64 / 206
二章
不穏な早馬
しおりを挟む
カッポカッポと長閑な蹄の音を響かせて街道を進む僕達の馬車を、早駆けで追い越していく馬がひっきりなしだ。
「ありゃあブンドル商会の早馬じゃないですかね。こりゃ目を付けられちゃいましたか」
今しがた追い越していった馬を見ながら、マシューさんが申し訳なさそうに言った。
「目を付けられたら何か不都合でもあるんでしょうか?」
僕は率直な疑問をぶつけてみた。商人の嫌がらせって、売買を拒むとか値段を吹っ掛けられるとか、そんな感じの事しか思い浮かばないなぁ。
別に僕達は自給自足でもなんとかやっていけるし、しばらくの間なら食い繋げるだけの食料もある。ねぐらは魔法でどうにかなるし、商売というものに関わらなくてもどうとでもなるんだよね。
つまり、商人に目を付けられたって、ああ、今日も空が青くて綺麗だなぁ。そんな感じだよ。
そんな僕の雰囲気を察したのか、マシューさんが苦笑しながら答えてくれた。でも内容は中々どうして、笑って済ませるような事柄じゃない。
「ヤツも言っていた通り、ブンドル商会はこの国でも指折りの大きな商会であるだけでなく、王家という後ろ盾もあります。それで大きな顔をしている訳なんですが――」
そこでマシューさんが一旦言い淀み、続けた。
「あくまでも噂ですが、官憲や軍、役人などにも金を握らせて、様々な悪事を握り潰しているらしいのです。それに、貴族もヤツの商会から借金をしている者も多いという話です」
「つまり、商人でありながらかなりの権力を握ってるって事なんですね?」
「そうです」
経済的な圧力よりも、むしろ荒事に巻き込まれる危険があるって事か。
僕はデライラが参加したクズパーティがやらかした一件から、身内に危害を及ぼそうとする存在に対して容赦がなくなってきているように思える。黒ウサギだったノワールが殺されたあの時を思うと、思わず殺気が漏れ出してしまうんだ。
「しょ、ショーンさん! すみませんが抑えてくれませんか。その殺気は私だけでなく馬も怯えてしまいます」
「す、済みません。でも、僕等は冒険者です。荒事の方が得意なのでご心配なく」
殺気に当てられてガクガクしているマシューさんに謝罪しながら、穏やかに返した。
「でも、マシューさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、私共は商人から足を洗いますし、田舎で自給自足の生活になりますから。問題ありませんよ。ただの村人に構っていられるほど王家御用達の商人が暇だとも思えませんし」
そんなものなのかな?
ああいうタイプって執念深そうだけど。
「どうしますか? トラブルを避けるなら街道を外れて進む選択肢もありますが、その分盗賊に襲われるリスクが高くなりますが」
ふうん?
不要なリスクを冒す必要はないというか、嫌がらせなら正面切って突破すればいい。伏兵の類ならノワールに任せておけば勝手に全滅させてくれるだろうし。
(……という訳で、このまま街道を進むから、警戒頼むよノワール)
(はい! お任せくださいご主人様)
ノワールと意識の中で会話をする。するとどうやらノワールは、昼寝をするとかなんとか言って、静かになったようだ。リンちゃんの相手はアーテルが引き受けているし問題ないだろう。むしろリンちゃんもお昼寝タイムになるかもしれない。
そして静かになったノワールはというと、馬車の影から意識を地中に走らせ、周囲を警戒しているようだ。そしてその警戒範囲はどんどん増えていく。
「このまま街道を堂々と進みましょう。問題ありません。それより、美味しい食事ができる宿をお願いしますよ?」
僕がマシューさんにそう言うと、彼はちょっとだけ呆れたような顔をして、笑いながら承諾した。
その後三日間ほどはグリペン侯爵領内だったせいか、大きなトラブルもなく進む事ができた。
ああ、大きなトラブルというのはブンドル商会の妨害の事で、魔物の襲撃や盗賊の待ち伏せなどはあったんだけどね。でもそれらは予めノワールが察知しているので、こちらから奇襲を仕掛けて殲滅している。
反撃すら許さず、一方的に敵を倒していく僕達に、マシューさんも驚いていた。
「すさまじいですね。これがゴールドランカーですか……」
でも、そんな静かな旅路(?)も、グリペン侯爵領を抜けた途端に一変したんだ。
「ありゃあブンドル商会の早馬じゃないですかね。こりゃ目を付けられちゃいましたか」
今しがた追い越していった馬を見ながら、マシューさんが申し訳なさそうに言った。
「目を付けられたら何か不都合でもあるんでしょうか?」
僕は率直な疑問をぶつけてみた。商人の嫌がらせって、売買を拒むとか値段を吹っ掛けられるとか、そんな感じの事しか思い浮かばないなぁ。
別に僕達は自給自足でもなんとかやっていけるし、しばらくの間なら食い繋げるだけの食料もある。ねぐらは魔法でどうにかなるし、商売というものに関わらなくてもどうとでもなるんだよね。
つまり、商人に目を付けられたって、ああ、今日も空が青くて綺麗だなぁ。そんな感じだよ。
そんな僕の雰囲気を察したのか、マシューさんが苦笑しながら答えてくれた。でも内容は中々どうして、笑って済ませるような事柄じゃない。
「ヤツも言っていた通り、ブンドル商会はこの国でも指折りの大きな商会であるだけでなく、王家という後ろ盾もあります。それで大きな顔をしている訳なんですが――」
そこでマシューさんが一旦言い淀み、続けた。
「あくまでも噂ですが、官憲や軍、役人などにも金を握らせて、様々な悪事を握り潰しているらしいのです。それに、貴族もヤツの商会から借金をしている者も多いという話です」
「つまり、商人でありながらかなりの権力を握ってるって事なんですね?」
「そうです」
経済的な圧力よりも、むしろ荒事に巻き込まれる危険があるって事か。
僕はデライラが参加したクズパーティがやらかした一件から、身内に危害を及ぼそうとする存在に対して容赦がなくなってきているように思える。黒ウサギだったノワールが殺されたあの時を思うと、思わず殺気が漏れ出してしまうんだ。
「しょ、ショーンさん! すみませんが抑えてくれませんか。その殺気は私だけでなく馬も怯えてしまいます」
「す、済みません。でも、僕等は冒険者です。荒事の方が得意なのでご心配なく」
殺気に当てられてガクガクしているマシューさんに謝罪しながら、穏やかに返した。
「でも、マシューさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、私共は商人から足を洗いますし、田舎で自給自足の生活になりますから。問題ありませんよ。ただの村人に構っていられるほど王家御用達の商人が暇だとも思えませんし」
そんなものなのかな?
ああいうタイプって執念深そうだけど。
「どうしますか? トラブルを避けるなら街道を外れて進む選択肢もありますが、その分盗賊に襲われるリスクが高くなりますが」
ふうん?
不要なリスクを冒す必要はないというか、嫌がらせなら正面切って突破すればいい。伏兵の類ならノワールに任せておけば勝手に全滅させてくれるだろうし。
(……という訳で、このまま街道を進むから、警戒頼むよノワール)
(はい! お任せくださいご主人様)
ノワールと意識の中で会話をする。するとどうやらノワールは、昼寝をするとかなんとか言って、静かになったようだ。リンちゃんの相手はアーテルが引き受けているし問題ないだろう。むしろリンちゃんもお昼寝タイムになるかもしれない。
そして静かになったノワールはというと、馬車の影から意識を地中に走らせ、周囲を警戒しているようだ。そしてその警戒範囲はどんどん増えていく。
「このまま街道を堂々と進みましょう。問題ありません。それより、美味しい食事ができる宿をお願いしますよ?」
僕がマシューさんにそう言うと、彼はちょっとだけ呆れたような顔をして、笑いながら承諾した。
その後三日間ほどはグリペン侯爵領内だったせいか、大きなトラブルもなく進む事ができた。
ああ、大きなトラブルというのはブンドル商会の妨害の事で、魔物の襲撃や盗賊の待ち伏せなどはあったんだけどね。でもそれらは予めノワールが察知しているので、こちらから奇襲を仕掛けて殲滅している。
反撃すら許さず、一方的に敵を倒していく僕達に、マシューさんも驚いていた。
「すさまじいですね。これがゴールドランカーですか……」
でも、そんな静かな旅路(?)も、グリペン侯爵領を抜けた途端に一変したんだ。
0
お気に入りに追加
2,181
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~
ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。
あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。
現れた女神は言う。
「あなたは、異世界に飛んできました」
……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。
帰還の方法がないことを知り、女神に願う。
……分かりました。私はこの世界で生きていきます。
でも、戦いたくないからチカラとかいらない。
『どうせなら便利に楽させて!』
実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。
便利に生きるためなら自重しない。
令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!!
「あなたのお役に立てましたか?」
「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」
※R15は保険です。
※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる