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四章

ヨシュア君、成果あり

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「うっ!?」
「ぐぅ……」

 ノワールが指定した座標まで影泳ぎで移動し、浮上する。そこは人気のない森の中。
 影から出た途端、途轍もない疲労感が身体を襲ってくる。どっと疲れが襲ってきた僕は地面に座り込み、ヨシュア君に至っては地面に大の字だ。

「なるほど、こういう事か。ねえノワール、僕達は表の時間換算でどれくらいアーテルにしごかれていたんだい?」
「うーん……三日間といったところでしょうか? ちなみにここは王都から二日間ほどの距離にある、ザフト領内の村外れの森です」

 アーテルとの模擬戦は体感で三十分とか、そんな感じだったのに、実際は三日間もほぼ不眠不休で戦っていた事になる。そりゃあ疲れる訳だし、身体に対する負担も相当なものになるよなぁ。

「今日はこのまま休まれますか?」
「そうだな、それがいい。何をするにも回復を待たねばな」

 僕等を気遣うようなノワールの発言と、僕等をこんなにしたアーテルの苦笑。でも確かに彼女達の言う通りではある。森の中という事はザフト公爵の手の者に発見されにくい反面、魔物の襲撃は受けやすい。ノワールとアーテルがいれば滅多な事はおきないだろうけど、それでも万が一という事もあるだろう。

「そうだね。そうさせてもらおうかな」
「うむ、では主人達はゆっくり休むが良い。安全は任されよ」
「ああ、頼む」

 アーテルとそんなやりとりをした後、ノワールが何かの魔法を使ったようだ。僕達の周囲が闇に包まれる。

「隠蔽の魔法です。ここの存在を周囲から認識されにくくしておきました。どうぞ安心してお休み下さいね」

 ノワールが優しくそう言うと、ウサギの姿になって寄り添ってきた。そしてアーテルも巨大なミスティウルフの姿になり、僕の背中の方で横たわる。僕もそのままアーテルに寄り掛かり、もふもふに包まれて眠りに落ちた。
 ヨシュア君? 彼は大の字になったまま爆睡しちゃったよ。




 どれくらい眠っただろうか? 森の中は基本的に薄暗く、目覚めた後の感覚が掴み辛い。朝方なのか夕方なのか。

「おお、目覚めたか、主人。まだ夕刻だが、どうする?」

 アーテルが静かに声を掛けてくれる。夕刻という事は、眠っていたのは二、三時間というところだろうか。お昼寝程度ではあるけれど、熟睡したせいか身体の疲労は抜けている。
 いつの間にか僕のお腹の上で気持ち良さそうに箱座りのポーズでふっくらしているノワールをそっとどけ、ゆっくりと立ち上がる。屈伸をしたり上体を左右に回したり、肩をぐるぐる回してみたり。

「うん、いい感じだね。少しだけど前より魔力の容量も増えている気がする」

 魔力も持久力や心肺能力と同じだ。鍛えれば体内に宿す魔力量も増える。影の中の模擬戦では、絶えず魔法のストックを作り、身体強化に魔力を注ぎ込んだ。相当量の魔力を消費したはずなので、その分の成果は出ているという事か。
 それは筋力や身体そのものの耐久力にも言える事で、素の状態での身体のスペックも上がっていくだろう。そうすると、影の中での訓練時間もより多く取れる事になるんじゃないかな。


 そういう感じで、僕達は影の中で修行をしながら、その時間はノワールの偵察や情報集に割り当て、影泳ぎで距離を稼ぐという繰り返しを数日間。

「フッ!」

 短く息を吐いたアーテルが飛び蹴りを放つ。それをヨシュア君が逆風の盾を構えて迎え撃つ。

「あああっ!」

 アーテルの蹴りにタイミングを合わせ、気合と共に逆風の盾を突き出すヨシュア君。

「ぬぅっ!?」

 逆風の盾がキラリと光り、蹴り込んだアーテルを押し戻した。目には見えないけど、強烈な勢いで蹴りを放ったアーテルを押し戻す程の逆風が、盾から放たれたんだろう。
 アーテルは押し返された反動を利用して、そのままバック宙返りで着地して身構えるが。ヨシュア君もすかさず追撃を掛けている。

「てえええいっ!」

 ヨシュア君はそのままシールドバッシュに持ち込む。しかしアーテルもそれは読んでいたようで、跳躍してヨシュア君の頭上を取った。
 ヨシュア君はそれも織り込み済みなのか、天に向けて剣を突き上げる。

「ふっ、やるな。中々の上達ぶりだ」
「なっ!?」

 読み合いではヨシュア君の勝ちだったね。でもアーテルは役者が違った。
 なんと彼女は、ヨシュア君の切っ先を右手の親指と人差し指の二本で挟み、そのまま倒立する格好でとどまっていた。

「普通のヤツならその前のシールドバッシュで決まっていたかも知れん。あわよくば跳躍で避けても待っているのは串刺しだ。見事だったぞ」

 剣の切っ先の上で倒立するというポーズを解き、着地したアーテルの言葉はほぼ満点評価じゃないかな? ヨシュア君の方はあんまり納得してないみたいだけど。

「今まで痛めつけられた分、一発くらい入れたかったんですが」
「まあ、そう高望みするな。我に一発入れるのなら、人間を辞めてもらわねばな」

 そう言ってアーテルが僕を見る。いや、僕は人間ですけど?
 いや……こうやって観戦しながら魔法のストックを作り続けている僕も、ある意味人間の範疇から抜け出しているのかも知れない。四大属性の中小規模の魔法も、かれこれ一万発はストックしてある。これを一度に放出したら、まあ、それは人間業とは言えない破壊力だろうからね。

「戻りました、ご主人様」

 ちょうどその時、ノワールが先行偵察から帰還した。さて、目ぼしい情報はあるかな?
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