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三章

擦り合わせ

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「それで、女王陛下のところへ行ってたって訳か」

 ユーイングさんとの面会を終えた僕は宿に戻っていた。特に今日はもう予定もないし、ロビーのソファに座ってノワール達とのんびりお茶を喫していたんだけどね。
 そこへ別行動を取っていたデライラ達が帰ってきたんだけど、デライラが物凄く疲れた顔をしていたのが気になって、今日は何をしていたのか聞いてみたんだ。
 その結果がさっきの僕の台詞。

「どうも、グリペン侯爵の差し金であたしに例の宝剣が渡るようにしてたみたいなの」
「へえ、そりゃ凄い。で、貰ってきたの?」
「まさか。お断りしたわよ。あたしにはあんたに貰った魔剣改め聖剣があるし」

 デライラはそう言って、立て掛けてある片刃の両手剣を指差した。
 そうだった。僕が譲った剣に、ルークスが手を加えたんだよね。

「確かに光属性の魔法を発動できる剣だったけど、ハッキリ言ってあんたから貰った剣の方が高性能なのよ」
「それで、どうしたの?」
「陛下に押し付けてきたわ。ルークスが陛下に加護を与えてね」
「加護?」

 僕のいない所でなかなか濃い時間を過ごしていたらしいデライラから、次々と驚きの発言が出てくるね。光と闇に関しては国のトップである女王陛下なら知っているだろう。それならば加護を与える事くらいは問題ないという事か。
 そもそも加護とは何か。分かりやすいところでは四公家だ。それぞれが精霊王の加護を受けており、その属性魔法に限って威力が増すという恩恵が付く。
 しかしノワールやルークスのように眷属になった場合とは違い、精霊王の力全てを使う事が出来る訳ではない。逆に言えば僕はノワールに命じれば闇の大精霊としてのノワールの力を存分に振るう事も出来るんだけどね。
 それからもう一つ、加護というのは精霊側の判断で反故にもできる。もうコイツに加護を与えるはやーめた。そう判断したらそれだけで対象者の加護は消えちゃうって事だね。

「どうやら陛下はブンドルを排除したいらしいわ。そしてそのための戦力も」
「なるほど。それで宝剣を与えて君を取り込もうとした訳か」
「恐らくね」

 分かる話ではあるかな。タッカーさんがポー伯爵家のゴタゴタを報告する際にブンドルの横暴は伝えているだろうし、それに加えてグリペン侯爵の書状。そしてオスト公爵の口添え。この三つの貴族が味方に付いただけでもパワーバランスは幾分女王陛下に傾いたはずだ。

「そして未来のプラチナランカーのあんたも狙われてるわよ?」
「僕が?」
「ええ、根掘り葉掘り聞かれたわよ。答えられる範囲で答えたけど、ノワールとアーテルの正体は伏せてあるわ」

 どうも、ルークスとグランツの正体を明かしたら、女王陛下ですら平伏しようとしたみたいなんだよね。デライラは僕にも同じシチュエーションを再現させたいらしい。
 確かに大精霊と神獣を眷属にし、それに加えて風の精霊王シルフすら現在は僕の支配下にある。女王陛下と言えども抗えないだろうね。

「現段階では陛下は味方よ。少なくともブンドルを潰すまではね」
「そうだね。その後僕達を取り込んで何かを企んでいるのなら、ルークスの加護を外してしまえばいい」
「そういう事。だからあんたもブンドルを潰すまではトラブル起こさないでよ?」

 そう言われてもな。僕がトラブルを起こしてる訳じゃないよね? トラブルの方から勝手に寄ってくるんだよ。
 その事は口には出さず、僕は都合悪そうに頭を掻いた。それを見たデライラが苦笑する。

「それで、あんたの方はどうだったの?」
「ああ――」

 僕はユーイングさんから第二区画のギルド支部であった事を謝罪された事、そしてカートライトというギルマスと暴風とかいう二つ名の冒険者(もう名前も憶えてないや)をきっちりシメる事を約束された事を話した。

「それだけ?」

 わざわざギルド本部に、しかもグランドマスターが直々に呼び出しておきながら用向きがそれだけという事はないでしょ? そんな表情のデライラ。
 でもその他には特に……ああ、そう言えば。

「プラチナランク昇格試験についてなんだけどね」
「うんうん」

 これにはデライラも食い付いて来た。

「後悔しないようにやれって」
「何よそれ」
「分かんないよ」

 僕はユーイングさんに言われた事をそのまま伝えたんだけど、デライラは訳が分からないらしい。それはそうだよね。僕も分からない。

「ご主人様はご自分の思うがままに生きればそれで良いのではないでしょうか? 冒険者のランクなど、私共にとっては些細な事ですし」
「そうだな。主人はどんな立場になろうが我等の見る目は変わらん。親愛なる主人以外の何者でもない」

 ノワールもアーテルも嬉しい事を言ってくれる。この二人にとっては人間が決めた枠組みなんて、本当に些細な事なんだろうね。そう考えると、なんだか気楽になってきた。
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