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一章
知恵の象徴
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謁見を終えた僕達は、早速城下へ繰り出した。
最大の難関と思われたグリペン侯爵が思わぬ形で理解者となっていた事。それはほとんど神梟の働きなんだけど、肩の荷が降りた事は間違いない。
まあ、そんな感じで僕達は晴れ晴れとした気持ちで賑やかな城下町を散策している。案内はサマンサギルド長だ。イヴァン副ギルド長は行きたい所があると言って、別行動だ。
「まあ、アレも独身だしね……」
サマンサギルド長の言葉の意味はよく分からないけど、諦めたような彼女の表情を見て突っ込むのは止めておいた。僕も空気が読めるようになってきたんだよ。
「おっ!? あれはなんだ?」
「あ、アーテル! 待ちなさい!」
物珍しいものがあると……というか、久しぶりのシャバは見るもの全てが久しぶりだったり初めてだったり、アーテルはとにかく好奇心旺盛なんだ。今も雑貨を売っている店の軒先に突撃していった。そしてそれをノワールが慌てて追いかけていく。
見た目はアーテルの方がお姉さんだけど、精神的にはノワールの方がお姉さんだね。微笑ましい光景だ。
デライラはどちらかと言えばアーテルみたいな感じかな。元来元気いっぱいで人見知りせず、物怖じもしない性格だから、興味をひかれれば積極的に動いていく。ルークスはそれを涼し気な笑みを浮かべながら付いていくんだけど、何て言うんだろう。包容力のある彼氏かお兄さんって感じだ。
いや、美男美女のカップルにしか見えないね。
「ほほ、人の目線で歩く街並みもまたいいもんじゃのう」
僕の横で上機嫌でそう語るのは、白髪の老人だ。老人と言ってもヨボヨボな感じではなく、杖を手に持ちながらも背筋はピンと伸び、その視線は油断なく周囲を見渡している。
「おお! あの娘の尻は中々ええのお!」
主に女の子のお尻に対してだけど。
「このスケベじじいが『知恵の象徴』ですか……」
サマンサギルド長が心底呆れ顔でそう呟いた。そう、この老人こそ、神獣にして知の象徴である神梟が人型になった姿なんだ。
謁見の間から退室した僕達は、預けていた得物を返してもらい、そのまま宿泊していた屋敷へ戻った。そこで神梟は人型に姿を変えて見せたんだ。ルークスからたっぷりと光の魔力を充填したおかげで可能になったんだって。
そこから先は、うん、酷かったね。
最初はデライラのお尻を撫でて目にも止まらぬ往復ビンタを喰らう。
続いてアーテルの胸を鷲掴みにして強烈なボディブローを喰らう。
その次はノワールの尻を撫でようとして回し蹴りを喰らう。
そして唯一、見向きもされなかったサマンサギルド長が怒りの空気弾をぶつけた。
これだけやられてケロリとしているのは流石は神獣と言ったところだろうか。神獣恐るべし。
そんな訳で老人が一人加わったんだけど、例によって名前をねだられた。どうやらこのままデライラに同行するらしいね。まあ、光の属性持ちだからそれは妥当なんだけど、彼女の貞操が心配になる。
「失礼な事を言うでない。これでも儂は聖なる存在じゃ。そのような肉欲的なものには興味はないぞい」
「どの口が言ってるんですか……」
今の発言の直前も、すれ違った女性のお尻を撫でてビンタを喰らったばかりだ。頬にくっきりと紅葉の形が残っている。
「言葉の通りじゃよ。漸く現れた光と闇の適正者。そして解放された大精霊。この先も様々な問題が待ち受けておろうな。儂はそれをサポートせにゃいかんのじゃ」
うん? 表情がすごく真面目だ。流石は知の象徴って感じがするね。
「そんな事より、名前を考えてくれたかの?」
「だって、あなたはデライラの眷属になるんでしょう? 僕が付けるのはおかしいですよ」
「ほっほっほ、構わん構わん。どうせあの娘っ子はお主に丸投げするじゃろう?」
「ぐっ……」
確かにその通り。その通りなんだけど、こんな往来でそんな事言われてもなあ。
「お城のお屋敷に戻ったら、宴が始まるまでには考えておくよ」
「うむ!」
僕の答えに満足したのか。神梟は目を細め、好々爺の顔になった。もっとも、視線は女の子のお尻に釘付けなんだけどね。
△▼△
「今回の褒賞については以上だ。では、皆の奮闘に感謝しつつ、乾杯!」
『乾杯!』
侯爵の音頭で皆がグラスを掲げた。
ここにいるのは侯爵と侯爵夫人、それに面識のない若い男が二人と少女が一人。それぞれ侯爵の二人の息子と娘らしい。それに僕達冒険者チームに、老人の姿をした神梟。
街で買い物した際にそれなりの服を買い求めて着せた所、スケベじじいの雰囲気は鳴りを潜め、中々格調高い賢者の雰囲気を醸し出している。
そして彼の名前は『グランツ』となった。輝くっていう意味だよ。
予想通り、デライラには丸投げされたね。それでも二人共気に入ってくれたからいいんだけど。
気になる褒賞の中身はというと、当初の指名依頼の成功報酬。それに加えてスタンピードを鎮圧したという事で、特別ボーナスが出た。デライラには指名依頼の報酬を受け取る事は出来ないので、彼女にとっては助かっただろうね。これから二人を養っていかなきゃならないし。
そして大量の魔物の素材はギルドで買い取ってくれるのでそこからも収入がある。もうね、一生遊んで暮らせる金額ですよこれは。
その他に、侯爵から全員に短剣が下賜された。鞘に侯爵家の紋章であるグリフォンが描かれている。これはもう『バックにはグリペン侯爵家が付いているぞ』っていうお墨付きを貰ったようなものだよね。
ただし、いい事ばかりでもなかったんだ。
「ショーン。お前には王都に行き、プラチナランクの昇格試験を受けてもらう。その推薦状が私からの特別褒賞だ」
うん。あんまり嬉しくないかな。逆に面倒事の方が多そうだし。
最大の難関と思われたグリペン侯爵が思わぬ形で理解者となっていた事。それはほとんど神梟の働きなんだけど、肩の荷が降りた事は間違いない。
まあ、そんな感じで僕達は晴れ晴れとした気持ちで賑やかな城下町を散策している。案内はサマンサギルド長だ。イヴァン副ギルド長は行きたい所があると言って、別行動だ。
「まあ、アレも独身だしね……」
サマンサギルド長の言葉の意味はよく分からないけど、諦めたような彼女の表情を見て突っ込むのは止めておいた。僕も空気が読めるようになってきたんだよ。
「おっ!? あれはなんだ?」
「あ、アーテル! 待ちなさい!」
物珍しいものがあると……というか、久しぶりのシャバは見るもの全てが久しぶりだったり初めてだったり、アーテルはとにかく好奇心旺盛なんだ。今も雑貨を売っている店の軒先に突撃していった。そしてそれをノワールが慌てて追いかけていく。
見た目はアーテルの方がお姉さんだけど、精神的にはノワールの方がお姉さんだね。微笑ましい光景だ。
デライラはどちらかと言えばアーテルみたいな感じかな。元来元気いっぱいで人見知りせず、物怖じもしない性格だから、興味をひかれれば積極的に動いていく。ルークスはそれを涼し気な笑みを浮かべながら付いていくんだけど、何て言うんだろう。包容力のある彼氏かお兄さんって感じだ。
いや、美男美女のカップルにしか見えないね。
「ほほ、人の目線で歩く街並みもまたいいもんじゃのう」
僕の横で上機嫌でそう語るのは、白髪の老人だ。老人と言ってもヨボヨボな感じではなく、杖を手に持ちながらも背筋はピンと伸び、その視線は油断なく周囲を見渡している。
「おお! あの娘の尻は中々ええのお!」
主に女の子のお尻に対してだけど。
「このスケベじじいが『知恵の象徴』ですか……」
サマンサギルド長が心底呆れ顔でそう呟いた。そう、この老人こそ、神獣にして知の象徴である神梟が人型になった姿なんだ。
謁見の間から退室した僕達は、預けていた得物を返してもらい、そのまま宿泊していた屋敷へ戻った。そこで神梟は人型に姿を変えて見せたんだ。ルークスからたっぷりと光の魔力を充填したおかげで可能になったんだって。
そこから先は、うん、酷かったね。
最初はデライラのお尻を撫でて目にも止まらぬ往復ビンタを喰らう。
続いてアーテルの胸を鷲掴みにして強烈なボディブローを喰らう。
その次はノワールの尻を撫でようとして回し蹴りを喰らう。
そして唯一、見向きもされなかったサマンサギルド長が怒りの空気弾をぶつけた。
これだけやられてケロリとしているのは流石は神獣と言ったところだろうか。神獣恐るべし。
そんな訳で老人が一人加わったんだけど、例によって名前をねだられた。どうやらこのままデライラに同行するらしいね。まあ、光の属性持ちだからそれは妥当なんだけど、彼女の貞操が心配になる。
「失礼な事を言うでない。これでも儂は聖なる存在じゃ。そのような肉欲的なものには興味はないぞい」
「どの口が言ってるんですか……」
今の発言の直前も、すれ違った女性のお尻を撫でてビンタを喰らったばかりだ。頬にくっきりと紅葉の形が残っている。
「言葉の通りじゃよ。漸く現れた光と闇の適正者。そして解放された大精霊。この先も様々な問題が待ち受けておろうな。儂はそれをサポートせにゃいかんのじゃ」
うん? 表情がすごく真面目だ。流石は知の象徴って感じがするね。
「そんな事より、名前を考えてくれたかの?」
「だって、あなたはデライラの眷属になるんでしょう? 僕が付けるのはおかしいですよ」
「ほっほっほ、構わん構わん。どうせあの娘っ子はお主に丸投げするじゃろう?」
「ぐっ……」
確かにその通り。その通りなんだけど、こんな往来でそんな事言われてもなあ。
「お城のお屋敷に戻ったら、宴が始まるまでには考えておくよ」
「うむ!」
僕の答えに満足したのか。神梟は目を細め、好々爺の顔になった。もっとも、視線は女の子のお尻に釘付けなんだけどね。
△▼△
「今回の褒賞については以上だ。では、皆の奮闘に感謝しつつ、乾杯!」
『乾杯!』
侯爵の音頭で皆がグラスを掲げた。
ここにいるのは侯爵と侯爵夫人、それに面識のない若い男が二人と少女が一人。それぞれ侯爵の二人の息子と娘らしい。それに僕達冒険者チームに、老人の姿をした神梟。
街で買い物した際にそれなりの服を買い求めて着せた所、スケベじじいの雰囲気は鳴りを潜め、中々格調高い賢者の雰囲気を醸し出している。
そして彼の名前は『グランツ』となった。輝くっていう意味だよ。
予想通り、デライラには丸投げされたね。それでも二人共気に入ってくれたからいいんだけど。
気になる褒賞の中身はというと、当初の指名依頼の成功報酬。それに加えてスタンピードを鎮圧したという事で、特別ボーナスが出た。デライラには指名依頼の報酬を受け取る事は出来ないので、彼女にとっては助かっただろうね。これから二人を養っていかなきゃならないし。
そして大量の魔物の素材はギルドで買い取ってくれるのでそこからも収入がある。もうね、一生遊んで暮らせる金額ですよこれは。
その他に、侯爵から全員に短剣が下賜された。鞘に侯爵家の紋章であるグリフォンが描かれている。これはもう『バックにはグリペン侯爵家が付いているぞ』っていうお墨付きを貰ったようなものだよね。
ただし、いい事ばかりでもなかったんだ。
「ショーン。お前には王都に行き、プラチナランクの昇格試験を受けてもらう。その推薦状が私からの特別褒賞だ」
うん。あんまり嬉しくないかな。逆に面倒事の方が多そうだし。
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