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一章
次は僕の番
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僕達はオーガを数体倒し、次の階層へと下った。
「います。リザードマンが二体」
オーガと戦うつもりがリザードマンとエンカウントしてしまったよ。
暗がりの坑道の中では、ノワールの索敵は完璧だ。どこに隠れていようが、その存在を隠蔽する事は出来ない。
「あちゃあ、オーガじゃなくてリザードマンかぁ。僕がやるよ」
前に出ようとする二人を制し、僕が一歩前に出る。
ノワールが何も言わないところを見ると、その二体を僕が相手取る事に対して問題ないとの認識なのだろう。危険があれば警告してくれるが、僕の実力を鑑みて、問題ないと判断した時には僕の意志を尊重する。それがノワールの在り方だ。
逆にアーテルはやや不服らしい。彼女は何て言うか、戦闘に興奮を覚えるタイプのようで……
「次は我だぞ!」
とまあこんな具合なんだよね。
それはさておき、僕も訓練はしなくちゃいけない。二体のリザードマンを待ち構える。奇襲で殲滅も出来るけど、それじゃあ訓練にならないから、敢えて受けて立つ感じだ。
リザードマンとは、その名の通り二足歩行のデカいトカゲのような見た目をしている。オークやオーガのように人間の二倍や三倍もある訳ではなく、結構大きい大人の人間といった体格だ。それに太くて長い尻尾が特徴だね。
ただ、全身を覆う鱗は硬く、オーガの鋼の筋肉以上とも言われているし、それに輪を掛けて防御力重視の装備を身に着けていたりする。円形の盾や金属製の武器や防具など。
ダンジョンの魔物がどのようにして生まれるのかは謎だし、魔物が持っている装備類もどうやって調達しているのかも分かっていないんだけど、中には物凄く高性能な物を持っている場合もあるそうだ。
魔物を倒してそういうお宝を拾えれば、ラッキーだよね。
そして、目の前に迫るリザードマンは、どちらもバックラーを装備していて、ヘルムも被っている。そして得物は幅広の曲刀だ。うわあ、嫌だなぁ。
それと、このリザードマンには注意すべき点がある。なんと、口から火を吹くんだよね。
この事から、ドラゴンが劣化した種族ではないか、なんて言われているんだよね。確かに硬い鱗は龍鱗に通じるし、火を吹くのはドラゴンのブレスっぽいかな?
実際、このリザードマンは単体でシルバーランク、集団になるとゴールドランクにも位置付けられる、オーガと並ぶ強敵なんだ。オーガにはパワーで劣るけどスピードで勝り、且つ火炎放射という中距離攻撃能力もある。
さて、そんな強敵と相対しているのに特に何も感じない僕は、おかしくなったのか強くなったのか。今日はノワールの助けなしに、それを確かめてみよう。
まずは身体強化だ。これをしないと何も始まらないんだよね。僕達のパーティはアーテルが加入したとは言え、まだまだ人数が少ない為に役割分担も想定通りにはいかない。だから僕もウィザードだからと言って後方から魔法を撃ってるだけじゃダメなんだよね。
それに、ノワールもアーテルも人間が作り上げたフォーメーションに従って動く事なんてない。基本的には『臨機応変』。だから僕もジョブに拘った常識は捨てるべきだ。
闇の魔力を身体に巡らし、身体能力を爆発的に上昇させる。二体のリザードマンまでの距離は大凡十五メートル程。よし、いくぞ!
上体を前傾させ、地面を蹴る。助走なしからいきなりのトップスピード。バックラーを構えた二体のリザードマンが口から火炎を吐いて迎撃してきた。僕はそれをスピードを殺す事なく右に左に回避しながら間合いを詰めた。
まずは右側のリザードマンを標的に決め、そちらに向かって槍を突き出した。リザードマンはそれをバックラーでいなしながら剣で迎撃してきた。僕はそれを左の槍で弾き返した。うん、リザードマン相手にパワーでも負けてないぞ。
そういている間、もう一体のリザードマンも黙って見ている訳じゃない。こっちに向かって踏み込んできた。ちょうど僕が剣を弾き返して左の脇ががら空きになった所を狙ってきたみたいだな。なかなか連携が取れている。
でも!
――ズズン!
僕は横から来るリザードマンの足下に視線を置いた。ちょうどそこの地面が盛り上がり、分厚い土の壁となる。
魔法にも様々あって、今の土の壁を出現させるような魔法を僕は設置型と呼んでいる。前にも言ったけど、魔法というのは精霊に命じてイメージした事象を起こさせる事だ。さっき僕は土系統の精霊に命じて土の壁を置いたけど、その座標が僕が目視した場所って事。
口には出していないけど、僕はこう命じたんだ。『僕が見た位置に高さ二メートルの土壁を置け』と。
ノワールが復活して僕と共に行動するようになってからは、四大属性の精霊達も素直なものだ。多少の違和感はあるものの、ほぼイメージ通りに魔法を発現させてくれる。もっとも、僕の魔力に四大属性の適正があれば、威力はもっと上がるんだろうけどね。
土壁でリザードマンの連携を分断した僕は、正面の敵に集中できる。
(槍の穂先に火を灯せ!)
今度は火系統の精霊に命じて槍の穂先を燃やしてみる。ただの刺突じゃリザードマンの鱗を貫通出来るとも思えないんでね。何しろこの槍はそんな高級品じゃないし。材質だってただの鉄だ。それなら魔法を付与してダメージを上げてみようって訳。見た目は燃える槍、炎槍とでもいうか。
炎の槍となった僕の獲物を見たリザードマンの動きが鈍る。生き物の本能か、炎には潜在的な恐怖感があるんだろうね。
そんな感じで動きにキレがないリザードマンのスキを見定めて一撃。ヤツが剣を振り、それを躱す。躱された剣を引き戻すと同時に懐に飛び込み、そのままの勢いで槍を突き刺した。
――ボロッ……
「あ……」
槍を突き刺され、その上傷口から発火したリザードマンは大ダメージだ。でも、僕の短槍もボロボロになって崩れちゃったぞ?
「います。リザードマンが二体」
オーガと戦うつもりがリザードマンとエンカウントしてしまったよ。
暗がりの坑道の中では、ノワールの索敵は完璧だ。どこに隠れていようが、その存在を隠蔽する事は出来ない。
「あちゃあ、オーガじゃなくてリザードマンかぁ。僕がやるよ」
前に出ようとする二人を制し、僕が一歩前に出る。
ノワールが何も言わないところを見ると、その二体を僕が相手取る事に対して問題ないとの認識なのだろう。危険があれば警告してくれるが、僕の実力を鑑みて、問題ないと判断した時には僕の意志を尊重する。それがノワールの在り方だ。
逆にアーテルはやや不服らしい。彼女は何て言うか、戦闘に興奮を覚えるタイプのようで……
「次は我だぞ!」
とまあこんな具合なんだよね。
それはさておき、僕も訓練はしなくちゃいけない。二体のリザードマンを待ち構える。奇襲で殲滅も出来るけど、それじゃあ訓練にならないから、敢えて受けて立つ感じだ。
リザードマンとは、その名の通り二足歩行のデカいトカゲのような見た目をしている。オークやオーガのように人間の二倍や三倍もある訳ではなく、結構大きい大人の人間といった体格だ。それに太くて長い尻尾が特徴だね。
ただ、全身を覆う鱗は硬く、オーガの鋼の筋肉以上とも言われているし、それに輪を掛けて防御力重視の装備を身に着けていたりする。円形の盾や金属製の武器や防具など。
ダンジョンの魔物がどのようにして生まれるのかは謎だし、魔物が持っている装備類もどうやって調達しているのかも分かっていないんだけど、中には物凄く高性能な物を持っている場合もあるそうだ。
魔物を倒してそういうお宝を拾えれば、ラッキーだよね。
そして、目の前に迫るリザードマンは、どちらもバックラーを装備していて、ヘルムも被っている。そして得物は幅広の曲刀だ。うわあ、嫌だなぁ。
それと、このリザードマンには注意すべき点がある。なんと、口から火を吹くんだよね。
この事から、ドラゴンが劣化した種族ではないか、なんて言われているんだよね。確かに硬い鱗は龍鱗に通じるし、火を吹くのはドラゴンのブレスっぽいかな?
実際、このリザードマンは単体でシルバーランク、集団になるとゴールドランクにも位置付けられる、オーガと並ぶ強敵なんだ。オーガにはパワーで劣るけどスピードで勝り、且つ火炎放射という中距離攻撃能力もある。
さて、そんな強敵と相対しているのに特に何も感じない僕は、おかしくなったのか強くなったのか。今日はノワールの助けなしに、それを確かめてみよう。
まずは身体強化だ。これをしないと何も始まらないんだよね。僕達のパーティはアーテルが加入したとは言え、まだまだ人数が少ない為に役割分担も想定通りにはいかない。だから僕もウィザードだからと言って後方から魔法を撃ってるだけじゃダメなんだよね。
それに、ノワールもアーテルも人間が作り上げたフォーメーションに従って動く事なんてない。基本的には『臨機応変』。だから僕もジョブに拘った常識は捨てるべきだ。
闇の魔力を身体に巡らし、身体能力を爆発的に上昇させる。二体のリザードマンまでの距離は大凡十五メートル程。よし、いくぞ!
上体を前傾させ、地面を蹴る。助走なしからいきなりのトップスピード。バックラーを構えた二体のリザードマンが口から火炎を吐いて迎撃してきた。僕はそれをスピードを殺す事なく右に左に回避しながら間合いを詰めた。
まずは右側のリザードマンを標的に決め、そちらに向かって槍を突き出した。リザードマンはそれをバックラーでいなしながら剣で迎撃してきた。僕はそれを左の槍で弾き返した。うん、リザードマン相手にパワーでも負けてないぞ。
そういている間、もう一体のリザードマンも黙って見ている訳じゃない。こっちに向かって踏み込んできた。ちょうど僕が剣を弾き返して左の脇ががら空きになった所を狙ってきたみたいだな。なかなか連携が取れている。
でも!
――ズズン!
僕は横から来るリザードマンの足下に視線を置いた。ちょうどそこの地面が盛り上がり、分厚い土の壁となる。
魔法にも様々あって、今の土の壁を出現させるような魔法を僕は設置型と呼んでいる。前にも言ったけど、魔法というのは精霊に命じてイメージした事象を起こさせる事だ。さっき僕は土系統の精霊に命じて土の壁を置いたけど、その座標が僕が目視した場所って事。
口には出していないけど、僕はこう命じたんだ。『僕が見た位置に高さ二メートルの土壁を置け』と。
ノワールが復活して僕と共に行動するようになってからは、四大属性の精霊達も素直なものだ。多少の違和感はあるものの、ほぼイメージ通りに魔法を発現させてくれる。もっとも、僕の魔力に四大属性の適正があれば、威力はもっと上がるんだろうけどね。
土壁でリザードマンの連携を分断した僕は、正面の敵に集中できる。
(槍の穂先に火を灯せ!)
今度は火系統の精霊に命じて槍の穂先を燃やしてみる。ただの刺突じゃリザードマンの鱗を貫通出来るとも思えないんでね。何しろこの槍はそんな高級品じゃないし。材質だってただの鉄だ。それなら魔法を付与してダメージを上げてみようって訳。見た目は燃える槍、炎槍とでもいうか。
炎の槍となった僕の獲物を見たリザードマンの動きが鈍る。生き物の本能か、炎には潜在的な恐怖感があるんだろうね。
そんな感じで動きにキレがないリザードマンのスキを見定めて一撃。ヤツが剣を振り、それを躱す。躱された剣を引き戻すと同時に懐に飛び込み、そのままの勢いで槍を突き刺した。
――ボロッ……
「あ……」
槍を突き刺され、その上傷口から発火したリザードマンは大ダメージだ。でも、僕の短槍もボロボロになって崩れちゃったぞ?
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