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三章

そっちがその気なら……

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「一応聞きますけど、僕達に何か用ですか」

 その一言で、隠れていたつもりだったらしい連中が次々と姿を露わにしてきた。

「おお、随分集めたな。五十人以上はいるか?」
「ええ、六十八人ですね。もうここに向かっている者はいないので、これで全部でしょう」

 周囲を見渡してざっと人数を数えたアーテルと、正確に人数を把握していたノワール。このあたりに性格が出ていて面白いね。

「ショーン様、こやつらはどうするのかな?」

 いつもイケメンの涼し気な雰囲気を崩さないルークスがそう訊ねてくる。
 うーん、それは相手次第なんだけど。

「向こうがならこちらも容赦はいらないかな」
「ほっほ……この殺気、儂らをる気じゃぞい? こりゃあ皆殺しかの?」

 ルークスに対する僕の答えに、飄々とした態度でグランツが乗って来た。彼の言う通り、ここに集まった全員からひしひしと殺気が伝わってくる。怪我で済まそうなどとは欠片も思ってないよね、これは。

「ショーン……」

 その中で一人だけ、僕を心配しているのがデライラだ。彼女は僕が人を殺めるのを良しとしていない節がある。
 僕はダンジョンで彼女が所属していたパーティの弓使いを殺した。だけど彼女はそれ以上殺人を犯さないよう僕を諭したっけ。

「僕は僕と僕の大切なものを守るためには躊躇しないよ。それはプラチナランクなんかより大切な事だ」
「そう……分かったわ! あたしも容赦なしでいく!」

 僕の思いが伝わっているのか、デライラの表情が一変する。彼女の行動理念は僕を守る事にある。途中に道を誤ったけど、それも僕を死なせない為のものだった。そんな彼女だから、僕と共に自らの手を汚す事に対して覚悟を決めたんだろう。

(シルフ。ここに来た連中を逃がさないように、周囲に結界を張ってくれるかい? もちろん外部からの侵入も許しちゃダメだ)
(全く……貴様はこの精霊王を自分の眷属のように――わ、分かった分かった!)

 この場に僕達を襲撃に来た人間を誰一人として逃がすつもりはない。そのため影の中にいる精霊王シルフに風の結界を張るように頼んだんだけど、彼、いや、彼女かな? とにかくシルフは僕に使われる事が不服だったようで。
 でもそこへノワールから冷たい殺気が放たれた。というか、影の中っていうのは言わばノワールの世界の中と言っても過言じゃない。つまり、シルフは殺気の中にいるのと同じなんだろうね。慌てて僕に協力を申し出る。
 やがて、周囲で風が回転して壁を形成したのを感じ取ったのか、追跡者の集団の一人が凄んで来た。

「てめえ! 何をしやがった!」
「ちょっと邪魔が入らないように結界を張っただけですよ。あなた方が僕の敵じゃないならすぐに結界を解きますが」 

 その時、野太い男の悲鳴が上がった。

「腕が! 俺の腕がぁぁぁ!」

 どうやら不用意に風の結界に手を突っ込んだらしいね。てか、切断しちゃうほど鋭いやつなの?

(外から来る者に対しては強風で近付けんようにしてあるだけだ。危険はない)

 なるほど。回転して鋭い刃を発生させる結界を内側に、外側に対して強風を吹き出す結界を外側にした二重構造か。流石精霊王、魔法で再現するのはさぞかし大変だろう事をさらりとやってのける。

(ふふふ! もっと感心せい!)
「ああ、頼りにしてるよ」

 僕とシルフがそんなやり取りをしている間にも、追跡者達は僕達を包囲する輪を縮めて来た。

「けっ! 結界だろうが何だろうがぁ、術者のてめえをブッ殺せば何て事ぁねえ。だろぉ~?」
「あ、あなたは確か暴風さんでしたっけ? まだ凝りてないんですか?」

 追跡者の中から一人が進み出て、中々まともな事を言うと思ったら、以前第二区画のギルドで揉めたゴールドランクの冒険者だった。うん、名前、なんだっけ?

「ご主人様。確かアナークかと」

 ノワールがそっと耳打ちして教えてくれた。そっか、まあどうでもいいんだけどね。

「つまりあなた方は僕達を殺すつもりって事ですよね? ブンドルの差し金ですか?」
「へん! てめえがいくら強くてもぉ、この人数を相手にどうにか出来るとおもっ――!?」

 うるさいな。殺すつもりで来たならもう容赦する必要はない。僕は手にした双戟に魔力を流し、十文字に一気に振り抜いた。
 黒い魔力が刃となり、暴風のアナークを襲う。

「お見事です、ご主人様!」

 接近戦を予想していた者にとっては間合いの遥かに外。僕はそこから暴風のアナークの身体を四分割にした。
血も吹き出さない鋭い切り口に、ノワールが称賛の声を上げた。

「さあ、始めようか。どちらが狩る側かを教えてやろう」

 その一声で、他の五人も戦闘態勢に入り、それぞれがターゲットを定めた。
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