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三章

ドワーフ初登場?

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 タッカーさんは無事ポー家を継ぎ、所領もそのまま引き継げる事になった。ただし、家格は伯爵から子爵に降格になった訳で、寄子の貴族も子爵位の家柄の人は独立するかも、なんて事を言ってたね。
 あと、当面の問題はケビンさん夫妻の衣食住だ。家と工房を一気に失ってしまってはね。そこで僕は、職人ギルドの本部へと足を運んできた。

「なるほど、事情は分かった。ちょっと待っててくれや」

 職人ギルドのグランドマスター、マグジーさんがそう言って、職員を呼び出して何か指示を出している。
 マグジーさんって、凄く珍しいドワーフ族の人なんだよね。ドワーフって、鉱山近くに里を作ってそこに住んで自給自足の生活をしている事が殆どらしい。
 滅多に人族が住む街に出て来る事はないし、個体の数も少ないからほとんど見かける事はない種族なんだけど、彼等の作った作品はどれも高品質で、物々交換で取引されているんだって。
 背は小さくて、ちょっと大きな子供くらい。だけど髪も髭も毛量が多くて、顔から出てるのは額から鼻くらいまで。でも全身筋肉の塊で、腕なんか丸太みたいだし胴体は酒樽みたいだ。
 職人として優秀なだけでなく、種族そのものがパワーファイターで、人族もドワーフとは事を構えようとは考えないらしいね。
 昔、ドワーフの持つ技術を奪おうとした人族の王がいたらしいけど、屈強なドワーフの戦士が優れた武器や防具を装備して抗った結果、手痛い敗北を喫したんだって。それ以来、人族とドワーフ族は互いに不干渉、ただし、交易だけは物々交換にて行うのが暗黙のルールになったみたい。
 
「ウチの構成員の職人を助けてもらったんだ。いい物件を探しといてやる。ブンドルの野郎も屋敷に籠って出て来ねえみてえだしな! ガハハ!」

 少し雑談をしながら出されたお茶で喉を潤していると、先程マグジーさんに指示を受けていた職員さんが何やら書類を持って入室してきた。

「今空いてる物件はコイツだな。場所も中々だしよ!」

 マグジーさんは一枚の見取り図を差し出してきた。
 二階建て。一階の道路に面したスペースは店舗として使えるし、奥にも作業スペースになりそうな広い部屋がある。
 良く見れば炉のようなものもあるね。鍛冶も出来るのか。

「風呂やキッチン、居住スペースなんてのは全部二階にある。敷地内の井戸から水を組み上げる機構があるから大丈夫だよ」

 マグジーさんが自慢気に言う。確かにそれは凄いな。ドワーフの技術なのかな?

「なんせ、昔俺が住んでた場所だからよ! 折り紙付きの物件だぜ!」

 なるほど、じゃあそこにはマグジーさんの持つ技術があちこちにつぎ込まれているんだね。ドヤ顔になっているのも納得。

「分かりました。じゃあここでお願いします」
「ってお前、値段も聞かねえで決めちまうのか!?」
「ええ。僕と関わったおかげでケビンさんはかけがえのないものを失うところでした。お金で解決できる事ではないので」
「ほう? 気風のいい奴だな! 気に入ったぜ! ガハハハ!」

 値段がいくらを提示されようがあまり痛くはない。何しろブンドルの財産をたっぷり没収してるからね。それに、グラマスのマグジーさんが自分で住んでいた物件なら間違いはないだろう。
 僕はデライラから借りて来たマジックバッグから取り出すフリをして、金貨の入った革袋を五つほど取り出して、テーブルに置いた。

「これで足りますか?」
「は? 全部金貨なら三つで十分だ」

 マグジーさんが目を丸くしながらそう言う。良かった、足りるみたいだね。

「それなら、残りはケビンさんへの見舞金という事にしておいてください。それでは、僕はこれで」

 僕はマグジーさんを部屋に残し退室した。職人ギルド本部のホールでは、ノワールとアーテルが待っている。彼女達と一緒に、今度は冒険者ギルド本部に行かなくちゃ。
 例の火事場にいた、ブンドルに買収されていた官憲達の隊長、デライラは冒険者ギルドに突き出したんだって。まあ、官憲に突き出してもブンドルに汚染されている確率が高いしね。
 その隊長がどうなったか聞きに行こうという訳だ。

▼△▼

「ショーンさん。こちらに見えたらお通しするよう、グランドマスターから言われておりますので、ご案内しますね」

 冒険者ギルド本部に顔を出したら、目敏く見つけた受付のお姉さんにそう言われてしまった。ちなみにユーイングさんのラフな服装に小言を言っていたあのお姉さんだ。
 僕はノワールとアーテルにアイコンタクトを取り、受付さんの後ろを歩く。二人も僕の後ろに続いたけど、警戒態勢だね。

「おう、よく来たな。ちょうど良かったぜ」

 そう言って出迎えてくれたユーイングさん。しかし部屋の中には他にも人の気配がする。それに気にせず入室すると、悪意に満ちた視線が飛んできた。

「商業ギルドのグラマスのカートライトはもう知ってるだろ? んで、こちらは王都の治安や防災を司る部署のトップ、王都取締大臣のオニール侯爵だ」

 悪意の視線はこの二人から飛んで来ていた。後ろでノワールとアーテルが殺気を出しそうになるが、僕は慌ててそれを抑えた。だってこの二人が殺気を垂れ流したら、普通の人は失神しちゃう。

「あの、なぜ僕が呼ばれたのか分かりませんけど、もう帰っていいですか? 視線が痛いので」
「なっ! なんだと貴様――」
「まあまあ、多分お前さんがここに来た用事とも関係がある事さ。まあ、そこに座ってくれ」
「はぁ……」

 いきり立つオニール侯爵とやらを宥めるユーイングさんが勧める席に着き、後ろにノワールとアーテルが控えて立つ。

「まったく、君はえらい事をしてくれたな!」

 まずは商業ギルドのグランドマスター、カートライトさん。

「そうだぞ貴様! 貴様のした事は到底許される事ではないぞ!」

 そしてオニール侯爵。二人共剣幕が普通じゃない。まさに激怒状態だ。さて、何に関して怒っているのやら。
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