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二章
闇vs風
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激しい戦いだった。
ヴィルベルヴィントが魔法を放ちながら距離を取って戦おうとするが、ノワールはそれを巧みに躱して接近戦を挑む。
先程もそうだったけど、ヴィルベルヴィントの魔法は人間が放つものとは違い、前兆がない。とにかくいきなり発動する。元々風魔法の強みというのは目視出来ないっていうのがあるんだけど、詠唱とか構え、魔力の集まりなんかを察知すればどうにか対処のしようはあるんだけど。
「貴様! なぜ躱せる!」
かなりの威力の風魔法を連発していながら、当たらない。ヴィルベルヴィントはその事にイラつきを感じているみたいだ。
そしてそのイラつきは隙になる。
「視えるからに決まっているでしょう?」
ノワールは表情を変えずに懐に入り込み、顎に向かって飛び膝蹴りを喰らわす。のけ反りながら宙を舞うヴィルベルヴィントが落下する位置には、腰を落として構えたアーテルがいた。
「ナイスだ」
落ちてきたヴィルベルヴィントに、絶妙のタイミングで右ストレートを叩き込む。かなりの勢いでノワールの元へ戻されてきたヤツを、今度は踵落としで地面にめり込ませる。
「ナイスです」
満面の笑みのアーテルと、無表情のノワールが互いにサムズアップする。中々いい絵面だけど、二人共殆ど加減をしてないよね。ヴィルベルヴィントの中身が精霊王シルフだからか。もはや器となっている彼の事などどうでもいいんだろうね。元より僕と僕の大事な人達以外の人間には、小指の先程も感心のない二人だ。
さて、地面にめり込んだヴィルベルヴィントはピクピク痙攣しているし、様子を見に行こうとしたその時だ。ヤツのめり込んでいる場所から異常な魔力の高まりを感じた。
「ノワール! アーテル!」
僕は警戒を呼び掛けようとしたけど……
「きゃああ!」
「うごぁ!?」
恐ろしく濃密な魔力が垂直に立ち昇る竜巻となり、二人を巻き込み弄ぶ。
「くそっ!」
僕はその竜巻に駆け寄るが、ほんの少し掠っただけで吹き飛ばされてしまった。
「ノワール! アーテル!」
竜巻の中でまるで木の葉のようになす術もなく舞う二人。やがてその姿は地面から巻き上げられた土や芝生に遮られ、見る事が出来なくなった。
やがて、質量を持つかのような竜巻は弱まり、ボトリ、ボトリとノワール、アーテルが地面に打ち付けられた。僕は急いで二人に駆け寄る。二人共竜巻の中でやられたのか、無数の深い切り傷がある。霊体のノワールは見た目に傷があるだけだけど、生身のアーテルは出血も酷い。
「フ、フフ……油断したわ」
アーテルが力なくそう呟くとそのまま気を失う。
「も、申し訳ございません、ご主人様……」
ノワールはそれだけ言うと、その身体は黒い靄となって霧散してしまう。そしてその靄は僕の身体に吸収されていった。僕の魔力を食って再生するのだろう。
取り敢えず、アーテルを影の中に隠した僕は短双戟を構え、めり込んでいるヴィルベルヴィントの方へ向き直る。
ヤツの身体から薄緑色の靄が立ち昇る。これは、ノワールと同じだ。この薄緑色の濃密な魔力、間違いない。風の精霊王シルフが具現化しようとしている。
このプレッシャーが恐ろしい。今すぐにでも逃げ出したいくらいだ。だけど、一つの感情がそれを許してくれない。
「ノワールとアーテルを傷付けたお前を許す訳にはいかない」
やがてはっきりとした人型になったシルフを見据えた僕は短双戟に魔力を流し込んだ。
「貴様、それは闇の魔力か」
薄緑の魔力が人の形となったそれは、ただ靄が集まっただけのもので目も口もない。だけどこっちを見ているのは分かるし言葉も発している。
「だとしたらどうなんだ?」
こいつは僕の大切な人達を傷付けた。必ず泣かしてやる。そんな僕の怒りが、そのまま黒いオーラのように身体から立ち昇っていた。そう、怒りを纏った僕の魔力が、抑えきれずに漏れ出してしまっている。
コイツは絶対に許さない。例え刺し違えてもだ。
ヴィルベルヴィントが魔法を放ちながら距離を取って戦おうとするが、ノワールはそれを巧みに躱して接近戦を挑む。
先程もそうだったけど、ヴィルベルヴィントの魔法は人間が放つものとは違い、前兆がない。とにかくいきなり発動する。元々風魔法の強みというのは目視出来ないっていうのがあるんだけど、詠唱とか構え、魔力の集まりなんかを察知すればどうにか対処のしようはあるんだけど。
「貴様! なぜ躱せる!」
かなりの威力の風魔法を連発していながら、当たらない。ヴィルベルヴィントはその事にイラつきを感じているみたいだ。
そしてそのイラつきは隙になる。
「視えるからに決まっているでしょう?」
ノワールは表情を変えずに懐に入り込み、顎に向かって飛び膝蹴りを喰らわす。のけ反りながら宙を舞うヴィルベルヴィントが落下する位置には、腰を落として構えたアーテルがいた。
「ナイスだ」
落ちてきたヴィルベルヴィントに、絶妙のタイミングで右ストレートを叩き込む。かなりの勢いでノワールの元へ戻されてきたヤツを、今度は踵落としで地面にめり込ませる。
「ナイスです」
満面の笑みのアーテルと、無表情のノワールが互いにサムズアップする。中々いい絵面だけど、二人共殆ど加減をしてないよね。ヴィルベルヴィントの中身が精霊王シルフだからか。もはや器となっている彼の事などどうでもいいんだろうね。元より僕と僕の大事な人達以外の人間には、小指の先程も感心のない二人だ。
さて、地面にめり込んだヴィルベルヴィントはピクピク痙攣しているし、様子を見に行こうとしたその時だ。ヤツのめり込んでいる場所から異常な魔力の高まりを感じた。
「ノワール! アーテル!」
僕は警戒を呼び掛けようとしたけど……
「きゃああ!」
「うごぁ!?」
恐ろしく濃密な魔力が垂直に立ち昇る竜巻となり、二人を巻き込み弄ぶ。
「くそっ!」
僕はその竜巻に駆け寄るが、ほんの少し掠っただけで吹き飛ばされてしまった。
「ノワール! アーテル!」
竜巻の中でまるで木の葉のようになす術もなく舞う二人。やがてその姿は地面から巻き上げられた土や芝生に遮られ、見る事が出来なくなった。
やがて、質量を持つかのような竜巻は弱まり、ボトリ、ボトリとノワール、アーテルが地面に打ち付けられた。僕は急いで二人に駆け寄る。二人共竜巻の中でやられたのか、無数の深い切り傷がある。霊体のノワールは見た目に傷があるだけだけど、生身のアーテルは出血も酷い。
「フ、フフ……油断したわ」
アーテルが力なくそう呟くとそのまま気を失う。
「も、申し訳ございません、ご主人様……」
ノワールはそれだけ言うと、その身体は黒い靄となって霧散してしまう。そしてその靄は僕の身体に吸収されていった。僕の魔力を食って再生するのだろう。
取り敢えず、アーテルを影の中に隠した僕は短双戟を構え、めり込んでいるヴィルベルヴィントの方へ向き直る。
ヤツの身体から薄緑色の靄が立ち昇る。これは、ノワールと同じだ。この薄緑色の濃密な魔力、間違いない。風の精霊王シルフが具現化しようとしている。
このプレッシャーが恐ろしい。今すぐにでも逃げ出したいくらいだ。だけど、一つの感情がそれを許してくれない。
「ノワールとアーテルを傷付けたお前を許す訳にはいかない」
やがてはっきりとした人型になったシルフを見据えた僕は短双戟に魔力を流し込んだ。
「貴様、それは闇の魔力か」
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「だとしたらどうなんだ?」
こいつは僕の大切な人達を傷付けた。必ず泣かしてやる。そんな僕の怒りが、そのまま黒いオーラのように身体から立ち昇っていた。そう、怒りを纏った僕の魔力が、抑えきれずに漏れ出してしまっている。
コイツは絶対に許さない。例え刺し違えてもだ。
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