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二章

不穏な早馬

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 カッポカッポと長閑な蹄の音を響かせて街道を進む僕達の馬車を、早駆けで追い越していく馬がひっきりなしだ。

「ありゃあブンドル商会の早馬じゃないですかね。こりゃ目を付けられちゃいましたか」

 今しがた追い越していった馬を見ながら、マシューさんが申し訳なさそうに言った。

「目を付けられたら何か不都合でもあるんでしょうか?」

 僕は率直な疑問をぶつけてみた。商人の嫌がらせって、売買を拒むとか値段を吹っ掛けられるとか、そんな感じの事しか思い浮かばないなぁ。
 別に僕達は自給自足でもなんとかやっていけるし、しばらくの間なら食い繋げるだけの食料もある。ねぐらは魔法でどうにかなるし、商売というものに関わらなくてもどうとでもなるんだよね。
 つまり、商人に目を付けられたって、ああ、今日も空が青くて綺麗だなぁ。そんな感じだよ。
 そんな僕の雰囲気を察したのか、マシューさんが苦笑しながら答えてくれた。でも内容は中々どうして、笑って済ませるような事柄じゃない。

「ヤツも言っていた通り、ブンドル商会はこの国でも指折りの大きな商会であるだけでなく、王家という後ろ盾もあります。それで大きな顔をしている訳なんですが――」

 そこでマシューさんが一旦言い淀み、続けた。

「あくまでも噂ですが、官憲や軍、役人などにも金を握らせて、様々な悪事を握り潰しているらしいのです。それに、貴族もヤツの商会から借金をしている者も多いという話です」
「つまり、商人でありながらかなりの権力を握ってるって事なんですね?」
「そうです」

 経済的な圧力よりも、むしろ荒事に巻き込まれる危険があるって事か。
 僕はデライラが参加したクズパーティがやらかした一件から、身内に危害を及ぼそうとする存在に対して容赦がなくなってきているように思える。黒ウサギだったノワールが殺されたあの時を思うと、思わず殺気が漏れ出してしまうんだ。

「しょ、ショーンさん! すみませんが抑えてくれませんか。その殺気は私だけでなく馬も怯えてしまいます」
「す、済みません。でも、僕等は冒険者です。荒事の方が得意なのでご心配なく」

 殺気に当てられてガクガクしているマシューさんに謝罪しながら、穏やかに返した。

「でも、マシューさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、私共は商人から足を洗いますし、田舎で自給自足の生活になりますから。問題ありませんよ。ただの村人に構っていられるほど王家御用達の商人が暇だとも思えませんし」

 そんなものなのかな?
 ああいうタイプって執念深そうだけど。

「どうしますか? トラブルを避けるなら街道を外れて進む選択肢もありますが、その分盗賊に襲われるリスクが高くなりますが」

 ふうん?
 不要なリスクを冒す必要はないというか、嫌がらせなら正面切って突破すればいい。伏兵の類ならノワールに任せておけば勝手に全滅させてくれるだろうし。

(……という訳で、このまま街道を進むから、警戒頼むよノワール)
(はい! お任せくださいご主人様)

 ノワールと意識の中で会話をする。するとどうやらノワールは、昼寝をするとかなんとか言って、静かになったようだ。リンちゃんの相手はアーテルが引き受けているし問題ないだろう。むしろリンちゃんもお昼寝タイムになるかもしれない。
 そして静かになったノワールはというと、馬車の影から意識を地中に走らせ、周囲を警戒しているようだ。そしてその警戒範囲はどんどん増えていく。

「このまま街道を堂々と進みましょう。問題ありません。それより、美味しい食事ができる宿をお願いしますよ?」

 僕がマシューさんにそう言うと、彼はちょっとだけ呆れたような顔をして、笑いながら承諾した。



 その後三日間ほどはグリペン侯爵領内だったせいか、大きなトラブルもなく進む事ができた。
 ああ、大きなトラブルというのはブンドル商会の妨害の事で、魔物の襲撃や盗賊の待ち伏せなどはあったんだけどね。でもそれらは予めノワールが察知しているので、こちらから奇襲を仕掛けて殲滅している。
 反撃すら許さず、一方的に敵を倒していく僕達に、マシューさんも驚いていた。

「すさまじいですね。これがゴールドランカーですか……」

 でも、そんな静かな旅路(?)も、グリペン侯爵領を抜けた途端に一変したんだ。
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