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三章

VS大臣様

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「いきなり何なんですか?」

 とぼけている訳じゃなく、本当に分からない。心当たりはいくつもあるから。

「君がブンドル氏の商会を潰して回ったのだろう!?」

 はて。それで商業ギルドのグランドマスターが怒るの? なぜ?

「貴様、多くの傭兵と冒険者を殺したそうだな!」

 こっちはオニール伯爵。そうか、これに関してはアリバイはないね。

「ブンドル氏の商会? 知りませんね。僕は宿で寝てましたし。なんなら宿の人から証言してもらってもいいですよ?」
「くっ……」

 このやり取りの間、ユーイングさんは真面目な顔で静かに聞いている。

「では冒険者と傭兵が殺された件はどう説明するのだ!」

 確かにそれをやったのは僕達だ。だけど、どうやってそれを僕達に結び付けたのかを聞いておかないとね。

「なぜ僕がやったと言い切れるんです?」
「それはブンドル氏の寝室に遺体が投げ込まれ……その、その遺体はブンドル氏が貴様に……」
「なぜそこでブンドル氏が出てくるのか分かりませんが、ブンドル氏が僕に差し向けた刺客だったとか?」
「……」

 自分の失言に気付いたのか、オニール侯爵は押し黙ってしまう。
 僕は一つ、大きなため息をついた。

「なんです、この茶番は」

 ユーイングさんにジト目で話しかけると、彼は苦笑しながら返してきた。

「いや、この二人が怒鳴り込んで来たんだけどよ、よく聞けばお前さんがやったっていう証拠は何もねえ。全部がブンドルの話と状況証拠だけだ」
「つまり、ブンドルが僕に差し向けた刺客を返り討ちにして、その腹いせに商会を潰してまわり、更に死体をブンドルの寝室に投げ込んだのは僕だと」
「まあ、そう言う事だな。辻褄は合ってるだろ?」

 ユーイングさんは更にそう言って笑う。

「そうですね。それはつまりブンドルが僕を殺しに来たって事にもなりますよね?」

 僕はカートライト、う~ん、もう呼び捨てでいいよね? そしてオニールの二人に鋭い視線を飛ばす。

「仮に、僕が大人数の刺客に狙われて返り討ちにしたとして、何か問題がありますか?」
「ブンドル氏は私怨によって私兵を殺されたと言っている!」
「……はあ、そうなんですね。もういいです。僕も何度も命を狙われるのは面倒なので、今から行って息の根止めて来ますね」

 このオニールという男、まるで話にならない。ブンドルが正で僕が悪。そう決めて掛かっているもんね。でもそこでユーイングさんが僕を制止した。

「まあ待て待て」

 僕はその一言で思い直し、席に座り直す。

「例の火事場の官憲な、証言が取れた。結果、ブンドルに買収されていた」

 ユーイングさんはそう言ってオニールを睨む。

「王都取締大臣殿? 取り締まる側の官憲が、ブンドルに買収されていた挙句、ブンドルの配下の放火やこの冒険者への襲撃を黙認するように言われていたと。これはどういう事ですかな?」

 更にカートライトに厳しい視線を向けて続ける。

「大体、なんで商業ギルドのトップが冒険者ギルドにカチ込んで来るんだよ。ブンドルがいなくちゃ何か困るってのか? あ?」

 おお、今度は凄い迫力だな。さすがプラチナランカー。オニール、そしてカートライト、ガクブルだ。

「俺は冒険者ギルドのトップだ。自分トコのモンに危険が迫ってんなら守る。しかし道を踏み外したヤツがどこでくたばろうが知ったこっちゃねえ。むしろザマァ見ろだ。それをなんだてめえらは。てめえ自身の保身ばっかりじゃねえか。あくまでウチの若いのに手ェ出すってんなら、いいぜ? 戦争をしようじゃねえか」

 ああ、ユーイングさん、ここまで言ってくれるのか。国から一目置かれるプラチナランカーとは言え、他のギルドのグランドマスターや要職に就いている上級貴族相手にここまでの啖呵を切るのは並大抵の覚悟じゃ出来ないはずだ。
 現に、以前ユーイングさんは『大人の世界のしがらみ』が邪魔をして思うように出来ない旨の話をしていたしね。
 でも、ここまで言ってくれただけで僕としては十分かな。大体、これは僕とブンドルの問題であり、ブンドルの側に付く連中は僕の敵だ。

「ユーイングさんがそんな事言ったら本当に戦争になっちゃいそうだから、お気持ちだけで結構ですよ」
「お、おう?」
「これは僕の戦いですから、僕がケジメをつけます。例え国を相手にする事になっても、僕の敵になるなら潰すだけです」
「……そうか。すまねえな。買収された冒険者どもが迷惑かけちまってよ。今後もバカな冒険者がいたら容赦はいらねえ」

 ユーイングさんがそう言う。つまりグランドマスターの名前で今後は綱紀粛正に力を入れていく。その上で外道に走った冒険者は自らギルドの庇護から外れていった者達なので、僕の判断で処理して構わない。そういう事なんだろう。

「という事です。僕は相手が貴族だろうが大臣だろうが、国王だろうが引きませんよ? あなた方は僕の敵ですか? それともブンドルの仲間ですか? どちらかを選んで下さい」
「ご主人様、それだと二択になっていません」

 僕がカートライトとオニール相手に放った言葉に、ノワールがそっとツッコミを入れてきた。

「いいじゃないか。こっちはもうこいつらを敵認定してるんだから同じ事だろう?」

 そしてアーテルがついに言い切ってしまった。そう、ブンドルが失脚したら新しいやり方を模索するなり何なり、やりようはあったはずなのに。しかし彼等は確たる証拠もないのに僕を責め立てる。つまりこいつらにはブンドルが必要だったって事だ。もう敵以外の何者でもないじゃないか。

「今日のところはこれで失礼する! この事は陛下に報告申し上げるので覚悟しているがいい!」

 オニールはそう捨て台詞を吐いて去っていった。

「き、君は本当に国が相手でもケンカをするつもりですか?」

 残ったカートライトは怯えを含んだ声でそう言うが、そんなの今更だよね。

「ええ。敵は潰す、それだけです。何なら、商業ギルドも一晩で更地にして見せましょうか?」
「分かった。商業ギルドはこの件から降りる。ブンドル氏との関わりも絶つ事を約束しよう」

 カートライトは力なく項垂れてそう言った。
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