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四章
ヨシュア君、ちょっと脅される
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その晩僕達はマシューさんの家にご厄介になった。
親子二人で暮らすには少々持て余し気味な二階建ての立派な屋敷で、リンちゃんの是非にというお誘いに甘えた感じだね。
みんなで食事を楽しみ、お風呂で旅の垢を落とす。もちろん男女で時間は分けたよ? それでもリンちゃんはノワール、アーテルと一緒の時間を過ごせてご満悦のようだった。
「正直、こんな大きな屋敷はいらなかったんですが、商会長としての面子もあるからと、タッカー様に半ば強引に押し付けられまして」
マシューさんはそう言って苦笑していた。何しろ浴場が大きい。頑張れば五、六人くらいは一緒に入れるんじゃないかな? 一般家庭としてはかなり大きめな屋敷なので、使用人も常駐していると言うから、もう一端の商会長だ。
ブンドルの影響力を排除したあと、停滞する可能性もあった経済の動きを再び活発にする事。そのあたりを、王都での商いの経験があるマシューさんの手腕に期待する所もあったんだろうね。
「皆様の旅のご無事を祈っております。どうかお気を付けて」
「おにいちゃん、おねえちゃん、またきてね?」
翌朝、街の門まで出張って来たマシューさん親子に見送られ、僕達はポーバーグを後にする。そして街道を西に向かって進み、ポーバーグが見えなくなった所で街道から外れて人目に付かない場所を選ぶ。
さて、そろそろ影泳ぎの秘密、というか闇魔法の空間操作についてヨシュア君に説明しなくちゃね。
「ヨシュア君。のんびり歩いて旅路の景色を楽しんだりするのも醍醐味の一つだとは思うんですが、残念ながらそんな悠長な事を言っていられる場合ではなくなりました」
「うん。そうだね」
「これから僕が言う事、する事、見せる事は他言無用です」
「うん?」
これから何が始まるのか、今一つ飲み込めずにヨシュア君は怪訝な表情で首を傾げた。
「グリペン家にいたのなら、光と闇の属性の事はご存知かと思います」
「まあ、それは」
「では具体的な能力については?」
「殆ど知らないね。ご先祖様の光の宝剣に関する伝説くらいさ」
光の宝剣の能力は、切れ味とか所有者の能力アップとかがある他に、癒しや鼓舞といった、味方に対する支援効果があるって話だ。それは物語やなんかでも語られている。ただ、一般の人はそれを光属性の魔法だという事を知らないだけだ。
そして僕は今から、闇属性魔法の一旦を明らかにする。これを見たヨシュア君の反応を見て、彼が本当に信頼できる人物かどうかを見定める。
「まずはこれを見て下さい」
僕はマジックバッグ等のダミーを介せずに、影の中から直接大量の物資を取り出した。殆どが魔物の素材なんだけどね。
「なっ……これは一体どこから……」
「影の中です。闇属性魔法は影の中の時間や空間を操作する事が出来ます」
「なんと……」
そこで、原理が解明不可能と言われていたマジックバッグの空間拡張魔法の話を引き合いに出して説明をした。マジックバッグが古きアーティファクトとして扱われ、現存するものが少ないのも納得のいく話だよね。光と闇が封印されれば、闇属性の技術である空間操作の技術も失伝してしまうのだから。
「なるほど。そういう事だったのか」
「これで僕達闇属性の使い手が、時空を操る事が出来るのはお分かりかと思います」
「ああ、よく分かったよ」
「では、これからその時空の中を通って、旅の時間を大幅に短縮したいと思います」
「んん?」
ここからが本題。今から影泳ぎで一気にオストバーグまで移動だ。馬車でも何日かかかる道程なんだけど、そんなのんびりはしていられないしね。
「じゃあ、行きましょうか」
「おわ!? おわわw――」
ヨシュア君が自分の影の中にズブズブと沈み込んで行く。ちょっとやり方が意地悪だったかな。相当焦っていたね。
続いて僕達も影の中に沈んでいく。
「ここが影の中です」
僕はもう慣れたけど、初めての人にとっては不思議な空間だろう。全方位が闇。足が地に付いている感覚もない。一番伝わりやすいのは、水中にいる、といった感じだろうか。だから『影泳ぎ』と呼んでいるんだけどね。もちろん、呼吸も出来るし会話も出来る。周りは暗黒そのものだけど、不思議な事に相手を視認する事も普通に出来る。
「これが……影の中」
「そうです。この中を進んでオスト領まで移動します」
そんな説明をしていると、アーテルが会話に参入してきた。
「見ての通り、四方八方が闇ばかりの光景だからな。我等とはぐれると永遠に闇の中だぞ?」
そんな事を言われたヨシュア君が、生唾を飲み込む。実際は僕が影の中からヨシュア君を取り出せばいいだけなので、ぶっちゃけヨシュア君は荷物と一緒に寝てても構わない。だけどここは僕という人間がヤバい能力を持っている事を擦り込んでおいた方が今は得策だと思うので、ここはアーテルの言葉に乗っておこう。
「それから、移動先の座標はノワールしか認識出来ません。頑張って一緒に来て下さいね」
これは半分本当だ。流石に影の中で現在地点が何処なのかは精霊の助けがないと僕も分からないんだ。この辺はまさに精霊の力を使役する属性魔法だよね。
半分というのは、何度も同じ場所を影泳ぎで往復していると、感覚的にその場所を認識する事は出来るようにはなる。例えば、僕が拠点にしていた街と、黒ウサギだったノワールを助けた森。あそこは闇魔法の修行で何度も影泳ぎを使ったから、僕でも大体の位置は分かるようになった。
「それでは行きましょう」
僕達は影の中で闇を掻き分け進み始めた。ヨシュア君もそれに必死で続く。
影から出たところがオストバーグだったりしたら、びっくりするだろうなあ。
親子二人で暮らすには少々持て余し気味な二階建ての立派な屋敷で、リンちゃんの是非にというお誘いに甘えた感じだね。
みんなで食事を楽しみ、お風呂で旅の垢を落とす。もちろん男女で時間は分けたよ? それでもリンちゃんはノワール、アーテルと一緒の時間を過ごせてご満悦のようだった。
「正直、こんな大きな屋敷はいらなかったんですが、商会長としての面子もあるからと、タッカー様に半ば強引に押し付けられまして」
マシューさんはそう言って苦笑していた。何しろ浴場が大きい。頑張れば五、六人くらいは一緒に入れるんじゃないかな? 一般家庭としてはかなり大きめな屋敷なので、使用人も常駐していると言うから、もう一端の商会長だ。
ブンドルの影響力を排除したあと、停滞する可能性もあった経済の動きを再び活発にする事。そのあたりを、王都での商いの経験があるマシューさんの手腕に期待する所もあったんだろうね。
「皆様の旅のご無事を祈っております。どうかお気を付けて」
「おにいちゃん、おねえちゃん、またきてね?」
翌朝、街の門まで出張って来たマシューさん親子に見送られ、僕達はポーバーグを後にする。そして街道を西に向かって進み、ポーバーグが見えなくなった所で街道から外れて人目に付かない場所を選ぶ。
さて、そろそろ影泳ぎの秘密、というか闇魔法の空間操作についてヨシュア君に説明しなくちゃね。
「ヨシュア君。のんびり歩いて旅路の景色を楽しんだりするのも醍醐味の一つだとは思うんですが、残念ながらそんな悠長な事を言っていられる場合ではなくなりました」
「うん。そうだね」
「これから僕が言う事、する事、見せる事は他言無用です」
「うん?」
これから何が始まるのか、今一つ飲み込めずにヨシュア君は怪訝な表情で首を傾げた。
「グリペン家にいたのなら、光と闇の属性の事はご存知かと思います」
「まあ、それは」
「では具体的な能力については?」
「殆ど知らないね。ご先祖様の光の宝剣に関する伝説くらいさ」
光の宝剣の能力は、切れ味とか所有者の能力アップとかがある他に、癒しや鼓舞といった、味方に対する支援効果があるって話だ。それは物語やなんかでも語られている。ただ、一般の人はそれを光属性の魔法だという事を知らないだけだ。
そして僕は今から、闇属性魔法の一旦を明らかにする。これを見たヨシュア君の反応を見て、彼が本当に信頼できる人物かどうかを見定める。
「まずはこれを見て下さい」
僕はマジックバッグ等のダミーを介せずに、影の中から直接大量の物資を取り出した。殆どが魔物の素材なんだけどね。
「なっ……これは一体どこから……」
「影の中です。闇属性魔法は影の中の時間や空間を操作する事が出来ます」
「なんと……」
そこで、原理が解明不可能と言われていたマジックバッグの空間拡張魔法の話を引き合いに出して説明をした。マジックバッグが古きアーティファクトとして扱われ、現存するものが少ないのも納得のいく話だよね。光と闇が封印されれば、闇属性の技術である空間操作の技術も失伝してしまうのだから。
「なるほど。そういう事だったのか」
「これで僕達闇属性の使い手が、時空を操る事が出来るのはお分かりかと思います」
「ああ、よく分かったよ」
「では、これからその時空の中を通って、旅の時間を大幅に短縮したいと思います」
「んん?」
ここからが本題。今から影泳ぎで一気にオストバーグまで移動だ。馬車でも何日かかかる道程なんだけど、そんなのんびりはしていられないしね。
「じゃあ、行きましょうか」
「おわ!? おわわw――」
ヨシュア君が自分の影の中にズブズブと沈み込んで行く。ちょっとやり方が意地悪だったかな。相当焦っていたね。
続いて僕達も影の中に沈んでいく。
「ここが影の中です」
僕はもう慣れたけど、初めての人にとっては不思議な空間だろう。全方位が闇。足が地に付いている感覚もない。一番伝わりやすいのは、水中にいる、といった感じだろうか。だから『影泳ぎ』と呼んでいるんだけどね。もちろん、呼吸も出来るし会話も出来る。周りは暗黒そのものだけど、不思議な事に相手を視認する事も普通に出来る。
「これが……影の中」
「そうです。この中を進んでオスト領まで移動します」
そんな説明をしていると、アーテルが会話に参入してきた。
「見ての通り、四方八方が闇ばかりの光景だからな。我等とはぐれると永遠に闇の中だぞ?」
そんな事を言われたヨシュア君が、生唾を飲み込む。実際は僕が影の中からヨシュア君を取り出せばいいだけなので、ぶっちゃけヨシュア君は荷物と一緒に寝てても構わない。だけどここは僕という人間がヤバい能力を持っている事を擦り込んでおいた方が今は得策だと思うので、ここはアーテルの言葉に乗っておこう。
「それから、移動先の座標はノワールしか認識出来ません。頑張って一緒に来て下さいね」
これは半分本当だ。流石に影の中で現在地点が何処なのかは精霊の助けがないと僕も分からないんだ。この辺はまさに精霊の力を使役する属性魔法だよね。
半分というのは、何度も同じ場所を影泳ぎで往復していると、感覚的にその場所を認識する事は出来るようにはなる。例えば、僕が拠点にしていた街と、黒ウサギだったノワールを助けた森。あそこは闇魔法の修行で何度も影泳ぎを使ったから、僕でも大体の位置は分かるようになった。
「それでは行きましょう」
僕達は影の中で闇を掻き分け進み始めた。ヨシュア君もそれに必死で続く。
影から出たところがオストバーグだったりしたら、びっくりするだろうなあ。
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