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四章

厄介なダンジョン

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 僕達はオークの群れを個々に相手取った。シェラさんに一対一の状況を作り出す為だ。それぞれオークを生かさず殺さずで足止めしている間に、一体のオークがシェラさんに向かう。

行動阻害バインド!」

 全身の動きを遅くするよりも、まずは下半身を完全に止める事にしたらしい。オークの足が黒く染まり、完全に止まった。まずはオークの巨体を全身一気に動けなくする事は出来ないようだ。

行動阻害バインド!」

 そして足を止められたオークに二度目のバインド。今度こそオークの巨体が全身黒く染まり、全く動けなくなった。

「やああ!」

 巨人族の盾を両手に構え、動けないオークに疾走。自らの身体強化と僕のバフで、その速度は今日が初めての戦闘とは思えないほど。盾から突き出ている鋭い刃がギラリと輝き、オークの首を斬り落とした。
 それを見て安心した僕達は、それぞれ相手にしていたオークを手早く片付ける。そしてシェラさんの下へと集まった。

「お見事でしたね」
「冷静な判断だったし、出来る事を最良の形で発揮したと思うよ」

 僕とヨシュア君が称賛すると、シェラさんは少しはにかみながら言った。

「ノワール様に押し付けられた、あの大きな虫の魔物と比べれば、オークなどただ大きい豚にしか見えませんわ」

 ノワールが彼女に戦わせた虫の魔物は大きなバッタみたいな感じだった。その複眼には死角が殆どないと言われており、その跳躍力は想像を絶する距離を縮めて来る。武器は触覚を槍のように突き出してくるか、口での噛みつきくらいなものだが、人の背丈ほどもあるバッタというだけで、なんだか戦意がそがれてしまう。

「しかもあのバッタ、全身毛だらけだなんて、おぞましい……」

 その姿を思い出したのか、シェラさんが両手で自分の身体を抱きしめる。確かのあの姿で獲物を捕食している姿なんかを見たら、激しく精神防御力が削られる事請け合いだ。

「あ、その毛むくじゃらバッタですね。行きましょうか」

 そしてまた、ノワールがあの魔物を捕捉したらしい。

「え? イヤ、イヤですぅ~~」

 ははは。無理矢理連れて行かれるシェラさんを苦笑いで見送る。おそらくノワールはわざと探し当てたんだろう。他にも魔物はいるはずだもの。

△▼△

 酷く嫌がってはいても、バッタの攻撃は所詮突きと噛みつきという単純なものだ。しっかりと見極めれば苦戦するような相手ではなかった。直線的な動きを難なく躱し、擦れ違いざまに斬る。これだけだ。
 慣れてしまえばシェラさんにも難しい相手ではなく、その後も敵をバインドで動けなくして倒す。そういうスタイルが確立してきた。

「ご主人様」
「ん? なんだい?」
「段々索敵の範囲が狭くなってきています」

 ノワールの報告に少し考えてみる。
 彼女の能力が阻害されていて、さらにそのジャミングが強力になっているならば、それはこのダンジョンの中心に向かっているという事ではないだろうか?
 ノワールのように索敵能力を持つ人ならば、同じように能力が阻害されているかも知れない。そしてそれは魔物の不意打ちに対応出来なくなる事を意味する為、非常に危険だ。

「ダンジョンの攻略が進まない訳だ」

 ダンジョンとは言っても、結局は雑木林の中だ。マッピングしようにも四方に広がる似たような景色。入り込んでしまえば帰り道も分からなくなるだろう。想像以上に恐ろしい場所である事を再認識する。

「魔物の強さは大した事はないのだが、普通の人間には難しいダンジョンではあるな」

 僕の言葉にアーテルが返してくる。奥まで入り込むならば、一度のアタックでダンジョンボスを倒し、コアを破壊するつもりじゃなければ迷って戻って来られなくなる。そういうダンジョンだ。

「今まで遭遇したのはゴブリン、コボルト、オークにバッタ。エレキテルバッファロー。一番厄介なのはトレントだったね。確かにトレントにさえ気を付ければ、アイアンランクのパーティなら比較的安全に戦える。でもそこに慢心してはダンジョンから戻れなくなるって事か」

 そう、ヨシュア君の言う通り。僕の影収納には一か月だろうが一年だろうが持久戦も可能な物資を蓄えているけど、普通のパーティじゃそうはいかないからね。

「どうなさいますか? このままジャミングが強い方角に行けば、逆にダンジョンボスに辿り着く事も出来るかと思いますが」

 そうか、なるほど。その分魔物が突然ポップしてきた場合の対処に気を付けなければならないけど、行ってみようか。

「よし、それで行こう。ヨシュア君はシェラさんから離れないで。功を焦ったりしないようにね」
「う、分かった」

 エレキテルバッファローの時、飛び出してしまったヨシュア君にちょっとした小言を付け加え、ノワールとアーテルにも声を掛ける。

「この先は遠慮しないで行くよ!」
「承知しました」
「よし! 暴れてやろう!」

 ノワールはともかく、アーテルは結構我慢していたようだ。嬉しそうだもん。
 そうして僕達は、ジャミングが強い方向を目指してダンジョンを進んだ。
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