上 下
83 / 151
AD1855

82話 飛行

しおりを挟む
 黒翼の天使を攻略するには、まずは赤い光線に当たらない、もしくは完封できる防御力を持つ事。その上で、敵の防御を突破して直接攻撃を仕掛ける事。この二つの条件をクリアしなければならない。
 そして三戸の戦闘から考えられる事として、赤い光線は発射時に予備動作があるので分かりやすい事。今のところは両手からの発射なので、一度に攻撃出来るのは二方向まで。
 さらに、相手は視覚によって敵を認識している訳ではないため、死角に回ったと思い込んではいけない事。
 翼以外の部分は防御膜に覆われているが、絶対防御ではない事。

「こうして改めて確認してみると、意外と穴はある」

 三戸がそう言いながら一同を見回す。

「さっきはマスターがお一人で戦いましたが、これだけの人数の救世者メサイアが一斉に連携して掛かれば、隙を作り出す事も可能なはずです!」

 アンジーも両手をグーにして気合を入れている。

「そこでだ」

 三戸がポケットから一発の銃弾を取り出した。それはM24狙撃銃に使用する、7.62mmの銃弾。

「リチャード、これと寸分違わぬ寸法、形状で中身は空洞。土を操る力で作れないか?」
「ふむ。強度はこれと同等で良いのか?」
「ああ」

 リチャードがその銃弾を手に取り、まじまじと眺めながら答える。どうやら出来そうだ。
 続いては、その銃弾の中身だ。
 
「ナイチンゲールの能力で、硫酸を出してほしい。多分、薬品に使われてる成分だから可能だと思うんだが」
「ええ、それは可能ですが……」

 三戸が要求したのは硫酸。言わずとしれた強酸だ。この事から三戸の意図は透けて見える。撃ち込んだ弾丸で、黒翼の天使を身体の内部から溶かしてしまおうというのだろう。

「それで、サラディンの重力操作で、その硫酸をぐっと圧縮して、リチャードが作る弾丸の中に詰め込んで欲しいんだ」
「うむ。それくらいなら造作もないぞい」

 三戸の思惑は周囲の予想を超えて凶悪だった。大量の硫酸を圧縮したものを銃弾の中に詰め込み、黒翼の天使の体内に撃ち込んだ後でその重力を解放する。恐らく、黒翼の天使の身体の質量を超える硫酸が内部で暴発する事になるだろう。

「ええ、っと、その硫酸を私が準備するのですよ、ね?」

 銃弾に詰め込む程度を用意するなら造作もない。そう思っていたナイチンゲールだが、まさかの大量生成する成り行きに困惑顔だ。

「おう、頼むぜ!」

 それに対して滅茶苦茶いい笑顔でサムズアップしながら答える三戸に、彼女は深いため息しか出なかった。

(さて、後はコイツをどうやって撃ち込むか、だな)

 大火力による攻撃は通用する。しかし絶対防御の黒翼に包まれてしまえば元の木阿弥。一撃で消滅させられる火力で攻撃出来ればいいのだが、それほどの火力となると周囲への被害も甚大になるだろう。まさか核ミサイルを撃ち込む訳にもいくまい。

「みんな、飛べたらいいのになぁ……」

 三戸が何の気なしにそう呟いた。黒翼の天使は言うなれば大きな大砲を積んだ戦艦だ。一発の威力は大きいが、それさえ避けてしまえば対空火力という意味ではそれほどでもない。三戸のF-2が堕とされたのは油断もあった。
 大艦巨砲主義が航空機の登場によって廃れていった歴史を、今ここに当てはめられたなあと。三戸はそう考えていた。

「飛べねえ事はねえぜ、ミト様」
「そうだな。能力は制限されるが、出来ない事もない」

 しかし、そんな三戸の悩みを一蹴する言葉が、ブリューナクと青龍から出た。

「は?」
「いやほら、俺達って飛べるだろ?」
「いやマテ。ブリューナクと青龍が飛べるのは知ってる。お前達がジャンヌや関さんを抱えて飛び回るってんじゃないだろうな?」
「あはははは! それはそれで面白いが、違うのですよ、ミト様」

 ブリューナクの発言に、疑わしい顔を向ける三戸だが、それに対して青龍がフォローを入れた。

「私達は通常、主の武具を依り代としていますが、主そのものを依り代とする事が出来るのです」
「それってつまり、憑依するって事か?」
「まあ、似たようなものですね」

 そこで三戸は詳しい説明を求めた。主に能力に制限が掛かる、という部分についてだ。
 そこで返ってきた答えはこうだ。
 例えばブリューナクの場合、投擲武器として自らが火の鳥と化し、敵を焼き尽くす技は使えない。まあ、ジャンヌの中に入っているのだから当然と言えば当然だろう。
 青龍の場合も、樹木を操るという彼女の属性自体が弱くなる。これも宙に浮いていたのでは影響力が弱くなるという事で、納得だ。

「つまり、ジャンヌと関さん自体は飛行能力が付与されるだけでマイナス要素は一切ないって事だよな?」

 二人がコクコクと頷く。それならば希望が出てきた。そこへさらに朗報がもたらされる。

「私はスレイプニル。空を駆ける馬だ」
「私達もおじいちゃんの能力で空に浮ける」

 エクスカリバーとジハード、憑依しなくても主と共に飛べるらしい。 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

【完結】正統王家の管財人 ~王家の宝、管理します~

九條葉月
ファンタジー
王太子の婚約者であったリリーナは政争に巻き込まれ、婚約破棄。30歳以上も年の離れた『オーク公爵』と無理やり結婚させられた。 さらには夫の死後、今度は義理の息子により公爵家から追い出されてしまう。 しかし彼女は持ち前のポジティブさで今後は自由に生きようと決心して……。なぜか、王家の財宝を管理する『管財人』に任命されてしまうのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...