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AD1855
64話 ヘキサゴン大攻防戦⑦
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リチャードの戦車がデーモンクラスの魔物を次々と倒している間にも、関羽とジャンヌの包囲網と、防壁上から援護射撃によって、魔物はその数を加速度的に減らしていた。
関羽と青龍による『樹木の檻』に抗えば切り刻まれるのみ。そしてジャンヌとブリューナクによる炎は、それだけで魔物達を焼き尽くしながらも足場を減らしていく。
双方から追い詰められる魔物は碌に反撃も出来ないまま中央に追いやられ、防壁上から浴びせられる弾丸の餌食となるのみ。八千もの魔物の軍団はついに完全包囲されるに至る。
「もう一息ですねっ!」
防壁上でCIWSの制御をしながら自らも20mm機関砲を撃ち続けていたアンジーが、鼓舞するように叫んだ。銀の美少女の激励に、現地の兵達の指揮は上がる。
「デーモンクラスも残り一体か」
三戸がスコープから目を離し、広くなった視野で戦場を見下ろせば、最後のデーモンクラスに戦車が突進していく様子が見えた。全身ハリネズミ状態から放たれる硬化した土のミサイル(便宜的に三戸はロック・ミサイルと呼ぶことにした)は、密度も威力も衰えること無く多数の魔物を穿ち続けている。
「貴様で最後! 覚悟するのだな!」
リチャードは例によって、エクスカリバーに土を纏わせていく。しかし今までの超長剣とは違い、形状はランスのようだ。しかも、まるでドリルのように回転している。
「十字軍遠征当時にあんなもんあったのか?」
リチャードの『ドリル・ランス』を見た三戸が目を丸くした。切削工具が一般的に使われている自分達ならその発想に至るのは理解できるが……
「まさかです。リチャード様って、思ったよりすごい方なのかも……」
アンジーも三戸同様だ。その発想に脳筋王の評価を上げたようだ。そしてそこにサラディンが進み出て、三戸と並び立ちながら言う。
「ほっほっほ。お主ら、ヤツを見くびりすぎじゃわい。じゃが……」
口調こそ楽し気なサラディンだが、視線は鋭くリチャードを見据えていた。そしてその場にいる三戸やアンジー、ナイチンゲールは彼の言いかけた事が何であるか、正確に理解していた。
ジャンヌと関羽の覚醒に加え、リチャードまでも能力に目覚めたおかげで、今回の防衛戦は一方的な展開にはなっている。しかし敵の戦術は明らかに狡猾になっているし、ジャンヌと関羽は死にかけた。
――自分も早く覚醒しなければならない
サラディンの思いはその一点だろう。
「一つだけ、共通している事があります」
未だ銃撃音が鳴り響く中、よく通るナイチンゲールの声が鼓膜を震わせる。
「ジャンヌも関羽殿も、命を懸けて民を守ろうとしました。今のリチャード陛下も同じでしょう。覚醒を促すには、その思いを強く持つ事が必要なのではないかと思います」
「……なるほどのぅ」
ナイチンゲールの話を聞きながらも、サラディンの視線はリチャードを捉えて離さない。『ドリルランス』を投擲し、避けようとする最後のデーモンクラスの足下を地形操作し、当たる場所へと移動させる。
さらには、胴体に風穴を開けられた魔物にトドメのロックミサイルを雨あられとばかり打ち込み、原型を留めない程に破壊しつくしたリチャードが叫ぶ。
「さあ、そろそろ終わらせるとしようか!」
投擲したドリルランスはリチャードの手に戻り、纏わりついた土が剥がれ落ちる。同時に彼自身を覆っていた土のアーマーも剥がれ落ち、乗っていた戦車も見事な黒馬に姿を変えた。
天に向けて掲げた輝く剣と、赤い天鵞絨の豪華なマント。白地に赤の十字が染め抜かれたサーコート。そんな王たる威厳たっぷりの彼が巨大な黒馬に跨る姿はまさに威風堂々。防壁上の兵からも思わずため息が零れる。
「まるで伝説の聖王の再来だ……」
そんな事を呟く者すらいる。
リチャードが掲げたエクスカリバーを振り下ろした。すると、関羽の樹木の檻とジャンヌの炎の牢獄の内側、すなわち魔物の生き残りが押し込まれた戦域全体が陥没していく。
「さあて、どう料理してやろうかのぅ……んん!?」
陥没させた地の底で怒号を上げている魔物の大群を見下ろしながら思案していたリチャードが、突如変化した状況に思わず身を乗り出した。穴の底の魔物が上げる怒号が、阿鼻叫喚の悲鳴へと変わったのだ。
『くっくっく。してやられたな、リチャードよ』
「ぐぬぬぬぬ! おのれ爺!」
心底可笑しそうに嗤う黒馬エクスカリバーと、心底悔しそうに防壁上のサラディンを見上げるリチャード。やがて穴の底の悲鳴が止んだ時、全ての魔物は圧死していた。
「ふぉふぉふぉふぉ。なに、少々手伝ってやっただけじゃわい。礼には及ばんよ」
ジハードの重力操作の能力で、穴の底の魔物を圧し潰したサラディンが、ジハードを鞘に納めながら笑っていた。まるで悪戯を成功させた少年のように瞳を輝かせながら。
関羽と青龍による『樹木の檻』に抗えば切り刻まれるのみ。そしてジャンヌとブリューナクによる炎は、それだけで魔物達を焼き尽くしながらも足場を減らしていく。
双方から追い詰められる魔物は碌に反撃も出来ないまま中央に追いやられ、防壁上から浴びせられる弾丸の餌食となるのみ。八千もの魔物の軍団はついに完全包囲されるに至る。
「もう一息ですねっ!」
防壁上でCIWSの制御をしながら自らも20mm機関砲を撃ち続けていたアンジーが、鼓舞するように叫んだ。銀の美少女の激励に、現地の兵達の指揮は上がる。
「デーモンクラスも残り一体か」
三戸がスコープから目を離し、広くなった視野で戦場を見下ろせば、最後のデーモンクラスに戦車が突進していく様子が見えた。全身ハリネズミ状態から放たれる硬化した土のミサイル(便宜的に三戸はロック・ミサイルと呼ぶことにした)は、密度も威力も衰えること無く多数の魔物を穿ち続けている。
「貴様で最後! 覚悟するのだな!」
リチャードは例によって、エクスカリバーに土を纏わせていく。しかし今までの超長剣とは違い、形状はランスのようだ。しかも、まるでドリルのように回転している。
「十字軍遠征当時にあんなもんあったのか?」
リチャードの『ドリル・ランス』を見た三戸が目を丸くした。切削工具が一般的に使われている自分達ならその発想に至るのは理解できるが……
「まさかです。リチャード様って、思ったよりすごい方なのかも……」
アンジーも三戸同様だ。その発想に脳筋王の評価を上げたようだ。そしてそこにサラディンが進み出て、三戸と並び立ちながら言う。
「ほっほっほ。お主ら、ヤツを見くびりすぎじゃわい。じゃが……」
口調こそ楽し気なサラディンだが、視線は鋭くリチャードを見据えていた。そしてその場にいる三戸やアンジー、ナイチンゲールは彼の言いかけた事が何であるか、正確に理解していた。
ジャンヌと関羽の覚醒に加え、リチャードまでも能力に目覚めたおかげで、今回の防衛戦は一方的な展開にはなっている。しかし敵の戦術は明らかに狡猾になっているし、ジャンヌと関羽は死にかけた。
――自分も早く覚醒しなければならない
サラディンの思いはその一点だろう。
「一つだけ、共通している事があります」
未だ銃撃音が鳴り響く中、よく通るナイチンゲールの声が鼓膜を震わせる。
「ジャンヌも関羽殿も、命を懸けて民を守ろうとしました。今のリチャード陛下も同じでしょう。覚醒を促すには、その思いを強く持つ事が必要なのではないかと思います」
「……なるほどのぅ」
ナイチンゲールの話を聞きながらも、サラディンの視線はリチャードを捉えて離さない。『ドリルランス』を投擲し、避けようとする最後のデーモンクラスの足下を地形操作し、当たる場所へと移動させる。
さらには、胴体に風穴を開けられた魔物にトドメのロックミサイルを雨あられとばかり打ち込み、原型を留めない程に破壊しつくしたリチャードが叫ぶ。
「さあ、そろそろ終わらせるとしようか!」
投擲したドリルランスはリチャードの手に戻り、纏わりついた土が剥がれ落ちる。同時に彼自身を覆っていた土のアーマーも剥がれ落ち、乗っていた戦車も見事な黒馬に姿を変えた。
天に向けて掲げた輝く剣と、赤い天鵞絨の豪華なマント。白地に赤の十字が染め抜かれたサーコート。そんな王たる威厳たっぷりの彼が巨大な黒馬に跨る姿はまさに威風堂々。防壁上の兵からも思わずため息が零れる。
「まるで伝説の聖王の再来だ……」
そんな事を呟く者すらいる。
リチャードが掲げたエクスカリバーを振り下ろした。すると、関羽の樹木の檻とジャンヌの炎の牢獄の内側、すなわち魔物の生き残りが押し込まれた戦域全体が陥没していく。
「さあて、どう料理してやろうかのぅ……んん!?」
陥没させた地の底で怒号を上げている魔物の大群を見下ろしながら思案していたリチャードが、突如変化した状況に思わず身を乗り出した。穴の底の魔物が上げる怒号が、阿鼻叫喚の悲鳴へと変わったのだ。
『くっくっく。してやられたな、リチャードよ』
「ぐぬぬぬぬ! おのれ爺!」
心底可笑しそうに嗤う黒馬エクスカリバーと、心底悔しそうに防壁上のサラディンを見上げるリチャード。やがて穴の底の悲鳴が止んだ時、全ての魔物は圧死していた。
「ふぉふぉふぉふぉ。なに、少々手伝ってやっただけじゃわい。礼には及ばんよ」
ジハードの重力操作の能力で、穴の底の魔物を圧し潰したサラディンが、ジハードを鞘に納めながら笑っていた。まるで悪戯を成功させた少年のように瞳を輝かせながら。
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