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100話 アンジーのプライド

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 三戸とアンジーは赤いファントムのコックピットに飛び乗る。前に三戸、後ろにアンジーだ。
 既にエンジンには火が入っており、アンジーによって魔改造されたファントムはゆっくりと垂直に浮上する。

「よし、追いかけるぞ。あいつらの動きはトレースしてるか?」
「はいっ! そちらのモニターに出しますねっ!」

 これまた魔改造による半透明のホログラムのようなパネルに、藤井達三機の位置が表示される。魔物の反応に真っ直ぐ向かっているようだ。

「味方の識別信号出しといてくれ。まあ、こっちには他に戦闘機なんて飛んじゃあいないだろうがな」
「ウィルコ!」

 空中でホバリング状態のファントムの、後部ノズルが火を噴く。浮上用のスラスターなど、どこを見ても、搭乗する前はどこを探しても見当たらない謎な機体だが、本来あるべきものが普通に稼働しているだけで、何となく安心する三戸だった。

「ッ!!」

 強烈なGが正面から押し寄せ、シートに押し付けられる。自動車やバイクの加速とは比較にならないそれを平然と受け止めながら、三戸はスロットルを開き続けた。

「おい」
「はいっ!?」
「なんかまたパワーアップしてねえか?」
「はいっ! マスターの肉体の限界まで引き出せる性能になっていますっ!」

 三戸が体感した加速は、以前感じたものを遥かに凌駕していた。不審に思いアンジーを問い詰めるつもりだった三戸だが、百パーセント善意で行った事が分かるだけに、パネルに映る満面の笑顔を見ると注意する気も失せてしまう。

(というか、俺の肉体の限界を引き出すってなんだよ……普通は俺が機体の限界性能を引き出すんじゃねえのか)

 色々とツッコミ所が多かったアンジーの答えに首を傾げる三戸だったが、クリミアでのあの大苦戦の後だ。彼女にも思うことがあったのかも知れない。それに、パワーアップはデメリットはないだろう。三戸自身が使いこなせばいい事だ。
 強烈な加速で上昇したファントムは、やがて巡航速度に落ち着いた。しかし。

「……なあ、アンジー」
「はいっ!」
「アフターバーナー使ってないのに音速超えてるんだけど……?」
「そうですねっ!」

 燃料弾薬等はアンジーの能力で無限に供給されるため、機体の燃料を極度に消費するアフターバーナーも、こちらの世界に限って言えば使い放題である。
 アフターバーナー無しでの超音速飛行を可能にする事で考えられるのはスーパークルーズだが、そんな機能はファントムにはないし、またその機能を付けたとしても、アフターバーナー使い放題の状況ではあまり意味があるとは思えない。

「これ、スーパークルーズだろ? なんで?」
「だってライトニングさんに負けたくないじゃないですか!」
「ああ……」

 アンジーのプライドだろうか。後発機のライトニングⅡより劣る部分があってはならない。
 時代が進む程に性能が進化するのは世界の理だ。後発の方が高性能なのは仕方がない事である。しかし、アンジーは先輩としてそれが許せないのか、はたまた自分のマスターである三戸が搭乗する機体がかつての部下が乗る機体より劣るのが許せないのか、退役した機体であるファントムを、最新鋭機であるライトニングⅡすら凌駕する性能を持たせようとしている。

(ま、後者だろうけどな)

 アンジーは全てにおいて三戸ファーストだ。しかも今後は隊長機としてこのファントムに乗り込む事になる。隊長である三戸が、また三戸が乗り込む隊長機であるファントムが、隊員達より劣ってはいけないという事だろう。そう三戸は考え、そして納得する事にした。

 超音速で飛行を続ける三戸の機体は、やがて藤井達の機体を視界に捉える。

『アンジー1より各機へ。聞こえるか』
『あれ? 隊長? 何でファントムで追いつけるんですか!?』

 三戸の呼びかけに答えたの藤井。スーパークルーズで飛行していた自分達に、ファントムが追い付ける訳がないと思っていたのか、不思議そうな反応をしてくる。

『赤い機体だからな。三倍のスピードが出るんだよ』
『はははっ! そりゃそうか! 隊長、そろそろ接敵します!』

 三戸の使い古されたジョークを軽く受け流し、藤井は追い付いてきた三戸に注意を促す。

『了解だ。少し俺に考えがある。ミサイルの使用を禁止、攻撃はガンのみ。可能なら生け捕りにするぞ!』
『『『ウィルコ!』』』

 久しぶりに作戦行動を共にする四人、そしてアンジー。そして三戸の考えとは。
 三戸も、そして三戸の指揮で戦う三人も、これから突入する戦闘に心を躍らせていた。
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