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三章
情報を擦り合わせるも……
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「まず言っておきたいのは、僕は僕の敵と戦うだけで、誰かの味方だという訳ではないという事です」
「はい……」
今回はたまたまブンドルが敵だった。もし女王陛下が傲慢な人物で、僕に対して攻撃的だったなら、僕はこの人も滅ぼしただろう。ポー伯爵と同じように。
「それを前提にしてですが。光属性と闇属性の事について、知っている事を全て話していただけますか?」
「王家の者と言えどもお話できる事はそう多くはないと思いますが、それでも良ければ」
「ええ、構いません。ですが……」
僕は謁見の間を見渡す。中々に酷い状況だ。窒息死させたブンドル。そして女王陛下が斬り捨てたオニール。陛下ご自身も浴びた返り血が赤黒くなっているしね。
「そ、そうですわね。では別室で改めて。私も身を清めて参ります」
「はい。そうしましょう。僕達は控室に戻りますので」
全てを語る前に僕の言いたい事を察してくれた女王陛下を後に、僕達は控室へと戻った。
「それで、なんでユーイングさんまでここに来るんです?」
「だってあんなの片付けるのイヤじゃねえ?」
「まあ、そうですけど……」
まるで初めからそこにいるみたいに馴染んでいるユーイングさんが、僕の隣に腰かけている。
「俺はお前さんらの事を、もっと知るべきだと思うんだよ。冒険者を束ねるモンとしてな。他にもプラチナランクは何人かいるが、お前さんは異質すぎる。個としての力はともかく、従えている力が強大すぎるんだ」
「まあ、そうですね。女王陛下がいらしたら詳しくお話する事になると思います。その上で、ユーイングさんが敵にならない事を祈りますよ」
「ああ、俺もそう願いたいね」
まずは軽くジャブの応酬ってトコかな。互いに冗談めかして笑顔で話しているけど、言ってる事は本心だ。僕はこの人の事を何一つ知らないけれど、グランツの魔法に抗ってみせるあたり、とんでもない人なのは察しが付く。つまり、僕の闇属性の力にも抗える力があるかも知れないって事だから。やり合いたくはないよね。
メイドさんが人数分のお茶と茶菓子を準備してくれて、それをつまみながら言っても差し支えない話題で女王陛下が来るのを待つ。
主にダンジョンについてだ。これは冒険者ギルドとしては知っておくべき内容だろうという判断からだ。
「なるほどなぁ。ダンジョンボスを倒してもダンジョンは無くならねえのか」
「ええ。少なくともグリペン領のダンジョンはそうでした」
アーテルがダンジョンボスとして君臨していたけど、彼女がその立場を放棄して僕の眷属になったからと言って、ダンジョンが消えてしまった訳じゃなかったよね。その後に出現したマンティコアがダンジョンを支配し、魔物の氾濫を起こそうとした。
「ダンジョンの存在自体が必要であれば、コアを破壊しなければいいって事か……なるほど。いい事を聞いたぜ」
魔物の素材は有用だが、魔物の存在自体は人間を脅かす。ダンジョンを有効活用するにはリスクとリターンを良く考えないとね。僕みたいな一冒険者には大きすぎる問題だ。
「お待たせ致しました」
そこへ漸く女王陛下が現れた。護衛など付けてはいない。侍女が一人だけだ。ただし、腰には例の切れ味鋭い剣がぶら下がっているけどね。
そんな僕の視線に気付いたデライラが、一言小声で話しかけてきた。
「あれね、グリペン侯爵の御先祖様の宝剣よ。陛下があたしにって言ってくれたんだけど……」
僕達のやり取りを見た女王陛下が、少しはにかんだ表情で付け加える。
「ルークス様のご加護を頂きまして。私も多少扱えるようになったのです。ですから、この剣を手に、私も戦おうと決意しました」
はあ、デライラめ、一人で女王陛下と面会してきた時に、そんな事をしていたのか。
「デライラは良かったの?」
「あんたから貰った剣の方がいいもの。性能とか、いろいろ」
「あ、そう」
そんな中で、一人話題から取り残されているのがユーイングさんだ。そこで女王陛下は、改めて会話を切り出した。
「これから話す事は、王族と一部の上級貴族――四公家、そして二候家の当主しか知らない話です」
四つの公爵家は火、水、風、土の四大属性の精霊王から加護を受けし家柄。そして二候四伯家の内の二つの侯爵家。光と闇の属性が追いやられた後は加護を受けていないようだけど、グリペン侯爵家は光。そしてもう一つの侯爵家は闇属性の加護を受けていた家柄だろう。
女王陛下はまずはそういう話題で話を始めた。
一般に知られている四大属性だけでなく、光と闇の二属性も存在していた事に、ユーイングさんは驚く。そして四大属性の精霊王が反乱を起こし、光と闇の精霊達を封印した事により、世界から二つの属性が無かった事にされた事。
「しかし、その事を世界に知らしめたからと言って、二つの属性が蘇る訳ではありませんし、無いものを信じろと言っても信じないでしょう?」
「まあ、そうですね。俺も影から出て来たところや眠りの魔法を目の当たりにしなきゃ、とても信じられませんよ」
ユーイングさんが陛下の言葉に同意する。それにしても、敬語が似合わない人だなあ。
「ちなみに希少なマジックバッグは、闇属性魔法の技術が使われているらしいですよ」
そんな僕の言葉に陛下もユーイングさんも目を丸くする。
そうだよね。今までマジックバッグの空間拡張の魔法はいくら解析しても分からなかったんだから。闇属性を無かった事にしたおかげで失伝してしまった、ロストテクノロジーだ。
「話を戻すと、光と闇の精霊が消え去ったのはある日突然の事だったので、何が原因か分からないのです」
うーん。新しい情報はなしかぁ。四大精霊王をたぶらかし、ノワールやルークスを封印したのは誰なのか。そして他にも封印されているであろう精霊達はどこにいるんだろう。
僕がその辺りの疑問を口にすると、陛下は申し訳なさそうに俯くが、逆にユーイングさんはお気楽な表情で言う。
「何なら、各地のダンジョンを潰して回るか?」
確かに、ダンジョンコアの中に封印されている可能性は高いけど……
魔物の素材が流通しなくなったら経済が大混乱だよねえ。
「はい……」
今回はたまたまブンドルが敵だった。もし女王陛下が傲慢な人物で、僕に対して攻撃的だったなら、僕はこの人も滅ぼしただろう。ポー伯爵と同じように。
「それを前提にしてですが。光属性と闇属性の事について、知っている事を全て話していただけますか?」
「王家の者と言えどもお話できる事はそう多くはないと思いますが、それでも良ければ」
「ええ、構いません。ですが……」
僕は謁見の間を見渡す。中々に酷い状況だ。窒息死させたブンドル。そして女王陛下が斬り捨てたオニール。陛下ご自身も浴びた返り血が赤黒くなっているしね。
「そ、そうですわね。では別室で改めて。私も身を清めて参ります」
「はい。そうしましょう。僕達は控室に戻りますので」
全てを語る前に僕の言いたい事を察してくれた女王陛下を後に、僕達は控室へと戻った。
「それで、なんでユーイングさんまでここに来るんです?」
「だってあんなの片付けるのイヤじゃねえ?」
「まあ、そうですけど……」
まるで初めからそこにいるみたいに馴染んでいるユーイングさんが、僕の隣に腰かけている。
「俺はお前さんらの事を、もっと知るべきだと思うんだよ。冒険者を束ねるモンとしてな。他にもプラチナランクは何人かいるが、お前さんは異質すぎる。個としての力はともかく、従えている力が強大すぎるんだ」
「まあ、そうですね。女王陛下がいらしたら詳しくお話する事になると思います。その上で、ユーイングさんが敵にならない事を祈りますよ」
「ああ、俺もそう願いたいね」
まずは軽くジャブの応酬ってトコかな。互いに冗談めかして笑顔で話しているけど、言ってる事は本心だ。僕はこの人の事を何一つ知らないけれど、グランツの魔法に抗ってみせるあたり、とんでもない人なのは察しが付く。つまり、僕の闇属性の力にも抗える力があるかも知れないって事だから。やり合いたくはないよね。
メイドさんが人数分のお茶と茶菓子を準備してくれて、それをつまみながら言っても差し支えない話題で女王陛下が来るのを待つ。
主にダンジョンについてだ。これは冒険者ギルドとしては知っておくべき内容だろうという判断からだ。
「なるほどなぁ。ダンジョンボスを倒してもダンジョンは無くならねえのか」
「ええ。少なくともグリペン領のダンジョンはそうでした」
アーテルがダンジョンボスとして君臨していたけど、彼女がその立場を放棄して僕の眷属になったからと言って、ダンジョンが消えてしまった訳じゃなかったよね。その後に出現したマンティコアがダンジョンを支配し、魔物の氾濫を起こそうとした。
「ダンジョンの存在自体が必要であれば、コアを破壊しなければいいって事か……なるほど。いい事を聞いたぜ」
魔物の素材は有用だが、魔物の存在自体は人間を脅かす。ダンジョンを有効活用するにはリスクとリターンを良く考えないとね。僕みたいな一冒険者には大きすぎる問題だ。
「お待たせ致しました」
そこへ漸く女王陛下が現れた。護衛など付けてはいない。侍女が一人だけだ。ただし、腰には例の切れ味鋭い剣がぶら下がっているけどね。
そんな僕の視線に気付いたデライラが、一言小声で話しかけてきた。
「あれね、グリペン侯爵の御先祖様の宝剣よ。陛下があたしにって言ってくれたんだけど……」
僕達のやり取りを見た女王陛下が、少しはにかんだ表情で付け加える。
「ルークス様のご加護を頂きまして。私も多少扱えるようになったのです。ですから、この剣を手に、私も戦おうと決意しました」
はあ、デライラめ、一人で女王陛下と面会してきた時に、そんな事をしていたのか。
「デライラは良かったの?」
「あんたから貰った剣の方がいいもの。性能とか、いろいろ」
「あ、そう」
そんな中で、一人話題から取り残されているのがユーイングさんだ。そこで女王陛下は、改めて会話を切り出した。
「これから話す事は、王族と一部の上級貴族――四公家、そして二候家の当主しか知らない話です」
四つの公爵家は火、水、風、土の四大属性の精霊王から加護を受けし家柄。そして二候四伯家の内の二つの侯爵家。光と闇の属性が追いやられた後は加護を受けていないようだけど、グリペン侯爵家は光。そしてもう一つの侯爵家は闇属性の加護を受けていた家柄だろう。
女王陛下はまずはそういう話題で話を始めた。
一般に知られている四大属性だけでなく、光と闇の二属性も存在していた事に、ユーイングさんは驚く。そして四大属性の精霊王が反乱を起こし、光と闇の精霊達を封印した事により、世界から二つの属性が無かった事にされた事。
「しかし、その事を世界に知らしめたからと言って、二つの属性が蘇る訳ではありませんし、無いものを信じろと言っても信じないでしょう?」
「まあ、そうですね。俺も影から出て来たところや眠りの魔法を目の当たりにしなきゃ、とても信じられませんよ」
ユーイングさんが陛下の言葉に同意する。それにしても、敬語が似合わない人だなあ。
「ちなみに希少なマジックバッグは、闇属性魔法の技術が使われているらしいですよ」
そんな僕の言葉に陛下もユーイングさんも目を丸くする。
そうだよね。今までマジックバッグの空間拡張の魔法はいくら解析しても分からなかったんだから。闇属性を無かった事にしたおかげで失伝してしまった、ロストテクノロジーだ。
「話を戻すと、光と闇の精霊が消え去ったのはある日突然の事だったので、何が原因か分からないのです」
うーん。新しい情報はなしかぁ。四大精霊王をたぶらかし、ノワールやルークスを封印したのは誰なのか。そして他にも封印されているであろう精霊達はどこにいるんだろう。
僕がその辺りの疑問を口にすると、陛下は申し訳なさそうに俯くが、逆にユーイングさんはお気楽な表情で言う。
「何なら、各地のダンジョンを潰して回るか?」
確かに、ダンジョンコアの中に封印されている可能性は高いけど……
魔物の素材が流通しなくなったら経済が大混乱だよねえ。
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