上 下
181 / 206
四章

うっかり忘れてました

しおりを挟む
 その後、僕は冒険者とはどういうものか、シェラ公女やヨシュア君に説明したり、本当に命懸けの危険な職業である事を口酸っぱく説明した。
 命懸けという意味では兵士や官憲なんかもそうだろうけど、常に危険に晒されているかと言えば必ずしもそうじゃない。
 だけど冒険者は、日々の糧を得る為に魔物や猛獣と戦う事が日常なんだよね。訓練ばかりの軍隊よりも危険と隣り合わせだとさえ思っている。
 もちろん簡単に比較できるようなものじゃないって事は分かっているけどね。
 その後招待されていた晩餐に参加し、ドラケン家の重臣の皆さんに紹介された。立食形式の堅苦しいものではなかったのでこちらは大助かりだし、アーテルも好きなだけ食べられるので彼女も大喜び。
 ただ、ノワールに対してだけはどこか余所余所しい感じは否めなかった。それでも、僕等のパーティがハンセン村を救い、さらにザフト公爵の企みを事前に潰しておいた事を知らされていたためか、概ね家臣達は好意的だったよ。
 僕もプラチナランカーという事でそれほど見下される事も無かったし、ヨシュア君に至ってはドラケン家と同格の二候家の公子という事で、随分と歓待されていた。
 そんな時、僕のところへシェラ公女が近付いてきた。お付きの侍女が一人付き添っている。

「晩餐が終わったら、父上に会っていただけないでしょうか?」

 ふむ。ヨシュア君ではなく僕が?

「我がドラケンは光のグリペンと対を成す闇を司ると言われた家柄。ヨシュア公子とはまだ別途お話をする機会もあるでしょうが、ショーン殿とは今日がベストのタイミングと思います」
「なるほどです。分かりました。侯爵閣下とお会いさせていただきます。シェラ様はヨシュア君とお話されましたか?」

 僕がヨシュア君の名前を出した途端、シェラ公女はモジモジしてしまった。ヴェールのお陰で表情は見えないけど、やっぱりさっきの突然のプロポーズが効いているみたいだね。

「彼の一番の目的は、クリーム色の髪、褐色の肌、黒曜のような瞳を持つ美少女を探す事だったんですよ。お話だけでも聞いてあげて下さいね」
「は、はあ……困りました。初めての事なので」

 まあ、恋愛の事は僕が出る幕じゃないのでね、ヨシュア君頑張れとしか言えない。でも二人の縁が結ばれれば最高の結果になるだろうね。二候家の繋がりの強化は他の四伯家にも影響を及ぼすだろうし。

「ところでシェラ様、肌の色の事はこの先どうなさるのですか?」

 僕は周囲に聞こえないよう、小声で公女に訊ねた。ドラケン侯爵にもしもの事があれば、彼女もずっとこのまま隠したままというのは難しいんじゃないだろうか?

「それは……ダンジョンで力を付けて、周囲を黙らせる程の力を……」

 なるほど。でも肝心のダンジョンに行くという事のハードルが高い。今シェラ公女を失えば、ドラケン侯爵家は跡継ぎもいないし、国内の内乱どころかお家騒動にもなりかねない。簡単にはいかないだろうね。
 せめて侯爵が万全の状態なら……

「ねえノワール、王都からルークスだけを連れて来るのって、どれだけ掛かるかな?」
「私とルークスの二人だけなら、小一時間程もあれば大丈夫かと」

 こうなったらドラケン侯爵には健康になっていただこう。ノワールの時空を操る力でも病気を無かった事には出来るだろうけど、周囲や侯爵自身に間違った認識を与えたくない。それにはルークスかグランツの癒しの力を使ってもらうのが一番だ。
 でもグランツがシェラ公女のお尻を撫でたりなんかしたら、ヨシュア君が暴れる未来しか見えないからね。

「じゃあ悪いけど、事情を話してルークスを連れて来てくれるかな?」
「ルークスだけでよろしいのですか?」
「ああ、デライラとグランツはレベッカ陛下の近くにいた方がいいだろう?」
「そうですね。では至急連れて参ります」

 そう言ってノワールはズブズブと影の中に沈み込んでしまった。今頃は影泳ぎで遥か彼方だろう。それにしても、王都まで往復で小一時間とは、僕達がいかに彼女のお荷物になっているかって話だよね。

「侯爵閣下とお会いする前に、少しばかりお時間をいただけますか――? シェラ様?」
「……」
「シェラ様?」
「……はっ!?」

 シェラ公女に向き直って話しかけたのに、彼女が全く反応しない。再び呼びかけて漸く我に返ったみたいだ。

「す、すみません。あの、彼女は?」
「ノワールですか? 僕のパーティメンバーで、ゴールドランカーです」
「いや、そうではなくてですね!」

 あれ?
 僕、大事な事を言ってなかった?

「ああ、ノワールは僕が封印から解き放った闇の大精霊です。まったくの偶然だったんですけどね」
「や、闇の大精霊様!?」
「ええ。あと向こうでご機嫌に料理をかっ食らっているのがアーテル。あんなお色気美人の姿ですけど、実はミスティウルフ――古の神狼です」
「古の神狼様……」

 それっきりシェラ公女はへたり込んでしまった。
 ちょっとショックが強すぎただろうか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

赤子に拾われた神の武器

ウサギ卿
ファンタジー
神が人々の救済の為に創られた武器、オリハルコン。 それは世界の危機、種族の危機の度に天より人々の元へと遣わされた。 神の武器は持つ者によりあらゆる武器へと姿を変えた。 持つ者は神の力の一端を貸し与えられた。 そして持つ者の不幸を視続けてきた。 ある夜、神の武器は地へと放たれる。 そして赤子に触れて形を成した。 武器ではなくヒトの姿に。 「・・・そうか、汝が・・・求めたのだな?・・・母を」 そうしてヒトとなった神の武器と赤子の旅が始まった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 9/25 サブタイトルを付けました。 10/16 最近これはダークファンタジーに分類されるような気がしています。 コミカル風な。 10/19 内容紹介を変更しました。 7/12 サブタイトルを外しました 長々と文章を綴るのは初めてで、読みにくい点多々あると思います。 長期連載漫画のように、初期の下手な絵から上手な絵になれたら嬉しいですね。 分類するのであれば多分ほのぼの、ではありますが、走っている子供がコケて膝小僧を擦りむいて指を差しながら「みて!コケた!痛い!血でた!ハハハ」みたいなほのぼのだと思います。 ・・・違うかもしれません。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~

ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。 あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。 現れた女神は言う。 「あなたは、異世界に飛んできました」 ……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。 帰還の方法がないことを知り、女神に願う。 ……分かりました。私はこの世界で生きていきます。 でも、戦いたくないからチカラとかいらない。 『どうせなら便利に楽させて!』 実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。 便利に生きるためなら自重しない。 令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!! 「あなたのお役に立てましたか?」 「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」 ※R15は保険です。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。

処理中です...