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二章
オスト領に別れを告げて
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第二章完結です!
*****
僕は残滓と呼ばれた魔法使いだ。
僕が拠点にしていた街に戻れば、未だにその二つ名で呼ぶ人は多い。
せっかく有り余る魔力を持ちながら、使える魔法は初歩の初歩。ウィザードの中でも落ちこぼれ、まるで残りカスのような存在。それが僕が残滓と呼ばれるようになった所以。
いくら鍛錬しようが努力しようが、精霊達が協力してくれなければ魔法は発動しない。それでも僕は諦める事はなかった。
魔力というのは使えば使うほど保有量が増えていく。戦士職と比べて魔法使い系は年老いても一線で活躍できるのはその為だ。僕の場合はどんな小さな魔法でも、膨大な魔力を注ぎ込んで漸く精霊の協力を得られるという感じだったので、保有する魔力量だけは一級品だ。
ノワールが復活してからは、霊格の違いからノワールが他の属性の精霊にいう事を聞かせる形で魔法を行使できるようになったけど、それでも精霊にしてみれば無理矢理感が強い。仕方なく魔法発動に協力しているというのが何となく感じられた。
「こやつの魔力は底なしだ。その魔力の八割は闇属性に特化しておるが、私の封印が解けた今、風属性の魔法なら問題なく使えるだろう。残りの二割ですら常人に域を外れておるしな」
シルフが言う通り、風の精霊達の魔力をスムーズに取り込めるし、僕の魔力もまた精霊達に拒絶される事がない。そうか、これが普通のウィザードの感覚なのか。
僕は右の手のひらの上で空気を回転させながら圧縮していき、球体を作り出してみた。空気弾の一種だけど、空気を螺旋状に回転させたままだ。そしてそれを消し去る。さらにまた同じものを作りだす。それを何度か繰り返していたんだけど、周囲から好奇の眼差しが集中しているのを感じて思わず手を止める。
「え? なに?」
「貴殿は何をやっておるのだ……」
「何って、空気弾に回転運動を加えてそれを保持したまま形状を保つという……」
半ば呆れ気味に聞いてきたオスト公に、今やっていた事を伝えた。
「貴様……熟練のウィザードでもそれほどの速度で形状を整え、しかも回転運動を維持したままの空気弾を繰り返し発動させるなど、そうそうおらんぞ」
「うむ。空気弾をその速度で作り出す事は可能だが、回転運動を維持した空気弾となると、かなりの時間を要する」
別に普通の事と思っていたのであっさりと答えたけど、それは何気にとんでもない事だった事を、他でもない風魔法のエキスパートとでも呼ぶべき精霊王シルフと、オスト公に突っ込まれてしまった。
回転させたのは単純にその方法が貫通力が高くなるからだし、今まで闇属性以外の魔法を発動させようとすると、本当に全身全霊で集中しなければダメだった。
それが今は頭でイメージしただけで出来てしまう。若い頃から苦労しろとは人生の先達がよく言ってたけど、こういう事なのかなぁ。
「ご主人様は規格外のウィザードなのです。これくらい出来て当然なのです」
タレ耳をパタパタさせながらノワールがドヤ顔だ。
「そうだ。この神狼たる我が仕えておるのだ。まともな人間である訳がなかろう」
アーテルも大きな胸をブルンと震わせながら胸を張り僕を褒める。ん? 褒めてる?
「ねえ、シルフ。君をまともに戻したのは僕だけじゃない。彼女もだ」
そう言って僕はデライラを見た。彼女は『え? あたし?』みたいな感じで自分を指差しているけど、彼女の眷属のルークスがいなければ、シルフを消し去らねばならなかったかもしれない。
「ふむ……そやつのジョブでは風魔法を使えぬな。光属性の魔法がどうにかと言ったところか」
そうかぁ。彼女はソードファイターだもんね。
「それならば……」
シルフが明滅すると、デライラの魔剣が薄緑に発光した。そしてその光が収まると、シルフが再び語る。
「その剣にいくらかの風魔法を仕込んでおいた。私はこれでまた暫く回復に努めるぞ」
デライラの剣に魔法を仕込んだ事で、シルフの魔力が尽きかけたのだろう。再び影の中に入って眠りについたようだ。どうやらノワールが招き入れたらしい。確かに、安心して眠れる場所というならそうかも知れないね。
「……」
「……」
シルフの出現で何やら騒がしくなってしまったけど、アレはアレで、僕達に対する謝罪のつもりだったのかも知れない。そして少しの間、僕とオスト公の間に沈黙が流れた。そして、オスト公の方が先に口を開いた。
「数日はのんびりしていくがよい。詫びの代わりという訳ではないが、歓待させてもらおう」
「ヴィルベルヴィントは?」
「責任を持って立ち直らせる」
「分かりました」
そうまとめた時、窓から朝日が差し込んできた。それを眩しそうに眺めたオスト公が言う。
「今日はゆるりと休むがよい」
そう言えば、夜通し戦ってたもんね。僕等も眠ろうか。
△▼△
僕達はオスト公の好意で三日間身体を休め、オスト領内の観光やオストバーグでの買い物を楽しんだ。タッカーさんの護衛で来ているとは言え、少しくらいは旅の醍醐味を味わってもいいんじゃないかな?
そしていよいよ王都へ向けて出立の日。
「皆さん。私は『風のオスト家』に恥じないよう、一から出直すつもりです。それこそが皆さんに対する何よりの謝罪になるのではと」
ルークスの治癒魔法によって回復したヴィルベルヴィントがそう言って深々と頭を下げた。
『うむ。貴様の行い一つでこのオストバーグが吹き飛ぶと知れ。努々忘れぬようにな』
まだ影の中で回復中のシルフがそう語る。それにヴィルベルヴィント、更にはオスト公も頭も下げた。
今回のヴィルベルヴィントの一件は、老齢のオスト公の跡継ぎが他にいない事から、彼を更生させて僕達の味方に引き込む方向で纏まった。無論、王家への報告はなしだね。
「ショーン殿」
「何でしょう?」
ここでオスト公が声を掛けてきた。
「必ずプラチナランカーになるのだ。それは単なる肩書以上のものを君にもたらすはずだ」
「はい」
「今はまだ意味が分からんかも知れぬが、いずれ分かる時が来よう」
「ご期待に沿えるよう精進します」
僕の返事に、オスト公がフッと笑みを零した気がした。
そして僕達はタッカーさんの護衛の兵達と共に、オスト領を後にした。
さあ、この先はもう王都だね。楽しみだ。色々とね。
*****
第三章開始まで、暫くお時間を頂きます(m´・ω・`)m ゴメン…
*****
僕は残滓と呼ばれた魔法使いだ。
僕が拠点にしていた街に戻れば、未だにその二つ名で呼ぶ人は多い。
せっかく有り余る魔力を持ちながら、使える魔法は初歩の初歩。ウィザードの中でも落ちこぼれ、まるで残りカスのような存在。それが僕が残滓と呼ばれるようになった所以。
いくら鍛錬しようが努力しようが、精霊達が協力してくれなければ魔法は発動しない。それでも僕は諦める事はなかった。
魔力というのは使えば使うほど保有量が増えていく。戦士職と比べて魔法使い系は年老いても一線で活躍できるのはその為だ。僕の場合はどんな小さな魔法でも、膨大な魔力を注ぎ込んで漸く精霊の協力を得られるという感じだったので、保有する魔力量だけは一級品だ。
ノワールが復活してからは、霊格の違いからノワールが他の属性の精霊にいう事を聞かせる形で魔法を行使できるようになったけど、それでも精霊にしてみれば無理矢理感が強い。仕方なく魔法発動に協力しているというのが何となく感じられた。
「こやつの魔力は底なしだ。その魔力の八割は闇属性に特化しておるが、私の封印が解けた今、風属性の魔法なら問題なく使えるだろう。残りの二割ですら常人に域を外れておるしな」
シルフが言う通り、風の精霊達の魔力をスムーズに取り込めるし、僕の魔力もまた精霊達に拒絶される事がない。そうか、これが普通のウィザードの感覚なのか。
僕は右の手のひらの上で空気を回転させながら圧縮していき、球体を作り出してみた。空気弾の一種だけど、空気を螺旋状に回転させたままだ。そしてそれを消し去る。さらにまた同じものを作りだす。それを何度か繰り返していたんだけど、周囲から好奇の眼差しが集中しているのを感じて思わず手を止める。
「え? なに?」
「貴殿は何をやっておるのだ……」
「何って、空気弾に回転運動を加えてそれを保持したまま形状を保つという……」
半ば呆れ気味に聞いてきたオスト公に、今やっていた事を伝えた。
「貴様……熟練のウィザードでもそれほどの速度で形状を整え、しかも回転運動を維持したままの空気弾を繰り返し発動させるなど、そうそうおらんぞ」
「うむ。空気弾をその速度で作り出す事は可能だが、回転運動を維持した空気弾となると、かなりの時間を要する」
別に普通の事と思っていたのであっさりと答えたけど、それは何気にとんでもない事だった事を、他でもない風魔法のエキスパートとでも呼ぶべき精霊王シルフと、オスト公に突っ込まれてしまった。
回転させたのは単純にその方法が貫通力が高くなるからだし、今まで闇属性以外の魔法を発動させようとすると、本当に全身全霊で集中しなければダメだった。
それが今は頭でイメージしただけで出来てしまう。若い頃から苦労しろとは人生の先達がよく言ってたけど、こういう事なのかなぁ。
「ご主人様は規格外のウィザードなのです。これくらい出来て当然なのです」
タレ耳をパタパタさせながらノワールがドヤ顔だ。
「そうだ。この神狼たる我が仕えておるのだ。まともな人間である訳がなかろう」
アーテルも大きな胸をブルンと震わせながら胸を張り僕を褒める。ん? 褒めてる?
「ねえ、シルフ。君をまともに戻したのは僕だけじゃない。彼女もだ」
そう言って僕はデライラを見た。彼女は『え? あたし?』みたいな感じで自分を指差しているけど、彼女の眷属のルークスがいなければ、シルフを消し去らねばならなかったかもしれない。
「ふむ……そやつのジョブでは風魔法を使えぬな。光属性の魔法がどうにかと言ったところか」
そうかぁ。彼女はソードファイターだもんね。
「それならば……」
シルフが明滅すると、デライラの魔剣が薄緑に発光した。そしてその光が収まると、シルフが再び語る。
「その剣にいくらかの風魔法を仕込んでおいた。私はこれでまた暫く回復に努めるぞ」
デライラの剣に魔法を仕込んだ事で、シルフの魔力が尽きかけたのだろう。再び影の中に入って眠りについたようだ。どうやらノワールが招き入れたらしい。確かに、安心して眠れる場所というならそうかも知れないね。
「……」
「……」
シルフの出現で何やら騒がしくなってしまったけど、アレはアレで、僕達に対する謝罪のつもりだったのかも知れない。そして少しの間、僕とオスト公の間に沈黙が流れた。そして、オスト公の方が先に口を開いた。
「数日はのんびりしていくがよい。詫びの代わりという訳ではないが、歓待させてもらおう」
「ヴィルベルヴィントは?」
「責任を持って立ち直らせる」
「分かりました」
そうまとめた時、窓から朝日が差し込んできた。それを眩しそうに眺めたオスト公が言う。
「今日はゆるりと休むがよい」
そう言えば、夜通し戦ってたもんね。僕等も眠ろうか。
△▼△
僕達はオスト公の好意で三日間身体を休め、オスト領内の観光やオストバーグでの買い物を楽しんだ。タッカーさんの護衛で来ているとは言え、少しくらいは旅の醍醐味を味わってもいいんじゃないかな?
そしていよいよ王都へ向けて出立の日。
「皆さん。私は『風のオスト家』に恥じないよう、一から出直すつもりです。それこそが皆さんに対する何よりの謝罪になるのではと」
ルークスの治癒魔法によって回復したヴィルベルヴィントがそう言って深々と頭を下げた。
『うむ。貴様の行い一つでこのオストバーグが吹き飛ぶと知れ。努々忘れぬようにな』
まだ影の中で回復中のシルフがそう語る。それにヴィルベルヴィント、更にはオスト公も頭も下げた。
今回のヴィルベルヴィントの一件は、老齢のオスト公の跡継ぎが他にいない事から、彼を更生させて僕達の味方に引き込む方向で纏まった。無論、王家への報告はなしだね。
「ショーン殿」
「何でしょう?」
ここでオスト公が声を掛けてきた。
「必ずプラチナランカーになるのだ。それは単なる肩書以上のものを君にもたらすはずだ」
「はい」
「今はまだ意味が分からんかも知れぬが、いずれ分かる時が来よう」
「ご期待に沿えるよう精進します」
僕の返事に、オスト公がフッと笑みを零した気がした。
そして僕達はタッカーさんの護衛の兵達と共に、オスト領を後にした。
さあ、この先はもう王都だね。楽しみだ。色々とね。
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