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一章
葬られた歴史②
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「ノワールが封印された時、何か気付いた事はなかったの?」
ルークスは当時の事情や、封印されている間もどういった手段を用いたのかは分からないけど、情報を入手していたらしく、それなりに詳細な事柄を話してくれた。
でも僕はノワールからは詳しい話は聞いた事がない。黒ウサギに封印され、長い間生きてきた。それだけだ。
「分かりません。ある日、大勢の人間の魔法使いが現れ……封印されてしまいました。普通なら人間如きが何人集まろうと私を封印する事などできない筈なのですが」
「やはりか。おそらく精霊王が動いたのだろうな。私の場合は水晶に封じられ、坑道の奥深くに隠されたが」
「そうね。精霊王が複数相手では私達と言えども太刀打ちできないから」
僕の質問に答えたノワールに、ルークスが納得したように相槌を打ち、当時の状況が徐々に明らかになっていく。
「時にノワールよ。お前は封印されたあと、どうしていたのだ?」
「逃げた。逃げて逃げて、気の遠くなる時間、私を食べようとする者から逃げていた。そして街の近くの森に辿り着いたところでご主人様に救われた。でもウサギの私はご主人様を逆恨みする者に殺されてしまった。そしてそのまま消滅してしまいそうな所を、再びご主人様に救われた」
そんなノワールをルークスもアーテルも、そしてデライラですらも痛ましそうに見る。
「それにしても、私が封印されているこの場所の近くでお前の封印が解かれるとはな。それに光属性の適合者まで連れて私の封印を解いてくれるとは」
そう、それだ。たまたま闇属性の魔力を持っている僕がたまたま闇の大精霊のノワールを助けて、その縁でデライラがたまたま光の大精霊であるルークスを解き放った。そのデライラもたまたま光属性に適応していた。
普通ならこんな偶然が重なるかって思うよね。ルークスが封印されていたダンジョンの主がアーテルだったなんてことも、もの凄い偶然――ではもう済まされない気がする。
「光と闇の精霊が希少なように、それに適応する魔力を持って生まれる者もまた希少なのだ。そんな希少な二人が同じ村で同じ年に生まれた。これでは主人が何者かの介入を疑うのも分からないではない」
僕の考えている事を聞いたアーテルが、影の収納から取り出した肉を頬張りながら答えた。ある程度の情報を開示してしまっているので、ギルド長達の前でもまるで遠慮なしだね、キミ。
そしてお代わりの干し肉を取り出して続ける。
「だが、創造神ルーベラ様は人界に介入する事を良しとはしない。主人とデライラが同じ年に同じ村に生まれたのは全くの偶然。だが、その二人の運命が交錯しやすいように唯一介入されたのが神託の儀だな」
そっか! 僕には多少なりとも四大属性に対応できる魔力があったからウィザードのジョブを、デライラには光の魔力しかなかったからソードファイターのジョブを授けて下さったって事か。
いくらデライラが光の魔力を持っていても、精霊が封印されていたんじゃ魔法を使えないからね。
ん?
でもルークスが解放されたって事は、デライラも魔法を使えるようになるって事?
「それは可能だ。しかしショーン様のように魔法使いのジョブを授かっていないのでな。本職と比べれば劣るだろう。しかし、『魔法剣士』という特殊なジョブに進化する可能性を秘めている」
「すごいなデライラ!」
マジカル・ソードマンというジョブは剣士でありながら魔法も使えるという非常に珍しいジョブで、少なくともこのルーブリム王国ではここ数百年間現れていないという。そしてそのマジカル・ソードマンになった冒険者は凄まじい功績を上げ、永代貴族になったそうだ。
そんな凄いジョブになれる可能性があるというルークスの言葉に、僕は素直にデライラを称賛した。
「そういう主人も、すでに近接戦闘魔術師の領域にあると思うがな」
アーテル、そんな怖い事を言うのはやめてくれるかな?
バトルメイジっていうのは接近戦もこなす魔法使いの事で、魔術師っていうのはウィザードの上位職のひとつなんだ。そんな上級魔法職を極めた人が酔狂にも接近戦も鍛えちゃったらそうなっちゃったみたいな。
こちらもマジカル・ソードマンと同じように、王国の歴史の中でも僅か数人しか確認されていない。
「あー、お前ら。盛り上がってるトコ悪いんだがな、ちょっと頭ン中を整理させてくれ。お前さん達のジョブが進化したかどうか知りたいんなら、街に戻ったら教会で確認してくりゃいい。進化してたら神託が降りるだろ」
イヴァン副ギルド長が難しい顔で頭をガシガシ掻きながらまとめに入った。
つまり、この世界は元々六つの属性があったのだが、何らかの陰謀で光と闇が歴史上から消え去る事になった。それにまつわる資料なども残っておらず、長い年月の間に光と闇の属性は忘れ去られ、人や獣の心に悪が芽生えるようになった。
まるで誰かがそうなるように仕向けたみたいにね。
「それで、ショーンとデライラの二人は物凄い偶然で出会い、光と闇の復活を遂げる役割を果たした。そういう事でいいわね?」
サマンサギルド長が、モノクルの位置をツイと直しながらそう言う。
概ね間違いではないと思うよ。
それからギルドの二人には、光と闇、それぞれの特性を聞かれた。
「闇が象徴するのは力。戦闘に関する話をするなら、かなりえげつない攻撃力で敵を滅する事ができるし、味方の力の底上げをしたり、敵を弱体化させる事も得意」
「光はその対極にあると言ってよい。象徴するは愛。人々を癒したり鼓舞したり、精神を安定させたりといった事が得意だ。もちろん戦闘においても強力だ」
二人の大精霊が得意気に説明した。
「なあおい、なんだかとんでもない事になっちまったなぁ?」
「ええ、そうね」
サマンサギルド長とイヴァン副ギルド長が二人で頭を抱えている。
「さっき話してたマジカル・ソードマンが貴族になったって話な、その子孫がグリペン侯爵なんだよ」
うわあ。グリペン侯爵、いろいろ知ってる可能性があるって事だよね? マジックバッグみたいなアーティファクトも持ってるし、最大限の警戒をしないといけないみたいだ。
ルークスは当時の事情や、封印されている間もどういった手段を用いたのかは分からないけど、情報を入手していたらしく、それなりに詳細な事柄を話してくれた。
でも僕はノワールからは詳しい話は聞いた事がない。黒ウサギに封印され、長い間生きてきた。それだけだ。
「分かりません。ある日、大勢の人間の魔法使いが現れ……封印されてしまいました。普通なら人間如きが何人集まろうと私を封印する事などできない筈なのですが」
「やはりか。おそらく精霊王が動いたのだろうな。私の場合は水晶に封じられ、坑道の奥深くに隠されたが」
「そうね。精霊王が複数相手では私達と言えども太刀打ちできないから」
僕の質問に答えたノワールに、ルークスが納得したように相槌を打ち、当時の状況が徐々に明らかになっていく。
「時にノワールよ。お前は封印されたあと、どうしていたのだ?」
「逃げた。逃げて逃げて、気の遠くなる時間、私を食べようとする者から逃げていた。そして街の近くの森に辿り着いたところでご主人様に救われた。でもウサギの私はご主人様を逆恨みする者に殺されてしまった。そしてそのまま消滅してしまいそうな所を、再びご主人様に救われた」
そんなノワールをルークスもアーテルも、そしてデライラですらも痛ましそうに見る。
「それにしても、私が封印されているこの場所の近くでお前の封印が解かれるとはな。それに光属性の適合者まで連れて私の封印を解いてくれるとは」
そう、それだ。たまたま闇属性の魔力を持っている僕がたまたま闇の大精霊のノワールを助けて、その縁でデライラがたまたま光の大精霊であるルークスを解き放った。そのデライラもたまたま光属性に適応していた。
普通ならこんな偶然が重なるかって思うよね。ルークスが封印されていたダンジョンの主がアーテルだったなんてことも、もの凄い偶然――ではもう済まされない気がする。
「光と闇の精霊が希少なように、それに適応する魔力を持って生まれる者もまた希少なのだ。そんな希少な二人が同じ村で同じ年に生まれた。これでは主人が何者かの介入を疑うのも分からないではない」
僕の考えている事を聞いたアーテルが、影の収納から取り出した肉を頬張りながら答えた。ある程度の情報を開示してしまっているので、ギルド長達の前でもまるで遠慮なしだね、キミ。
そしてお代わりの干し肉を取り出して続ける。
「だが、創造神ルーベラ様は人界に介入する事を良しとはしない。主人とデライラが同じ年に同じ村に生まれたのは全くの偶然。だが、その二人の運命が交錯しやすいように唯一介入されたのが神託の儀だな」
そっか! 僕には多少なりとも四大属性に対応できる魔力があったからウィザードのジョブを、デライラには光の魔力しかなかったからソードファイターのジョブを授けて下さったって事か。
いくらデライラが光の魔力を持っていても、精霊が封印されていたんじゃ魔法を使えないからね。
ん?
でもルークスが解放されたって事は、デライラも魔法を使えるようになるって事?
「それは可能だ。しかしショーン様のように魔法使いのジョブを授かっていないのでな。本職と比べれば劣るだろう。しかし、『魔法剣士』という特殊なジョブに進化する可能性を秘めている」
「すごいなデライラ!」
マジカル・ソードマンというジョブは剣士でありながら魔法も使えるという非常に珍しいジョブで、少なくともこのルーブリム王国ではここ数百年間現れていないという。そしてそのマジカル・ソードマンになった冒険者は凄まじい功績を上げ、永代貴族になったそうだ。
そんな凄いジョブになれる可能性があるというルークスの言葉に、僕は素直にデライラを称賛した。
「そういう主人も、すでに近接戦闘魔術師の領域にあると思うがな」
アーテル、そんな怖い事を言うのはやめてくれるかな?
バトルメイジっていうのは接近戦もこなす魔法使いの事で、魔術師っていうのはウィザードの上位職のひとつなんだ。そんな上級魔法職を極めた人が酔狂にも接近戦も鍛えちゃったらそうなっちゃったみたいな。
こちらもマジカル・ソードマンと同じように、王国の歴史の中でも僅か数人しか確認されていない。
「あー、お前ら。盛り上がってるトコ悪いんだがな、ちょっと頭ン中を整理させてくれ。お前さん達のジョブが進化したかどうか知りたいんなら、街に戻ったら教会で確認してくりゃいい。進化してたら神託が降りるだろ」
イヴァン副ギルド長が難しい顔で頭をガシガシ掻きながらまとめに入った。
つまり、この世界は元々六つの属性があったのだが、何らかの陰謀で光と闇が歴史上から消え去る事になった。それにまつわる資料なども残っておらず、長い年月の間に光と闇の属性は忘れ去られ、人や獣の心に悪が芽生えるようになった。
まるで誰かがそうなるように仕向けたみたいにね。
「それで、ショーンとデライラの二人は物凄い偶然で出会い、光と闇の復活を遂げる役割を果たした。そういう事でいいわね?」
サマンサギルド長が、モノクルの位置をツイと直しながらそう言う。
概ね間違いではないと思うよ。
それからギルドの二人には、光と闇、それぞれの特性を聞かれた。
「闇が象徴するのは力。戦闘に関する話をするなら、かなりえげつない攻撃力で敵を滅する事ができるし、味方の力の底上げをしたり、敵を弱体化させる事も得意」
「光はその対極にあると言ってよい。象徴するは愛。人々を癒したり鼓舞したり、精神を安定させたりといった事が得意だ。もちろん戦闘においても強力だ」
二人の大精霊が得意気に説明した。
「なあおい、なんだかとんでもない事になっちまったなぁ?」
「ええ、そうね」
サマンサギルド長とイヴァン副ギルド長が二人で頭を抱えている。
「さっき話してたマジカル・ソードマンが貴族になったって話な、その子孫がグリペン侯爵なんだよ」
うわあ。グリペン侯爵、いろいろ知ってる可能性があるって事だよね? マジックバッグみたいなアーティファクトも持ってるし、最大限の警戒をしないといけないみたいだ。
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