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108話 プロトタイプ・ヒューマン

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 空の偵察を終えた三戸達が基地に帰還してきた。
 今日もかなりの距離を飛んだが、これと言って成果は無かった。当然の事だが、他に人間がいない以上集落などもなく、見渡す限り大自然が広がっているだけだった。

「途中、はぐれ魔物数体と交戦しただけだ。それにコンタクトした場所も時間も、これと言った法則性もない」

 正直、お手上げだよと三戸が両手を上げた。

「まるでRPGゲームでモンスターがフィールドにポップするような、そんな感覚に近いっすね」

 そんな、分かる人にしか分からない岡本の言葉に三戸や藤井、中谷も苦笑した。確かにその説明がしっくりくる。本来あるべき世界が魔界に浸食されかけている。そんな設定のゲーム世界もよくあった。
 この場所も、案外そんな感じなのかもな。三戸は何となく、そう思った。

「ところでマスター、アダムさんとエヴァさんのお二人の事なんですが……」
「ん? どうした?」

 少し困ったような表情のアンジーと、その後ろには今までよりどこか自信に満ち溢れた表情の二人がいた。

「実は今日、お二人の射撃訓練していたのですが……」

 アンジーの口ぶりからすると、使い物にならなかったか。しかしそれにしては後ろの二人がやけに自信たっぷりだ。三戸は複雑な思いでアンジーの報告を待つ。
 そして、その結果は驚愕すべきものだった。

「お二人のハンドガンでの命中精度が余りにも素晴らしかったので、少し調べてみたのです」

 調べたというのは、主に身体能力についてだという。
 まず視力。なんと推定5.0。
 垂直跳び。二人共二メートル超え。
 握力。150㎏オーバー。
 五十メートル走。4秒台。
 ハーフマラソン。30分台。

「マジかよ……」

 現代人のアスリートがどれだけ努力して超えられない壁を、すでに突き破っていた原初の人類。それも、トレーニングを積んでいた訳でもなく、記録としてはド素人が叩き出したものだ。

救世者メサイアの皆さんには及ぶべくもありませんが、訓練を積めば自衛するくらいの能力は十分に得られると思います」

 これに関してもアンジーの言う通りで、救世者メサイア達は五メートルを超える防壁上へ助走無しで飛び乗るし、実は八十キロ近くある青龍偃月刀を関羽は小枝のように振り回している。その関羽の青龍偃月刀と互角に打ち合うジャンヌも大概だし、リチャードとサラディンも似たようなものだ。

「なるほど。それでその二人の自信たっぷりな表情か」
「はい!」
「プロトタイプ・ヒューマンねえ……」

 聖書の記述において過去の人間の寿命が数百年だったとかいう話もあるし、日本における記紀|(古事記、日本書紀)の中でも初代神武天皇から数代に渡って、異常な程長生きした事になっている。三戸はこの二人を見ていると、そんな与太話もあながち間違いではないのでは、と思えてくる。
 それで、二人の能力が現代人とは比べ物にならない程優れているのは分かった。これが本来の人間としての能力ならば、なぜ現代人が劣化してしまったのかなどの謎は残るが、そこは今は問題ではないだろう。
 そこで三戸が注目したのは視力だ。

「アンジー。遠くまで良く見えるのは分かった。で、動体視力や瞬間視力なんかはどうなんだ?」
「そこも素晴らしいです。遠隔操作で飛ばしたドローンを的にして射撃訓練をしてみたのですが、ほぼ全弾命中です!」
「ほう……」

 今日初めて銃を手にした人間が、動く的に当てるなど至難の業だろう。ましてやアンジーが操るドローンだ。軌道が読める動きなどすまい。それに当てるというのだから、もう進路は決定だ。

「なら決まりだな。格闘戦は教えなくてもいいだろ。狙撃特化型でいこう」

 この時点で、三戸の頭の中ではフォーメーションが決まった。
 アダムとエヴァの二人が狙撃、その護衛にはナイチンゲールとリチャード。補助タイプと前衛防御タイプを組み合わせる。
 そしてアタッカーはジャンヌ、関羽、サラディン。この三人が連携を取れば、イフリート戦でも見せたように、途轍もない攻撃力を叩き出す。
 さらには三戸率いる小隊だ。これの最大の強みは臨機応変に機動兵器を選べる事と、その機動力。
 
「……という感じで考えたんだが、みんな異論があったら遠慮なく言ってくれ」

 これに対して、全員が無言で頷いた。

「それじゃあ、明日からの訓練はこのチームで連携をとりながら進める事にしよう。藤井、中谷、岡本は、引き続き空中からの偵察だ」

 嬉しい誤算でアダムとエヴァの二人が戦力として数えられるようになった。
 これにより、基地全体の士気が上がった。


 
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