日もリチャードは肩を落としているし、ふぁむちゃんは相変わらず三戸の下へ一直線に飛んでくる。いつも通りの光景が繰り広げられたが、後から入室してきた射撃訓練組は室内の異様な雰囲気にすぐ気付いた。
「ん? どうかしたのかね? ☆」
そんな雰囲気に恐ろしく不似合いな爽やかイケメンスマイルに、一同が毒気を抜かれる。アスキーの天然恐るべし。全員がそういう印象を抱いたという。
ともあれ、話しやすい雰囲気になったのは確かだった。それに全員が揃ったという事もあり、三戸は恐らくエデンの場所が特定出来たという話をした。
「……という訳で、それと意識をしていないのにその場所を避けるように誘導されているとか、視覚的なトラップが仕掛けられているとか、色んな事が想定される」
そんな三戸の言葉に後から入ってきたリチャードが首を傾げながら言った。
「だが、その近辺まで行ったとして、どうするのだ? 我々には、そこがそれだとは認識できないのだろう?」
まさにリチャードの言う通りで、このまま無策で近付いても打つ手なしと思える。他の全員も頷きながら思案顔だ。
それでも、そこにあると分かっていながら何もしない訳にもいかない。三戸は決意を込めて、口を開く。
「取り敢えず、これから出来るだけの準備を整えて、明日早朝から件の場所付近まで移動してみようと思うんだが、どうだろうか?」
「なるほど……近付けば向こうの方からアクションを起こしてくるかもしれないし、やっぱり行くべきよね……」
ジャンヌもそれを聞いて思案していたが、手をこまねいているよりは行動を起こした方が状況の打開につながると考えているようだ。
「うむ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉もある」
関羽が顎鬚を撫でながら言ったその言葉に頷く日本人達と、首を傾げるその他のメンバーが対照的だ。
「危険を冒さずして大切なものは手に入れる事はできないぞっていう意味だ」
三戸が地図上の空白地帯を指差しながらその意味を語る。
「そうじゃな。危険な冒険を潜り抜けた先にこそお宝は待っておる」
そしてサラディンは好戦的な笑みを浮かべた。
「まったく、男性というのは仕方ありませんね」
ナイチンゲールは言葉の内容こそ咎めているようだが、その表情には微笑が浮かんでいる。バックアップは任せろと言わんがばかりだ。
「余も異存はない。魔物の親玉をぶちのめしてくれるわ! はっはっは!」
そして最後に、今日もふぁむちゃんにこってりと絞られて凹んでいたリチャードが息を吹き返した。そこまでを見届けた三戸が満足気に頷く。
「よし、今から作戦を考えよう」
三戸のその一言で、全員が地図を囲んで議論を交わすのだった。
△▼△
「どうだ? リチャード」
リチャードの能力により、日の出と共に動き出した移動基地は地図上の空白地帯の手前一キロの地点で停止していた。
「ううむ……どうにも直進は出来ぬようだな。あそこの手前の土を地形操作で移動させようとしておるのだが、どうしても迂回しようとしてしまう」
「ふむ……」
基地を直接空白地帯に侵入させるよりも先に、手前の土を空白地帯に移動させようとしているのだが、やはり上手くいかない。
「やはり神のヤツ、結界か何かで封じてやがるな」
そこで三戸は神の目論見を考える。
仮にエデンが魔物の巣穴と化していたとして、そこを結界で塞いでしまえば外界に瘴気が漏れ出すことはない。アダムとエヴァの事だけを考えれば、それだけで安全性は格段に上がるだろう。
しかしはぐれた魔物が外をうろついている以上、安全は確実なものではない。そこで自分達が二人の護衛の為にここに送り込まれたのだとすれば。
(このままここで俺達がアダム達を守り続け、やがて二人が子を成し人類が増えていけば、ヤツの思惑は達成する事になる……か)
そう考えると、神の目的は自分達に魔物や悪魔を倒させる事ではなく、二人を守らせる為だったか。そして自分達は生ある限り守り続ける戦いを強要される事になるのではないか。そんな疑念が渦巻く。
「なんかムカつくな。燃やしちまうか」
考えが纏まった三戸が、いきなりムッとした表情でそんな物騒な事を言うものだから、周囲にいた者達がギョッとしている。
三戸は自分の考えを語った。そして全員に問う。それでいいのかと。
「臭い物に蓋をする、じゃあ根本的な解決にはならんですよ。やっぱ臭いにおいは元から絶たないと!」
「それに、守るだけの戦いってのは不利なもんですからね。俺達はそれを身に染みて分かってる」
岡本が拳を握りながら声を張り上げ、藤井も生前の無念を思い出したのか静かに闘志を燃やしていた。
「儂もお主らの意見に賛成じゃがな、だがいいのかの? ここで負けたら向こうの世界も共に滅ぶことになるぞ?」
そしてこの中では一番年長のサラディンが、今一度冷静になって考えろと促してくる。
だがここで、一気に場の流れを傾ける発言をした少女がいた。
「大丈夫ですっ! マスターは絶対に負けませんから! アンジーのマスターは最強ですっ!」
そんなアンジーの言葉の後、ふぁむちゃんが空白地帯を望む窓を移動し、そこを見据えた。同時に、基地内の速射砲の砲身が空白地帯に向けられた。
△▼△
「……人間というのは度し難いものじゃな」
白い空間から、神は三戸達の行動を見ていた。
「わざわざ危険を冒さずとも、人類存続が可能なようにしておったものを。しかし、奴らの判断に委ねるのも一興か。これで滅ぶようなら面倒だがまた一からやり直せばいい事じゃからな」
神の箱庭の運命はどう転がるのか。
「ん? どうかしたのかね? ☆」
そんな雰囲気に恐ろしく不似合いな爽やかイケメンスマイルに、一同が毒気を抜かれる。アスキーの天然恐るべし。全員がそういう印象を抱いたという。
ともあれ、話しやすい雰囲気になったのは確かだった。それに全員が揃ったという事もあり、三戸は恐らくエデンの場所が特定出来たという話をした。
「……という訳で、それと意識をしていないのにその場所を避けるように誘導されているとか、視覚的なトラップが仕掛けられているとか、色んな事が想定される」
そんな三戸の言葉に後から入ってきたリチャードが首を傾げながら言った。
「だが、その近辺まで行ったとして、どうするのだ? 我々には、そこがそれだとは認識できないのだろう?」
まさにリチャードの言う通りで、このまま無策で近付いても打つ手なしと思える。他の全員も頷きながら思案顔だ。
それでも、そこにあると分かっていながら何もしない訳にもいかない。三戸は決意を込めて、口を開く。
「取り敢えず、これから出来るだけの準備を整えて、明日早朝から件の場所付近まで移動してみようと思うんだが、どうだろうか?」
「なるほど……近付けば向こうの方からアクションを起こしてくるかもしれないし、やっぱり行くべきよね……」
ジャンヌもそれを聞いて思案していたが、手をこまねいているよりは行動を起こした方が状況の打開につながると考えているようだ。
「うむ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉もある」
関羽が顎鬚を撫でながら言ったその言葉に頷く日本人達と、首を傾げるその他のメンバーが対照的だ。
「危険を冒さずして大切なものは手に入れる事はできないぞっていう意味だ」
三戸が地図上の空白地帯を指差しながらその意味を語る。
「そうじゃな。危険な冒険を潜り抜けた先にこそお宝は待っておる」
そしてサラディンは好戦的な笑みを浮かべた。
「まったく、男性というのは仕方ありませんね」
ナイチンゲールは言葉の内容こそ咎めているようだが、その表情には微笑が浮かんでいる。バックアップは任せろと言わんがばかりだ。
「余も異存はない。魔物の親玉をぶちのめしてくれるわ! はっはっは!」
そして最後に、今日もふぁむちゃんにこってりと絞られて凹んでいたリチャードが息を吹き返した。そこまでを見届けた三戸が満足気に頷く。
「よし、今から作戦を考えよう」
三戸のその一言で、全員が地図を囲んで議論を交わすのだった。
△▼△
「どうだ? リチャード」
リチャードの能力により、日の出と共に動き出した移動基地は地図上の空白地帯の手前一キロの地点で停止していた。
「ううむ……どうにも直進は出来ぬようだな。あそこの手前の土を地形操作で移動させようとしておるのだが、どうしても迂回しようとしてしまう」
「ふむ……」
基地を直接空白地帯に侵入させるよりも先に、手前の土を空白地帯に移動させようとしているのだが、やはり上手くいかない。
「やはり神のヤツ、結界か何かで封じてやがるな」
そこで三戸は神の目論見を考える。
仮にエデンが魔物の巣穴と化していたとして、そこを結界で塞いでしまえば外界に瘴気が漏れ出すことはない。アダムとエヴァの事だけを考えれば、それだけで安全性は格段に上がるだろう。
しかしはぐれた魔物が外をうろついている以上、安全は確実なものではない。そこで自分達が二人の護衛の為にここに送り込まれたのだとすれば。
(このままここで俺達がアダム達を守り続け、やがて二人が子を成し人類が増えていけば、ヤツの思惑は達成する事になる……か)
そう考えると、神の目的は自分達に魔物や悪魔を倒させる事ではなく、二人を守らせる為だったか。そして自分達は生ある限り守り続ける戦いを強要される事になるのではないか。そんな疑念が渦巻く。
「なんかムカつくな。燃やしちまうか」
考えが纏まった三戸が、いきなりムッとした表情でそんな物騒な事を言うものだから、周囲にいた者達がギョッとしている。
三戸は自分の考えを語った。そして全員に問う。それでいいのかと。
「臭い物に蓋をする、じゃあ根本的な解決にはならんですよ。やっぱ臭いにおいは元から絶たないと!」
「それに、守るだけの戦いってのは不利なもんですからね。俺達はそれを身に染みて分かってる」
岡本が拳を握りながら声を張り上げ、藤井も生前の無念を思い出したのか静かに闘志を燃やしていた。
「儂もお主らの意見に賛成じゃがな、だがいいのかの? ここで負けたら向こうの世界も共に滅ぶことになるぞ?」
そしてこの中では一番年長のサラディンが、今一度冷静になって考えろと促してくる。
だがここで、一気に場の流れを傾ける発言をした少女がいた。
「大丈夫ですっ! マスターは絶対に負けませんから! アンジーのマスターは最強ですっ!」
そんなアンジーの言葉の後、ふぁむちゃんが空白地帯を望む窓を移動し、そこを見据えた。同時に、基地内の速射砲の砲身が空白地帯に向けられた。
△▼△
「……人間というのは度し難いものじゃな」
白い空間から、神は三戸達の行動を見ていた。
「わざわざ危険を冒さずとも、人類存続が可能なようにしておったものを。しかし、奴らの判断に委ねるのも一興か。これで滅ぶようなら面倒だがまた一からやり直せばいい事じゃからな」
神の箱庭の運命はどう転がるのか。
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