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四章
ヨシュア君、強かった
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そんなフレンドリーな雰囲気を保ちつつ、僕等は徒歩で街道を進んでいる。ヨシュア君のキャラは明るく、ノワールやアーテルが打ち解けるのにもさして時間は掛からなかった。
「そう言えば、ショーン君は教会でジョブの見直しはしたのかい?」
「ああ、そう言えばまだでしたね。忙しかったので、つい」
僕が女神様から最初に頂いたジョブは魔法使いだった。でもそれは様々な経験を重ねる事で、上位のジョブにクラスチェンジする事がある。結構珍しいケースみたいだけど。
デライラが剣闘士から聖剣士に変わったようにね。
ちなみにノワールは双剣士、アーテルは拳闘士だ。二人は教会でジョブを調べた訳じゃなくて、冒険者ギルドにそう申告しているだけなんだけどね。
「君の戦闘を見ていると、もう近接戦闘魔術師にクラスチェンジしているかも知れないね」
ここまでの道程で、何度か魔物の襲撃を受けている。ヨシュア君はその時の僕の戦闘の様子を見て言っているんだろう。
「僕も薄々それは感じてます」
そう苦笑して答える。そしてヨシュア君はと言えば、騎士団志望の彼らしいジョブに就いていた。
盾剣士。剣と盾を持って戦う前衛職だね。片手直剣を腰に、背中には金属製のカイトシールドを背負っている。鎧は上半身の胴体だけを守る金属製のハーフアーマー。攻撃よりも守りを重視する、パーティに一人いると重宝するタンク役だ。
ところが、普通は防御に偏っている盾剣士というジョブなのに、彼の場合は火力が高い。僕は初めての戦闘で見たヨシュア君を思い出していた。
△▼△
「いち、にぃ……三体しかいないみたいだね。ここは私に任せてくれるかな?」
適当な野営場所を求めて街道を外れた際、オークと遭遇戦になった。とは言っても、こちらは既にノワールがオークの存在を捕捉していたし、しかも三体程度のオークなら秒殺だ。なので放置しておいたんだけど、放置の理由はもうひとつ。ヨシュア君の実力を見ておきたかったからだ。
お誂え向きに、ヨシュア君が相手をするという。オークともなれば単体でもブロンズランカーでは苦戦必須の魔物だけど、さてさて。
ヨシュア君が背中のカイトシールドを左手に構え、右手で腰の剣を抜く。
ん……?
「ご主人様、あの剣から妙な魔力を感じます」
「うむ、魔剣の類かも知れんな」
ノワールもアーテルも、剣が発する違和感を感じ取ったみたいだ。
「さあ来い!」
ヨシュア君がその剣で自分の盾をガツンと叩いた。その音がイヤに反響する。
「ブルルォォォォ!」
するとどうだろう? いきなり怒る狂ったかのように、三体のオークが全てヨシュア君に向かっていった。
「くっ!」
僕はすかさず背中の短双戟を構え、風魔法を撃ち出そうと魔力を練るが……
「心配いらない。見ていてくれ」
ちらりとこちらを向いたヨシュア君が、微かに笑みを浮かべながら言う。そして彼の持つ剣の刃が赤熱化していった。
「火属性の魔剣……ですね」
「アレは中々の代物だぞ」
「ああ。少し様子を見ようか」
僕達は少しだけ緊張を解き、ヨシュア君の戦闘を観戦する事にした。
「おっとぉ!」
一番近いオークが棍棒で殴り掛かる。しかしヨシュア君は半身になってそれを躱す。空振りした棍棒は激しく地面を叩きつけた。
今の僕なら片手で受けられるけど、普通の人がまともに喰らった全身の骨が砕ける威力。それを最低限の動きで躱すヨシュア君、かなりの手練れだね。
そしてもう一体。彼の背後に回り込んだオークが、これまた巨大な棍棒を頭目掛けて叩きつけた。しかし今度はその一撃を盾で受け止める。いや、受け流した。
盾の角度を微妙にズラし、オークの棍棒が盾の表面を滑り落ちていく。そして勢いそのまま、オークの棍棒が地面にめり込んだ。体勢を崩されたオークは隙だらけだね。
「あれは、パリィかな」
受け流し自体は技術を磨けば出来なくはないだろうけど、受け流された相手が動けなくなっている。硬直か麻痺かは知らないけど、かなり希少なスキルホルダーだね、ヨシュア君。僕のパッシブなバフもそうなんだけど。
「おりゃっ!」
そしてヨシュア君は赤熱化した剣を鋭く振り抜いた。すごいな。動けなくなったオークの胴体が真っ二つだ。大した抵抗もなく、バターでも切るようにあっさりと。
一体を斬り倒した後は早かった。先に攻撃してきたオークにパリィを決め、動けなくなったそれを放置しもう一体へと走る。
速いな。盾持ちのタンクは鈍重なイメージがあるけど、彼のフットワークは軽くて速い。それはハーフアーマーを選択した彼の勝利なんだろう。防御重視のジョブは、殆どの場合はフルプレートアーマーみたいな選択するところだもんね。
もしかしたら身体強化を使えるのかも知れない。魔剣の能力を発動させる魔力量があるくらいだしね。
「ふん!」
タンクと呼ぶには余りも軽快な動きでオークの懐に入り込み、棍棒を振り下ろそうとしたオークの腕を盾で止める。今度はパリィなんかじゃくて、純粋に打撃を跳ね返した。
振り下ろした腕が反動で跳ねあがり、オークの脇腹が無防備になる瞬間を、ヨシュア君は見逃さなかった。またしても赤熱化した刃がバターを斬るようにオークの胴体を真っ二つにする。
先程パリィで行動不能にさせられたオークも、まるで赤子の手をひねるように屠ってしまった。
「剣術の腕前はともかく、あの魔剣とパリィのスキル、そして魔力による身体強化。最低でもシルバーの上位、もしかしたらゴルドランカー並みの戦力はあるようですね」
一連の戦闘を見ていたノワールが、そう分析した。確かに彼は強い。でも対応出来ない強さじゃない。厄介なのは魔剣とスキル。それが彼を一流の戦士に持ち上げている感じだ。
「どうだい? 足手まといにはならなそうかな?」
魔剣に付着した血のりを払い、鞘に納めながらそう言った彼の笑顔は、相変わらず朗らかだった。
「そう言えば、ショーン君は教会でジョブの見直しはしたのかい?」
「ああ、そう言えばまだでしたね。忙しかったので、つい」
僕が女神様から最初に頂いたジョブは魔法使いだった。でもそれは様々な経験を重ねる事で、上位のジョブにクラスチェンジする事がある。結構珍しいケースみたいだけど。
デライラが剣闘士から聖剣士に変わったようにね。
ちなみにノワールは双剣士、アーテルは拳闘士だ。二人は教会でジョブを調べた訳じゃなくて、冒険者ギルドにそう申告しているだけなんだけどね。
「君の戦闘を見ていると、もう近接戦闘魔術師にクラスチェンジしているかも知れないね」
ここまでの道程で、何度か魔物の襲撃を受けている。ヨシュア君はその時の僕の戦闘の様子を見て言っているんだろう。
「僕も薄々それは感じてます」
そう苦笑して答える。そしてヨシュア君はと言えば、騎士団志望の彼らしいジョブに就いていた。
盾剣士。剣と盾を持って戦う前衛職だね。片手直剣を腰に、背中には金属製のカイトシールドを背負っている。鎧は上半身の胴体だけを守る金属製のハーフアーマー。攻撃よりも守りを重視する、パーティに一人いると重宝するタンク役だ。
ところが、普通は防御に偏っている盾剣士というジョブなのに、彼の場合は火力が高い。僕は初めての戦闘で見たヨシュア君を思い出していた。
△▼△
「いち、にぃ……三体しかいないみたいだね。ここは私に任せてくれるかな?」
適当な野営場所を求めて街道を外れた際、オークと遭遇戦になった。とは言っても、こちらは既にノワールがオークの存在を捕捉していたし、しかも三体程度のオークなら秒殺だ。なので放置しておいたんだけど、放置の理由はもうひとつ。ヨシュア君の実力を見ておきたかったからだ。
お誂え向きに、ヨシュア君が相手をするという。オークともなれば単体でもブロンズランカーでは苦戦必須の魔物だけど、さてさて。
ヨシュア君が背中のカイトシールドを左手に構え、右手で腰の剣を抜く。
ん……?
「ご主人様、あの剣から妙な魔力を感じます」
「うむ、魔剣の類かも知れんな」
ノワールもアーテルも、剣が発する違和感を感じ取ったみたいだ。
「さあ来い!」
ヨシュア君がその剣で自分の盾をガツンと叩いた。その音がイヤに反響する。
「ブルルォォォォ!」
するとどうだろう? いきなり怒る狂ったかのように、三体のオークが全てヨシュア君に向かっていった。
「くっ!」
僕はすかさず背中の短双戟を構え、風魔法を撃ち出そうと魔力を練るが……
「心配いらない。見ていてくれ」
ちらりとこちらを向いたヨシュア君が、微かに笑みを浮かべながら言う。そして彼の持つ剣の刃が赤熱化していった。
「火属性の魔剣……ですね」
「アレは中々の代物だぞ」
「ああ。少し様子を見ようか」
僕達は少しだけ緊張を解き、ヨシュア君の戦闘を観戦する事にした。
「おっとぉ!」
一番近いオークが棍棒で殴り掛かる。しかしヨシュア君は半身になってそれを躱す。空振りした棍棒は激しく地面を叩きつけた。
今の僕なら片手で受けられるけど、普通の人がまともに喰らった全身の骨が砕ける威力。それを最低限の動きで躱すヨシュア君、かなりの手練れだね。
そしてもう一体。彼の背後に回り込んだオークが、これまた巨大な棍棒を頭目掛けて叩きつけた。しかし今度はその一撃を盾で受け止める。いや、受け流した。
盾の角度を微妙にズラし、オークの棍棒が盾の表面を滑り落ちていく。そして勢いそのまま、オークの棍棒が地面にめり込んだ。体勢を崩されたオークは隙だらけだね。
「あれは、パリィかな」
受け流し自体は技術を磨けば出来なくはないだろうけど、受け流された相手が動けなくなっている。硬直か麻痺かは知らないけど、かなり希少なスキルホルダーだね、ヨシュア君。僕のパッシブなバフもそうなんだけど。
「おりゃっ!」
そしてヨシュア君は赤熱化した剣を鋭く振り抜いた。すごいな。動けなくなったオークの胴体が真っ二つだ。大した抵抗もなく、バターでも切るようにあっさりと。
一体を斬り倒した後は早かった。先に攻撃してきたオークにパリィを決め、動けなくなったそれを放置しもう一体へと走る。
速いな。盾持ちのタンクは鈍重なイメージがあるけど、彼のフットワークは軽くて速い。それはハーフアーマーを選択した彼の勝利なんだろう。防御重視のジョブは、殆どの場合はフルプレートアーマーみたいな選択するところだもんね。
もしかしたら身体強化を使えるのかも知れない。魔剣の能力を発動させる魔力量があるくらいだしね。
「ふん!」
タンクと呼ぶには余りも軽快な動きでオークの懐に入り込み、棍棒を振り下ろそうとしたオークの腕を盾で止める。今度はパリィなんかじゃくて、純粋に打撃を跳ね返した。
振り下ろした腕が反動で跳ねあがり、オークの脇腹が無防備になる瞬間を、ヨシュア君は見逃さなかった。またしても赤熱化した刃がバターを斬るようにオークの胴体を真っ二つにする。
先程パリィで行動不能にさせられたオークも、まるで赤子の手をひねるように屠ってしまった。
「剣術の腕前はともかく、あの魔剣とパリィのスキル、そして魔力による身体強化。最低でもシルバーの上位、もしかしたらゴルドランカー並みの戦力はあるようですね」
一連の戦闘を見ていたノワールが、そう分析した。確かに彼は強い。でも対応出来ない強さじゃない。厄介なのは魔剣とスキル。それが彼を一流の戦士に持ち上げている感じだ。
「どうだい? 足手まといにはならなそうかな?」
魔剣に付着した血のりを払い、鞘に納めながらそう言った彼の笑顔は、相変わらず朗らかだった。
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