95 / 206
二章
まずは時間稼ぎ
しおりを挟む
僕は刃に闇属性の魔力を纏わせた短双戟で、シルフに接近戦を挑んだ。霊体相手の戦いにおいて、通常の物理攻撃は全く意味を成さないけど、僕の武器は魔法陣を刻んだお手製の魔戟だ。多少なりともダメージは通るだろう。
それと接近戦を挑む理由は別にある。ヤツの全く前兆のない魔法攻撃だ。
これが火魔法や水魔法といった目視出来るものならばまだしも、風や空気を操る魔法は見えないからね。魔法を撃たせない距離で戦うのが良策だろう。
ともあれ、ヤツは僕の武器が魔改造されたものだとは分からないはずだ。初撃でいくらでも大ダメージを与えるべく、僕は全力で斬り込んだ。
「ふ、そんな物理攻撃が通用する訳が――むっ!?」
ちっ、気付かれたか。シルフは咄嗟に風の障壁を張り巡らせ、僕の斬撃を弾いた。
「貴様、面白い武器を持っているな。まさか魔剣の類とは。しかも纏わせているのは闇の魔力か。何者だ?」
「さあ? あなたの敵だって事は間違いないですね」
適当に答えをはぐらかしながら、接近戦を挑む。ヤツが僕を見くびって、この戦法に付き合ってくれている今がチャンスだ。
「そうか、貴様は闇属性のウィザードか。ならばそうやって武器を振り回して戦う以外に道はなかろうな!」
「くっ!」
僕の攻撃を弾きながら、ヤツはカウンターを狙うように突きや蹴りを繰り出してくる。しかもその一撃一撃に風魔法を纏わせているのだからタチが悪い。掠っただけでも僕は吹き飛んでしまうだろう。
でも僕にも有利な点がある。それはヤツが闇の大精霊の復活に気付いていないという事だ。だから僕が魔法を使えないと思い込んでいる。
それなら僕は今の内に色々と仕込ませてもらおう。
シルフとギリギリの接近戦をしながら、魔法を行使していく。もっとも、今ヤツにブチ当てる為のものじゃない。影収納の中に炎弾を準備しておくのだ。十個、二十個、いやもっとだ。
僕が闇属性のウィザードで、それを逆手に取った伏線を張っている事に気付いていないシルフは、僕との接近戦をまるでウォーミングアップでもするかのように楽しんでいるようにも見える。ただの霊体のあつまりで、表情なんかも窺いようがないけれど、きっとヤツはニヤニヤと笑いながら僕の攻撃を捌いているんだろう。
そもそも、アーテルの身体が消えている事にすら気付いていないとか、迂闊すぎると思うんだが。いや、闇魔法が発動出来ないと思い込んでいるし、そもそもその強大すぎる力のせいで、細かい事は気に留めていないのかもしれない。
どちらにしろ、状況だけは僕に有利に傾いている。実力差は天と地ほどの差があってもね。
そしてもう一つ。僕の魔力が物凄いスピードで減っている事。これは魔法を行使しているせいじゃない。恐らく影の中で、ノワールとアーテルが復活しようとしている。そのために僕の魔力を喰っているんだ。
二人が復活してくれれば。それまで時間を稼げば。
「僕にも勝機はある!」
僕はヤツの障壁ごと突き破るつもりで、渾身の左右二連突きを繰り出した。短双戟の穂先には、小規模な爆発を起こす火球を仕込んである。
――ボン! ボン!
「!?」
僕の全力の突きもヤツの障壁を突破する事は出来ず、火球だけが爆発する。でも僕が魔法を使えないと思い込んでいたシルフは一瞬驚いたようだ。そして空に舞い上がっていく。身体強化を施した僕が全力でジャンプしても届くかどうか。館の四階の壁を背に、こちらを睨んでいる。
「よもや火属性魔法も使えようとはな。そうと分かればもう遊びは終わりだ」
ダメージはあるかどうか不明だけど、やはり魔法による攻撃は精霊王であっても油断は出来ないらしい。もうどこから攻撃されているのか分からないくらい、全方位から風の刃、空気の塊、または空気を鋭い槍のようにしたものだろうか。僕を切り刻み、叩き潰し、突き刺そうと襲ってくる。
そもそも見えないものだ。辛うじて魔力を感じるくらいが関の山。躱すなんて不可能に近い。いくつか被弾した僕は致命傷にならないようにガードしながら、周囲が土煙に覆われるの待つ。
そしてその時は来た。
「おお、手酷くやられたな、主人よ」
「なに、見た目だけだよ。君ほどじゃない」
土煙に紛れて影の中に隠れた僕は、幾分元気を取り戻したアーテルに迎えられる。確かに血だらけだからね。相当なダメージを受けているように見えるかもしれない。
取り敢えずこの影の中は別の次元と言っていいだろう。他者が干渉する事はできない安全な空間だ。この中で簡単な治療を施した。
「で、どうだ?」
「ははは。流石は精霊王だね。僕一人じゃここまで時間稼ぎするのが精いっぱいだよ」
「一人の人間が精霊王に抗える時点で異常な事だぞ、主人よ」
僕のそんな返しに、呆れたようにアーテルは言う。でも、善戦出来ても勝てなきゃ意味がない。
「ヤツを倒すには、君とノワールの力が必要だ」
「うむ、あと少しで回復する。任せておけ」
僕に頼られているのが嬉しいのか、彼女は狼の姿でニカッと笑う。なかなか獰猛な表情だが頼もしいね。
それと接近戦を挑む理由は別にある。ヤツの全く前兆のない魔法攻撃だ。
これが火魔法や水魔法といった目視出来るものならばまだしも、風や空気を操る魔法は見えないからね。魔法を撃たせない距離で戦うのが良策だろう。
ともあれ、ヤツは僕の武器が魔改造されたものだとは分からないはずだ。初撃でいくらでも大ダメージを与えるべく、僕は全力で斬り込んだ。
「ふ、そんな物理攻撃が通用する訳が――むっ!?」
ちっ、気付かれたか。シルフは咄嗟に風の障壁を張り巡らせ、僕の斬撃を弾いた。
「貴様、面白い武器を持っているな。まさか魔剣の類とは。しかも纏わせているのは闇の魔力か。何者だ?」
「さあ? あなたの敵だって事は間違いないですね」
適当に答えをはぐらかしながら、接近戦を挑む。ヤツが僕を見くびって、この戦法に付き合ってくれている今がチャンスだ。
「そうか、貴様は闇属性のウィザードか。ならばそうやって武器を振り回して戦う以外に道はなかろうな!」
「くっ!」
僕の攻撃を弾きながら、ヤツはカウンターを狙うように突きや蹴りを繰り出してくる。しかもその一撃一撃に風魔法を纏わせているのだからタチが悪い。掠っただけでも僕は吹き飛んでしまうだろう。
でも僕にも有利な点がある。それはヤツが闇の大精霊の復活に気付いていないという事だ。だから僕が魔法を使えないと思い込んでいる。
それなら僕は今の内に色々と仕込ませてもらおう。
シルフとギリギリの接近戦をしながら、魔法を行使していく。もっとも、今ヤツにブチ当てる為のものじゃない。影収納の中に炎弾を準備しておくのだ。十個、二十個、いやもっとだ。
僕が闇属性のウィザードで、それを逆手に取った伏線を張っている事に気付いていないシルフは、僕との接近戦をまるでウォーミングアップでもするかのように楽しんでいるようにも見える。ただの霊体のあつまりで、表情なんかも窺いようがないけれど、きっとヤツはニヤニヤと笑いながら僕の攻撃を捌いているんだろう。
そもそも、アーテルの身体が消えている事にすら気付いていないとか、迂闊すぎると思うんだが。いや、闇魔法が発動出来ないと思い込んでいるし、そもそもその強大すぎる力のせいで、細かい事は気に留めていないのかもしれない。
どちらにしろ、状況だけは僕に有利に傾いている。実力差は天と地ほどの差があってもね。
そしてもう一つ。僕の魔力が物凄いスピードで減っている事。これは魔法を行使しているせいじゃない。恐らく影の中で、ノワールとアーテルが復活しようとしている。そのために僕の魔力を喰っているんだ。
二人が復活してくれれば。それまで時間を稼げば。
「僕にも勝機はある!」
僕はヤツの障壁ごと突き破るつもりで、渾身の左右二連突きを繰り出した。短双戟の穂先には、小規模な爆発を起こす火球を仕込んである。
――ボン! ボン!
「!?」
僕の全力の突きもヤツの障壁を突破する事は出来ず、火球だけが爆発する。でも僕が魔法を使えないと思い込んでいたシルフは一瞬驚いたようだ。そして空に舞い上がっていく。身体強化を施した僕が全力でジャンプしても届くかどうか。館の四階の壁を背に、こちらを睨んでいる。
「よもや火属性魔法も使えようとはな。そうと分かればもう遊びは終わりだ」
ダメージはあるかどうか不明だけど、やはり魔法による攻撃は精霊王であっても油断は出来ないらしい。もうどこから攻撃されているのか分からないくらい、全方位から風の刃、空気の塊、または空気を鋭い槍のようにしたものだろうか。僕を切り刻み、叩き潰し、突き刺そうと襲ってくる。
そもそも見えないものだ。辛うじて魔力を感じるくらいが関の山。躱すなんて不可能に近い。いくつか被弾した僕は致命傷にならないようにガードしながら、周囲が土煙に覆われるの待つ。
そしてその時は来た。
「おお、手酷くやられたな、主人よ」
「なに、見た目だけだよ。君ほどじゃない」
土煙に紛れて影の中に隠れた僕は、幾分元気を取り戻したアーテルに迎えられる。確かに血だらけだからね。相当なダメージを受けているように見えるかもしれない。
取り敢えずこの影の中は別の次元と言っていいだろう。他者が干渉する事はできない安全な空間だ。この中で簡単な治療を施した。
「で、どうだ?」
「ははは。流石は精霊王だね。僕一人じゃここまで時間稼ぎするのが精いっぱいだよ」
「一人の人間が精霊王に抗える時点で異常な事だぞ、主人よ」
僕のそんな返しに、呆れたようにアーテルは言う。でも、善戦出来ても勝てなきゃ意味がない。
「ヤツを倒すには、君とノワールの力が必要だ」
「うむ、あと少しで回復する。任せておけ」
僕に頼られているのが嬉しいのか、彼女は狼の姿でニカッと笑う。なかなか獰猛な表情だが頼もしいね。
0
お気に入りに追加
2,181
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~
ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。
あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。
現れた女神は言う。
「あなたは、異世界に飛んできました」
……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。
帰還の方法がないことを知り、女神に願う。
……分かりました。私はこの世界で生きていきます。
でも、戦いたくないからチカラとかいらない。
『どうせなら便利に楽させて!』
実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。
便利に生きるためなら自重しない。
令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!!
「あなたのお役に立てましたか?」
「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」
※R15は保険です。
※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる