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94話 アスキーの能力

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 ヒュンヒュンと風切り音を立てながら不規則な動きでデーモンに飛翔していく、蛇杖ドクターから放たれた注射器達。
 ナイチンゲールは特に操作をしている素振りを見せない。相変わらず自分の『意識』で操作しているようだ。最大十本もの注射器を同時に遠隔操作できる空間認識力はやはり驚異的で、もしもあの注射器が重火器であったなら、と思うと、三戸の背筋に冷たいものが流れる。
 デーモンの方も、自分に向けて飛来する注射器はやはり危険なものと認識したか、手にしたトライデントで叩き落そうとしたり、魔弾を放って迎撃しようとしている。
 しかし、七本も飛来した注射器を迎撃するのは容易ではない。一本、また一本と照射された光を浴びていく。いつも仲間に浴びせるような暖かい光ではなく、見ているだけで底冷えするような、冷たい光だ。
 一本浴びるごとにデーモンの動きは鈍くなっていく。そして最後の一本が照射された時、デーモンは膝から前のめりに倒れ込み、動かなくなった。

「さて。この状態になれば苦も無く倒せてしまうが、それでは私の力を示す事にならないからね。少しばかりデモンストレーションを行うとしよう」

 アスキーがそう言い終えると、ふっと彼の姿ブレて見えた。

「ふむ?」
「ほう……」
「ほっほっほ。食えぬヤツじゃな」

 次の瞬間、アスキーは十メートル程離れた場所に倒れていたデーモンのすぐ近くに立っていた。その移動のスピードと無駄のない動きに、感嘆した様子の関羽、リチャード、サラディン。

「はぁ、体術に自信がないなんて、どの口が言うのかしら」

 ジャンヌはやや呆れ顔だ。確かに、あれだけの動きが出来るなら達人級の使い手だったとしても不思議ではない。

「三戸さん、救世者メサイアやその相棒ってのは、バケモノ揃いですか……」
「……お前らもついさっき、そのバケモノの仲間入りをしたんだよ」

 また、初めて救世者メサイアやその相棒の力を目の当たりにした藤井達はやや困惑していた。人間の限界を遥かに超えた動きを見るのはこれが初めてだったのだから致し方ない。
 しかし、その動きを目で追えていたという事は、彼らも十分人外の能力を持っている。

「……なんつーか、済まなかったな。俺と縁があったばっかりに、死んだ後までこんな事に付き合わせる羽目になっちまってよ」
「まぁた隊長はそんな水臭い事を言うんですから」
「隊長!?」

 本当に申し訳なく思い謝罪した三戸に藤井がそう返す。しかも隊長呼ばわりだ。他の二人も藤井に同意するように頷き、アンジーに至ってはウインクしながらサムズアップしている。

「だってアンジーちゃんはマスターって呼んでますし。それなら俺達は隊長っすよ!」
「分かんねえよ……」

 そんなやり取りをしている三戸達の所へ、アスキーが戻ってきた。

「終わったよ」

 またしても白い歯を輝かせながらのイケメンスマイル&サムズアップ。視覚エフェクトに『キラーン』という文字が見せそうな笑顔だ。
 終わった。その言葉を聞いて三戸達はデーモンの方へ視線を向ける。

「?」

 しかし、見たところデーモンには変わったところがない。麻酔が効いてグッスリと眠っているだけ。そのように見えた。

「はっはっは! あのように眠った状態では、殺す事は容易いからね! 今回は私の力の一端を披露するために、少しばかり外科手術改造させてもらったのさ!」
「改造、だと?」
「はっはっは! まあ、アレが目を覚ませば分かるよ」

 やけに自身たっぷりなアスキーの笑顔にやや胡散臭いものを感じる三戸だが、手術オペの様子を見ていたジャンヌ達の言葉を聞いて、考えを検めた。

「凄かったわ。僅か数分で頭を開いてまた閉じて。しかも縫合したのに跡も残らないなんて……」

 素手だったはずが頭蓋骨を切開して何等かの細工を施し、再び縫合。しかも跡が残らないほどの精密な作業。色々と突っ込みたい所だが、彼の能力がそういうモノであるならば、人間の常識で考えるのはナンセンスな事だ。
 問題はその細工がどのようなモノか、という事の方が重要だろう。

「ふむ。そろそろ目覚めそうだ。マイマスター、その蛇杖ドクターでアレに何か命じてみたまえ。注射器を操る感覚で構わない」

 アスキーがそう言うと、ナイチンゲールが蛇杖ドクターの聴診器をデーモンに向け、何かを念じた。

「GRUUUUUU……」

 すると、デーモンは立ち上がり、三戸達のいる方へゆっくりと歩き出した。警戒して武器を構える救世者メサイア達だが、それをアスキーが片手を上げて制した。
 そして、デーモンはナイチンゲールの前まで来ると、持っていたトライデントを前に置き、片膝を付いて首を垂れるのだった。

「臣従、したのか……?」
「正確には違うがね。こちらに臣従するよう、『操作』できるようにしたのさ」

 逆らえない奴隷のようなものか。そんな思いが三戸の脳裏を過る。どちらかと言えば外道な行いかもしれない。しかしアスキーは敢えてそれをやって見せたように思える。
 それはこの先に待つ激戦に身を投じる覚悟を示されたような気がした。
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