128 / 206
三章
ドワーフ初登場?
しおりを挟む
タッカーさんは無事ポー家を継ぎ、所領もそのまま引き継げる事になった。ただし、家格は伯爵から子爵に降格になった訳で、寄子の貴族も子爵位の家柄の人は独立するかも、なんて事を言ってたね。
あと、当面の問題はケビンさん夫妻の衣食住だ。家と工房を一気に失ってしまってはね。そこで僕は、職人ギルドの本部へと足を運んできた。
「なるほど、事情は分かった。ちょっと待っててくれや」
職人ギルドのグランドマスター、マグジーさんがそう言って、職員を呼び出して何か指示を出している。
マグジーさんって、凄く珍しいドワーフ族の人なんだよね。ドワーフって、鉱山近くに里を作ってそこに住んで自給自足の生活をしている事が殆どらしい。
滅多に人族が住む街に出て来る事はないし、個体の数も少ないからほとんど見かける事はない種族なんだけど、彼等の作った作品はどれも高品質で、物々交換で取引されているんだって。
背は小さくて、ちょっと大きな子供くらい。だけど髪も髭も毛量が多くて、顔から出てるのは額から鼻くらいまで。でも全身筋肉の塊で、腕なんか丸太みたいだし胴体は酒樽みたいだ。
職人として優秀なだけでなく、種族そのものがパワーファイターで、人族もドワーフとは事を構えようとは考えないらしいね。
昔、ドワーフの持つ技術を奪おうとした人族の王がいたらしいけど、屈強なドワーフの戦士が優れた武器や防具を装備して抗った結果、手痛い敗北を喫したんだって。それ以来、人族とドワーフ族は互いに不干渉、ただし、交易だけは物々交換にて行うのが暗黙のルールになったみたい。
「ウチの構成員の職人を助けてもらったんだ。いい物件を探しといてやる。ブンドルの野郎も屋敷に籠って出て来ねえみてえだしな! ガハハ!」
少し雑談をしながら出されたお茶で喉を潤していると、先程マグジーさんに指示を受けていた職員さんが何やら書類を持って入室してきた。
「今空いてる物件はコイツだな。場所も中々だしよ!」
マグジーさんは一枚の見取り図を差し出してきた。
二階建て。一階の道路に面したスペースは店舗として使えるし、奥にも作業スペースになりそうな広い部屋がある。
良く見れば炉のようなものもあるね。鍛冶も出来るのか。
「風呂やキッチン、居住スペースなんてのは全部二階にある。敷地内の井戸から水を組み上げる機構があるから大丈夫だよ」
マグジーさんが自慢気に言う。確かにそれは凄いな。ドワーフの技術なのかな?
「なんせ、昔俺が住んでた場所だからよ! 折り紙付きの物件だぜ!」
なるほど、じゃあそこにはマグジーさんの持つ技術があちこちにつぎ込まれているんだね。ドヤ顔になっているのも納得。
「分かりました。じゃあここでお願いします」
「ってお前、値段も聞かねえで決めちまうのか!?」
「ええ。僕と関わったおかげでケビンさんはかけがえのないものを失うところでした。お金で解決できる事ではないので」
「ほう? 気風のいい奴だな! 気に入ったぜ! ガハハハ!」
値段がいくらを提示されようがあまり痛くはない。何しろブンドルの財産をたっぷり没収してるからね。それに、グラマスのマグジーさんが自分で住んでいた物件なら間違いはないだろう。
僕はデライラから借りて来たマジックバッグから取り出すフリをして、金貨の入った革袋を五つほど取り出して、テーブルに置いた。
「これで足りますか?」
「は? 全部金貨なら三つで十分だ」
マグジーさんが目を丸くしながらそう言う。良かった、足りるみたいだね。
「それなら、残りはケビンさんへの見舞金という事にしておいてください。それでは、僕はこれで」
僕はマグジーさんを部屋に残し退室した。職人ギルド本部のホールでは、ノワールとアーテルが待っている。彼女達と一緒に、今度は冒険者ギルド本部に行かなくちゃ。
例の火事場にいた、ブンドルに買収されていた官憲達の隊長、デライラは冒険者ギルドに突き出したんだって。まあ、官憲に突き出してもブンドルに汚染されている確率が高いしね。
その隊長がどうなったか聞きに行こうという訳だ。
▼△▼
「ショーンさん。こちらに見えたらお通しするよう、グランドマスターから言われておりますので、ご案内しますね」
冒険者ギルド本部に顔を出したら、目敏く見つけた受付のお姉さんにそう言われてしまった。ちなみにユーイングさんのラフな服装に小言を言っていたあのお姉さんだ。
僕はノワールとアーテルにアイコンタクトを取り、受付さんの後ろを歩く。二人も僕の後ろに続いたけど、警戒態勢だね。
「おう、よく来たな。ちょうど良かったぜ」
そう言って出迎えてくれたユーイングさん。しかし部屋の中には他にも人の気配がする。それに気にせず入室すると、悪意に満ちた視線が飛んできた。
「商業ギルドのグラマスのカートライトはもう知ってるだろ? んで、こちらは王都の治安や防災を司る部署のトップ、王都取締大臣のオニール侯爵だ」
悪意の視線はこの二人から飛んで来ていた。後ろでノワールとアーテルが殺気を出しそうになるが、僕は慌ててそれを抑えた。だってこの二人が殺気を垂れ流したら、普通の人は失神しちゃう。
「あの、なぜ僕が呼ばれたのか分かりませんけど、もう帰っていいですか? 視線が痛いので」
「なっ! なんだと貴様――」
「まあまあ、多分お前さんがここに来た用事とも関係がある事さ。まあ、そこに座ってくれ」
「はぁ……」
いきり立つオニール侯爵とやらを宥めるユーイングさんが勧める席に着き、後ろにノワールとアーテルが控えて立つ。
「まったく、君はえらい事をしてくれたな!」
まずは商業ギルドのグランドマスター、カートライトさん。
「そうだぞ貴様! 貴様のした事は到底許される事ではないぞ!」
そしてオニール侯爵。二人共剣幕が普通じゃない。まさに激怒状態だ。さて、何に関して怒っているのやら。
あと、当面の問題はケビンさん夫妻の衣食住だ。家と工房を一気に失ってしまってはね。そこで僕は、職人ギルドの本部へと足を運んできた。
「なるほど、事情は分かった。ちょっと待っててくれや」
職人ギルドのグランドマスター、マグジーさんがそう言って、職員を呼び出して何か指示を出している。
マグジーさんって、凄く珍しいドワーフ族の人なんだよね。ドワーフって、鉱山近くに里を作ってそこに住んで自給自足の生活をしている事が殆どらしい。
滅多に人族が住む街に出て来る事はないし、個体の数も少ないからほとんど見かける事はない種族なんだけど、彼等の作った作品はどれも高品質で、物々交換で取引されているんだって。
背は小さくて、ちょっと大きな子供くらい。だけど髪も髭も毛量が多くて、顔から出てるのは額から鼻くらいまで。でも全身筋肉の塊で、腕なんか丸太みたいだし胴体は酒樽みたいだ。
職人として優秀なだけでなく、種族そのものがパワーファイターで、人族もドワーフとは事を構えようとは考えないらしいね。
昔、ドワーフの持つ技術を奪おうとした人族の王がいたらしいけど、屈強なドワーフの戦士が優れた武器や防具を装備して抗った結果、手痛い敗北を喫したんだって。それ以来、人族とドワーフ族は互いに不干渉、ただし、交易だけは物々交換にて行うのが暗黙のルールになったみたい。
「ウチの構成員の職人を助けてもらったんだ。いい物件を探しといてやる。ブンドルの野郎も屋敷に籠って出て来ねえみてえだしな! ガハハ!」
少し雑談をしながら出されたお茶で喉を潤していると、先程マグジーさんに指示を受けていた職員さんが何やら書類を持って入室してきた。
「今空いてる物件はコイツだな。場所も中々だしよ!」
マグジーさんは一枚の見取り図を差し出してきた。
二階建て。一階の道路に面したスペースは店舗として使えるし、奥にも作業スペースになりそうな広い部屋がある。
良く見れば炉のようなものもあるね。鍛冶も出来るのか。
「風呂やキッチン、居住スペースなんてのは全部二階にある。敷地内の井戸から水を組み上げる機構があるから大丈夫だよ」
マグジーさんが自慢気に言う。確かにそれは凄いな。ドワーフの技術なのかな?
「なんせ、昔俺が住んでた場所だからよ! 折り紙付きの物件だぜ!」
なるほど、じゃあそこにはマグジーさんの持つ技術があちこちにつぎ込まれているんだね。ドヤ顔になっているのも納得。
「分かりました。じゃあここでお願いします」
「ってお前、値段も聞かねえで決めちまうのか!?」
「ええ。僕と関わったおかげでケビンさんはかけがえのないものを失うところでした。お金で解決できる事ではないので」
「ほう? 気風のいい奴だな! 気に入ったぜ! ガハハハ!」
値段がいくらを提示されようがあまり痛くはない。何しろブンドルの財産をたっぷり没収してるからね。それに、グラマスのマグジーさんが自分で住んでいた物件なら間違いはないだろう。
僕はデライラから借りて来たマジックバッグから取り出すフリをして、金貨の入った革袋を五つほど取り出して、テーブルに置いた。
「これで足りますか?」
「は? 全部金貨なら三つで十分だ」
マグジーさんが目を丸くしながらそう言う。良かった、足りるみたいだね。
「それなら、残りはケビンさんへの見舞金という事にしておいてください。それでは、僕はこれで」
僕はマグジーさんを部屋に残し退室した。職人ギルド本部のホールでは、ノワールとアーテルが待っている。彼女達と一緒に、今度は冒険者ギルド本部に行かなくちゃ。
例の火事場にいた、ブンドルに買収されていた官憲達の隊長、デライラは冒険者ギルドに突き出したんだって。まあ、官憲に突き出してもブンドルに汚染されている確率が高いしね。
その隊長がどうなったか聞きに行こうという訳だ。
▼△▼
「ショーンさん。こちらに見えたらお通しするよう、グランドマスターから言われておりますので、ご案内しますね」
冒険者ギルド本部に顔を出したら、目敏く見つけた受付のお姉さんにそう言われてしまった。ちなみにユーイングさんのラフな服装に小言を言っていたあのお姉さんだ。
僕はノワールとアーテルにアイコンタクトを取り、受付さんの後ろを歩く。二人も僕の後ろに続いたけど、警戒態勢だね。
「おう、よく来たな。ちょうど良かったぜ」
そう言って出迎えてくれたユーイングさん。しかし部屋の中には他にも人の気配がする。それに気にせず入室すると、悪意に満ちた視線が飛んできた。
「商業ギルドのグラマスのカートライトはもう知ってるだろ? んで、こちらは王都の治安や防災を司る部署のトップ、王都取締大臣のオニール侯爵だ」
悪意の視線はこの二人から飛んで来ていた。後ろでノワールとアーテルが殺気を出しそうになるが、僕は慌ててそれを抑えた。だってこの二人が殺気を垂れ流したら、普通の人は失神しちゃう。
「あの、なぜ僕が呼ばれたのか分かりませんけど、もう帰っていいですか? 視線が痛いので」
「なっ! なんだと貴様――」
「まあまあ、多分お前さんがここに来た用事とも関係がある事さ。まあ、そこに座ってくれ」
「はぁ……」
いきり立つオニール侯爵とやらを宥めるユーイングさんが勧める席に着き、後ろにノワールとアーテルが控えて立つ。
「まったく、君はえらい事をしてくれたな!」
まずは商業ギルドのグランドマスター、カートライトさん。
「そうだぞ貴様! 貴様のした事は到底許される事ではないぞ!」
そしてオニール侯爵。二人共剣幕が普通じゃない。まさに激怒状態だ。さて、何に関して怒っているのやら。
0
お気に入りに追加
2,181
あなたにおすすめの小説
異世界八険伝
AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ!
突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
慟哭の時
レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。
各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。
気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。
しかし、母には旅をする理由があった。
そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。
私は一人になったのだ。
誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか……
それから母を探す旅を始める。
誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……?
私にあるのは異常な力だけ。
普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。
だから旅をする。
私を必要としてくれる存在であった母を探すために。
私を愛してくれる人を探すために……
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる