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四章
方針決定
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「それで、何か変わった事はあったかい?」
今日のノワールはザフト領の領都、ザフティバーグまで足を延ばしている。つまり敵の首領の一人のお膝元を調べてきた訳だ。
「はい。全く平穏そのものですね、表向きは」
「へえ、表向き、か」
「ザフト公爵直属の戦力は、特に王都に対しての動きは見せていません」
「ふむ……」
それは意外。女王陛下が光の属性を手に入れた今、時間を置くより速攻で揺さぶりをかけるものかと思っていたのだけれど。特に他のノルデン、シュッドの二つの公爵家と連携すれば、若い女王を支える者も少ない今が好機。
時間を置けば置く程女王の勢力は増すと思う。実際、この僅かな間にオスト家のヴィルベルヴィント様は全快し、オスト公爵本人は王都に常駐出来るようになった。そして中小貴族を抑え込んでいる。
「ただ、あくまでも王都に向けては動きを見せていないだけで、戦力を充実させる動きは見せていますし、何よりも寄子の貴族の動きが活発です」
「寄子の?」
公爵領ともなれば、各地に子爵位や男爵位の貴族が領地を預けられているだろう。それは領内に代官として派遣されていたり、飛び地の領地を任せていたり様々だとは思うけど。その貴族達の動きが活発とは。
「それは大貴族の常套手段と言うかね」
そこへアーテルに一矢報いる事が出来ずにしょぼくれていたヨシュア君が復活して戻ってきた。アーテルもその後を付いて来る。
「やあ、お疲れ様。それで、常套手段とは?」
「なに、そんなに難しい事じゃない。多分、背後のドラケン侯爵への牽制だと思うよ? 自分の兵力は温存して、寄子や同盟貴族の戦力を消耗させて反乱を防ぎつつ、敵にもダメージを与える。よくある話さ」
味方や配下も自分に牙を剥く可能性がある以上、想定以上の戦力を持たせないって訳だね。何とも腹黒い話だ。
「二候四伯家の一角、ドラケン侯爵と言えども、正面切ってザフトのような強大な貴族と争うのは分が悪い。私の父上はオスト公との仲が良好だからそういう事にはならなかったけど、ザフトは王都とドラケンに挟まれた格好だ。ドラケンに睨みを利かせる必要はあるだろうね」
ヨシュア君にしてみれば至極当然といった感じだ。
でも、それなら……
「そのザフトの寄子の貴族共を、無力化してしまえばいいのではないか?」
なんだろう? すごくワクワクした顔でアーテルが言うんだ。もう獲物を見つけたみたいな感じになってるよ。
「実際問題、アーテル様の仰ることは非常に良い案だよ。ザフトの力を削ぐと同時に、ドラケンに恩を売る事も出来る」
「そっか。後方の備えを排除した上でドラケン侯爵が動く気配を見せるだけで、ザフト公爵は領地に釘付けにされちゃうって事だね」
「そう、ショーン君の言う通り。何も直接大軍勢をぶつけ合うだけが戦争じゃないのさ」
さすがヨシュア君、貴族っていうのも難しいんだね。僕等は戦場で生き残る事だけを考えていればいいけど、人の上に立つというのは本当に視野を広く持たなくちゃいけない。
でもそれは僕が考える事じゃないんだから、僕等としては人々を導く人間が有能である事を願うばかりだ。
「それよりも先に、ドラケン侯爵が敵か味方かを見極めるためにも、先に接触した方がいいのかな?」
「いや、ザフト公爵の配下がドラケン領に対して警戒をしている事の裏を取るのが先だろうね。そうなれば、寄子の貴族の首を持ってドラケン侯爵に土産として渡せばいい」
「ご主人様、ヨシュア君の案は効果的かと。わずかこの人数でザフト公配下の貴族共を手土産に持って行ったとなれば、ご主人様の武威も跳ね上がります。ドラケン侯爵も聞く耳を持たざるを得ないでしょう」
そっか。ヨシュア君に加えてノワールまでそう言うなら、何やら確信めいたものがあるな。でもさ。
「え? この人数でやるの?」
ヨシュア君が素っ頓狂な声を上げる。
「ヨシュア君。他に誰がいるんです?」
「いや、それはそうなんだけど……」
ノワールにジト目で見られ、ヨシュア君がしぼんでいく。
「まあ、そんなに心配するな。その、寄子の貴族共の軍が集結する前なら数百程度の戦力だろう? 各個撃破していけば良いのだ。いや、敢えて集結させて纏まった数を屠った方が効果的か?」
アーテルが脳筋な発言をしてヨシュア君をさらに驚かせる。でも彼女の言う事は全く不可能じゃないんだよね。今までは闇に紛れて奇襲をかけるのが一番僕らしい戦い方だったけど、『ブーメラン』がくれたヒントのお陰で魔法の大量ストックというとんでもないチートを手に入れた。
「僕一人で数百人分以上の魔法使いの戦力がある。面制圧なら数千程度の相手、敗走させるのは簡単だよ、ヨシュア君」
魔法に対して何等かの手を打っている者もいるかも知れないけど、それならそれで直接倒せば問題ない。プラチナランカークラスのバケモノでもいない限り、僕達が人間に負けるビジョンが思い浮かばないよ。
「よし、取り敢えず方針は決まったね。じゃあ僕は特大のヤツをストックするから、みんなは自由に過ごしてて?」
「うむ、ではヨシュア君、また我とやろうではないか?」
「へ?」
「あら、是非私も混ぜて欲しいのだけれど?」
「ええ?」
「「ヨシュア君、二対一で」」
「……」
大変だね、ヨシュア君。ノワールとアーテルを相手にだなんて。頑張って生き伸びてくれ。
今日のノワールはザフト領の領都、ザフティバーグまで足を延ばしている。つまり敵の首領の一人のお膝元を調べてきた訳だ。
「はい。全く平穏そのものですね、表向きは」
「へえ、表向き、か」
「ザフト公爵直属の戦力は、特に王都に対しての動きは見せていません」
「ふむ……」
それは意外。女王陛下が光の属性を手に入れた今、時間を置くより速攻で揺さぶりをかけるものかと思っていたのだけれど。特に他のノルデン、シュッドの二つの公爵家と連携すれば、若い女王を支える者も少ない今が好機。
時間を置けば置く程女王の勢力は増すと思う。実際、この僅かな間にオスト家のヴィルベルヴィント様は全快し、オスト公爵本人は王都に常駐出来るようになった。そして中小貴族を抑え込んでいる。
「ただ、あくまでも王都に向けては動きを見せていないだけで、戦力を充実させる動きは見せていますし、何よりも寄子の貴族の動きが活発です」
「寄子の?」
公爵領ともなれば、各地に子爵位や男爵位の貴族が領地を預けられているだろう。それは領内に代官として派遣されていたり、飛び地の領地を任せていたり様々だとは思うけど。その貴族達の動きが活発とは。
「それは大貴族の常套手段と言うかね」
そこへアーテルに一矢報いる事が出来ずにしょぼくれていたヨシュア君が復活して戻ってきた。アーテルもその後を付いて来る。
「やあ、お疲れ様。それで、常套手段とは?」
「なに、そんなに難しい事じゃない。多分、背後のドラケン侯爵への牽制だと思うよ? 自分の兵力は温存して、寄子や同盟貴族の戦力を消耗させて反乱を防ぎつつ、敵にもダメージを与える。よくある話さ」
味方や配下も自分に牙を剥く可能性がある以上、想定以上の戦力を持たせないって訳だね。何とも腹黒い話だ。
「二候四伯家の一角、ドラケン侯爵と言えども、正面切ってザフトのような強大な貴族と争うのは分が悪い。私の父上はオスト公との仲が良好だからそういう事にはならなかったけど、ザフトは王都とドラケンに挟まれた格好だ。ドラケンに睨みを利かせる必要はあるだろうね」
ヨシュア君にしてみれば至極当然といった感じだ。
でも、それなら……
「そのザフトの寄子の貴族共を、無力化してしまえばいいのではないか?」
なんだろう? すごくワクワクした顔でアーテルが言うんだ。もう獲物を見つけたみたいな感じになってるよ。
「実際問題、アーテル様の仰ることは非常に良い案だよ。ザフトの力を削ぐと同時に、ドラケンに恩を売る事も出来る」
「そっか。後方の備えを排除した上でドラケン侯爵が動く気配を見せるだけで、ザフト公爵は領地に釘付けにされちゃうって事だね」
「そう、ショーン君の言う通り。何も直接大軍勢をぶつけ合うだけが戦争じゃないのさ」
さすがヨシュア君、貴族っていうのも難しいんだね。僕等は戦場で生き残る事だけを考えていればいいけど、人の上に立つというのは本当に視野を広く持たなくちゃいけない。
でもそれは僕が考える事じゃないんだから、僕等としては人々を導く人間が有能である事を願うばかりだ。
「それよりも先に、ドラケン侯爵が敵か味方かを見極めるためにも、先に接触した方がいいのかな?」
「いや、ザフト公爵の配下がドラケン領に対して警戒をしている事の裏を取るのが先だろうね。そうなれば、寄子の貴族の首を持ってドラケン侯爵に土産として渡せばいい」
「ご主人様、ヨシュア君の案は効果的かと。わずかこの人数でザフト公配下の貴族共を手土産に持って行ったとなれば、ご主人様の武威も跳ね上がります。ドラケン侯爵も聞く耳を持たざるを得ないでしょう」
そっか。ヨシュア君に加えてノワールまでそう言うなら、何やら確信めいたものがあるな。でもさ。
「え? この人数でやるの?」
ヨシュア君が素っ頓狂な声を上げる。
「ヨシュア君。他に誰がいるんです?」
「いや、それはそうなんだけど……」
ノワールにジト目で見られ、ヨシュア君がしぼんでいく。
「まあ、そんなに心配するな。その、寄子の貴族共の軍が集結する前なら数百程度の戦力だろう? 各個撃破していけば良いのだ。いや、敢えて集結させて纏まった数を屠った方が効果的か?」
アーテルが脳筋な発言をしてヨシュア君をさらに驚かせる。でも彼女の言う事は全く不可能じゃないんだよね。今までは闇に紛れて奇襲をかけるのが一番僕らしい戦い方だったけど、『ブーメラン』がくれたヒントのお陰で魔法の大量ストックというとんでもないチートを手に入れた。
「僕一人で数百人分以上の魔法使いの戦力がある。面制圧なら数千程度の相手、敗走させるのは簡単だよ、ヨシュア君」
魔法に対して何等かの手を打っている者もいるかも知れないけど、それならそれで直接倒せば問題ない。プラチナランカークラスのバケモノでもいない限り、僕達が人間に負けるビジョンが思い浮かばないよ。
「よし、取り敢えず方針は決まったね。じゃあ僕は特大のヤツをストックするから、みんなは自由に過ごしてて?」
「うむ、ではヨシュア君、また我とやろうではないか?」
「へ?」
「あら、是非私も混ぜて欲しいのだけれど?」
「ええ?」
「「ヨシュア君、二対一で」」
「……」
大変だね、ヨシュア君。ノワールとアーテルを相手にだなんて。頑張って生き伸びてくれ。
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