上 下
28 / 206
一章

次は僕の番

しおりを挟む
 僕達はオーガを数体倒し、次の階層へと下った。

「います。リザードマンが二体」

 オーガと戦うつもりがリザードマンとエンカウントしてしまったよ。
 暗がりの坑道の中では、ノワールの索敵は完璧だ。どこに隠れていようが、その存在を隠蔽する事は出来ない。

「あちゃあ、オーガじゃなくてリザードマンかぁ。僕がやるよ」

 前に出ようとする二人を制し、僕が一歩前に出る。
 ノワールが何も言わないところを見ると、その二体を僕が相手取る事に対して問題ないとの認識なのだろう。危険があれば警告してくれるが、僕の実力を鑑みて、問題ないと判断した時には僕の意志を尊重する。それがノワールの在り方だ。
 逆にアーテルはやや不服らしい。彼女は何て言うか、戦闘に興奮を覚えるタイプのようで……

「次は我だぞ!」

 とまあこんな具合なんだよね。
 それはさておき、僕も訓練はしなくちゃいけない。二体のリザードマンを待ち構える。奇襲で殲滅も出来るけど、それじゃあ訓練にならないから、敢えて受けて立つ感じだ。
 リザードマンとは、その名の通り二足歩行のデカいトカゲのような見た目をしている。オークやオーガのように人間の二倍や三倍もある訳ではなく、結構大きい大人の人間といった体格だ。それに太くて長い尻尾が特徴だね。
 ただ、全身を覆う鱗は硬く、オーガの鋼の筋肉以上とも言われているし、それに輪を掛けて防御力重視の装備を身に着けていたりする。円形の盾バックラーや金属製の武器や防具など。
 ダンジョンの魔物がどのようにして生まれるのかは謎だし、魔物が持っている装備類もどうやって調達しているのかも分かっていないんだけど、中には物凄く高性能な物を持っている場合もあるそうだ。
 魔物を倒してそういうお宝を拾えれば、ラッキーだよね。
 そして、目の前に迫るリザードマンは、どちらもバックラーを装備していて、ヘルムも被っている。そして得物は幅広の曲刀だ。うわあ、嫌だなぁ。
 それと、このリザードマンには注意すべき点がある。なんと、口から火を吹くんだよね。
この事から、ドラゴンが劣化した種族ではないか、なんて言われているんだよね。確かに硬い鱗は龍鱗に通じるし、火を吹くのはドラゴンのブレスっぽいかな?
 実際、このリザードマンは単体でシルバーランク、集団になるとゴールドランクにも位置付けられる、オーガと並ぶ強敵なんだ。オーガにはパワーで劣るけどスピードで勝り、且つ火炎放射という中距離攻撃能力もある。

 さて、そんな強敵と相対しているのに特に何も感じない僕は、おかしくなったのか強くなったのか。今日はノワールの助けなしに、それを確かめてみよう。
 まずは身体強化だ。これをしないと何も始まらないんだよね。僕達のパーティはアーテルが加入したとは言え、まだまだ人数が少ない為に役割分担も想定通りにはいかない。だから僕もウィザードだからと言って後方から魔法を撃ってるだけじゃダメなんだよね。
 それに、ノワールもアーテルも人間が作り上げたフォーメーションに従って動く事なんてない。基本的には『臨機応変』。だから僕もジョブに拘った常識は捨てるべきだ。
 闇の魔力を身体に巡らし、身体能力を爆発的に上昇させる。二体のリザードマンまでの距離は大凡十五メートル程。よし、いくぞ!
 上体を前傾させ、地面を蹴る。助走なしからいきなりのトップスピード。バックラーを構えた二体のリザードマンが口から火炎を吐いて迎撃してきた。僕はそれをスピードを殺す事なく右に左に回避しながら間合いを詰めた。
 まずは右側のリザードマンを標的に決め、そちらに向かって槍を突き出した。リザードマンはそれをバックラーでいなしながら剣で迎撃してきた。僕はそれを左の槍で弾き返した。うん、リザードマン相手にパワーでも負けてないぞ。
 そういている間、もう一体のリザードマンも黙って見ている訳じゃない。こっちに向かって踏み込んできた。ちょうど僕が剣を弾き返して左の脇ががら空きになった所を狙ってきたみたいだな。なかなか連携が取れている。  
 でも!

 ――ズズン!

 僕は横から来るリザードマンの足下に視線を。ちょうどそこの地面が盛り上がり、分厚い土の壁となる。
 魔法にも様々あって、今の土の壁を出現させるような魔法を僕は設置型と呼んでいる。前にも言ったけど、魔法というのは精霊に命じてイメージした事象を起こさせる事だ。さっき僕は土系統の精霊に命じて土の壁を置いたけど、その座標が僕が目視した場所って事。
 口には出していないけど、僕はこう命じたんだ。『僕が見た位置に高さ二メートルの土壁を置け』と。
 ノワールが復活して僕と共に行動するようになってからは、四大属性の精霊達も素直なものだ。多少の違和感はあるものの、ほぼイメージ通りに魔法を発現させてくれる。もっとも、僕の魔力に四大属性の適正があれば、威力はもっと上がるんだろうけどね。
 
 土壁でリザードマンの連携を分断した僕は、正面の敵に集中できる。

(槍の穂先に火を灯せ!)

 今度は火系統の精霊に命じて槍の穂先を燃やしてみる。ただの刺突じゃリザードマンの鱗を貫通出来るとも思えないんでね。何しろこの槍はそんな高級品じゃないし。材質だってただの鉄だ。それなら魔法を付与してダメージを上げてみようって訳。見た目は燃える槍、炎槍とでもいうか。
 炎の槍となった僕の獲物を見たリザードマンの動きが鈍る。生き物の本能か、炎には潜在的な恐怖感があるんだろうね。
 そんな感じで動きにキレがないリザードマンのスキを見定めて一撃。ヤツが剣を振り、それを躱す。躱された剣を引き戻すと同時に懐に飛び込み、そのままの勢いで槍を突き刺した。

 ――ボロッ……

「あ……」

 槍を突き刺され、その上傷口から発火したリザードマンは大ダメージだ。でも、僕の短槍もボロボロになって崩れちゃったぞ?
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

異世界八険伝

AW
ファンタジー
これは単なる異世界転移小説ではない!感涙を求める人へ贈るファンタジーだ! 突然、異世界召喚された僕は、12歳銀髪碧眼の美少女勇者に。13歳のお姫様、14歳の美少女メイド、11歳のエルフっ娘……可愛い仲間たち【挿絵あり】と一緒に世界を救う旅に出る!笑いあり、感動ありの王道冒険物語をどうぞお楽しみあれ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

慟哭の時

レクフル
ファンタジー
物心ついた時から、母と二人で旅をしていた。 各地を周り、何処に行くでもなく旅をする。 気づいたらそうだったし、何の疑問も持たなくて、ただ私は母と旅を続けていた。 しかし、母には旅をする理由があった。 そんな日々が続いたある日、母がいなくなった。 私は一人になったのだ。 誰にも触れられず、人と関わる事を避けて生きていた私が急に一人になって、どう生きていけばいいのか…… それから母を探す旅を始める。 誰にも求められず、触れられず、忘れ去られていき、それでも生きていく理由等あるのだろうか……? 私にあるのは異常な力だけ。 普通でいられるのなら、こんな力等無くていいのだ。 だから旅をする。 私を必要としてくれる存在であった母を探すために。 私を愛してくれる人を探すために……

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...