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一章

二人の実力

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 二日目の行程も、何度か魔物や野生の獣の群れの襲撃はあったけど順調に進んだ。
 ゴブリンが二十匹程の群れで襲撃してきた時は、流石に全員で対処したけど。

「あんたそれ、ルーベラ様の神託に逆らってない?」

 双戟を振り回してゴブリンを薙ぎ払う僕に、半目になったデライラが溜息をつく。

「しかもウィザードの癖にあたしより動けるとか、どうなってるのかしら!」

 デライラも僕のバフによって見違えるような動きを見せるけど、魔力による身体強化を施した僕には一段劣る感じだ。

「あはは……僕は魔法が苦手なウィザードなんだよ」

 そんな僕の一言を聞き逃さなかったイヴァン副ギルド長が小言を挟んで来た。

「ああ? 模擬戦の時は緻密な魔法制御で座標も力加減も絶妙に手を抜いてただろお前。それになんだよその物騒な得物は?」
「あ、いや、その……」

 だって仕方ないじゃないか。ノワールがいる時は四大属性の精霊達もいう事を聞いてくれるけど、もし僕が一人だったら、この身一つで戦わなくちゃいけないんだ。突いたり斬ったり殴ったりと何でも出来る、こういう武器じゃないと。

「でもそれ、珍しい武器よね? ハルバードに似てるけど扱いは難しそうだわ」
「そうですね。本格的にやろうとすればそうだと思います。でも、僕みたいな素人でも適当に振り回していれば、どこかしら痛い所が当たりそうじゃないですか?」
「それはそうなんだけど……」

 サマンサギルド長も、どこか不満そう。
 闇属性の事は隠したまま納得させるには、身体強化に魔力を回して物理で戦ってるうちにコツを掴んで、いくらか魔法が使えるようになった。そんな感じで押し通すしかないかなぁ。

「ところで、この規模の群れが襲ってくるという事は、近くにゴブリンが集落を形成している可能性があるのでは?」

 話題が嫌な感じに僕に向いている所で、ノワールが上手く話を逸らしてくれた。でもそれは全くその通りで、調査が必要な案件だ。
 繁殖力がネズミ並と言われるゴブリンが集団で現れるという事は、必ず連中のがあるか、迷宮から溢れ出してきた可能性がある。

「そうなんだよなぁ。グリペン侯爵の依頼とは言え、ここを無視してダンジョンに向かう訳にいかんだろうなぁ」

 それは重々承知のようで、イヴァン副ギルド長も困り顔だ。

「それなら、私が偵察に行ってまいります」
「お? 我も行くぞ!」

 そこでノワールとアーテルが斥候役を買って出る。もしかしたらノワールは既に集落の存在を探知済みかも知れないね。
 見た目も軽装備で俊敏そうな二人が名乗りを上げた事で、くれぐれも迂闊に手を出さないよう念押しした上でサマンサギルド長から許可が出た。
 二人はあっという間に森の中へ消えて行った。

「アイツらもかなりやるな。お前さん、どこからあんな逸材見つけてくるんだよ」

 身のこなしだけでもある程度の実力を計れるのか、イヴァン副ギルド長は呆れ顔だ。僕は苦笑するしかない。
 サマンサギルド長は心配そうな顔をしていたけど、デライラは全くそんな事はなかった。ダンジョンで弓使いに人質にされた時のノワールの動きを直接見ているからね。ゴブリン如きがどうにか出来るとは思っていないんだろう。
 僕とデライラ、サマンサギルド長は箱馬車に乗り込み、イヴァン副ギルド長は御者席で二人の帰りを待つ事にした。

「大丈夫かしら?」

 サマンサギルド長は相変わらず心配顔だ。まあ、アーテルはブロンズランクに昇格したばかり、ノワールもアイアンランクでランクは高いけど冒険者になってからはまだそう期間は経っていない。ギルド長から見ればルーキー二人を偵察に出したも同様な訳で。
 それでも僕とデライラは平然としているものだから、逆に危機感が足りないと思われたらしい。

「いくらゴブリンとは言っても、集落レベルで数が揃っていると手強いのよ?」

 うん。人型の魔物は知恵が回るからね。弱いからと言って油断していい相手じゃないのは分かっている。それでも彼女達の前では、例え一軍を率いていたとしても蹂躙される運命になる。

「大丈夫ですよ。彼女達、ゴールドランカーの僕より遥かに強いですから。怒らせると手に負えなくなるので気を付けて下さいね?」

 僕はにっこり笑顔でそう告げた。

「イヴァンを手玉に取ったあなたより遥かに強いですって!?」

 サマンサギルド長、トレードマークのモノクルがズレ落ちそうですよ。

「只今戻りました」

 二人が戻ったのは一時間を少し過ぎたくらいだろうか。ノワールはいつもと同じ表情で。アーテルは満足した笑顔で。

「で、集落はあったのか?」
「はい、森の奥ではすでに集落が形成されていました」
「数は!?」

 集落が形成されていたと聞いて、慌てるイヴァン副ギルド長だけど、アーテルがそれを制した。

「問題ない。殲滅して集落ごと焼き払ってきた」

 そう言って、背負っていた布の袋を差し出した。中身は討伐証明となるゴブリンの右耳。その数七十二個。
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