上 下
104 / 206
二章

オスト領に別れを告げて

しおりを挟む
第二章完結です!


*****


 僕は残滓と呼ばれた魔法使いウィザードだ。
 僕が拠点にしていた街に戻れば、未だにその二つ名で呼ぶ人は多い。
 せっかく有り余る魔力を持ちながら、使える魔法は初歩の初歩。ウィザードの中でも落ちこぼれ、まるで残りカスのような存在。それが僕が残滓と呼ばれるようになった所以。
 いくら鍛錬しようが努力しようが、精霊達が協力してくれなければ魔法は発動しない。それでも僕は諦める事はなかった。
 魔力というのは使えば使うほど保有量が増えていく。戦士職と比べて魔法使い系は年老いても一線で活躍できるのはその為だ。僕の場合はどんな小さな魔法でも、膨大な魔力を注ぎ込んで漸く精霊の協力を得られるという感じだったので、保有する魔力量だけは一級品だ。
 ノワールが復活してからは、霊格の違いからノワールが他の属性の精霊にいう事を聞かせる形で魔法を行使できるようになったけど、それでも精霊にしてみれば無理矢理感が強い。仕方なく魔法発動に協力しているというのが何となく感じられた。

「こやつの魔力は底なしだ。その魔力の八割は闇属性に特化しておるが、私の封印が解けた今、風属性の魔法なら問題なく使えるだろう。残りの二割ですら常人に域を外れておるしな」

 シルフが言う通り、風の精霊達の魔力をスムーズに取り込めるし、僕の魔力もまた精霊達に拒絶される事がない。そうか、これが普通のウィザードの感覚なのか。
 僕は右の手のひらの上で空気を回転させながら圧縮していき、球体を作り出してみた。空気弾エア・ブレットの一種だけど、空気を螺旋状に回転させたままだ。そしてそれを消し去る。さらにまた同じものを作りだす。それを何度か繰り返していたんだけど、周囲から好奇の眼差しが集中しているのを感じて思わず手を止める。

「え? なに?」
「貴殿は何をやっておるのだ……」
「何って、空気弾に回転運動を加えてそれを保持したまま形状を保つという……」

 半ば呆れ気味に聞いてきたオスト公に、今やっていた事を伝えた。

「貴様……熟練のウィザードでもそれほどの速度で形状を整え、しかも回転運動を維持したままの空気弾を繰り返し発動させるなど、そうそうおらんぞ」
「うむ。空気弾をその速度で作り出す事は可能だが、回転運動を維持した空気弾となると、かなりの時間を要する」

 別に普通の事と思っていたのであっさりと答えたけど、それは何気にとんでもない事だった事を、他でもない風魔法のエキスパートとでも呼ぶべき精霊王シルフと、オスト公に突っ込まれてしまった。
 回転させたのは単純にその方法が貫通力が高くなるからだし、今まで闇属性以外の魔法を発動させようとすると、本当に全身全霊で集中しなければダメだった。
 それが今は頭でイメージしただけで出来てしまう。若い頃から苦労しろとは人生の先達がよく言ってたけど、こういう事なのかなぁ。

「ご主人様は規格外のウィザードなのです。これくらい出来て当然なのです」

 タレ耳をパタパタさせながらノワールがドヤ顔だ。

「そうだ。この神狼たる我が仕えておるのだ。まともな人間である訳がなかろう」

 アーテルも大きな胸をブルンと震わせながら胸を張り僕を褒める。ん? 褒めてる?

「ねえ、シルフ。君をまともに戻したのは僕だけじゃない。彼女もだ」

 そう言って僕はデライラを見た。彼女は『え? あたし?』みたいな感じで自分を指差しているけど、彼女の眷属のルークスがいなければ、シルフを消し去らねばならなかったかもしれない。

「ふむ……そやつのジョブでは風魔法を使えぬな。光属性の魔法がどうにかと言ったところか」

 そうかぁ。彼女はソードファイターだもんね。

「それならば……」

 シルフが明滅すると、デライラの魔剣が薄緑に発光した。そしてその光が収まると、シルフが再び語る。

「その剣にいくらかの風魔法を仕込んでおいた。私はこれでまた暫く回復に努めるぞ」

 デライラの剣に魔法を仕込んだ事で、シルフの魔力が尽きかけたのだろう。再び影の中に入って眠りについたようだ。どうやらノワールが招き入れたらしい。確かに、安心して眠れる場所というならそうかも知れないね。

「……」
「……」

 シルフの出現で何やら騒がしくなってしまったけど、アレはアレで、僕達に対する謝罪のつもりだったのかも知れない。そして少しの間、僕とオスト公の間に沈黙が流れた。そして、オスト公の方が先に口を開いた。

「数日はのんびりしていくがよい。詫びの代わりという訳ではないが、歓待させてもらおう」
「ヴィルベルヴィントは?」
「責任を持って立ち直らせる」
「分かりました」

 そうまとめた時、窓から朝日が差し込んできた。それを眩しそうに眺めたオスト公が言う。

「今日はゆるりと休むがよい」

 そう言えば、夜通し戦ってたもんね。僕等も眠ろうか。

△▼△

 僕達はオスト公の好意で三日間身体を休め、オスト領内の観光やオストバーグでの買い物を楽しんだ。タッカーさんの護衛で来ているとは言え、少しくらいは旅の醍醐味を味わってもいいんじゃないかな?
 そしていよいよ王都へ向けて出立の日。

「皆さん。私は『風のオスト家』に恥じないよう、一から出直すつもりです。それこそが皆さんに対する何よりの謝罪になるのではと」

 ルークスの治癒魔法によって回復したヴィルベルヴィントがそう言って深々と頭を下げた。

『うむ。貴様の行い一つでこのオストバーグが吹き飛ぶと知れ。努々忘れぬようにな』

 まだ影の中で回復中のシルフがそう語る。それにヴィルベルヴィント、更にはオスト公も頭も下げた。
 今回のヴィルベルヴィントの一件は、老齢のオスト公の跡継ぎが他にいない事から、彼を更生させて僕達の味方に引き込む方向で纏まった。無論、王家への報告はなしだね。

「ショーン殿」
「何でしょう?」

 ここでオスト公が声を掛けてきた。

「必ずプラチナランカーになるのだ。それは単なる肩書以上のものを君にもたらすはずだ」
「はい」
「今はまだ意味が分からんかも知れぬが、いずれ分かる時が来よう」
「ご期待に沿えるよう精進します」

 僕の返事に、オスト公がフッと笑みを零した気がした。
 そして僕達はタッカーさんの護衛の兵達と共に、オスト領を後にした。
 さあ、この先はもう王都だね。楽しみだ。色々とね。


*****


 第三章開始まで、暫くお時間を頂きます(m´・ω・`)m ゴメン…
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

王国冒険者の生活(修正版)

雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。 雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。 そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。 ※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...