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一章
短双戟
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そしてグリペン侯爵からの指名依頼の当日。僕達は冒険者ギルドに向かって歩いていた。小柄で可憐な黒髪の少女と、これまた黒髪で、女性としてはやや大柄な美女を伴っている僕はかなり目立っている。
まだ早朝だけど一般市民の朝は早い。仕事に出かける人や一日の買い出しをする人、またそういった人達を相手に商売する人。中々に賑やかな街の商業区。
エンチャントを施す武器を購入するついでに、僕の装備も一新したんだ。ブーツやグローブ、アーマー類をオーガの素材で作ってくれるように依頼していたものが仕上がったんだよね。
ノワールやアーテルと違って僕自身は至って普通の人間だから、最低限急所を守る装備は必要だ。そこで、先日のダンジョン調査の合同クエストの時に確保しておいたオーガの素材を防具にしちゃう事にした。
心配ないとは思うけど、ノワールとアーテルの分も一緒に。ゴールドランクの僕が率いるパーティともなると、見た目にも気を遣わなくちゃいけないらしい。
で、装備は全員揃いの黒。個人によってスタイルは違うけど、オーガ素材で統一感は出ている。僕はそれにプラスしていかにもウィザードっぽいローブも新調した。
全身黒ずくめの三人組が歩いているだけでも注目を浴びちゃうんだけど、何よりも視線を集めているのは僕の背中にある得物だろうね。
『おい、アイツってウィザードだろ? なんでまたあんな物騒なモン背負ってんだ?』
『あんまり見た事ねえ武器だな』
うん。僕が新調したのは『戟』っていう武器だ。東方の国で使われていたという珍しい武器で、使われている金属もよく分からないそうだ。
見た目はそうだなぁ……ハルバードと似ている。槍の穂先の根本に三日月型の刃が二本。突いてよし、斬ってよし。本来は扱いの難しい武器なのだろうけど、僕みたいな素人が適当に振り回してもダメージが与えられそうだ。そんな理由で選んだのもあるんだよね。
そしてこれは柄が短めで、二本セットで扱う双短戟というものだそうだ。今まで短槍を二本使っていた僕にとってはあまり違和感がない。
こんな珍しい武器は中々使い手もいなくて、武器屋でも売れなくて長い事デッドストックになっていたらしい。そんな訳で武器屋の御主人も格安で譲ってくれたんだ。
おかげで二本の武器に緻密な魔法陣を刻む事になり、後悔したのは内緒だ。
まあ、そんなこんなでウィザードのくせにバリバリ前衛用の武器を背負って悪目立ちしながらギルドに辿り着いたんだけど、まだ出発時間には早い。
ギルドの扉を開いて中に入ると、依頼やクエストを求める人達でそれなりに混雑していた。僕等の姿を見て一瞬騒めくが、先日僕を貶める発言をしたヤツにちょっとしたオシオキと恫喝をしたお陰か、絡んでくるようなヤツはいない。
「おはようございます。素材の査定をお願いします」
そんな中を突っ切って、僕等はカウンターへと行く。ちょうど空いていた窓口は馴染みのパトラさんの担当だった。
「あら、ダークネスの皆さんおはようございます。まだ出発の時間には早いですけど?」
ダークネスっていうのは僕達のパーティの名前なんだ。三人以上の固定メンバーで活動する時は、パーティ名を付けるよう推奨されているんだよね。二人なら名前を呼ぶのも面倒じゃないだろうけど、三人四人とメンバーが増えてくると、個人の名前を全部呼ぶよりはパーティ名で呼ぶ方が手っ取り早い。大方そんな理由だろうと思っているんだけどね。
ああ、以前デライラが所属していたパーティの名前は……なんだっけ? 記憶にないな。ははは……
それで何だっけ? ああ、早く来た理由だった。
「ああ、アーテルを早く昇格させたいので頑張って来たんですよ。ほら」
僕はそう言いながら、ダミーの肩掛け鞄からオークやゴブリンの討伐証明部位を提出した。大体の魔物は右耳が討伐証明部位になっている。虫とか鳥とかスライムとか、耳がどこ? っていう魔物はまた別なんだけどね。
「こんなに……ですか?」
オークやゴブリンなんてのは、繁殖力が強いので狩っても狩っても湧いて出てくる。なので冒険者ギルドとしては常時討伐依頼を出す形で駆除させているんだ。
だけど、ちょっと張り切りすぎたみたいだね……
「ゴブリンが九十三、オークが四十八!?……ですか」
「あははは……」
「はぁ……査定してきますので少々お待ちくださいね」
パトラさんが溜息をつきながら奥へ引っ込んで行く。これだけの数になっちゃったのはアーテルがはしゃぎすぎたからなんだけどね。当の本人は他の冒険者連中をジロジロと見回しているけど。こら、威圧するんじゃない。
「お待たせしました。おめでとうございます。アーテルさんはブロンズランクに昇格ですね。今回の指名依頼でまたすぐにアイアンに昇格するのは確実です。ノワールさんも、間もなくシルバーですね」
おお、それは凄い。この街ではゴールドランクは僕の他にはあと二人、シルバーも十人ほどしかいないらしいから、かなりの実力派パーティという認識になるはずだ。
「ではアーテルさん、タグをこちらのものと交換して下さいね」
「おお~、漸く我のタグも光りモノに! 早く主人と同じものになりたいのだ」
アーテルがニコニコしながらブロンズのタグに付け替えている。銅のタグはそんなに光沢がある訳じゃないけど、ウッドに比べると格段に高級感が増すからね。
「おー、揃ってるかぁ! ちょっくらミーティングすっから上がってこい」
適当に雑談をしながら時間を潰していると、階段の上から声が掛かる。副ギルド長のイヴァンさんだ。いつもと違って金属製のブレストガードや如何にも防御力が高そうな装備を装着しているね。そんなに重装備って訳じゃないんだけど。
「それじゃ、行こうか」
ノワールとアーテルに声を掛けて階段に向かうと、もう一人、大きなバックパックを背負った少女も階段に向かってくる。
「よろしくね」
その少女が気安く声を掛けてくる。
え? デライラ?
まだ早朝だけど一般市民の朝は早い。仕事に出かける人や一日の買い出しをする人、またそういった人達を相手に商売する人。中々に賑やかな街の商業区。
エンチャントを施す武器を購入するついでに、僕の装備も一新したんだ。ブーツやグローブ、アーマー類をオーガの素材で作ってくれるように依頼していたものが仕上がったんだよね。
ノワールやアーテルと違って僕自身は至って普通の人間だから、最低限急所を守る装備は必要だ。そこで、先日のダンジョン調査の合同クエストの時に確保しておいたオーガの素材を防具にしちゃう事にした。
心配ないとは思うけど、ノワールとアーテルの分も一緒に。ゴールドランクの僕が率いるパーティともなると、見た目にも気を遣わなくちゃいけないらしい。
で、装備は全員揃いの黒。個人によってスタイルは違うけど、オーガ素材で統一感は出ている。僕はそれにプラスしていかにもウィザードっぽいローブも新調した。
全身黒ずくめの三人組が歩いているだけでも注目を浴びちゃうんだけど、何よりも視線を集めているのは僕の背中にある得物だろうね。
『おい、アイツってウィザードだろ? なんでまたあんな物騒なモン背負ってんだ?』
『あんまり見た事ねえ武器だな』
うん。僕が新調したのは『戟』っていう武器だ。東方の国で使われていたという珍しい武器で、使われている金属もよく分からないそうだ。
見た目はそうだなぁ……ハルバードと似ている。槍の穂先の根本に三日月型の刃が二本。突いてよし、斬ってよし。本来は扱いの難しい武器なのだろうけど、僕みたいな素人が適当に振り回してもダメージが与えられそうだ。そんな理由で選んだのもあるんだよね。
そしてこれは柄が短めで、二本セットで扱う双短戟というものだそうだ。今まで短槍を二本使っていた僕にとってはあまり違和感がない。
こんな珍しい武器は中々使い手もいなくて、武器屋でも売れなくて長い事デッドストックになっていたらしい。そんな訳で武器屋の御主人も格安で譲ってくれたんだ。
おかげで二本の武器に緻密な魔法陣を刻む事になり、後悔したのは内緒だ。
まあ、そんなこんなでウィザードのくせにバリバリ前衛用の武器を背負って悪目立ちしながらギルドに辿り着いたんだけど、まだ出発時間には早い。
ギルドの扉を開いて中に入ると、依頼やクエストを求める人達でそれなりに混雑していた。僕等の姿を見て一瞬騒めくが、先日僕を貶める発言をしたヤツにちょっとしたオシオキと恫喝をしたお陰か、絡んでくるようなヤツはいない。
「おはようございます。素材の査定をお願いします」
そんな中を突っ切って、僕等はカウンターへと行く。ちょうど空いていた窓口は馴染みのパトラさんの担当だった。
「あら、ダークネスの皆さんおはようございます。まだ出発の時間には早いですけど?」
ダークネスっていうのは僕達のパーティの名前なんだ。三人以上の固定メンバーで活動する時は、パーティ名を付けるよう推奨されているんだよね。二人なら名前を呼ぶのも面倒じゃないだろうけど、三人四人とメンバーが増えてくると、個人の名前を全部呼ぶよりはパーティ名で呼ぶ方が手っ取り早い。大方そんな理由だろうと思っているんだけどね。
ああ、以前デライラが所属していたパーティの名前は……なんだっけ? 記憶にないな。ははは……
それで何だっけ? ああ、早く来た理由だった。
「ああ、アーテルを早く昇格させたいので頑張って来たんですよ。ほら」
僕はそう言いながら、ダミーの肩掛け鞄からオークやゴブリンの討伐証明部位を提出した。大体の魔物は右耳が討伐証明部位になっている。虫とか鳥とかスライムとか、耳がどこ? っていう魔物はまた別なんだけどね。
「こんなに……ですか?」
オークやゴブリンなんてのは、繁殖力が強いので狩っても狩っても湧いて出てくる。なので冒険者ギルドとしては常時討伐依頼を出す形で駆除させているんだ。
だけど、ちょっと張り切りすぎたみたいだね……
「ゴブリンが九十三、オークが四十八!?……ですか」
「あははは……」
「はぁ……査定してきますので少々お待ちくださいね」
パトラさんが溜息をつきながら奥へ引っ込んで行く。これだけの数になっちゃったのはアーテルがはしゃぎすぎたからなんだけどね。当の本人は他の冒険者連中をジロジロと見回しているけど。こら、威圧するんじゃない。
「お待たせしました。おめでとうございます。アーテルさんはブロンズランクに昇格ですね。今回の指名依頼でまたすぐにアイアンに昇格するのは確実です。ノワールさんも、間もなくシルバーですね」
おお、それは凄い。この街ではゴールドランクは僕の他にはあと二人、シルバーも十人ほどしかいないらしいから、かなりの実力派パーティという認識になるはずだ。
「ではアーテルさん、タグをこちらのものと交換して下さいね」
「おお~、漸く我のタグも光りモノに! 早く主人と同じものになりたいのだ」
アーテルがニコニコしながらブロンズのタグに付け替えている。銅のタグはそんなに光沢がある訳じゃないけど、ウッドに比べると格段に高級感が増すからね。
「おー、揃ってるかぁ! ちょっくらミーティングすっから上がってこい」
適当に雑談をしながら時間を潰していると、階段の上から声が掛かる。副ギルド長のイヴァンさんだ。いつもと違って金属製のブレストガードや如何にも防御力が高そうな装備を装着しているね。そんなに重装備って訳じゃないんだけど。
「それじゃ、行こうか」
ノワールとアーテルに声を掛けて階段に向かうと、もう一人、大きなバックパックを背負った少女も階段に向かってくる。
「よろしくね」
その少女が気安く声を掛けてくる。
え? デライラ?
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