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二章
待っていたのは依頼ではなく呼び出し
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対面ベンチシートの馬車に揺られる事暫く。ポーバーグの街並み通り抜け、前方にポーバーグ城の城門が見えて来る。
城には門が二つあるが、こちらは正門。反対側には裏門があるが、そちらはポーバーグでもバックストリートとでも呼ぶべき地域となっており、どちらかと言えば脱出用に設けられたものではないかと推測できる。入り組んだ路地裏って、敵が攻めてきても道に迷いやすそうだしね。
馬車の中では和気あいあいとした雰囲気で、リンちゃんはアーテルの膝の上ではしゃいでいた。お城というものに入る機会なんてそうそうないだろうからね。
一人だけ、リンちゃんが膝に乗ってくれずにしょぼくれている爺さんがいたけどね。知恵の象徴とも言われた神獣なのに、ブレないなぁ。
やがて馬車が城門に辿り着き停車すると、門番が近付いてきた。僕は馬車を降り、用向きを伝える。
「冒険者のショーンです。ケルナーさんからここへ来るように伝言を受けて来ました」
「おお、聞いている。案内を呼ぶから少し待っていてくれ。それから帰りの馬車はこちらで用意するから、ギルドの馬車は戻ってくれて構わんという事だ」
僕達の話は通っていたようで、門番の人もすんなりと話を進めてくれた。少し待つと現れた案内の人に付いていき、城内を見物しながら進む。
前に伯爵暗殺の為に忍び込んだ時には殆ど見ていない城内だけど、改めて見るとグリフォバーグ城とは設計思想のようなものが随分と違うみたいだ。グリフォバーグは辺境最大の拠点なだけあって、都市全体が城壁に囲まれた要塞みたいなイメージだけど、このポーバーグは街の防衛にはあまり主眼を置いていない。
その代わり、城そのものは思ったより堅牢だ。城壁は高いし、敷地内にも軍事施設と思しき櫓や屯所が多くあり、領主が住む四層の館までの道も中々複雑だ。ダンジョンがないこの領地では、魔物より人間からの防衛を目的とした造りみたいだね。
右に左にと折れ曲がった通路を進み、漸く城の中心である四層の館へと到着した。館の扉もいかにも堅牢そうで、ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊れなそうだ。その扉の前でケルナーさんと、前に宿に来た護衛の二人が待っている。
「やあ、呼び出してすまない。ちょっと事情が変わってしまってな」
「ええ、それは構いませんが、一体どういう……?」
「うむ。とあるお方と会って話を聞いて欲しい」
とあるお方、か。察するに、マルセル・ポーの血縁者か、それに準ずる立場のお偉方だと思うんだけど、それが僕達に何の用だろ?
「詳しい話は俺も知らん。一介の軍人だからな。だが、これからお会いする方は悪いお人ではない」
館の中の廊下を歩きながら、ケルナーさんが、カラカラと笑いながらそう言う。
「それに、お前達が嫌だと言って駄々を捏ねても、俺達にはどうしようもできまい? 暗殺部隊の手練れを無傷で無力化するような奴らだからな?」
更に付け加えるように、悪戯っぽい笑顔を浮かべたケルナーさんが言った。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
――コンコン
一階のある部屋の前でケルナーさんが止まり、重厚そうな扉をノックすると、部屋の中からまだ若そうな男性の声が聞こえてきた。
「入れ」
「はっ!」
短く返事をしたケルナーさんが扉を開け、僕達を中へ入るよう促した。
「冒険者ショーン一行をお連れしました」
あはは。この場合は、商人マシューさん一行じゃないのかなぁ? 僕は雇われている訳だし。ま、いいか?
「うむ、こちらの勝手な都合にも関わらず、よく来てくれた。感謝する」
そう言って頭を下げたのは、二十代前半の男性だ。ブラウンの髪は短めで、日に焼けた肌をした顔は精悍だ。
「俺はタッカー・ポー。今の所ポー家の跡取りとなっている」
なるほど、そういう事か。まだ叙爵されていないとは言え、相手は貴族。僕達は胸に手を当て頭を下げた。それにしても、あんまり貴族らしくない人だな。言われてみれば気品のようなものはあるけど、どちらかと言えば軍人に近い雰囲気だ。
「分かっているとは思うが、俺は親父の汚いやり方に文句ばっかり言ってたお陰で疎まれてな。母上と一緒に郊外の屋敷に軟禁されていたのさ。それが親父の自殺騒ぎだ。急にお鉢が回って来たって訳さ」
タッカーさんが自嘲するように言った。そう言われても反応に困るんだけどね。
そんな僕の困惑を感じ取ったのか。タッカーさんが気さくに続ける。
「何しろ軟禁生活というのは暇でな。時間を見つけては外で剣術の訓練をしていた。お陰でこんなに浅黒くなってしまって、貴族らしさの欠片もなくなったよ」
それもまたどう反応していいのか分からないなぁ。でも、辛うじて。
「その方が領民には親しみやすいのではないでしょうか?」
お世辞やおべっかではなくて、これは本心だけども。すると、タッカーさんは表情を輝かせた。
「そうか! それはいい事を聞いた! 実は、今日来てもらった件と無関係でもない話でな」
そして、表情を引き締めたタッカーさんが席に座るように促した。彼の他にはケルナーさんと二人の護衛のみ。潜んでいる兵もいないようだ。もしいるならノワールが排除しているだろうし。
僕等に危害を加えるつもりがないのは明白だね。
「失礼します」
僕が席に着くと、他のメンバーも着席した。さて、どんな話が出るやら。
城には門が二つあるが、こちらは正門。反対側には裏門があるが、そちらはポーバーグでもバックストリートとでも呼ぶべき地域となっており、どちらかと言えば脱出用に設けられたものではないかと推測できる。入り組んだ路地裏って、敵が攻めてきても道に迷いやすそうだしね。
馬車の中では和気あいあいとした雰囲気で、リンちゃんはアーテルの膝の上ではしゃいでいた。お城というものに入る機会なんてそうそうないだろうからね。
一人だけ、リンちゃんが膝に乗ってくれずにしょぼくれている爺さんがいたけどね。知恵の象徴とも言われた神獣なのに、ブレないなぁ。
やがて馬車が城門に辿り着き停車すると、門番が近付いてきた。僕は馬車を降り、用向きを伝える。
「冒険者のショーンです。ケルナーさんからここへ来るように伝言を受けて来ました」
「おお、聞いている。案内を呼ぶから少し待っていてくれ。それから帰りの馬車はこちらで用意するから、ギルドの馬車は戻ってくれて構わんという事だ」
僕達の話は通っていたようで、門番の人もすんなりと話を進めてくれた。少し待つと現れた案内の人に付いていき、城内を見物しながら進む。
前に伯爵暗殺の為に忍び込んだ時には殆ど見ていない城内だけど、改めて見るとグリフォバーグ城とは設計思想のようなものが随分と違うみたいだ。グリフォバーグは辺境最大の拠点なだけあって、都市全体が城壁に囲まれた要塞みたいなイメージだけど、このポーバーグは街の防衛にはあまり主眼を置いていない。
その代わり、城そのものは思ったより堅牢だ。城壁は高いし、敷地内にも軍事施設と思しき櫓や屯所が多くあり、領主が住む四層の館までの道も中々複雑だ。ダンジョンがないこの領地では、魔物より人間からの防衛を目的とした造りみたいだね。
右に左にと折れ曲がった通路を進み、漸く城の中心である四層の館へと到着した。館の扉もいかにも堅牢そうで、ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊れなそうだ。その扉の前でケルナーさんと、前に宿に来た護衛の二人が待っている。
「やあ、呼び出してすまない。ちょっと事情が変わってしまってな」
「ええ、それは構いませんが、一体どういう……?」
「うむ。とあるお方と会って話を聞いて欲しい」
とあるお方、か。察するに、マルセル・ポーの血縁者か、それに準ずる立場のお偉方だと思うんだけど、それが僕達に何の用だろ?
「詳しい話は俺も知らん。一介の軍人だからな。だが、これからお会いする方は悪いお人ではない」
館の中の廊下を歩きながら、ケルナーさんが、カラカラと笑いながらそう言う。
「それに、お前達が嫌だと言って駄々を捏ねても、俺達にはどうしようもできまい? 暗殺部隊の手練れを無傷で無力化するような奴らだからな?」
更に付け加えるように、悪戯っぽい笑顔を浮かべたケルナーさんが言った。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
――コンコン
一階のある部屋の前でケルナーさんが止まり、重厚そうな扉をノックすると、部屋の中からまだ若そうな男性の声が聞こえてきた。
「入れ」
「はっ!」
短く返事をしたケルナーさんが扉を開け、僕達を中へ入るよう促した。
「冒険者ショーン一行をお連れしました」
あはは。この場合は、商人マシューさん一行じゃないのかなぁ? 僕は雇われている訳だし。ま、いいか?
「うむ、こちらの勝手な都合にも関わらず、よく来てくれた。感謝する」
そう言って頭を下げたのは、二十代前半の男性だ。ブラウンの髪は短めで、日に焼けた肌をした顔は精悍だ。
「俺はタッカー・ポー。今の所ポー家の跡取りとなっている」
なるほど、そういう事か。まだ叙爵されていないとは言え、相手は貴族。僕達は胸に手を当て頭を下げた。それにしても、あんまり貴族らしくない人だな。言われてみれば気品のようなものはあるけど、どちらかと言えば軍人に近い雰囲気だ。
「分かっているとは思うが、俺は親父の汚いやり方に文句ばっかり言ってたお陰で疎まれてな。母上と一緒に郊外の屋敷に軟禁されていたのさ。それが親父の自殺騒ぎだ。急にお鉢が回って来たって訳さ」
タッカーさんが自嘲するように言った。そう言われても反応に困るんだけどね。
そんな僕の困惑を感じ取ったのか。タッカーさんが気さくに続ける。
「何しろ軟禁生活というのは暇でな。時間を見つけては外で剣術の訓練をしていた。お陰でこんなに浅黒くなってしまって、貴族らしさの欠片もなくなったよ」
それもまたどう反応していいのか分からないなぁ。でも、辛うじて。
「その方が領民には親しみやすいのではないでしょうか?」
お世辞やおべっかではなくて、これは本心だけども。すると、タッカーさんは表情を輝かせた。
「そうか! それはいい事を聞いた! 実は、今日来てもらった件と無関係でもない話でな」
そして、表情を引き締めたタッカーさんが席に座るように促した。彼の他にはケルナーさんと二人の護衛のみ。潜んでいる兵もいないようだ。もしいるならノワールが排除しているだろうし。
僕等に危害を加えるつもりがないのは明白だね。
「失礼します」
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