上 下
65 / 151
AD1855

64話 ヘキサゴン大攻防戦⑦

しおりを挟む
 リチャードの戦車チャリオットがデーモンクラスの魔物を次々と倒している間にも、関羽とジャンヌの包囲網と、防壁上から援護射撃によって、魔物はその数を加速度的に減らしていた。
 関羽と青龍による『樹木の檻』に抗えば切り刻まれるのみ。そしてジャンヌとブリューナクによる炎は、それだけで魔物達を焼き尽くしながらも足場を減らしていく。
 双方から追い詰められる魔物は碌に反撃も出来ないまま中央に追いやられ、防壁上から浴びせられる弾丸の餌食となるのみ。八千もの魔物の軍団はついに完全包囲されるに至る。

「もう一息ですねっ!」

 防壁上でCIWSの制御をしながら自らも20mm機関砲を撃ち続けていたアンジーが、鼓舞するように叫んだ。銀の美少女の激励に、現地の兵達の指揮は上がる。
 
「デーモンクラスも残り一体か」

 三戸がスコープから目を離し、広くなった視野で戦場を見下ろせば、最後のデーモンクラスに戦車チャリオットが突進していく様子が見えた。全身ハリネズミ状態から放たれる硬化した土のミサイル(便宜的に三戸はロック・ミサイルと呼ぶことにした)は、密度も威力も衰えること無く多数の魔物を穿ち続けている。

「貴様で最後! 覚悟するのだな!」

 リチャードは例によって、エクスカリバーに土を纏わせていく。しかし今までの超長剣とは違い、形状はランスのようだ。しかも、まるでドリルのように回転している。

「十字軍遠征当時にあんなもんあったのか?」

 リチャードの『ドリル・ランス』を見た三戸が目を丸くした。切削工具が一般的に使われている自分達ならその発想に至るのは理解できるが……

「まさかです。リチャード様って、思ったよりすごい方なのかも……」

 アンジーも三戸同様だ。その発想に脳筋王の評価を上げたようだ。そしてそこにサラディンが進み出て、三戸と並び立ちながら言う。

「ほっほっほ。お主ら、ヤツを見くびりすぎじゃわい。じゃが……」

 口調こそ楽し気なサラディンだが、視線は鋭くリチャードを見据えていた。そしてその場にいる三戸やアンジー、ナイチンゲールは彼の言いかけた事が何であるか、正確に理解していた。
 ジャンヌと関羽の覚醒に加え、リチャードまでも能力に目覚めたおかげで、今回の防衛戦は一方的な展開にはなっている。しかし敵の戦術は明らかに狡猾になっているし、ジャンヌと関羽は死にかけた。

 ――自分も早く覚醒しなければならない

 サラディンの思いはその一点だろう。

「一つだけ、共通している事があります」

 未だ銃撃音が鳴り響く中、よく通るナイチンゲールの声が鼓膜を震わせる。

「ジャンヌも関羽殿も、命を懸けて民を守ろうとしました。今のリチャード陛下も同じでしょう。覚醒を促すには、その思いを強く持つ事が必要なのではないかと思います」
「……なるほどのぅ」

 ナイチンゲールの話を聞きながらも、サラディンの視線はリチャードを捉えて離さない。『ドリルランス』を投擲し、避けようとする最後のデーモンクラスの足下を地形操作し、当たる場所・・・・・へと移動させる。
 さらには、胴体に風穴を開けられた魔物にトドメのロックミサイルを雨あられとばかり打ち込み、原型を留めない程に破壊しつくしたリチャードが叫ぶ。

「さあ、そろそろ終わらせるとしようか!」

 投擲したドリルランスはリチャードの手に戻り、纏わりついた土が剥がれ落ちる。同時に彼自身を覆っていた土のアーマーも剥がれ落ち、乗っていた戦車チャリオットも見事な黒馬に姿を変えた。
 天に向けて掲げた輝く剣と、赤い天鵞絨ビロードの豪華なマント。白地に赤の十字が染め抜かれたサーコート。そんな王たる威厳たっぷりの彼が巨大な黒馬に跨る姿はまさに威風堂々。防壁上の兵からも思わずため息が零れる。

「まるで伝説の聖王の再来だ……」

 そんな事を呟く者すらいる。
 リチャードが掲げたエクスカリバーを振り下ろした。すると、関羽の樹木の檻とジャンヌの炎の牢獄の内側、すなわち魔物の生き残りが押し込まれた戦域全体が陥没していく。

「さあて、どう料理してやろうかのぅ……んん!?」

 陥没させた地の底で怒号を上げている魔物の大群を見下ろしながら思案していたリチャードが、突如変化した状況に思わず身を乗り出した。穴の底の魔物が上げる怒号が、阿鼻叫喚の悲鳴へと変わったのだ。

『くっくっく。してやられたな、リチャードよ』
「ぐぬぬぬぬ! おのれ爺!」

 心底可笑しそうに嗤う黒馬エクスカリバーと、心底悔しそうに防壁上のサラディンを見上げるリチャード。やがて穴の底の悲鳴が止んだ時、全ての魔物は圧死していた。

「ふぉふぉふぉふぉ。なに、少々手伝ってやっただけじゃわい。礼には及ばんよ」

 ジハードの重力操作の能力で、穴の底の魔物を圧し潰したサラディンが、ジハードを鞘に納めながら笑っていた。まるで悪戯を成功させた少年のように瞳を輝かせながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

【完結】正統王家の管財人 ~王家の宝、管理します~

九條葉月
ファンタジー
王太子の婚約者であったリリーナは政争に巻き込まれ、婚約破棄。30歳以上も年の離れた『オーク公爵』と無理やり結婚させられた。 さらには夫の死後、今度は義理の息子により公爵家から追い出されてしまう。 しかし彼女は持ち前のポジティブさで今後は自由に生きようと決心して……。なぜか、王家の財宝を管理する『管財人』に任命されてしまうのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...