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三章

商業ギルド本部

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「この区画には商業ギルドや各種生産に関わるギルドの本部もありますから、必要なものを購入する時は、そこでお店や職人を紹介してもらう事が出来ますよ」

 冒険者ギルド本部の受付嬢さんにそう言われ、簡単な王都の地図を貰った僕達は、宿屋に行く前に王都見物と洒落こんでいる。
 とは言っても、僕やデライラのような若い人の目を引くような露店や店舗はあまりなく、殆どが何かの本部とか商会の本社とか、そんな感じだ。それでも、精霊のノワールや神獣のアーテルは長い間世間に出ていなかったせいもあり、今まで見て来た街とは一線を画す都会の様子に興味深々みたいだ。彼女達が自由に暮らしていた昔とは、随分様変わりしているんだろうね。

「お、ここだね」
「へえ、なんだか随分と豪華というか、派手ね」

 僕達は貰った地図にマーキングしてある場所のひとつ、商業ギルド本部へとたどり着いた。建物の外観は何というか、華美、かな。
 全部で五層の建物で、各階の外壁が全て色が違う。まるで虹のようだと言えば聞こえはいいけど、街の景観には全くマッチしていない。出入口の上には大きな看板に『商業ギルド本部』と書かれているけど、それがまた……

「金色に塗られた看板なんて、豪華を通り越してなんだか下品ですね」

 ノワールがそう零した通り、看板は金箔が貼り付けられていて、あまり目にも優しくない。その金ぴかの看板もまた、カラフルな建物の外観と全然合っていないんだ。

「どうする? 入るのやめようか?」

 僕がみんなにそう提案すると、苦笑しながらもデライラが答えた。

「まあ、一応入ってみましょ?」
「そっか。じゃあみんな、くれぐれも短慮は起こさないようにね」

 なんだか嫌な予感がした僕は、皆にそう釘を刺した上で、この悪趣味な建物の扉を開いた。

▼△▼

 結果、入るんじゃなかったと後悔している僕がいる。

「どうして紹介すらダメなのよ! あたし達、お客さんなのよ!?」
「ですから、私共に言われても困ります。上からのお達しなので……」

 受付のお姉さんにがなり立てているのはデライラ。僕達は第二区画のお店や職人さんの工房を紹介してもらいに来ただけなんだけど、どうやら僕達――正確には僕を相手に商売する事を禁じているらしいね。
 まあ、誰が圧力を掛けているかは言わずもがなだけど。
 そんな受付とデライラの揉め事は、商業ギルド内にいる他の人達の注目を浴びた。そこへ一人の紳士がやってきた。歳の頃は六十絡み。仕立ての良さそうなスーツに身を包み、デライラの元へと来たところで立ち止まる。

「失礼します。ここでは他の皆様の商談の妨げとなりますので、別室でお話を伺います」

 紳士は口元に笑みを浮かべてそう言った。口調も柔和でいかにも好々爺といった雰囲気だけど、目が全然笑ってないんだよね。

「僕が行きます。リーダーは僕なので」
「ええ、構いませんよ? ですが生憎と狭い部屋しか空いておりませんで。お一人だけになりますが」
「分かりました。大丈夫です」

 こうして僕は別室へ案内された。
 派手な外観とは裏腹の、飾り気も装飾品も一切ない、窓と机、そして椅子があるだけの部屋。恐らくあまり重要じゃない客を相手にする時の部屋なんだろうね。さっきの受付さんとは別の人がお茶を運んで来たんだけど、机に置いたのは紳士の分だけ。

「私はルーブリム王国商業ギルド本部のグランドマスター、カートライトと申します」
「僕は冒険者のショーンです」

 お互いに自己紹介をしながら握手を交わす。僕が名乗った時、カートライトさんの眉がピクリと動いたね。

「早速ですが、先程はどういったトラブルが?」

 やはり口元に笑みを貼り付けたまま、カートライトさんが口を開いた。というか、よくもまあしゃあしゃあと。僕がショーンだという時点でお察しだろうに。

「その前に、この部屋の中にいるあの人達は何です?」

 そう、僕とカートライトさん以外に、この部屋には武装した男が四人いる。二人は僕とカートライトさんが向かい合った机の両サイドに立ち、残る二人は出口を塞ぐように立つ。

「なに、私共も逆恨みされる事も多くてですね……ちょっとした護衛のようなものです。まあ、置物だと思って下さればよろしいですよ」
「逆恨み、ねえ……」

 つい、本当についなんだけど、この人が言う逆恨みが本当に逆恨みなのか疑わしくて口に出してしまった。カートライトさんの口元から笑みが消え、護衛の四人が殺気立つのが分かる。
 見たところ護衛の四人は大した腕前じゃないみたいだし、僕一人でも制圧は簡単だ。影収納に武器もあるしね。
 相手は丸腰の僕が一人だけ、と高を括っているのかもしれないけど、既にノワールとアーテルが影の中に潜っているんだ。僕の仕事はむしろ彼女達を抑える事になりそうだ。
 それでも、ある程度は僕の力を見せつけておいた方が交渉が有利に進められると思う。

「あまり殺気を向けないでもらえますか?」

 そう言いながら僕は、自在に扱えるようになった風の精霊に命じる。この部屋の中を風の障壁で包み込めと。
 それは濃密な魔力を感じさせるには十分で、護衛の四人とカートライトは冷や汗を流し始めた。

「僕は戦いが本職の冒険者です。ついうっかりを切り刻んでしまうかもしれないので」

 僕はニッコリと口角を吊り上げた。ただし、目は笑っていないけどね。
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