上 下
82 / 206
二章

小さな別れと一蓮托生

しおりを挟む
 翌日、まだ自宅となる物件の準備が整わないマシューさん親子と、定宿で別れを告げた。

「寂しくなりますね。王都からお戻りの際は、是非お寄り下さいね」
「おにいちゃん、おねいちゃん……ぐすっ。ぜったいにまたきてね?」

 眉をハの字にして挨拶するマシューさんと、瞳に溜めた涙を袖でグイっと拭いながらこちらを見上げてくるリンちゃん。
 僕達も王都にそのまま移住するつもりはないし、用が済めば一度は戻って来るつもりだ。そうなればこのポーバーグも途中に寄る事になる。また会う機会は必ずあるだろう。
 しゃがんでリンちゃんと視線を合わせ、頭をぽふぽふしながら分かりやすいようにその事を告げると、漸くリンちゃんにも笑顔が戻った。

「うん! みんな、げんきでね!」

 宿の前で手を振りながら叫ぶリンちゃんと、その隣で僕達を見送るマシューさんに軽く手を振り、僕達は宿屋を後にした。
 ポーバーグの市街地を出たところで、タッカーさんの乗る豪華な箱馬車が見えてくる。それと比べるとややグレードが落ちる幌馬車が二台。そのうち一台は荷馬車のようだね。そしてそれを護衛する騎兵が二十騎。随分と大袈裟に感じてしまうけど、貴族が王都に向かうともなればこんなものなのかな? 
 ちなみにデライラ達はグリフォバーグから乗って来た馬があるので、タッカーさんの馬車に乗るのは僕とノワール、それにアーテル。そしてタッカーさんの護衛役のケルナーさんだ。グランツお爺ちゃんは箱馬車の御者席に便乗するらしい。

 僕達はタッカーさん達と挨拶を交わし、やや遠慮気味に馬車に乗り込んだ。流石は貴族御用達の馬車だ。シートはクッションが効いていて、長時間座っていてもあまり疲れないかも知れない。

「そんなに畏まらないでくれ。今回世話になるのは俺の方だからな」

 タッカーさんが浅黒い顔を綻ばせてそう言う。馬車の豪華さにビックリした僕達だけど、タッカーさん自身はいい意味で貴族らしくない。だからすぐに緊張は解れた。解れたついでに、馬車が動き出したタイミングで何気なく聞いてみる。

「僕には随分大がかりな隊列に思われるんですけど、貴族が王都に向かう時って、こんな感じなのですか?」

 それにタッカーさんがつまらなそうに答えた。

「家格によって多少の人数差はあるが、まあ大体こんなものだ。貴族の体面を保つ為っていう理由が主だが、あまり大軍勢を連れて行っても謀反を疑われる恐れもあるからな。まあ、多くても百人を超える事はない」

 そうなのかな? 護衛の騎馬だけで二十騎。見栄だけの問題なら騎馬だけでいい気がする。だけど後ろを走る幌馬車には、実の所更に十人程の歩兵も乗り込んでいる。これは外から見えないので、貴族の面子とかいうのとは別の理由がある筈だ。
「へえ……」

 恐らく全て真実を話している訳じゃないタッカーさんに、非難の意味も含めて後方の馬車に視線を送りながら気のない返事をして見せた。すると、タッカーさんは都合悪そうに目を逸らす。

「そもそも、兵が三十人もいるんですから、僕達の護衛は必要なかったのでは? この数の軍人相手に、仕掛けて来る盗賊なんかいないでしょう?」

 そんな僕の追及に、タッカーさんはお手上げとばかりに深く息を吐き、文字通り両手を上げて降参のポーズを取った。

「ふう、カンのいい奴だ。大きなメリットを差し出さない方が、逆に信頼を得る事が出来ると思ったんだがな」
「いやいや、僕が疑念を持ったのはこの編成を見てからですよ。こんなに兵隊さんを連れて行くとは思っていませんでしたから」

 これは言葉の通りで。この人数の兵を連れて行くなら僕等が護衛する必要性はないと思う。なのに、これくらいの編成は貴族として普通の事だという。ならば、僕等を護衛に雇ったのは何かしら道中に心配事があるって事でしょ?

「そうか。初めに言っておくべきだったか。家格に合わない多数の兵を連れて行くのは警戒される原因になるのはさっき言った通りだ」
「はい」
「お前のような規格外れにはピンと来ないかも知れないが、ブンドルのような大物商人の力というのは侮れない」
「……」

 僕はタッカーさんの言葉を反芻はんすうする。
 確かにブンドルの商会が私兵を数百も動かすのはそう簡単じゃないかもしれない。でも、今回マルセル・ポーに対してやったように、有力貴族に金を握らせて領軍を動かしたり暗殺しようとしたりは出来なくはないよなぁ。
 そして僕等がグリフォバーグに旅立った日に見た沢山の早馬。あれは各地の領主に送り込まれたものだと考えて間違いない。

「この先、悪事を知られる事を恐れたブンドルが、僕達を消しに来る可能性があるって事ですか」

 僕のこの言葉に、タッカーさんは無言で頷いた。
 貴族の家格だとか、そういうしがらみを抜きにして金にモノを言わせれば、数で圧し潰す事も可能。もしくは闇夜に紛れて暗殺。僕達だけならどうとでも出来るけど、タッカーさんは分からないもんね。

「お前は否定するだろうが、親父をのはお前じゃないかと思っている。それに、親父の暗殺部隊を手玉に取ったお前達なら、俺の道中も安全だと思ってな」

 なるほど、最初からそう言ってもらえれば、もっと信用出来たのになぁ。どうせ狙われる旅だし。でもまあいいか。グリペン侯爵への協力も取り付けたし、ここからは一蓮托生の旅と行きますか。
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

異世界はモフモフチートでモフモフパラダイス!

マイきぃ
ファンタジー
池波柔人は中学2年生。14歳の誕生日を迎える直前に交通事故に遭遇し、モフモフだらけの異世界へと転生してしまった。柔人は転生先で【モフった相手の能力を手に入れることのできる】特殊能力を手に入れた。柔人は、この能力を使ってモフモフハーレムを作ることができるのだろうか! ※主人公が突然モヒカンにされたり(一時的)、毛を刈られる表現があります。苦手な方はご注意ください。 モフモフな時に更新します。(更新不定期) ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 カバーイラストのキャラクターは 萌えキャラアバター作成サービス「きゃらふと」で作成しています。  きゃらふとhttp://charaft.com/ 背景 つくx2工房 多重投稿有

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

転生先は水神様の眷属様!?

お花見茶
ファンタジー
高校二年生の夏、私――弥生は子供をかばってトラックにはねられる。気がつくと、目の前には超絶イケメンが!!面食いの私にはたまりません!!その超絶イケメンは私がこれから行く世界の水の神様らしい。 ……眷属?貴方の?そんなのYESに決まってるでしょう!!え?この子達育てるの?私が?私にしか頼めない?もう、そんなに褒めたって何も出てきませんよぉ〜♪もちろんです、きちんと育ててみせましょう!!チョロいとか言うなや。 ……ところでこの子達誰ですか?え、子供!?私の!? °·✽·°·✽·°·✽·°·✽·°·✽·° ◈不定期投稿です ◈感想送ってくれると嬉しいです ◈誤字脱字あったら教えてください

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...