43 / 206
一章
新たな敵
しおりを挟む
サマンサギルド長がマッピングした羊皮紙の束をふんだくっていき、それをイヴァン副ギルド長と共に食い入るように見始めた。
多少思うところがない訳じゃないけど、ギルドの歴史はダンジョンとの戦いであったとも言えるしね。あんな風に目の色が変わるの無理ないか。
「えーっと、それでデライラ。この剣、使ってみるかい?」
魔力供給を必要としない、エンチャントが施された魔剣。
厳密に言えば魔力供給は必要だけど、使い手が供給するのではなく、魔剣自身が魔力を生産しているとでも言ったらいいだろうか。詳しいメカニズムは分からないけど、ノワールによればそうらしい。
「なんか凄そうな剣なんだけど……いいの?」
「ああ。どうせ僕のパーティには使い手がいないし」
デライラが遠慮がちに剣を受け取った。
「――!? ショーン、これ、この剣……生きてる?」
生きてるとはデライラも妙な事を言う。確かに生き物が呼吸をするように、この剣も空気中の魔力を吸収しているかもしれないけど……ああ、そういう意味では生きているって比喩も的外れではないのかな?
「すごい。なんか分かる。これはあたしなんかが所有していい剣じゃない……でも、このダンジョンから出るまでは貸してもらうわね」
「ああ。好きに使うといいよ」
あげるつもりなんだけどな。でもデライラは頑固だからなぁ。
「ご主人様、第三波が動き出しました。それ以降の階層では動きはないので、恐らくこれで最後かと」
ノワールがそっと耳打ちしてきた。
「そろそろ来るみたいですよ」
僕がそう告げると、マップを貪るように見ていた二人も緊張感を取り戻し如何にも戦闘態勢といった雰囲気に変わる。このあたりは流石だよね。
「ショーン。このマップの事とか能力の事とかは取り敢えず後回しだ。だが魔物を片付けたら洗いざらい吐いてもらうからな?」
下の階層に向かう通路を見据えながら、イヴァン副ギルド長がそんな事を言う。でもね、それは言う訳にはいかないんだよね。
「黙秘させていただきます」
僕としてはそう答えるしかない。
「なっ、この……」
「イヴァン、まずはあなたが生き残る事ね」
まさかの答えにイヴァン副ギルド長がちょっとイラついたみたいだけど、そこはサマンサギルド長が上手く抑えてくれた。
だけど考えてみて欲しい。ギルドとして大事なのは僕の能力なんかじゃないはずだよね。この危機を乗り切って、領主様の期待に応える事じゃないのかなぁ?
「サマンサギルド長、敵が来たら魔法攻撃で先制しましょう」
「ん、そうね。魔力が切れたら乱戦に突入という事でいいかしら?」
僕がサマンサギルド長に現実的な話題を振ると、彼女も方針を打ち出した。もっとも、方針も何もなし崩し的にそうなっちゃうよねって話なんだけど、それでも前衛陣が魔法に巻き込まれるよりはマシだ。
「来ます」
ノワールの一言で全員の集中力が増していく。初めに現れたのはオーガだ。しかも群れている。二十や三十じゃきかない。さらにゴブリンを従えている。こっちはもう数えるのも面倒なくらいだ。これは手強いから、さっさと魔法で潰しちゃおう。
「後続は頼むわね。極大風刃!」
先程、第二波の多くを屠った風系統の大威力魔法だ。どうやらサマンサギルド長は風系統の魔法が得意みたいだね。右手を水平に薙ぐと、巨大な風の刃が前方に広がりながら飛んで行った。勿論風なんて見えるものじゃないのでそう感じただけなんだけどね。
技の名前を詠唱したり、今右手を振ったようなアクションを起こしたりするのもイメージ力をアップするには有効な方法だ。イメージが明確であればあるほど、それを汲み取って魔法を発現させる精霊達もやりやすいという事なんだろうね。
サマンサギルド長が放った極大風刃はオーガや取り巻きのゴブリンを薙ぎ払い、視界の中にいる敵をほぼ全滅させてしまった。流石の威力だけど、サマンサギルド長は肩で息をしている。全力の一撃だったんだね。
それじゃあ僕の番だ。僕には闇魔法を封印しながらあれだけの火力を叩き出せる魔法はない。だから、こうだ。
「みんな! 後続が来たら僕が足を止めるから、張り切って倒しちゃって!」
続いて現れたのはリザードマン、オーガ、ワーウルフ、それに……コカトリス、か。
これは厄介な事になったなぁ……
コカトリスはニワトリのような身体に蛇のような尻尾を持つ魔物だ。身体はニワトリなんかと比べ物にならないくらい大きく、人間と同じくらいの大きさがある。
戦闘力自体はそれほでもない。尻尾の攻撃に毒があるくらいで、熟練の冒険者や戦士なら対応は可能だ。問題はそのスキルにある。
スキルは視線。個体によって違いはあるが、その目に見られただけで石化したり焼かれたり、毒に冒されたりという厄介さ。
大型の盾を持ったタンク役が注意を引き付け、その間に死角から仕留める、といった戦法が有効だけど、この乱戦になりやすい状況ではそれは無理だ。そもそも盾持ちのタンク役なんていないしね。
というか、この間の合同クエストで潜ったときは、コカトリスなんかいなかったのに。
ただ、僕にはそれに対処できる力がある。どうするか。
ここで使うべきか。使ってしまったら後には引けない。
多少思うところがない訳じゃないけど、ギルドの歴史はダンジョンとの戦いであったとも言えるしね。あんな風に目の色が変わるの無理ないか。
「えーっと、それでデライラ。この剣、使ってみるかい?」
魔力供給を必要としない、エンチャントが施された魔剣。
厳密に言えば魔力供給は必要だけど、使い手が供給するのではなく、魔剣自身が魔力を生産しているとでも言ったらいいだろうか。詳しいメカニズムは分からないけど、ノワールによればそうらしい。
「なんか凄そうな剣なんだけど……いいの?」
「ああ。どうせ僕のパーティには使い手がいないし」
デライラが遠慮がちに剣を受け取った。
「――!? ショーン、これ、この剣……生きてる?」
生きてるとはデライラも妙な事を言う。確かに生き物が呼吸をするように、この剣も空気中の魔力を吸収しているかもしれないけど……ああ、そういう意味では生きているって比喩も的外れではないのかな?
「すごい。なんか分かる。これはあたしなんかが所有していい剣じゃない……でも、このダンジョンから出るまでは貸してもらうわね」
「ああ。好きに使うといいよ」
あげるつもりなんだけどな。でもデライラは頑固だからなぁ。
「ご主人様、第三波が動き出しました。それ以降の階層では動きはないので、恐らくこれで最後かと」
ノワールがそっと耳打ちしてきた。
「そろそろ来るみたいですよ」
僕がそう告げると、マップを貪るように見ていた二人も緊張感を取り戻し如何にも戦闘態勢といった雰囲気に変わる。このあたりは流石だよね。
「ショーン。このマップの事とか能力の事とかは取り敢えず後回しだ。だが魔物を片付けたら洗いざらい吐いてもらうからな?」
下の階層に向かう通路を見据えながら、イヴァン副ギルド長がそんな事を言う。でもね、それは言う訳にはいかないんだよね。
「黙秘させていただきます」
僕としてはそう答えるしかない。
「なっ、この……」
「イヴァン、まずはあなたが生き残る事ね」
まさかの答えにイヴァン副ギルド長がちょっとイラついたみたいだけど、そこはサマンサギルド長が上手く抑えてくれた。
だけど考えてみて欲しい。ギルドとして大事なのは僕の能力なんかじゃないはずだよね。この危機を乗り切って、領主様の期待に応える事じゃないのかなぁ?
「サマンサギルド長、敵が来たら魔法攻撃で先制しましょう」
「ん、そうね。魔力が切れたら乱戦に突入という事でいいかしら?」
僕がサマンサギルド長に現実的な話題を振ると、彼女も方針を打ち出した。もっとも、方針も何もなし崩し的にそうなっちゃうよねって話なんだけど、それでも前衛陣が魔法に巻き込まれるよりはマシだ。
「来ます」
ノワールの一言で全員の集中力が増していく。初めに現れたのはオーガだ。しかも群れている。二十や三十じゃきかない。さらにゴブリンを従えている。こっちはもう数えるのも面倒なくらいだ。これは手強いから、さっさと魔法で潰しちゃおう。
「後続は頼むわね。極大風刃!」
先程、第二波の多くを屠った風系統の大威力魔法だ。どうやらサマンサギルド長は風系統の魔法が得意みたいだね。右手を水平に薙ぐと、巨大な風の刃が前方に広がりながら飛んで行った。勿論風なんて見えるものじゃないのでそう感じただけなんだけどね。
技の名前を詠唱したり、今右手を振ったようなアクションを起こしたりするのもイメージ力をアップするには有効な方法だ。イメージが明確であればあるほど、それを汲み取って魔法を発現させる精霊達もやりやすいという事なんだろうね。
サマンサギルド長が放った極大風刃はオーガや取り巻きのゴブリンを薙ぎ払い、視界の中にいる敵をほぼ全滅させてしまった。流石の威力だけど、サマンサギルド長は肩で息をしている。全力の一撃だったんだね。
それじゃあ僕の番だ。僕には闇魔法を封印しながらあれだけの火力を叩き出せる魔法はない。だから、こうだ。
「みんな! 後続が来たら僕が足を止めるから、張り切って倒しちゃって!」
続いて現れたのはリザードマン、オーガ、ワーウルフ、それに……コカトリス、か。
これは厄介な事になったなぁ……
コカトリスはニワトリのような身体に蛇のような尻尾を持つ魔物だ。身体はニワトリなんかと比べ物にならないくらい大きく、人間と同じくらいの大きさがある。
戦闘力自体はそれほでもない。尻尾の攻撃に毒があるくらいで、熟練の冒険者や戦士なら対応は可能だ。問題はそのスキルにある。
スキルは視線。個体によって違いはあるが、その目に見られただけで石化したり焼かれたり、毒に冒されたりという厄介さ。
大型の盾を持ったタンク役が注意を引き付け、その間に死角から仕留める、といった戦法が有効だけど、この乱戦になりやすい状況ではそれは無理だ。そもそも盾持ちのタンク役なんていないしね。
というか、この間の合同クエストで潜ったときは、コカトリスなんかいなかったのに。
ただ、僕にはそれに対処できる力がある。どうするか。
ここで使うべきか。使ってしまったら後には引けない。
0
お気に入りに追加
2,181
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
赤子に拾われた神の武器
ウサギ卿
ファンタジー
神が人々の救済の為に創られた武器、オリハルコン。
それは世界の危機、種族の危機の度に天より人々の元へと遣わされた。
神の武器は持つ者によりあらゆる武器へと姿を変えた。
持つ者は神の力の一端を貸し与えられた。
そして持つ者の不幸を視続けてきた。
ある夜、神の武器は地へと放たれる。
そして赤子に触れて形を成した。
武器ではなくヒトの姿に。
「・・・そうか、汝が・・・求めたのだな?・・・母を」
そうしてヒトとなった神の武器と赤子の旅が始まった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/25 サブタイトルを付けました。
10/16 最近これはダークファンタジーに分類されるような気がしています。
コミカル風な。
10/19 内容紹介を変更しました。
7/12 サブタイトルを外しました
長々と文章を綴るのは初めてで、読みにくい点多々あると思います。
長期連載漫画のように、初期の下手な絵から上手な絵になれたら嬉しいですね。
分類するのであれば多分ほのぼの、ではありますが、走っている子供がコケて膝小僧を擦りむいて指を差しながら「みて!コケた!痛い!血でた!ハハハ」みたいなほのぼのだと思います。
・・・違うかもしれません。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
転移ですか!? どうせなら、便利に楽させて! ~役立ち少女の異世界ライフ~
ままるり
ファンタジー
女子高生、美咲瑠璃(みさきるり)は、気がつくと泉の前にたたずんでいた。
あれ? 朝学校に行こうって玄関を出たはずなのに……。
現れた女神は言う。
「あなたは、異世界に飛んできました」
……え? 帰してください。私、勇者とか聖女とか興味ないですから……。
帰還の方法がないことを知り、女神に願う。
……分かりました。私はこの世界で生きていきます。
でも、戦いたくないからチカラとかいらない。
『どうせなら便利に楽させて!』
実はチートな自称普通の少女が、周りを幸せに、いや、巻き込みながら成長していく冒険ストーリー。
便利に生きるためなら自重しない。
令嬢の想いも、王女のわがままも、剣と魔法と、現代知識で無自覚に解決!!
「あなたのお役に立てましたか?」
「そうですわね。……でも、あなたやり過ぎですわ……」
※R15は保険です。
※小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる