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四章

あんまりのんびりも出来ないか

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「よくぞ参られましたな、ヨシュア公子。それにショーン達もご苦労な事だ」

 まだ叙爵される前のラフと言うか粗野な感じはぐっと抑えられ、貴族として問題ないレベルで上品な装いをしているタッカーさん――ポー子爵が出迎えてくれた。
 ヨシュア君とポー子爵は面識はないらしい。それでもグリペン家の『らしくない』次男の話は聞いていたようで、僕達と連れ立っているヨシュア君が名乗ったところで、すぐに素性を言い当ててしまった。
 そうして僕達は夕食のご相伴に預かっているんだけど、やはりポー子爵とヨシュア君のウマは合うみたいで。

「このショーンと約束しちまってな。有事の際にはグリペン候の力になるようにと。まだ領地を継いだばかりで落ち着いてないが、近いうちにそちらにご挨拶に伺わせてもらうよ」
「近隣の貴族が味方に付くとなれば、父も喜ぶでしょう」

 こんな感じで、言葉遣いもかなりフランクなものだし。どちらも貴族の気取った雰囲気があまり好きじゃないんだね。
 ところで、今の会話からも分かるように、隣り合った領地を持つ貴族同士の関係というのはとても重要だ。大体は仲が悪いんだよね。境界線を巡った争いとか、水源を巡った争い。そういうのは日常茶飯事だ。それが国同士だった場合、戦争に発展するケースも多い。
 仮にグリペン領とポー領の仲が険悪だった場合、グリペン侯爵が王都に進軍するにもポー領の動向に目を光らせる必要が出て来るため、非常に神経質になる必要がある。遠征中に本拠地を襲われでもしたら目も当てられない。
 そういう訳で、グリペンとポーが良好な関係を築くと今後の戦略が立てやすいって事だ。そのあたり、個人間の好感度と政治的な意図も絡み合って、二人がいい友人関係になってくれる事を願いたいね。

 そして次に、僕達が帰還後間もなく旅に出た理由について、ポー子爵に説明をした。

「なるほど、『黒曜の君』か……悪いな。俺は聞いた事がねえ」
「そうですか……」

 ポー子爵は情報を持っていなくて、しょんぼりするヨシュア君なんだけど、それは目的としてはメインじゃないからね?

「いや、そうじゃなくて。四公家のうちのオスト家以外に、きな臭い動きがあるようなんです」

 ルークスがレベッカ女王陛下に光属性の加護を与えたおかげで、火、水、土の三属性の加護を得ているシュッド、ノルデン、ザフトの三つの公爵家が王家に敵対する動きがある。

「ああ、オスト家の公子があんな感じになってたんじゃあな。他の三つもあり得る話だ」

 ポー子爵もオスト公爵の屋敷での騒動に巻き込まれていたから、精霊王達が何者かによって洗脳されていたのは知っている。

「それで、それに対抗する為に二候四伯家が結束しようって訳か」
「ええ。グリペン侯爵はそう考えているようです」

 そこでポー子爵は難しい顔で考え込んでしまう。

「ドラケン侯爵のトコまでは王都の向こう、ザフト公爵領を抜けていかなくちゃならない。それに陛下やデライラ嬢の安全を考えれば、あんまりのんびりしてる時間は……」

 そう、王都の四方を固めているのは四公家だ。東のオスト公はともかく、他の北、南、西は敵って訳だ。せめてもの救いと言えば、冒険者ギルドのユーイングさんが味方って事か。各冒険者はどこの陣営に付くかは依頼内容や報酬次第で自由に選ぶ事が出来る。でもプラチナランクでグランドマスターのユーイングさんは、個人的に女王陛下に忠誠心を持っているように思える。

「相手の精霊王がしゃしゃり出て来ない限り、人間共がいくら群れようと問題ありません、ご主人様」
「そうだな。ルークスは物静かだが怒らせると怖いぞ? それにグランツも、音もなく獲物を狩る猛禽だ。我等闇の者にも引けを取らぬ暗殺の手練れだ。ハッハッハ!」

 でも、様々な不安を吹き飛ばすように、ノワールは静かにティーカップに口を付けながら落ち着き払っているし、アーテルは豪快に笑い飛ばしながら肉に齧り付いている。

「そうは言っても、デライラ嬢は君の大事な人なんだろう? 少々急いだ方がいいんじゃないか?」
「うむ、必要なら馬車を手配するが」

 ふむ、僕の幼馴染の女の子を一人王都に残しているとなれば、ヨシュア君もポー子爵も思うところがあるんだろう。
 でも情報収集も大事な仕事だし、疎かにする訳にもいかない。途中立ち寄る街での情報収集はきっちりやりながらの時間短縮となると……

「馬車の件はお気持ちだけ受け取っておきます。僕達のやり方で、急いで王都に向かいますね」

 影泳ぎを使うべきだね。幸い、王都からの帰り道をトレースするだけだ。人目に付かない場所に出るのも問題ない。
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