204 / 206
四章
解放
しおりを挟む
僕達は下層へ向かう階段を下っていく。
マザートレントの中を進むような粘っこい抵抗感はないので、どうやらマザートレント自体は消滅したと考えてよさそうだ。
そしてこの先には恐らく、ダンジョンコアがあるのだろう。マザートレントを倒してから、感じる魔力の力が強くなったような気がする。そしてその魔力は闇属性だ。
「やはりダンジョンの中に封印されていたようですね」
ノワールが『同族』の力を感じて、少し嬉しそうだ。
いくつか謎はあるけど、それはダンジョンコアを破壊して、闇精霊を解放した後でだね。
僕等はダンジョンコアを目指して下層へと急いだ。
すでにマザートレントが消滅したせいか、周囲の景色は土中を掘り進むかのようだ。これはマザートレントが根を張っていた跡なのだろう。進むにつれて、洞窟が枝分かれしていく。どちらかと言えばこっちの方がダンジョンっぽいんだけど、さすがに魔物は一切出てこない。
「ねえ、ノワール。この中で実体に戻る事は可能かな?」
ふとした疑問。ここがマザートレントの体内でなく根を張っていた跡の洞窟のようなものなら、別に霊体に拘る必要もないかなって思うんだけど。
「そうですね……少し調べてみましょう。私としてはこのままご主人様と一体化していた方が幸せなのですが」
ノワールが少し残念そうにそう言うけど、僕としてはシェラさんとずっとこの状態なのは少し居心地が悪いというか……
「わ、私は大丈夫ですっ!」
うん、そうは言われてもね。シェラさんはヨシュア君の想い人でもあるし……
「外で待っているアーテル達も穴を見つけたようですが、どうやら入って来れない様子です」
ノワールが外の様子を伝えて来る。
「となると、この空間は実体を持った者は入れないと考えた方が良さそうだね」
「ええ」
そういう事ならと、僕達は霊体化したまま終点と思しき空間へと辿り着いた。大人三人程がなんとか入れる小さな空間だけど、見た感じは特に何もない。
「いえ、ご主人様。これは、酷いですね……壁全周をよくご覧ください」
ノワールにそう言われて目を凝らして内壁全体を見てみる。あくまで便宜上そう説明しているが、意識の中では壁を見ている。
「なんて事だ……」
目を凝らせば、壁全体がキラキラと無数に輝いている。それこそシェラさんの瞳の如く、黒曜の様な輝きだ。満天の夜空に輝く星のようにも見える。
「ショーン様、これは……?」
「この輝きひとつひとつが、闇属性の精霊なんだ。彼等をここに閉じ込めて、マザートレントが延々と魔力を吸収していたんだろう」
シェラさんの問いにそう答える。あくまでも推論だけど、そう的外れでもないだろう。そしてこの精霊達を解放するには、恐らくどこかにあるダンジョンコアを破壊しなければならない。そしてその役目はシェラさんなのだろう。
グリペンのダンジョンコアを破壊したのが、ルークスに導かれたデライラだったように。
その証拠に、シェラさんが壁のある一点を注視している。
「シェラさん」
「ええ、分かっています。私がやるべき事のようですね」
シェラさんが巨人族の盾を構える。鋭い刃が前方に可動した。現実にはそんな機能は無かった筈なので、霊体化した際にノワールが言った、何でも出来るというアレだろう。
武術の心得はない彼女だけど、このダンジョンの中で見本ならイヤという程見てきた。アーテルの正拳突きと似たような構えを見せる。
「えい!」
ちょっと気合が逃げそうな掛け声だったけど、突き自体は腰が入ったいいものだったように思う。巨人族の盾に付属している刃が壁の一部に突き刺さると、そこから蜘蛛の巣状にヒビが入っていき、パラパラと壁が崩れ落ちて行く。
剥がれ落ちていく壁の奥には、巨人族の盾の刃が突き刺さった水晶があった。ルークスが封印されていた時と同じだね。その水晶が破壊された事で、壁で光っていた精霊達が自由を取り戻し、しばらくの間僕達の周囲を飛び回っていた。
――まるで感謝を伝えるかのように。
やがてその精霊達は、まるで自分の主人に畏まるように、ノワールの周囲に集まった。ノワールも精霊達を慈しむように見ていたが、やがて精霊達は散り散りにこの空間から飛び立って行く。本来そうであったように、この世界に闇属性の魔力を拡散する為なんだろうね。
その中で一つだけ、この場に留まった精霊がいる。それはシェラさんの頭の上までふよふよと飛んでいき、彼女の中に入り込んだ。
「ご主人様、精霊の一人がシェラ公女の眷属となる事を望んだのでそのように致しました」
「なるほど」
「す、すごいです! なんだか力が漲ってきます!」
精霊を眷属化したという事は、シェラさんには闇属性の加護も付いたんだろう。今までとは比べ物にならない力が内包されたはずだ。
「世界の闇属性の精霊達は全て私の支配下にあります。その精霊の一人がシェラ公女の眷属になった事は、即ちシェラ公女がご主人様の眷属になったのも同義」
「ええっ!?」
「そうなのですか?」
ちょっと待って下さい。色々と話し合おうか……
マザートレントの中を進むような粘っこい抵抗感はないので、どうやらマザートレント自体は消滅したと考えてよさそうだ。
そしてこの先には恐らく、ダンジョンコアがあるのだろう。マザートレントを倒してから、感じる魔力の力が強くなったような気がする。そしてその魔力は闇属性だ。
「やはりダンジョンの中に封印されていたようですね」
ノワールが『同族』の力を感じて、少し嬉しそうだ。
いくつか謎はあるけど、それはダンジョンコアを破壊して、闇精霊を解放した後でだね。
僕等はダンジョンコアを目指して下層へと急いだ。
すでにマザートレントが消滅したせいか、周囲の景色は土中を掘り進むかのようだ。これはマザートレントが根を張っていた跡なのだろう。進むにつれて、洞窟が枝分かれしていく。どちらかと言えばこっちの方がダンジョンっぽいんだけど、さすがに魔物は一切出てこない。
「ねえ、ノワール。この中で実体に戻る事は可能かな?」
ふとした疑問。ここがマザートレントの体内でなく根を張っていた跡の洞窟のようなものなら、別に霊体に拘る必要もないかなって思うんだけど。
「そうですね……少し調べてみましょう。私としてはこのままご主人様と一体化していた方が幸せなのですが」
ノワールが少し残念そうにそう言うけど、僕としてはシェラさんとずっとこの状態なのは少し居心地が悪いというか……
「わ、私は大丈夫ですっ!」
うん、そうは言われてもね。シェラさんはヨシュア君の想い人でもあるし……
「外で待っているアーテル達も穴を見つけたようですが、どうやら入って来れない様子です」
ノワールが外の様子を伝えて来る。
「となると、この空間は実体を持った者は入れないと考えた方が良さそうだね」
「ええ」
そういう事ならと、僕達は霊体化したまま終点と思しき空間へと辿り着いた。大人三人程がなんとか入れる小さな空間だけど、見た感じは特に何もない。
「いえ、ご主人様。これは、酷いですね……壁全周をよくご覧ください」
ノワールにそう言われて目を凝らして内壁全体を見てみる。あくまで便宜上そう説明しているが、意識の中では壁を見ている。
「なんて事だ……」
目を凝らせば、壁全体がキラキラと無数に輝いている。それこそシェラさんの瞳の如く、黒曜の様な輝きだ。満天の夜空に輝く星のようにも見える。
「ショーン様、これは……?」
「この輝きひとつひとつが、闇属性の精霊なんだ。彼等をここに閉じ込めて、マザートレントが延々と魔力を吸収していたんだろう」
シェラさんの問いにそう答える。あくまでも推論だけど、そう的外れでもないだろう。そしてこの精霊達を解放するには、恐らくどこかにあるダンジョンコアを破壊しなければならない。そしてその役目はシェラさんなのだろう。
グリペンのダンジョンコアを破壊したのが、ルークスに導かれたデライラだったように。
その証拠に、シェラさんが壁のある一点を注視している。
「シェラさん」
「ええ、分かっています。私がやるべき事のようですね」
シェラさんが巨人族の盾を構える。鋭い刃が前方に可動した。現実にはそんな機能は無かった筈なので、霊体化した際にノワールが言った、何でも出来るというアレだろう。
武術の心得はない彼女だけど、このダンジョンの中で見本ならイヤという程見てきた。アーテルの正拳突きと似たような構えを見せる。
「えい!」
ちょっと気合が逃げそうな掛け声だったけど、突き自体は腰が入ったいいものだったように思う。巨人族の盾に付属している刃が壁の一部に突き刺さると、そこから蜘蛛の巣状にヒビが入っていき、パラパラと壁が崩れ落ちて行く。
剥がれ落ちていく壁の奥には、巨人族の盾の刃が突き刺さった水晶があった。ルークスが封印されていた時と同じだね。その水晶が破壊された事で、壁で光っていた精霊達が自由を取り戻し、しばらくの間僕達の周囲を飛び回っていた。
――まるで感謝を伝えるかのように。
やがてその精霊達は、まるで自分の主人に畏まるように、ノワールの周囲に集まった。ノワールも精霊達を慈しむように見ていたが、やがて精霊達は散り散りにこの空間から飛び立って行く。本来そうであったように、この世界に闇属性の魔力を拡散する為なんだろうね。
その中で一つだけ、この場に留まった精霊がいる。それはシェラさんの頭の上までふよふよと飛んでいき、彼女の中に入り込んだ。
「ご主人様、精霊の一人がシェラ公女の眷属となる事を望んだのでそのように致しました」
「なるほど」
「す、すごいです! なんだか力が漲ってきます!」
精霊を眷属化したという事は、シェラさんには闇属性の加護も付いたんだろう。今までとは比べ物にならない力が内包されたはずだ。
「世界の闇属性の精霊達は全て私の支配下にあります。その精霊の一人がシェラ公女の眷属になった事は、即ちシェラ公女がご主人様の眷属になったのも同義」
「ええっ!?」
「そうなのですか?」
ちょっと待って下さい。色々と話し合おうか……
0
お気に入りに追加
2,181
あなたにおすすめの小説
異世界はモフモフチートでモフモフパラダイス!
マイきぃ
ファンタジー
池波柔人は中学2年生。14歳の誕生日を迎える直前に交通事故に遭遇し、モフモフだらけの異世界へと転生してしまった。柔人は転生先で【モフった相手の能力を手に入れることのできる】特殊能力を手に入れた。柔人は、この能力を使ってモフモフハーレムを作ることができるのだろうか!
※主人公が突然モヒカンにされたり(一時的)、毛を刈られる表現があります。苦手な方はご注意ください。
モフモフな時に更新します。(更新不定期)
※この作品はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
カバーイラストのキャラクターは
萌えキャラアバター作成サービス「きゃらふと」で作成しています。
きゃらふとhttp://charaft.com/
背景 つくx2工房
多重投稿有
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
慟哭の時
レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。
各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。
気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。
しかし、母には旅をする理由があった。
そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。
私は一人になったのだ。
誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか……
それから母を探す旅を始める。
誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……?
私にあるのは異常な力だけ。
普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。
だから旅をする。
私を必要としてくれる存在であった母を探すために。
私を愛してくれる人を探すために……
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる