上 下
24 / 151
AD1189

23話 能力の考察

しおりを挟む
 三戸は、死海上空の瘴気の穴から湧き出る魔物を撃ち落としながらも、ドローンから送信されてくる地上組の戦闘の様子をモニタリングしていた。操縦桿を握りながらそんな事をできるのも、アンジーのサポートがあってこそであるが。

「二人とも、エグい能力だな、おい」

 『地形操作』とも言うべきリチャード一世のエクスカリバーと、『重力操作』のサラディンのジハード。これらは一度に多数を相手取るには非常に効力を発揮する。対して、ジャンヌのブリューナクと関羽の青龍偃月刀は、強大な敵単体に対して威力を発揮する能力だ。

「そうですね。私達の戦いは常に多数を相手にしますから、心強いのでは?」

 実を言えば、リチャード一世のエクスカリバーの能力は飛んでいる敵には効果は薄い。サラディンのジハードの方も、動きを阻害するという点では無類の強さを発揮するが、通常使いでの殺傷力という点では疑問が残る。
 詰まるところ、ジャンヌや関羽を含めて、それぞれの能力は一長一短である。しかし、まとまって一本の槍の如く戦えば、それぞれの短所は補える。

「あの二人のコンボ技があってこそ、真価を発揮するような感じだな」
「神様はそれを見越してあの二人をこの場所に?」
「さてな」

 アンジーの問いに答えながら20mm機関砲で魔物を撃ち落とし、操縦桿を倒して次の敵へとターゲットを移す三戸。

「ここに来るか否かは個人の意思だからな。もっとも、能力に関しては神様の介入はあるだろうが」

 道を違えたが、張角の能力にしても使い方を誤らなければ強力なものだった。

(問題は、救世者メサイア同士では効果がない能力のはずが、俺だけ例外な事だ。しかも、人型になれるのもアンジーだけだしな)

 救世者メサイアの持つ『相棒』の特殊能力は、救世者メサイア本体には効果がない。それは張角の時で立証済みだ。このエルサレムに降り立った際、リチャード一世とサラディンが馬鹿正直に一騎打ちなどしようとしていたのも、既にそのことを知っていたからなのかも知れない。
 もちろん、能力が効かなくても武器は武器だ。切られたり突かれたりしたら普通に死ぬだろう。

(ん? 俺は勘違いをしていたか?)

 そこまで考えたところで、三戸は一つの仮説に辿り着いた。『相棒』の特殊能力は無効化するが、武器そのものの性能がなくなる訳ではない。となれば、自分が張角を狙撃したのも純然たるスナイパーライフルの性能であり、アンジーの特殊能力とは言い難い。弾数無限とかいうチートな能力はあるが、それが狙撃に影響を与える事はなかっただろう。

「なるほど。俺のアドバンテージは遠距離攻撃と大火力か。フッ」
「マスター?」

 仮説ではあるにしろ、ひとつの結論に辿り着いた三戸が笑った。

「いや、あの神のヤツ、救世者メサイアの中でも敵に回るヤツがいるって事、見越してたんじゃねえかな?」
「?」

 アンジーがモニターの向こうでキョトンとしている。その可愛らしい表情に、思わず笑みを浮かべてしまう三戸だが、説明を続ける。その間も、操縦桿とトリガーは休みなく働いていた。

「今のところ、近代兵器と呼べるものを使う救世者メサイアとは出会っていないだろ。そうなると、張角みたいに暴走しちまった救世者メサイアを確実に仕留められるのは俺達だけって事だよ」
「なるほど! B29爆撃機に竹槍で突撃しても勝てないって事ですねっ!?」

 古い例えで立場も逆だが、まあそういう事だろうと苦笑しながら頷く三戸。つまり、敵の攻撃範囲外から一方的に狙撃できる三戸に、対処できる者は今の所いないという事だ。

「時代が現代に近付く程、面倒な事になりかねないのは覚悟しとかなきゃな。流石に大戦中の兵器とか出てきたら油断はできないだろ」
「そういった方が、敵に回らねばよいのですが」

 モニターのアンジーは心配顔になっていた。本当によくできたAIだと、三戸は今更ながら感心する。そして、そういう事を言ってフラグを立てるな、と心の中で突っ込みを入れたその時。

「マスター!」
「ああ、ようやくお出ましだな」

 コックピットの中にあっても感じる重苦しい瘴気。赤黒い瘴気が渦巻く穴の中から何者かが飛び出してくる。

「虫……ですか?」
「ああ……ほぼトンボだな」

 出てきたのは巨大なトンボのような魔物だった。ファントムの優に二倍はある。巨大な複眼はトンボそのもだし、細長い体もトンボに酷似している。
 しかし、翅ではなく翼といった方がよいだろうか。昆虫のものより蝙蝠のような、悪魔的な印象がする翼が背中に六枚。六本の足は昆虫というよりは動物に近く、筋肉も発達しているし物も掴めそうな形状だ。

(トンボってことは、スピードは一級品、急加速、急制動、ホバリング、なんでもござれの可能性が高いな。こりゃ厄介だ)

 三戸は生前によく見たトンボの動きから、トンボ型魔物の性能特性を予測する。

「問題は火力だが……」
「マスター! 熱反応!」
「おう!」
 
 考察中にアンジーからの警告。三戸は咄嗟に左に機体を傾けながら降下して躱す。

「なんだありゃ? 魔力ビームか?」
「そのようですね。あの複眼で魔力を収束させ、撃ち出しているようです」
 
 先程まで自分達が飛んでいた場所を、赤黒いビームが通過していった。と言っても、純粋な光学兵器とは違い、物理的に魔力を打ち出しているために、『見えた時には当たっている』といった類のものではない。反射神経と操縦技術で避ける事は可能だと思われる。

「よし、やるか! 相手にとって不足はなさそうだ!」
「はいっ! マスターの愛情を受けてパワーアップしたファントムの力を見せてやりましょう! せきはらぶらぶ「それは違う!」」

 こうして三戸達は、並行世界に来てから初めての、ファントムを操縦しての空中戦に突入した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

【完結】正統王家の管財人 ~王家の宝、管理します~

九條葉月
ファンタジー
王太子の婚約者であったリリーナは政争に巻き込まれ、婚約破棄。30歳以上も年の離れた『オーク公爵』と無理やり結婚させられた。 さらには夫の死後、今度は義理の息子により公爵家から追い出されてしまう。 しかし彼女は持ち前のポジティブさで今後は自由に生きようと決心して……。なぜか、王家の財宝を管理する『管財人』に任命されてしまうのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

物欲センサー発動中?いや、これは当たりかも!

SHO
ファンタジー
地球の表層の裏側に存在するという地下世界《レト・ローラ》 ある日通学途中に起こった地震によって発生した地割れに通勤通学途中の人々が飲み込まれた。飲み込まれた人々はレト・ローラの世界に存在する遺跡へと転移させられてしまう。 状況を飲み込めないまま異形の怪物に襲われる主人公たち。 混乱と恐怖の中で高校生の杏子はクラスメイトのコンタと奇跡的に合流を果たした。 そして2人は宝箱がずらりと並んだ部屋へと迷い込む。その宝箱を開いた時、手にするの希望か絶望か、はたまた安全かトラブルの種か。 凸凹コンビが織りなす恋と魔法とチートアイテムが地底世界を揺るがす一大スペクタクルSFファンタジー!(?) 「俺(あたし)達の明日はどっちですか!?」 王道SFファンタジー突き進みます。テンプレ有り。主人公無双予定。ご都合主義?言わずもがな。 R15は一応保険。 小説家になろうでも公開中 *表紙イラストのコンタとパイナポは巴月のん様より頂きました!

処理中です...