上 下
63 / 151
AD1855

62話 ヘキサゴン大攻防戦⑤

しおりを挟む
「まさか馬だったとはな……しかし、相棒とは人型をしておるものだと思ったぞ――いだぃっ!」

 感慨深げにエクスカリバーを撫でようとしたリチャードの左手に、エクスカリバーが噛みついた。

「慣れ慣れしくするのはお前が十全に力を使いこなしてからにするのだな」
「ぐぬぬぬぬ……」
「それから、私は馬ではない。お前が理解しやすいように、この姿になっただけだ」
「ぬ?」

 目の前の馬が、自分は馬ではないと言う。リチャードでなくても首を傾げたくなる話だが、真面目くさった表情(に見える)でエクスカリバーは続けた。

「土の属性を持つ私に、エクスカリバーと名付けたのはまあ正解だ。あの伝説の剣の本質は『守り』にあるのは知っているだろう?」
「うむ。その鞘があれば傷付く事なく、不死身になれるという伝説であったな」
「そうだ。私の土を自在に操る能力は、エクスカリバーの鞘の能力を補完するものだと言っていいだろう」

 何となく分かってはいた。地形操作はこういった防衛戦に真価を発揮する。雑魚相手には無双できても、大物相手には決め手が少ない。大地を割って敵を落とす。あるいは土や岩を硬化させ、形状を変えて攻撃する。はたしてその手段がどこまで通用するか。
 
「だが、私は伝説のエクスカリバーではない。敵を倒す為に作られたもの。お前の気性とてそうだろう? 立場とその能力から受け身に回る場合が多いようだが、本来は突撃して大暴れしたい。そのはずだ」
「……」
「そしてお前の本当の力は、突撃に特化したものなのだ」

 リチャードはエクスカリバーの話を聞きながら、頭の中で考えを纏めていた。
 今まで自分の能力として使っていた地形操作が、自分のものではなかった事。本来の自分の力は突撃に秀でたものである事。エクスカリバーが馬の姿で現れたこと。

「馬……突撃……まさか、余の能力とは騎馬突撃か!?」
「惜しいが違う。戦車チャリオットを知っているか?」
「うむ。すでに廃れて久しいが、馬で車を引き、車から矢を射るアレであろう?」
「そうだ。あとはお前がそのイメージをどこまで昇華させることが出来るか。そうさな……ミト様の車などは中々参考になる」

 三戸の車と聞いて、リチャードは今まで見た車両を思い起こす。高機動車。7tトラック。LAV。ガンタンク……
 どれも突撃というならかなり強そうだ。機銃を撃ちながらの突撃などは戦車チャリオットに通じるものがある。しかし、突撃をぶちかますならば、もっと鋭角的な……そう、船の船首にある衝角ラムのような……


(船首の突き出した部分が衝角。突っ込んで敵船にダメージを与えるのが目的)

「ほう、衝角ラムを思い浮かべたか。中々良いイメージ力をしている」

 文字通りの馬面のエクスカリバーが、口角を吊り上げた。
 また、リチャードは突撃の威力、火力、装甲……様々の状況を思い浮かべ、さらに自分なりの戦車チャリオットをイメージしていく。それそのものが自分の能力であるためか、次々とイメージが湧いてくる。思わず笑みを零すリチャード。

「どうやら固まったようだな。そのイメージを私と共有しろ。媒体はその手にしている『エクスカリバー』だ」

 その言葉を聞いたリチャードは、剣の切っ先を目の前の黒馬に向ける。

「貴様の力と余の力、存分に魔物共に見せつけてやろうぞ!」

 その口は弧を描き、瞳は蘭々と輝いている。

「ふん。失望させるなよ?」

 黒馬エクスカリバーは軽く憎まれ口を叩き、剣の中へと宿っていった。

「ふふ。さて……」

 リチャードを覆っていた土のドームが崩れていく。
 中から現れたリチャードは、姿形こそ変化はないが、纏う気迫というかオーラというか、敵に与えるプレッシャーが段違いになっている。それは防壁上から迎撃を再開していた三戸やアンジーにもすぐに分かった。

「へええ、凄いな」
「どうやらリチャード様も覚醒されたみたいですねっ!」

 三戸は防壁上の兵士達に、味方に当てないように指示をだしつつも、注意深くリチャードの様子を見つめている。
 すると、リチャードの足元に動きが見られた。リチャードの全身を土が覆うように集まっていく。土が硬化して彼のアーマーとなっているかのようだ。しかも、全身に棘があり、その姿はハリネズミを思わせる。

「防御力を上げた? でもそれだけじゃなさそうだが……」

 しかし、三戸が見ている間にも変化は続いていた。リチャードの足下の土がサーフボードのように変化していき、さらにそれが小舟のようになる。その土の小舟の選手には長く鋭く尖った衝角ラムが突き出しており、さらに全方位にリチャードと同じようにハリネズミのような棘がある。しかもご丁寧に、その『小舟』の中央には座席まで形作られており、リチャードはどっかりとそれに跨った。

「では、行くぞ、エクスカリバーよ!」

 リチャードが剣を振りかざす。すると、地形操作の効果なのか、『小舟』が地面を滑りだし、どんどん加速していく。だがそれだけではない。ハリネズミのように突き出した棘がまるでミサイルのように全方向へ発射されるのだ。
 一度に多数の魔物を穿ちながら、縦横無尽に走り回るその姿を見て三戸が呟く。

「ははは。まるで戦車だな。タンクじゃなくてチャリオットの方だがな」

 地形操作を応用した高速移動と、三戸達が持ち込んだ銃にも勝るとも劣らない土を硬化させたミサイル。今まで受けと守りに特化していたリチャードが己を解放した姿だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...