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一章

好奇心

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 領主様の書状を見て、僕は思わず苦笑してしまった。だって、恐らく領主様の認識では、僕がゴールドに上がってノワールもアイアンに昇格。そのたった二人でダンジョンの下層まで行って来いって事だよね。アーテルは今日冒険者になったばかりなんだし。

「侯爵閣下は僕に死んで来いと?」

 そんな僕の言葉に、ギルドの二人もやはり苦笑で返してきたよ。侯爵がとんでもない無茶を言ってるのは二人共分かっているらしい。
 ……実際は無茶じゃないし、もっと言えば調査は終わってるまである。マッピング、魔物の分布、そしてダンジョンボス。ダンジョンコアの存在。
 だからと言って、僕達だけでダンジョンの調査を終了させて生還した事にしてもいいのかな? 最下層に居座っていたアーテルの存在を考えると、そんな生易しい難易度じゃないはずだ。

「まあ、俺達にも似たようなヤツが来てるんだよ。お前らと一緒に潜ってこいってな」
「はぁ……?」

 つまり、ギルドにトップ二人にも指名依頼が来ていると?
 でもこの二人って冒険者引退したんじゃないのかな?

オーガの素材なんか提出したお前さん達が悪い。昇格したてのアイアンとブロンズが、たった二人でオーガを倒しちまった上に、二人共全くの無傷ときてやがる」
「その上イヴァンが遊ばれちゃう程の実力者だもの。すぐにお上の耳に入るわね。ウチにそんな冒険者がいるなんて、私達もツイてないって訳よ」

 そりゃそうか。合同クエストにはお役人も来てたし。領主様には筒抜けって事だよね。
 さて、ゴールドランクに昇格して早速これだ。しかもダンジョン下層での戦闘ともなれば、実力を隠すのも限界があるし、このギルドのトップ二人を相手に誤魔化しきれるかどうか……
 それに、アーテルはまだウッドランクなんだけど、ダンジョンに連れて行けるのかな? 
 そうか! それを理由にして断っちゃおう!

「あの、こっちのアーテルは今日登録したてのウッドランカーなんですけど、そんなのを連れてダンジョン下層の調査をしてこいと?」

 困ったような笑みを浮かべたギルド長が、そんな僕の一手を容易く切り返して来る。

「この間もいたでしょう? ウッドランカーでもダンジョン下層に潜って行けた人達が」
「あ……」

 そうか。
 ポーターの存在を忘れていた。彼等ならばウッドランクでも特例でダンジョンに入る事が出来るんだった。つまり、アーテルをポーターとして連れて行けって事か。
 うーん、これは退路を塞がれたかもしれない。

「五日後に出立する。今回は行けるトコまで行くからな。万全の準備をしとけ。支度金は侯爵から出てる」

 副ギルド長がそう言いながら、革袋を差し出してきた。中身を検めると金貨が数十枚。随分と奮発してくれたものだ。領主様にとっても、ダンジョンの調査はそれほど重要だって事なんだね。

「当日はもう一人ポーターを連れていく。それから移動用の馬車だ。そういう事でよろしく頼むぞ」

 もう、断れる要素がないよね。仕方ないか。せいぜい闇属性の事はバレないように頑張ってみよう。僕は金貨が入った革袋を受け取り、ギルドを後にした。

「なあノワールにアーテル。僕達が闇属性の力を封印したまま、どこまで潜れると思う?」
「私とアーテルが近接戦闘を受け持ち、ご主人様が適当に四大属性の魔法を放っていれば、最下層の攻略も可能かと」
「そうだな。最下層に辿り着くまでには物理攻撃が効かないヤツや、魔法に耐性がある魔物もいただろう? そういう時には武器に闇属性の力を纏わせればいいのだ」

 ノワールもアーテルも、大した事ないように言ってるけど、それって基準にしている人間が普通の強さじゃないでしょ? 自分達を基準に話しちゃダメ!

△▼△

「断ろうと思えば断れたのにね。あんたも私も好奇心には勝てなかったって事ね」
「しゃーねえだろうなぁ。冒険者の本質ってヤツだろ。それにヤツは何て言うか……底が知れねえ。それにツレの娘が強いって話だが、実際それを見たヤツは殆どいねえんだよな」

 ショーンが去った後の執務室で、サマンサとイヴァンが言葉を交わしていた。勿論、領主であるグリペン侯爵からの指名依頼の件である。
 本来であれば、そこまで強制力のあるものではなかった。ダンジョンの危険性は侯爵も承知していたし、断られる可能性も考慮に入れていた。
 二人はそれを承知でショーンを言いくるめたのである。

「それによ、あの嬢ちゃんとポーターの二人、現場にいたはずなんだがどうにも供述がなぁ……」
「そうね。何かを隠してるみたいよね」

 デライラが窮地に陥った時に、デライラとポーター二人は彼女のパーティを戦闘不能にしたショーンとノワールの動きは全て見ていたし、ノワールが黒ウサギに変化する様も目撃されていた。
 だが三人はその事を話さなかった。話したところで信じてもらえないだろうというのもあるが、何かこれは絶対に口外してはならない。そんな気がした為だ。
 逆に捕縛された斧使いと双剣使いはそれを正しく供述したが、笑い飛ばされて終わりである。犯罪奴隷として、死ぬまで出られない過酷な労働現場に送られた今、それが世間に広まる恐れはないのだが。

「そんな訳で、俺達でヤツらの力を実感してみようじゃねえか。なに、秘密を暴くとかそんなんじゃねえ。純粋に、ヤツの本物の力を体感してみたいだけさ」
「ふふっ……あんたってホントに変わらないわよね」

 そう言いながら、二人は笑いあった。
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