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85話 いにしえの英雄、銃火器に興味を示す

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 模擬戦を終えたアンジー達がヘキサゴンを戻ると、奇妙な光景が目に入った。

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

 サラディンが黒翼の天使の球体に向けてジハードの切っ先を向け、必死の形相で力を込めていた。その傍らでは幼女姿のジハードが、『おじいちゃん頑張って』とでも言いたそうな視線で彼を見上げている。
 リチャードは黒馬に跨って空を駆けていた。エクスカリバーの宿主は神獣であるスレイプニル。その八本の脚で、リチャードの意のままに自在に空を駆けまわる。
 三戸はと言えば、M24狙撃銃を分解していた。恐らくメンテナンスをしているのだろう。その側にはナイチンゲールがいた。興味深そうに三戸の作業を見つめており、時折三戸から説明を受けながら頷いていた。

「マスター! 戻りましたっ!」

 アンジーが満面の笑顔で着地し、装甲をパージした。続いてジャンヌと関羽もふわりと着地する。

「ねえ、ミト。サラディンは何をやっているの?」

 鬼気迫る表情のサラディンの様子が気になるジャンヌが三戸に問いかける。

「うむ。まるでアレに呪いでもかけているようだな」

 関羽も自慢の髭を撫でながら怪訝な顔をしている。

「ああ、ありゃあな、重力操作でどうにかあの球体を地面にめり込ませたいらしいんだが……難しいみたいだな」

 サラディンからそのような提案があった時、三戸は一も二もなく賛成した。空から攻撃出来る優位性は戦闘機乗りの三戸が一番よく分かっている。しかし、結果は思わしくないようだ。

「あの黒翼は特殊な力場を発生させてるのかもな。それがサラディンの能力をも阻害しているのかも知れん」

 救世者メサイアの能力をも無効化する。まさに絶対防御。厄介極まりない相手に一同が皆嫌そうな顔をする。そこへサラディンがジハードを連れてやってきた。表情は心なしかしょんぼりしていた。

「すまんの。ダメじゃったわい」
「おじいちゃん、元気だして」

 すっかり孫娘とおじいちゃんの関係性が気に入ったのか、ジハードはサラディンを『おじいちゃん』と呼ぶ。サラディンの方もまんざらではなさそうで、ジハードの頭をわしわしと撫でている。
 
「まあ、しゃーないよ。気にすんな。当初の作戦通り行こう。別に状況が悪化した訳じゃない」

 三戸もサラディンに問題ない事を告げると、他の面々もそれに頷く。そして、相変わらず空を駆けているリチャードとエクスカリバーにも声を掛けた。

「おおーい! どんな感じだー?」

 すると、空中を走っているというのに蹄の音を響かせながら、エクスカリバーと共にリチャードが降りてきた。

「うむ。やはり『飛ぶ』と言うよりは『走っている』感覚だな」

 リチャードは下馬するなりそう言った。三戸も見ていて近い感想を持っていた。要は飛行機と同じ挙動しか出来ないのである。
 アンジーや憑依したジャンヌ、関羽のように、空中で静止したまま垂直に上昇や下降したりといった立体機動は不可能で、上昇する時は斜め上に向かって駆け上がる、そんな感じだ。
 いや、飛行機とて垂直に上昇は出来なくはない。ただしそれは徐々に機首を上げた結果がそうなるだけであり、水平に飛んでいたものをいきなり直角に上昇出来る訳ではない。

「まあ、騎乗しながら空を駆ける感覚は悪くない。むしろその方が余の戦車チャリオットの能力を発揮しやすいだろう」
「なるほど。空駆ける戦車チャリオットか……」

(いっその事戦車チャリオットから戦車タンクにクラスチェンジしてもらうか?)

 リチャードの話を聞いているうちに、三戸の心の中でムラムラとそんな悪戯心が湧いて出る。

「アンジー、パンツァーファウストを」
「はい! マスター!」

 三戸がアンジーに指示を出し、パンツァーファウストを出現させる。
 そしてそれをリチャードへ手渡した。

「こいつを使ってみないか? リチャードが作り出す土の槍や土の礫は貫通力と速射性は高いが、爆発力はないだろ?」
「ふむ。これは確か、肩に担ぐ大砲のようなものであったな?」
「そうだな。状況に応じて使い分ければいい」
「うむ! では早速ミトよ! レクチャーするのだ!」

 リチャードも興味津々といった感じで受け取った。冷静を装ってはいるが、ワクワクしているのがバレバレである。

「そうだな」

 三戸もそこは大人の対応で見て見ぬ振りだ。何しろ自分も内心ガッツポーズしているのだから他人の事はとやかく言えない。

(おっしゃ! 空飛ぶ戦車タンクゲットだぜ!)

「ねえミト?」
「ん?」

 リチャードがパンツァーファウストを受け取り、レクチャーを終えたタイミングを見計らって、ジャンヌが声を掛けてきた。関羽、サラディンも一緒だ。ちなみにブリューナク、青龍、ジハード、エクスカリバーは、アンジーが準備したレーションを喜んで食べている。
 
「アンジーの出した武器を使う時って、私達の力が消耗する事ってあるのかしら?」
「ふむ」
 
 もし自分達の力を消費せずに済むのならば、大技はここぞの時まで温存しておき、それまではアンジーが出した武器で敵の隙を――
 そういう意図だろうと三戸は解釈する。

「それは大丈夫だ。射撃や砲撃をアンジーのアシストを受けながら、というならアンジーが消耗するが、自分達で持って撃つのなら問題ない」

 厳密に言えば弾薬の補給でアンジーに負担をかける事にはなるだろうが、微々たるものだろう。

「アンジー、三人にサブマシンガンを」

 結局はメインは自分の武器を使うのだろうし、それならば小型で邪魔にならず、使い勝手のよいサブマシンガンが適当だろう。
 三人はそれを受け取ると、やはりリチャードと同じような表情になっている。
 すでにサブマシンガンの扱いは覚えているナイチンゲールと、それにアンジーを交えて、三組に分かれてレクチャーを行った。
 ここに来ていにしえの英雄達が銃火器を装備した。決戦は間近だ。
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