上 下
42 / 206
一章

力の一端を明かす

しおりを挟む
 双戟の刃に炎を纏わせオークに突き刺し、そのまま炎をしてやる。
 体内から発火し焼き尽くされながら絶命したオークを見届けた。これで第二波の敵は最後のようだ。

「下層で集結しているようですが、まだ動き出す様子は無さそうです」

 影を介してダンジョンの中の事を完全に把握しているノワールから小声で報告があった。
 僕達が迎撃していたのはまだ地下一階層で、現れた魔物は主に地下五階層あたりまでの魔物だった。稀に六階層以降にいるリザードマンなどの魔物もいたけど、ここから五階層まではほぼ魔物はいないと見て間違いなさそうだ。

「よーし、休憩すんぞー。各自食事や水分補給しとけよー」

 魔物の回収も終わって、途中からは戦線復帰していたイヴァン副ギルド長から指示が出た。しばらく襲撃はないはずなので僕達も地面に腰を下ろして休む事にする。
 そんな中で一人、デライラだけが深刻な表情をしていた。

「どうしたの? まあ飲みなよ」

 デライラのところまで歩み寄り、バッグから水筒を取り出して飲むように勧めた。中身は何の変哲もない、やや甘酸っぱい果実水だ。実際はバッグからではなく影の収納から取り出したもので、いい具合に冷えている。

「ありがと」

 彼女は苦笑しながら水筒を受け取り、ついでに自分の剣を見せてきた。

「酷いな……」

 刃はボロボロに刃毀れしており、もはや刃物としては機能しないだろう。
 ……無理もないか。僕のバフで上がった身体能力で加減なしで斬りまくっていた訳で。しかも敵の中にはリザードマンのような硬い鱗を持つ者もいた。強化を施していない普通の剣では……
 この先待っているのは更に手強い敵ばかりだ。デライラが見た事も無いようなヤツが殆どだろう。どうする?

「どうしたのよ、深刻な顔をして」

 そこへサマンサギルド長とイヴァン副ギルド長がやってきて、僕達の顔色を覗き込んできた。イヴァン副ギルド長はパンを頬張っていたのか、口の横にパンくずをくっつけた上に頬をパンパンに膨らませていた。
 シリアスな雰囲気が一気に緩んだ。

「プッ……いえ、あたしの剣がもうダメなんです。それでどうしようかと思って」

 正直に言えば、彼女の剣にエンチャントする事は可能だ。アーテルが魔法陣を描くための術式を知っているからね。でも、彼女には肝心の魔力がない。そう、魔法陣を起動させるための魔力が。

「ご主人様……」

 ノワールが何かを訴えようとこちらに向かって話しかけてきた。ああ、分かってるよ。実は僕はこの先の戦闘に耐え得るだけの剣を持っている。
 前回の合同クエストで偶然手に入れたものだ。アーテルと出会う直前の十一階層で戦った敵が持っていた剣なんだけど――

「確かに強力な剣ですが、私の蹴りの方が強いので」

 と言って使おうとしないし、アーテルもまた、

「我の爪牙の方が強いから不要だ」

 だそうだ。勿論僕に剣なんて扱える訳もないし、仕方ないから影の収納に死蔵していたものだ。ノワール曰く、剣自体が魔力を持っている、所謂魔剣というヤツらしい。
 これが世の中に出れば、それこそ国宝級、伝説の武器となるほどの代物だ。何しろ僕が自分の双戟に施したエンチャント効果を自前で発揮するのだから。
 つまりよく斬れて折れず曲がらず。メンテナンスフリーの夢のような剣な訳だよね。
ノワールが言いたいのはそれを貸し与えたら、もしくは譲渡したらどうかという事だろう。確かに僕等が持っていても収納の肥やしになるだけだ。
 でもそれには問題がある。あの剣の入手先を問われたら、このダンジョンで起こった事を明かさねばならない事。これだけの剣をノワールが使っていないのはあまりにも不自然な事。そして、どう見ても剣なんか入りっこないサイズのバッグから取り出すフリをしなくちゃいけない事。

 それにしてもノワールは、デライラに何かを感じてから、やけに彼女に対して過保護な感じがする。戦闘中もさりげなくフォローしてたし。

(デライラは必ずご主人様にとって有益な存在になります。そのような存在を死なせる訳にはまいりません)

 ……という事らしい。それにしてもどうしようか。

「良いではないか。我等の力を見せつけ口止めすれば済む話だ。要は人間共の街に被害を出さず、グリペンとやらの要望通りダンジョンを潰せば文句はないのだろう? そこの二人はたんまりと褒賞を貰えばよい」

 うわぁ……
 なんかね、黙って聞いていたアーテルが爆弾発言しちゃったよ。彼女の正体を知らなければ、あまりに尊大であまりに不敬な物言いだ。その内容に、サマンサギルド長とイヴァン副ギルド長、それにデライラまでもがギョッとしている。

「おいおいおい! そりゃあいくらなんでも口が過ぎるってモンだぜ? お前らが強いのはわかr――!?」

 ちょっと頭に血が上ってきたイヴァン副ギルド長の言葉を遮るように、僕は地面の影から一本の剣を取り出した。
 やや反りがある片刃の長剣で、ナックルガードの類は付いていない両手持ちの剣だ。刃渡りは長めで一メートルを少し超える。油が滴るような光沢を持ち刃は黒い。斬る事に特化した剣だと思われる。
 事ここに至っては、隠しておくより力の一端を示した方が面倒が少ないかも知れない。勿論闇属性の話に関しては黙秘させてもらうけど。

 僕が地面から引っこ抜くように剣を取り出した事で、周囲は静まり返った。ノワールは満足気に頷き、アーテルは面白そうにくつくつと笑っている。

「ちょ、ちょっと待て! お前さん、一体何をした!?」

 イヴァン副ギルド長の質問には答えず、バックから一束の羊皮紙を差し出した。この間の合同クエストの際にマッピングしたダンジョン内の地図だ。魔物の出現状況なども書き込んである自信作なんだよね。

「これは!?」

 ざっと目を通したイヴァン副ギルド長は驚愕に目を見開き、それをサマンサギルド長に手渡した。

「あなた、もしかして……」
「はい。先日のクエストでこのダンジョンの最下層まで到達しています」

 呆気にとられるサマンサギルド長に対して、僕はサラリと言ってのけた。
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

王国冒険者の生活(修正版)

雪月透
ファンタジー
配達から薬草採取、はたまたモンスターの討伐と貼りだされる依頼。 雑用から戦いまでこなす冒険者業は、他の職に就けなかった、就かなかった者達の受け皿となっている。 そんな冒険者業に就き、王都での生活のため、いろんな依頼を受け、世界の流れの中を生きていく二人が中心の物語。 ※以前に上げた話の誤字脱字をかなり修正し、話を追加した物になります。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...