上 下
145 / 206
四章

ヨシュア君、強かった

しおりを挟む
 そんなフレンドリーな雰囲気を保ちつつ、僕等は徒歩で街道を進んでいる。ヨシュア君のキャラは明るく、ノワールやアーテルが打ち解けるのにもさして時間は掛からなかった。

「そう言えば、ショーン君は教会でジョブの見直しはしたのかい?」
「ああ、そう言えばまだでしたね。忙しかったので、つい」

 僕が女神様から最初に頂いたジョブは魔法使いウィザードだった。でもそれは様々な経験を重ねる事で、上位のジョブにクラスチェンジする事がある。結構珍しいケースみたいだけど。
 デライラが剣闘士ソードファイターから聖剣士マグナ・ソードに変わったようにね。
 ちなみにノワールは双剣士デュアルソードファイター、アーテルは拳闘士ケンプファーだ。二人は教会でジョブを調べた訳じゃなくて、冒険者ギルドにそう申告しているだけなんだけどね。

「君の戦闘を見ていると、もう近接戦闘魔術師バトルメイジにクラスチェンジしているかも知れないね」

 ここまでの道程で、何度か魔物の襲撃を受けている。ヨシュア君はその時の僕の戦闘の様子を見て言っているんだろう。

「僕も薄々それは感じてます」

 そう苦笑して答える。そしてヨシュア君はと言えば、騎士団志望の彼らしいジョブに就いていた。
 盾剣士ソードディフェンダー。剣と盾を持って戦う前衛職だね。片手直剣を腰に、背中には金属製のカイトシールドを背負っている。鎧は上半身の胴体だけを守る金属製のハーフアーマー。攻撃よりも守りを重視する、パーティに一人いると重宝するタンク役だ。
 ところが、普通は防御に偏っている盾剣士というジョブなのに、彼の場合は火力が高い。僕は初めての戦闘で見たヨシュア君を思い出していた。

△▼△

「いち、にぃ……三体しかいないみたいだね。ここは私に任せてくれるかな?」

 適当な野営場所を求めて街道を外れた際、オークと遭遇戦になった。とは言っても、こちらは既にノワールがオークの存在を捕捉していたし、しかも三体程度のオークなら秒殺だ。なので放置しておいたんだけど、放置の理由はもうひとつ。ヨシュア君の実力を見ておきたかったからだ。
 お誂え向きに、ヨシュア君が相手をするという。オークともなれば単体でもブロンズランカーでは苦戦必須の魔物だけど、さてさて。

 ヨシュア君が背中のカイトシールドを左手に構え、右手で腰の剣を抜く。
 ん……?

「ご主人様、あの剣から妙な魔力を感じます」
「うむ、魔剣の類かも知れんな」

 ノワールもアーテルも、剣が発する違和感を感じ取ったみたいだ。

「さあ来い!」

 ヨシュア君がその剣で自分の盾をガツンと叩いた。その音がイヤに反響する。

「ブルルォォォォ!」

 するとどうだろう? いきなり怒る狂ったかのように、三体のオークが全てヨシュア君に向かっていった。

「くっ!」

 僕はすかさず背中の短双戟を構え、風魔法を撃ち出そうと魔力を練るが……

「心配いらない。見ていてくれ」

 ちらりとこちらを向いたヨシュア君が、微かに笑みを浮かべながら言う。そして彼の持つ剣の刃が赤熱化していった。

「火属性の魔剣……ですね」
「アレは中々の代物だぞ」
「ああ。少し様子を見ようか」

 僕達は少しだけ緊張を解き、ヨシュア君の戦闘を観戦する事にした。

「おっとぉ!」

 一番近いオークが棍棒で殴り掛かる。しかしヨシュア君は半身になってそれを躱す。空振りした棍棒は激しく地面を叩きつけた。
 今の僕なら片手で受けられるけど、普通の人がまともに喰らった全身の骨が砕ける威力。それを最低限の動きで躱すヨシュア君、かなりの手練れだね。
 そしてもう一体。彼の背後に回り込んだオークが、これまた巨大な棍棒を頭目掛けて叩きつけた。しかし今度はその一撃を盾で受け止める。いや、受け流した。
 盾の角度を微妙にズラし、オークの棍棒が盾の表面を滑り落ちていく。そして勢いそのまま、オークの棍棒が地面にめり込んだ。体勢を崩されたオークは隙だらけだね。

「あれは、パリィかな」

 受け流し自体は技術を磨けば出来なくはないだろうけど、受け流された相手が動けなくなっている。硬直か麻痺かは知らないけど、かなり希少なスキルホルダーだね、ヨシュア君。僕のパッシブなバフもそうなんだけど。

「おりゃっ!」

 そしてヨシュア君は赤熱化した剣を鋭く振り抜いた。すごいな。動けなくなったオークの胴体が真っ二つだ。大した抵抗もなく、バターでも切るようにあっさりと。
 一体を斬り倒した後は早かった。先に攻撃してきたオークにパリィを決め、動けなくなったそれを放置しもう一体へと走る。
 速いな。盾持ちのタンクは鈍重なイメージがあるけど、彼のフットワークは軽くて速い。それはハーフアーマーを選択した彼の勝利なんだろう。防御重視のジョブは、殆どの場合はフルプレートアーマーみたいな選択するところだもんね。
 もしかしたら身体強化を使えるのかも知れない。魔剣の能力を発動させる魔力量があるくらいだしね。

「ふん!」

 タンクと呼ぶには余りも軽快な動きでオークの懐に入り込み、棍棒を振り下ろそうとしたオークの腕を盾で止める。今度はパリィなんかじゃくて、純粋に打撃を跳ね返した。
 振り下ろした腕が反動で跳ねあがり、オークの脇腹が無防備になる瞬間を、ヨシュア君は見逃さなかった。またしても赤熱化した刃がバターを斬るようにオークの胴体を真っ二つにする。
 先程パリィで行動不能にさせられたオークも、まるで赤子の手をひねるように屠ってしまった。

「剣術の腕前はともかく、あの魔剣とパリィのスキル、そして魔力による身体強化。最低でもシルバーの上位、もしかしたらゴルドランカー並みの戦力はあるようですね」

 一連の戦闘を見ていたノワールが、そう分析した。確かに彼は強い。でも対応出来ない強さじゃない。厄介なのは魔剣とスキル。それが彼を一流の戦士に持ち上げている感じだ。

「どうだい? 足手まといにはならなそうかな?」

 魔剣に付着した血のりを払い、鞘に納めながらそう言った彼の笑顔は、相変わらず朗らかだった。
 
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...