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四章

解放

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 僕達は下層へ向かう階段を下っていく。
 マザートレントの中を進むような粘っこい抵抗感はないので、どうやらマザートレント自体は消滅したと考えてよさそうだ。
 そしてこの先には恐らく、ダンジョンコアがあるのだろう。マザートレントを倒してから、感じる魔力の力が強くなったような気がする。そしてその魔力は闇属性だ。

「やはりダンジョンの中に封印されていたようですね」

 ノワールが『同族』の力を感じて、少し嬉しそうだ。
 いくつか謎はあるけど、それはダンジョンコアを破壊して、闇精霊を解放した後でだね。
僕等はダンジョンコアを目指して下層へと急いだ。

 すでにマザートレントが消滅したせいか、周囲の景色は土中を掘り進むかのようだ。これはマザートレントが根を張っていた跡なのだろう。進むにつれて、洞窟が枝分かれしていく。どちらかと言えばこっちの方がダンジョンっぽいんだけど、さすがに魔物は一切出てこない。

「ねえ、ノワール。この中で実体に戻る事は可能かな?」

 ふとした疑問。ここがマザートレントの体内でなく根を張っていた跡の洞窟のようなものなら、別に霊体に拘る必要もないかなって思うんだけど。

「そうですね……少し調べてみましょう。私としてはこのままご主人様と一体化していた方が幸せなのですが」

 ノワールが少し残念そうにそう言うけど、僕としてはシェラさんとずっとこの状態なのは少し居心地が悪いというか……

「わ、私は大丈夫ですっ!」

 うん、そうは言われてもね。シェラさんはヨシュア君の想い人でもあるし……

「外で待っているアーテル達も穴を見つけたようですが、どうやら入って来れない様子です」

 ノワールが外の様子を伝えて来る。

「となると、この空間は実体を持った者は入れないと考えた方が良さそうだね」
「ええ」

 そういう事ならと、僕達は霊体化したまま終点と思しき空間へと辿り着いた。大人三人程がなんとか入れる小さな空間だけど、見た感じは特に何もない。

「いえ、ご主人様。これは、酷いですね……壁全周をよくご覧ください」

 ノワールにそう言われて目を凝らして内壁全体を見てみる。あくまで便宜上そう説明しているが、意識の中では壁を

「なんて事だ……」

 目を凝らせば、壁全体がキラキラと無数に輝いている。それこそシェラさんの瞳の如く、黒曜の様な輝きだ。満天の夜空に輝く星のようにも見える。

「ショーン様、これは……?」
「この輝きひとつひとつが、闇属性の精霊なんだ。彼等をここに閉じ込めて、マザートレントが延々と魔力を吸収していたんだろう」

 シェラさんの問いにそう答える。あくまでも推論だけど、そう的外れでもないだろう。そしてこの精霊達を解放するには、恐らくどこかにあるダンジョンコアを破壊しなければならない。そしてその役目はシェラさんなのだろう。
 グリペンのダンジョンコアを破壊したのが、ルークスに導かれたデライラだったように。
 その証拠に、シェラさんが壁のある一点を注視している。

「シェラさん」
「ええ、分かっています。私がやるべき事のようですね」

 シェラさんが巨人族の盾を構える。鋭い刃が前方に可動した。現実にはそんな機能は無かった筈なので、霊体化した際にノワールが言った、何でも出来るというアレだろう。
 武術の心得はない彼女だけど、このダンジョンの中で見本ならイヤという程見てきた。アーテルの正拳突きと似たような構えを見せる。

「えい!」

 ちょっと気合が逃げそうな掛け声だったけど、突き自体は腰が入ったいいものだったように思う。巨人族の盾に付属している刃が壁の一部に突き刺さると、そこから蜘蛛の巣状にヒビが入っていき、パラパラと壁が崩れ落ちて行く。
 剥がれ落ちていく壁の奥には、巨人族の盾の刃が突き刺さった水晶があった。ルークスが封印されていた時と同じだね。その水晶が破壊された事で、壁で光っていた精霊達が自由を取り戻し、しばらくの間僕達の周囲を飛び回っていた。
 ――まるで感謝を伝えるかのように。

 やがてその精霊達は、まるで自分の主人に畏まるように、ノワールの周囲に集まった。ノワールも精霊達を慈しむように見ていたが、やがて精霊達は散り散りにこの空間から飛び立って行く。本来そうであったように、この世界に闇属性の魔力を拡散する為なんだろうね。
 
 その中で一つだけ、この場に留まった精霊がいる。それはシェラさんの頭の上までふよふよと飛んでいき、彼女の中に入り込んだ。

「ご主人様、精霊の一人がシェラ公女の眷属となる事を望んだのでそのように致しました」
「なるほど」
「す、すごいです! なんだか力が漲ってきます!」

 精霊を眷属化したという事は、シェラさんには闇属性の加護も付いたんだろう。今までとは比べ物にならない力が内包されたはずだ。

「世界の闇属性の精霊達は全て私の支配下にあります。その精霊の一人がシェラ公女の眷属になった事は、即ちシェラ公女がご主人様の眷属になったのも同義」
「ええっ!?」
「そうなのですか?」

 ちょっと待って下さい。色々と話し合おうか……
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